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第二部
リオと学びの時間
しおりを挟むカレッジ領に帰ってくる前、公爵との面談で「この先カレッジ領に関わっていく思いは変わらないか」と聞かれた。それに関して頷いた。そうして案として出されたのは今は学園での授業と同等の勉強をしていたが、より実務的な勉強へ移行していかないか、とのことだった。今までは教科書をもらい、ハント代行官とケイに教えてもらいながら自主勉強、三月に一度公爵邸に赴いて習熟度の確認、ということをやってきたが、今後は家庭教師を派遣してより実務に役立つ勉強に特化していこう、とのことだった。
ハント代行官に異動の話も出ているらしい。ハント代行官が来た時、率先して一緒に業務を行っていたケイが格好良く見えた。次やその次の代行官が来た時にケイのようにリオも動くことが出来たら仕事もスムーズに行われるだろう。そう思ってその提案に乗ったのだけれども。
「リオ、ここが間違っている。この場合、税の分類は……」
現在リオは代行官執務室で執務室補佐の机に座り、領の帳簿の付け方を習っている。机の前にはフレドリックとハント代行官とケイがいる。
公爵が派遣した家庭教師はフレドリックだった。なお新しい代行官補佐もフレドリックで、半年後から新しく代行官に就任するのもフレドリックだった。フレドリックは仕事を覚えるために交代の半年前からカレッジ領に来たのだけれども、ハント代行官曰く「教えることは農業特有の一部だけですね。ほぼ完璧です」とのことだった。聞けば学園を首席で卒業したらしい。そして卒業してから今まで一年公爵家の領経営の書類を手伝ってきたのだから、公爵領よりも規模の小さなカレッジ領は掌握が早かったのだろう。つまり、現在カレッジ領には代行官クラスが二人いるのである。仕事は倍速で終わるのである。ハント代行官とフレドリックは空いた半分の時間をリオの教育に投入しているのであった。
「はい、よくできました。今日は終わりにしようか」
「ありがとうございました」
リオが作った書類をハント代行官とケイが確認して正規のファイルに綴じていた。ぐったりと机にもたれ掛かるリオを見ながらみんなが笑う。
「はー……本当領の経営書類って大変」
「そうですよね。まだカレッジ領は製本して五冊ほどですが、大きい領になればなるほど書類の量は増えますよ」
「ウォルターズ公爵領って、どれくらいだった?」
ハント代行官が中央にいた頃の書類の量を話してくれたので大きな領のひとつであるウォルターズ公爵領についてフレドリックについて尋ねる。
「うーん、去年で三十冊くらいかな。ああ、でもそのうち五冊はカレッジ領の分だった」
「そんなに!?」
「次は俺とリオとケイで五冊をまとめるんだよ。なんだったら一度目を通した方がいいかも」
「そうですね、あとで持ってきておきます」
「あー、私はまたあの決算書類確認やるのか……」
三者三様の反応に、リオは思わず笑ってしまった。
「さてと、日が暮れるまで時間があるから商店街の雑貨屋へ頼んでおいたものを取りに行こうかな」
「あっ!!俺も行きたい。ついていっていい?」
フレドリックが時計を見つつそう断ってきたので、リオも顔を上げる。フレドリックの了承を得て、更に同行してもらうためにミックを呼びに行った。急いで身支度をして玄関に行けば、準備の終わったフレドリックとケネスが待っていた。
「お待たせっ!!」
「いや、じゃあ行こうか」
フレドリックから出歩く時はコニーかミックを連れて行くように言われている。公爵家の侍従ではあるけれど、フレドリックにはケネスが常についているので、二人に勉強をさせる意味でリオに付かせているとのことだ。公爵や公爵夫人には永らく専属の人たちがついているし、ライラにも昔からついている人たちがいる。経験を積ませるのに公爵家の客人扱いだったリオは良い練習相手なのだろうと思う。公爵家、特に日常的に人がいるわけではない王都の屋敷にいた二人は若手故圧倒的に経験が足りないのだという。後進を育てるにあたりカレッジ領に派遣されたようだ。思えば王都の屋敷でリオの担当になった時から決まっていたのかもしれないな、と思っている。公爵家には大変お世話になっているので協力するのも吝かではないし、何よりリオとコリーとミックの相性が悪くなかった。
現在では王都の屋敷と同じようにコリーとミックが日替わりでリオについている。リオについていない方はケネスと共にフレドリックについているか、週一のお休みを取っているか、はたまた屋敷の誰かについて色々な勉強をしている。勤勉で明るい二人はあっという間にカレッジ領代行官邸に馴染んでいた。
四人で屋敷を出る。代行官邸の門に建てられた騎士たちの詰め所に挨拶をして、昼下がりの道をゆっくりと歩いていく。馬車で行ったほうが速いが、歩いてもそう距離があるわけではない。リオも街に降りる時はいつも徒歩だ。
「そういえばカレッジ領の夏はどんなもんですか?」
歩きながらケネスに問われる。
「うーん、ウォルターズ領とか王都よりは少し暑いかも。でも標高がそっちよりも高いから朝晩は涼しいよ」
今はまだ初夏の爽やかな気候だが、まもなく真夏が訪れる。この国の国土はそれなりに広いので領によって全く気候が違うのだ。
そうしているうちに商店街へ着いた。カレッジ領において『街』と言われているのはこの商店街である。小さいものであるが、それなりに店舗数があり、領内から人が集まるので昼下がりでもそれなりに人出があった。
フレドリックが訪れたのは街の雑貨屋だった。色々なものを扱っているが、一番奥にはそれなりに高価なものを置いている。聞けばウォルターズ公爵領にある商店と提携していて、商品の取り寄せなども請け負っているという。本日はウォルターズ公爵領を発つ前にお願いしていたものが届いたと連絡を受けたかららしい。
ケネスによる先ぶれに、奥から店主が飛び出てきた。
「いらっしゃいませ!!フレドリック様!!ご連絡いただければ伺いましたのに!!」
「いや、一度店舗に来てみたかったからな。受け取りに来た」
「なんと……!!ありがとうございます!!リオもお供かい?」
「うん」
「リオも今後の勉強のために同席させてくれ」
「もちろんです!!」
初老の店主はリオと顔見知りだ。店舗にもよく来るし、配達や御用聞きで代行官邸に来た時もハント代行官に同席することが多いので、小さいころから随分と可愛がってもらっている。
すぐに奥にある応接コーナーに案内された。二人掛けのソファにフレドリックとリオが並んで座り、その後ろにケネスとミックが立つ。
店主がすぐに盆に箱を二つ載せて持ってきた。
「お待たせいたしました。こちらがご注文の品です」
丁寧な手つきで店主が箱を開けるとその中には高級そうな万年筆が一本ずつ入っていた。一つは銀色、一つは藍色のものだ。フレドリックがそれを手に取って、何か所か確認して頷いた。
「問題ない。一つずつ包んでくれ」
店主も満足げに頷いてまた奥へと消えた。
「リオは王都でこういう店には行った?」
「もっとこう、民衆向けの店に行ってたかな。ああでも小さいころ公爵夫人と一度行った気がする」
「そうか、じゃあ今度は公爵領に行った時に色々行ってみようね」
「うん」
そんな雑談をしていれば、店主が袋に入れた品物を持ってきた。それをミックが受け取り、店主に見送られながら外に出る。それに軽く挨拶をして、商店街を歩く。一度フレドリックを紹介しながら商店街を練り歩いたので、店先にいる人たちも気軽にリオ達に声をかけてくれる。フレドリックも気さくな公爵家のご子息様として評判だ。公爵もたまに来ては練り歩いているので、昔みたいな公爵様の前で領民が動けなくなるみたいなことは起こらなかった。十年前公爵がお目見えした時の笑い話である。
「リオはなにか欲しいものあるかい?」
「大丈夫。ちょっと見て歩きたかっただけだから」
「そうか、じゃあぶらぶらしながら帰るか」
フレドリックはそう笑った。リオもその顔を見上げて笑顔になってしまう。リオが育ったこのカレッジ領の商店街をフレドリックたちが楽しんでくれることがうれしい。彼らは王都の街に慣れているだろうけれど、この商店街もなかなかのものなのだ。そして普段こんな人数で歩くこともないので、柄にもなくリオははしゃいでしまった。結局帰り道でフレドリックに肉串とじゃがバターとカステラを買ってもらって、ご満悦のまま帰宅し、ケイにお小言を言われてしまったのだった。
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