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第二部
リオへの贈り物
「リオ、ちょっといいかな?」
夕食を済ませて部屋に下がった後、寝るにはまだ早い時間、リオの部屋を訪れたのはフレドリックだった。既にお互い入浴も済ませていて寝間着の状態だった。
「あれ?どうしたの」
さすがに入浴を済ませた時間に訪れるのは珍しい。
「うん、説明しておきたいことと渡したいものがあって」
「まあいいや、どうぞ」
一階から越してきた新しいリオの部屋は公爵家ほどではないけれども貴族が住んでもおかしくない広さの部屋になった。おかげで室内にソファセットも完備されている。そこに案内してお茶を入れようとしたところでフレドリックに制止される。確かに寝る前にお茶を飲んでも寝辛くなるものな、とおとなしくフレドリックの向かいに座った。
「夕方話した学生時代に使っていた教本、こっちに持ってきていたから」
まず差し出されたのは使い古された教本だった。夕方屋敷に戻ってくるときに学園で授業の時に配られたプリントをフレドリックが綴じている、と聞いたからだ。教科書だけなら似たようなものを使っていたが、それは教師が作ったより分かりやすいものだというので、機会があれば見せてほしいと頼んだのだ。
「ありがとう、見てみたかったんだ。なるべく早く返すね」
「いや、俺も万が一必要になった時にお守り代わりに持て来ただけだからリオに持っててほしい」
「ほんと?フレドリックがそう言ってくれるなら預かっておくね。見たいときはいつでも声かけて」
「うん、それと。――これをリオに」
テーブルの上に置かれたのは、銀色の包み紙と碧色のリボンできれいにラッピングされた箱だった。
大きさに見覚えがあって、リオは思わず目を見開いた。今日の昼間、あの商店で見た箱だ。
「開けてみて」
声も出ないほど驚いていたリオに、フレドリックが笑みを浮かべながら促した。少しだけ震える指でゆっくりとその包装を解くと、予想通り、その中から銀色の万年筆が出てきた。
「これ……!!」
「領地の正式な書類は万年筆で国が指定している退色しないインクで書く、と決まっているからね。リオも今年から書類を作るから。今までは共用の万年筆を使っていただろう?リオも何本か持っていた方がいい。おそらく成人祝いに大人たちからも贈られるだろうけど、リオが書類に関わるのがそれよりも早くなったからね。俺からこれから一緒に頑張ろうの意味を込めて贈らせてくれ」
きらきらと輝く銀色は、まるでフレドリックの髪のようだった。そしてよく見てみれば胴軸にカレッジ子爵家の紋章が刻まれていた。今では旧領主邸とその墓地でしか見ることがかなわないそれだった。
「いいの……?」
「カレッジ領の書類を作るペンだから、ってことでカレッジ子爵家の紋章を使わせてもらった。一応父を通して王宮にも紋章利用の許可は取ったよ」
レオン・カレッジを殺した時から、リオが背負うことを許さなかったそれ。レオンが死んでから誰も背負うことが出来ないその紋章。
使っていいのか、と聞いたリオのつぶやきをフレドリックは的確に拾い上げてくれた。紋章の使用に関して直系血族以外は厳格に法で決められている。けれどフレドリックはきちんとそれをクリアしてリオに万年筆を用意してくれたのだ。
「うれしい。本当に……!!ありがとう!!」
「喜んでくれてよかった。それとね……カレッジ領の書類を作るから、という名目で作ったので、まぁあの、商店で見たと思うけど、俺の分も一緒に作ったんだよね。――だからリオ、君の家の紋章を、俺も使うことを、許してくれるかな」
寝間着の胸ポケットからフレドリックが取り出したのは、商店で見たもう一本の藍色の万年筆だった。
「見ていい?」
「どうぞ」
リオはもらった万年筆を丁寧に箱に戻すと、フレドリックから藍色の万年筆を受け取る。
なるほどリオの物よりも少しだけ太いそれは色と太さ以外、リオが貰ったものと全く同じだった、こちらは藍に銀を散らせたような煌めきでこっちはこっちで綺麗だ。綺麗に刻まれたカレッジ子爵家の紋章も、背負う色が違うとどこか違った印象に見えるから不思議だ。
「ありがとう、フレドリック。一緒にカレッジ領のお仕事、頑張ろう」
「こちらこそありがとう。また明日から頑張ろう。改めてよろしく頼むよ、リオ」
フレドリックが部屋を出るのを見送って、リオは改めて貰った万年筆を手に取る。綺麗な自分専用の万年筆もうれしかったし、それにカレッジ子爵家の紋章が入っているのも嬉しかった。祖父と両親の形見の中に万年筆ももちろんある。けれどもカレッジの名を捨てたリオがそれを誰に見られるかもわからないところで使うわけにはいかなかった。時々眺めては彼らに謝りながらしまい込んでいた。
けれども。
フレドリックが大手を振って使える、カレッジ子爵家の万年筆を用意してくれたのが嬉しかった。これからはカレッジ子爵家の紋章が入っているこれを堂々と使っていても、フレドリックから贈られた、王宮の許可も得ている、と言える。フレドリックもお揃いのそれを使ってくれるのなら、誰も邪推することはないだろう。
「うれしいな……フレドリックは本当に優しい」
リオが遺品を見てそんな寂しい想いをしていたなんて知らないはずなのに、リオが嬉しく思える贈り物をしてくれて、リオの中でフレドリックのお株は上がるばかりだ。
あまりに嬉し過ぎて、リオはその万年筆を箱にしまうと、その日は箱ごと枕元に置いて眠りについた。
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次話で第二部終了となります。更新時間は3/19(火)19:00を予定しています。
感想
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