贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希

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第二部

ライラとリオとフレドリック

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※2/18もイレギュラーで更新しています。

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「リオ!!お久しぶりですわ!!」



「ライラ!!久しぶり!!!」



「フレドリックお兄様が卒業して家にいるようになってからお会いできなくて寂しかったですわ!!」





 その日の夕方、臙脂の制服で公爵家の玄関ホールに現れたライラは公爵でもなく兄であるフレドリックでもなく、リオに駆け寄った。



「俺も寂しかったよ。大きくなったね、制服もよく似合うよ」



 リオとライラが会うのは一年半ぶりだ。前回会ったのはライラが学園に入学する少し前の話だった。育ち盛りの少女の成長は見た目にも著しい。



「うふ、お父様もお母様も身長のある方ですから、もしかしたらリオよりも大きくなってしまうかもしれませんわよ」



「――おかえり、ライラ」



「ただいま帰りましたわ、お父様、お兄様!!ようやくお兄様は真実にたどり着きましたのね!!」



 朗らかに笑ったライラにフレドリックは苦笑しながら応接室に異動するよう促した。

 執務室に戻る公爵を見送って、リオとフレドリックとライラは家族用の応接室へと移動した。

 夕食前なので紅茶だけ入れられた、三人だけの空間だ。



「それで、お兄様は公爵を継がれるとのことですけれど」



「ああ、継ぐことには継ぐよ。ただし後継はライラかその子供にしてくれと条件を付けた。だからライラは今まで通りいてほしい」



「やっぱりそうなりましたのね。リオも、今回は災難でしたわね」



「うん、ちょっと色々大変だった。だから王都に来たんだけどさ」



「いきなりお父様からお手紙が来て驚きましたけど、無事片付いたそうで本当によかったです。学園でも魂の迷い人が招集されて、王宮に一堂に会しているらしいと噂になってたので」



「そんなに噂になっていたのか」



「ええ、以前より王宮に魂の迷い人関連で頓珍漢な嘆願をしている貴族がいると噂になっていたの。ほら、王宮のあちこちで叫んでいたらしいから。王宮にお勤めの家族からのお話で」



 それを聞いてリオとフレドリックは眉をひそめた。嘆願に通っていたと聞いていたが思った以上になりふり構わず喚いていたらしい。通りでヤーアク伯爵の処分を大々的に公示されるわけだ。ちなみにヤーアク伯爵は王宮監視付きで蟄居。伯爵家は長男に代替わりして子爵へと降爵。子爵の中でも下位となり、領地は没収となった。  



 カレッジ領が襲われた時も旧ヤーアク伯爵領から破落戸が数十人来たし、今回も貴族や魂の迷い人と思われる人物を襲撃するような仕事を引き受ける人物と容易に接触できる治安だということが分かったので今後は王領としてテコ入れが入る予定である。子爵となった旧伯爵の長男はその仕事に従事するのだという。勿論責任者はその上に何人もいる。そこでの仕事ぶりを見られて、今後が決まるのだろう。事件のきっかけとなった三男は死亡に際して貴族籍を剝奪されているし、次男は出奔しているし、長男の動向はきっと死ぬまで監視されるのだろうし、場合によってはそう遠くない未来更に降爵や貴族籍の剝奪もありうる。実家に愛想をつかせて出奔した次男は公的に手続きをして貴族籍を既に失っているが、今になって考えると一番賢明だったのだろう。





「噂になるほどか……、魂の迷い人の個人情報などは漏れていなかったか?」



「それは特には。魂の迷い人は詳細を伏せる方も多くいらっしゃいますし。うちに関わることですからちらりと聞かれたくらいですわ」



「なるほど。では特に噂の収束に手を打たなくても大丈夫か」



「魂の迷い人による審議会が開かれたこと、処分を受けたことが周知されればおさまるでしょうね」



「貴族学園でもそういう噂話するんだ」



「普通ですわよ。市井よりもみなお互いの噂に敏感かもしれませんね」



「そうなんだ」



「リオも学園に通ってくれれば四年一緒に通えましたのに、残念ですわ」



「うーん、いろいろ聞いてるとやっぱり俺には貴族の生活は難しかったと思うよ」



「――魂の迷い人の世界では、学園のようなものはないのかい?」



「ん?いや普通にあるよ。もしかしたらこっちより多い。俺のいた国は俺のいた時代、基本は七歳から十五歳が義務教育、そこから十八歳まで高等教育、そこから半分くらいは四年制の学校があったり、医者を目指す人は六年だったり。貴族とか平民とかなかったし、ほとんどは十八歳までは学校に行ってたし、俺はその先の四年の大学ってとこまで行ったし……。ってこれって公開情報じゃないのか」



 ライラもフレドリックも目を真ん丸にしていた。魂の迷い人の一部の国では身分制度はないと知っていたが、多くの人間が十八まで学校に通っているとは知らなかったのだ。



「え、ちょっとまって」



「興味深いお話ですけれども……やっぱり思った以上に王宮に秘匿されているあちらの世界の情報は存在しますのね、魂の迷い人」



「魂の迷い人がいた元の世界の情報に関しては検閲が入るからね。なるほど、一つ勉強になった。まだまだ色々知らないといけないことがたくさんだな」



「――魂の迷い人って、普通の人たちにとってどんな存在なの?」



「そうですわね、人によっていろいろあると思います。私からしたらリオですから、思った以上に普通の人、というイメージですわ」



「リオはこの世界の教育をそれなりに受けているからじゃないかなぁ。ハヤテと話しているリオは「魂の迷い人だな」って実感した」



「ハヤテは世界に馴染まず十五まで生きてたからな……なるほどその辺の違いか」



「魂の迷い人のいた多くの世界は身分制度がないから、その辺の態度の違いに違和感を感じる人はいるだろうね」



「そうですわね、あとはあれです、おとぎ話の登場人物、と思っている人もいました。魂の迷い人のうちの半数が王都に在住しているとはいえ直接会ったことのある人間の方が少ないし……、全部合わせても二十人足らずですもの」



「それを考えると顔と経歴を出して活動しているサイカさんは凄いね、橋渡ししてる」



「――ところでお兄様、先ほど、ハヤテ、とお名前が出ましたけれども……もしかして迷い人のハヤテ様といったら大人気作家のマツロッソ様ではなくて?以前リオに聞いたことがありますわ!!」



 ハヤテは現在年齢制限のある小説のほかに子供向けの本も多数書いている。昔フレドリックが読んだような小説は年齢制限があってまだ読めないが、しっかりと国に検閲され問題ないと発行された児童書の方をライラは読んでいるのだろう。



「ああ、王宮に集まった時に一度だけお会いした」



「あああ、羨ましい!!一度でもいいからお会いしてみたいんです!!数年前から少女向けのお話を出してくださって、それがとても楽しいんです。戦う貴族令嬢が今は世間の流行ですわ!」



「――なあリオ、その本、大丈夫なのか」



 フレドリックは八歳の失態以降、ハヤテの本を読んではいないのだ。ライラの勢いに押されてリオに聞くと、リオが苦笑してた。



「大丈夫、専門家が監修してる。戦う、と言っても男尊女卑の架空の貴族社会で卑怯な敵をいろいろな手段で倒していく令嬢の話だよ。王妃様がものすごく気に入って児童書になったんだ」



「それはそれは。俺も目を通すべきなのか……いやでも」



「時間があるならハヤテの本、読んでおいた方がいいかもしれないよ。結構庶民の間でも流行してる。字の分からない庶民用に読み聞かせ屋は大盛況だ。領主になるのなら知っておいた方がいいかも」



「――わかった」



「それとライラ、ハヤテとはよく手紙を交わしているから、また機会があれば会えるよ」



「本当ですか!?楽しみにしてます!!」



 勢いよく前のめりに十一歳らしい笑みで答えたライラにつられるようにフレドリックとリオも笑ったのだった。

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