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第二部
リオ・訪れた休息
しおりを挟むウォルターズ公爵邸に移ってから二週間、久しぶりの王都を楽しんだリオは、フレドリックと共に王都を後にしたのだった。来る時一緒だった公爵はさらに一週間ほど王都で仕事をしてから戻ってくるという。王都の屋敷から異動になったリオ付きだった侍従のコリーとミックも一緒だったので憂鬱だった往路と違ってより楽しい帰路だった。
帰領後はフレドリックと共に公爵夫人に王都での報告をして、公爵邸のいつもの客間に落ち着いた。カレッジ領に帰りたいのは山々だが、フレドリックが卒業するまで公爵邸で受けていた自宅学習の復習と確認的な指導がフレドリックの卒業後、全く出来ていなかったので、学びが身についているかどうかを確認するためにしばらくウォルターズ公爵領に滞在する予定なのだ。
しかしながら勝手知ったるウォルターズ公爵領のお屋敷である。使用人もほぼ顔見知りなので屋敷の敷地内であれば自由に過ごすことが出来る。勉強の諸々は明後日からなので本日はゆっくりしようと決めていた。
自室から続く専用バルコニーに出て、少しまぶしいくらいの日差しの中下を見下ろしてみれば、馬車から次々と荷物を降ろしているコニーたちが見える。あの荷物のいくらかはリオがカレッジ領に帰る時にまた馬車に積まれるはずだ。
「ああああ、平和!!王都はやっぱり少し騒がしいもんな」
ウォルターズ領のお屋敷の周りもそれなりに都会ではあるが、お屋敷の敷地もすごく広いので喧騒が届くことはない。勿論客間のバルコニーが外から見えることもないのでバルコニーにあったカウチに横になれば心地よい日差しと共に睡魔が襲ってくる。
フレドリックがカレッジ領を訪れてからこっち、怒涛の展開であった。銃で襲われたり、王都へ七年ぶりに行ったり、王宮に滞在して王族の皆さんに可愛がられたり、魂の迷い人のみんなと久しぶりに一堂に会したりと普段カレッジ領でのんびり暮らしているリオにとっては何年も経ったかのような密度だった。
とりあえず今回のいいとこ探しをしてみれば、フレドリックの憂いがはれたのは幸いであり、その結果こうしてウォルターズ領を訪れてもフレドリックの在宅に振り回されることもなくなった。
――贖罪のためにずっと生きているという十代の青年がずっと心配だった。公爵家の長男という華々しい家系に生まれながら、八歳のたった一回の過ちを後悔して引き摺って生きていくことなんてなかったのだ。魂の迷い人たちはその話を聞いて、たいそう同情的だった。あの世界では誰もが覚えのある幼少時の記憶だったからだ。結婚や子供を作ることはまだ否定しているけれど、とりあえず公爵家を継ぐことを了承したのは大きな進歩だ。今までに停滞していたことが少し動いて、命を脅かす事柄も解決して今までで一番精神が緩んでる気がする。
ぽかぽかという陽気も相まって、そのままリオは昼寝に突入してしまったのだった。
◆◆◆◆◆
「リオ?いないのかい?」
リオの部屋をフレドリックが訪れたのはリオが寝落ちてから一時間ほど後のことだった。返事がないので部屋に入ってみると室内にも気配はない。部屋を見回してみれば、バルコニーへ続く大窓が開いていて、なるほど、と外の陽気を思い出した。バルコニーを覗いてみれば、案の定カウチの上で健やかに寝息を立てているリオがいた。王都からここまでは遠くもないが近くもない。三泊ほどかけて四日馬車に乗りっぱなしだったから、リオも疲れているのだろう。途中の町でももったいないとばかりに出歩いていたので体力はだいぶ削られているはずだ。小さい頃のリオは体力がなく、長距離移動するたびに発熱などの体調不良になり一週間の休養を要したと聞いている。
日向も温かいだろうが既に時間は昼下がり、まもなく気温も下がってくるだろう。けれども出来ればこのまま寝かせておきたかった。ちらりと部屋の中を見れば、いつの間にか来ていたマイルズがリオのベッドカバーを外し、寝られるようにしていた。
フレドリックはマイルズに頷くと、リオを起こさずにゆっくり抱き上げる。そしてそのままゆっくり室内のベッドへと移動させたのだった。公爵家のメイドの腕が行き届いたしわのない真っ白なシーツがセットされたベッドに寝かせれば手際よくマイルズがリオの服を緩め、シーツで包んでしまった。ぬくぬくとしたベッドの中に入ったリオの表情は穏やかでとても十五になる少年には見えないほど幼く見える。もともとその身の内に持つ精神のせいか、容姿を態度が凌駕している状態ではあるが、こうしてみると、やっぱりまだ未成年の子供なのだなと実感する。
そっとマイルズに腕を押されて、フレドリックはリオの部屋を後にした。
「リオは可愛いね。賢いし、可愛いし、何にも一生懸命だ」
小さいころにあんなことがあって、たとえ大人の記憶があったとしてもそれを飲み込んで生きている。
「――リオ様は記憶を思い始めてから一年間、不定期に頭痛に襲われて伏せっていたと聞いています。またリオ様は思い出し始めからそれが終わるまでを記録された初めての魂の迷い人なのです」
「ああ、大体思い出した後しばらくしてからわかることが多いのだったか」
マイルズは当時を思い出すように目を細めた。
「思い出した年齢も最年少ですが、思い出す過程も一番長くかかったのだとか。ちなみにハヤテ様は気づいた時には八歳を超えていて精神は迷い人の世界のままだとおっしゃっていたそうです。思い出すまでのこちらの生活の記憶がないのだとか。捕らえた義家族の話ですと物語を書き始めるまでは何もせずにぼーっと座っているだけだったと」
「むずかしいな。禁足事項もあるようだし。――その辺を叩き込まないと」
「意欲があるようで何よりです。公爵家にある魂の迷い人関係の資料を旦那様のお部屋からフレドリック様のお部屋に移動しておきました」
「ありがとう。昼間はリオの学習に立ち会うから、読めるのは夜だな。質問は父上かマイルズに?」
「この屋敷で概ね把握しているのが旦那様と奥様、そして私になります」
「わかった」
フレドリックは部屋に帰ってくると、部屋に積まれた資料を手に取る。一冊は魂の迷い人に関わる歴史、一冊は魂の迷い人に関わる各種機密、残りの一冊はかつて存在した魂の迷い人、現在確認されている魂の迷い人の名簿らしい。この辺は公爵家だからこそ預かることを許された資料なのだろう。
先ほどのリオの寝顔を思い出して、フレドリックは気合を入れてその資料を開いた。
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