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第1章
第27話:叡智への縋り
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「……魔石は、渡しました。食料も頂いたので、もう、出て行ってください」
僕が感情の一切を殺し、突き放すように告げると、ヨハンは何かを言いかけようとして口を開き、やがて苛立ちを隠しきれぬ重い足音を石床に響かせて去っていった。 塔の底で重厚な扉が閉まった「ガコン」という絶望的なまでに重苦しい金属音が、この場所の静寂の始まりを告げる。
「どうすればいい……どうすれば、この子は助かるんだ……っ?」
僕は意識のすべてを、腕の中に抱えた、動かぬ小さな命だけに集中させた。 絶望に沈み、膝を折っている暇など一秒も残されてはいない。僕はガチガチと震える足に無理やり力を込め、カラスを大切に抱えたまま、三階にあるあの膨大な医学書が並ぶ部屋へと急いだ。 急勾配の石段を一段上がるたび、手首に食い込んだ縄が肉を無残に裂き、焼け付くような激痛が全身に走る。けれど、今の僕には自分自身の痛みを感じるような精神的な余裕など、露ほども持ち合わせていなかった。
書庫に辿り着くや否や、僕は床に座り込んで、これまでに読み込んできた医学書のページを狂ったように、指先が裂けるほどの勢いで捲り続けた。 幸いなことに、あの子の体はすべてが完全に氷結しているわけではなかった。ヨハンの放った魔法は、あの子の動きを瞬時に止めるために、体の一部を強固な氷の檻に閉じ込めただけのものだったようだった。
「待ってて、今すぐ溶かすから……絶対に助けるから……っ」
僕はあの子を冷たい氷ごと自分の肌に直接押し当て、上から古びた毛布にくるまった。 一ヶ月分の魔力を搾り取られて空っぽになった僕の体は、死人のように冷え切っていたけれど、それでも必死に、絞り出すようにして微かな体温を分け与え続ける。
やがて数時間が経ち、僕の必死の熱を受けて、透明だった氷が少しずつ雫となって溶け始めた。 僕は医学書に記されていた「非魔導的な処置」の記述を、霞む視界で必死に辿り、濡れた羽を丁寧に拭き上げ、傷ついた小さな体を清潔な布で優しく包み込んだ。
「……こんな時、火の魔法……せめて火が、使えたらよかったのに……」
本当は今日、ダメ元でヨハンに尋ねてみるつもりだった。
魔力を使わずに、誰でも簡単に火を熾せる「マッチ」のような便利な道具を分けてもらえないだろうか、と。 けれど、僕はあんな拒絶の態度をとってしまった。自分という存在を「迷惑だ」と吐き捨てたあの領主が、罪人である僕の我が儘に耳を貸してくれるはずがない。
僕は火の気の一切ない、凍えるような冷たい部屋で、ただあの子の容態が少しでも良くなることだけを神に祈り、長く暗い夜を震えながら明かした。
僕が感情の一切を殺し、突き放すように告げると、ヨハンは何かを言いかけようとして口を開き、やがて苛立ちを隠しきれぬ重い足音を石床に響かせて去っていった。 塔の底で重厚な扉が閉まった「ガコン」という絶望的なまでに重苦しい金属音が、この場所の静寂の始まりを告げる。
「どうすればいい……どうすれば、この子は助かるんだ……っ?」
僕は意識のすべてを、腕の中に抱えた、動かぬ小さな命だけに集中させた。 絶望に沈み、膝を折っている暇など一秒も残されてはいない。僕はガチガチと震える足に無理やり力を込め、カラスを大切に抱えたまま、三階にあるあの膨大な医学書が並ぶ部屋へと急いだ。 急勾配の石段を一段上がるたび、手首に食い込んだ縄が肉を無残に裂き、焼け付くような激痛が全身に走る。けれど、今の僕には自分自身の痛みを感じるような精神的な余裕など、露ほども持ち合わせていなかった。
書庫に辿り着くや否や、僕は床に座り込んで、これまでに読み込んできた医学書のページを狂ったように、指先が裂けるほどの勢いで捲り続けた。 幸いなことに、あの子の体はすべてが完全に氷結しているわけではなかった。ヨハンの放った魔法は、あの子の動きを瞬時に止めるために、体の一部を強固な氷の檻に閉じ込めただけのものだったようだった。
「待ってて、今すぐ溶かすから……絶対に助けるから……っ」
僕はあの子を冷たい氷ごと自分の肌に直接押し当て、上から古びた毛布にくるまった。 一ヶ月分の魔力を搾り取られて空っぽになった僕の体は、死人のように冷え切っていたけれど、それでも必死に、絞り出すようにして微かな体温を分け与え続ける。
やがて数時間が経ち、僕の必死の熱を受けて、透明だった氷が少しずつ雫となって溶け始めた。 僕は医学書に記されていた「非魔導的な処置」の記述を、霞む視界で必死に辿り、濡れた羽を丁寧に拭き上げ、傷ついた小さな体を清潔な布で優しく包み込んだ。
「……こんな時、火の魔法……せめて火が、使えたらよかったのに……」
本当は今日、ダメ元でヨハンに尋ねてみるつもりだった。
魔力を使わずに、誰でも簡単に火を熾せる「マッチ」のような便利な道具を分けてもらえないだろうか、と。 けれど、僕はあんな拒絶の態度をとってしまった。自分という存在を「迷惑だ」と吐き捨てたあの領主が、罪人である僕の我が儘に耳を貸してくれるはずがない。
僕は火の気の一切ない、凍えるような冷たい部屋で、ただあの子の容態が少しでも良くなることだけを神に祈り、長く暗い夜を震えながら明かした。
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