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第1章
第24話:理解し得ぬ断絶
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「……おい。そいつは魔物だぞ。貴様、一体何をしている」
頭上から、冷酷なまでに地を微かに震わせる低い声が、容赦なく降ってきた。 泣きじゃくりながら、指先が凍傷に侵されるのも厭わず氷の塊を抱きしめ続ける僕を、ヨハンは見下げ果てたゴミを見るような、救いようのない冷徹な目で見下ろしていた。
「ひょっとして、塔に幽閉されている間に魔物を使役する術でも身につけたか? その獣を使って、外の者に何らかの合図でも送り、よからぬ事でも企んでいるのではあるまいな」
「……っ、そんな……!」
あまりに理不尽で、あまりに血の通わない言葉に、僕の心臓は一瞬で完全に凍りつくかと思った。 手首の縄が肉を割って深く食い込み、ドロリとした熱い血が石床に滴り落ちるのも構わず、僕は腕の中の氷に閉じ込められたカラスをより強く抱きしめたまま、震える声を喉の奥から絞り出した。
「この子は……魔物なんかじゃない……っ。ただ、僕を、守ろうとしただけだ……! 苦しんでいる僕を、助けようとしてくれただけなんだ……!」
「愚かな。害を成す魔物を庇うなど、到底理解できん」
ヨハンは吐き捨てるように、短く冷淡に言った。その声の響きには、小さな命を奪いかけたことへの躊躇も、一欠片の後悔の色もなかった。
「俺は背後から襲いかかろうとした脅威に対し、戦士として反射的に反撃したまでだ。領主として、領内に潜む魔物を仕留めて何が悪いというのだ」
そう、彼にとっては、これが揺るぎない「正義」なのだ。 先祖代々、魔物に脅かされ、多くの民を失い続けてきたこの極北の地を統治する領主として、目の前の異形を即座に排除するのは当然の義務であり、誇るべき騎士の判断なのだろう。 けれど、僕にとっては……この救いようのない暗い塔の中で唯一、僕を「レリル」という冷たい記号ではなく、ただ一人の人間として温めてくれた、かけがえのない、唯一無二の友だった。
この男に、何を言っても無駄だ。 僕たちが今立っている場所と、見ている世界は、あまりに遠すぎて言葉さえ届かない。 絶望とショックで、僕はもう一言も、彼からの言葉を聞きたくなかった。これ以上、この男が振りかざす冷徹な正論によって、僕の心の中に残された最後の大切な居場所を、泥のついた軍靴で踏み荒らされたくなかった。
僕は一度も顔を上げず、カラスを抱いたまま、すべての感情を削ぎ落とした、幽霊の囁きのような細い声で静かに告げた。
「……望み通り、魔石は渡しました。約束の食料も、そこに置いてある分で十分です……。ですから……もう、この部屋から出て行ってください」
「何だと? 貴様、この俺に向かって……」
「帰ってください。……お願いですから、もう僕に関わらないで。僕に、触れないでください」
一度もその鋭い眼光と目を合わせることなく、ただ腕の中にある物言わぬ冷たい塊だけを縋るように見つめて、僕は自分の心の扉を固く閉ざした。
ヨハンは毒気を抜かれたように、しばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。何かを言い返すために、あるいは礼を失した態度に憤るように口を開きかけた気配がしたが、僕は石像のように固まったまま、二度と彼に反応を示すことはなかった。
やがて、重い鉄靴が虚しく石を叩く音が少しずつ遠ざかり、やがて塔の底で重厚な鉄の扉が閉まる不快な残響が響いた。 再び死のような静寂が戻った部屋で、僕はただ、いつまでも解けることのない氷を抱きしめて、声を殺して泣き続けた。
頭上から、冷酷なまでに地を微かに震わせる低い声が、容赦なく降ってきた。 泣きじゃくりながら、指先が凍傷に侵されるのも厭わず氷の塊を抱きしめ続ける僕を、ヨハンは見下げ果てたゴミを見るような、救いようのない冷徹な目で見下ろしていた。
「ひょっとして、塔に幽閉されている間に魔物を使役する術でも身につけたか? その獣を使って、外の者に何らかの合図でも送り、よからぬ事でも企んでいるのではあるまいな」
「……っ、そんな……!」
あまりに理不尽で、あまりに血の通わない言葉に、僕の心臓は一瞬で完全に凍りつくかと思った。 手首の縄が肉を割って深く食い込み、ドロリとした熱い血が石床に滴り落ちるのも構わず、僕は腕の中の氷に閉じ込められたカラスをより強く抱きしめたまま、震える声を喉の奥から絞り出した。
「この子は……魔物なんかじゃない……っ。ただ、僕を、守ろうとしただけだ……! 苦しんでいる僕を、助けようとしてくれただけなんだ……!」
「愚かな。害を成す魔物を庇うなど、到底理解できん」
ヨハンは吐き捨てるように、短く冷淡に言った。その声の響きには、小さな命を奪いかけたことへの躊躇も、一欠片の後悔の色もなかった。
「俺は背後から襲いかかろうとした脅威に対し、戦士として反射的に反撃したまでだ。領主として、領内に潜む魔物を仕留めて何が悪いというのだ」
そう、彼にとっては、これが揺るぎない「正義」なのだ。 先祖代々、魔物に脅かされ、多くの民を失い続けてきたこの極北の地を統治する領主として、目の前の異形を即座に排除するのは当然の義務であり、誇るべき騎士の判断なのだろう。 けれど、僕にとっては……この救いようのない暗い塔の中で唯一、僕を「レリル」という冷たい記号ではなく、ただ一人の人間として温めてくれた、かけがえのない、唯一無二の友だった。
この男に、何を言っても無駄だ。 僕たちが今立っている場所と、見ている世界は、あまりに遠すぎて言葉さえ届かない。 絶望とショックで、僕はもう一言も、彼からの言葉を聞きたくなかった。これ以上、この男が振りかざす冷徹な正論によって、僕の心の中に残された最後の大切な居場所を、泥のついた軍靴で踏み荒らされたくなかった。
僕は一度も顔を上げず、カラスを抱いたまま、すべての感情を削ぎ落とした、幽霊の囁きのような細い声で静かに告げた。
「……望み通り、魔石は渡しました。約束の食料も、そこに置いてある分で十分です……。ですから……もう、この部屋から出て行ってください」
「何だと? 貴様、この俺に向かって……」
「帰ってください。……お願いですから、もう僕に関わらないで。僕に、触れないでください」
一度もその鋭い眼光と目を合わせることなく、ただ腕の中にある物言わぬ冷たい塊だけを縋るように見つめて、僕は自分の心の扉を固く閉ざした。
ヨハンは毒気を抜かれたように、しばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。何かを言い返すために、あるいは礼を失した態度に憤るように口を開きかけた気配がしたが、僕は石像のように固まったまま、二度と彼に反応を示すことはなかった。
やがて、重い鉄靴が虚しく石を叩く音が少しずつ遠ざかり、やがて塔の底で重厚な鉄の扉が閉まる不快な残響が響いた。 再び死のような静寂が戻った部屋で、僕はただ、いつまでも解けることのない氷を抱きしめて、声を殺して泣き続けた。
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