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第1章
第28話:予期せぬ再訪
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翌日。高い位置にある窓から差し込んできた冬の光は、ただ虚しく部屋の隅々を照らし出すばかりで、腕の中にあるカラスの意識は依然として戻らぬままだった。
僕は丸一日、満足に眠ることも食べることもできず、蓄積した疲労と空腹で意識が朦朧としながらも、あの子のそばを片時も離れることができなかった。一ヶ月分の魔力を最後の一滴まで根こそぎ搾り取られた後の凄まじい倦怠感が、まるで全身の細胞を重い鉛に変えてしまったかのように、僕の細い身体を冷たい石床へと縫い付けて離してくれないのだ。
その時だった。
――ガコン。
塔の底、一階に位置するあの重厚な鉄の扉が、不快な金属音を立てて強引に開かれる振動が、塔の壁を伝って僕の心臓まで響き渡った。
僕はびくりと大きく肩を揺らし、外敵から守るようにしてカラスの小さな身体をより強く胸に抱きしめる。
「……強盗、だろうか。それとも、王都からの刺客か」
今の僕には、不法な侵入者に対して反撃する術なんて、爪の先ほども残っていない。
震える手でカラスを落とさぬよう必死に抱え、書庫の棚の陰にでも隠れようとしたが、限界を超えた膝ががくがくと笑ってしまい、立ち上がることさえままならない。這いつくばってでも逃げ場を探そうと床を掻いたが、自由の利かない身体は無様に石の冷たさを拾うだけだった。
「レリル! どこにいる。さっさと姿を見せろ!」
一階の吹き抜けから塔全体を震わせるように響いてきたのは、昨日も聞いたあの野太く、圧倒的な威圧感に満ちた声だった。
ヨハン・ストルムベルク。
なぜだ。なぜ、この男がまた現れた? 昨日の僕の、あの不敬極まる拒絶の態度を、改めて処罰しにでも来たのだろうか。
もし本当にこの極北の地を統べる絶対的な支配者である辺境伯本人が、怒りに任せて再訪したのだとしたら、ここで隠れて余計な不信感を買うのはあまりに危険すぎる。逆らうことは、僕自身の命のみならず、僕が抱いているこの子の僅かな命の火さえも、今度こそ完全に吹き消してしまう致命的な失策になりかねない。
僕は死に物狂いで遠のこうとする意識を繋ぎ止め、壁に指を立てて這うようにして立ち上がると、カラスを抱えたまま一階の扉へと続く踊り場の方へ、フラフラとした覚束ない足取りで向かった。
階段の踊り場から見下ろした扉の前には、やはり昨日と同じ、漆黒の猛禽を思わせる威圧的なマントを纏ったヨハンが、苛立ったように仁王立ちしていた。
「……また何の、御用でしょうか。魔石なら昨日、すべて引き渡したはずですが」
自分でも驚くほど、感情の色彩を一切感じさせない、ひどく冷めきった声が出た。
僕が孤独の中で唯一心を通わせていた大切なカラスを、あんなにも無惨に傷つけ、絶望の淵に突き落としたこの男を、今の僕の心はどうしても受け入れることができなかったのだ。
するとヨハンは、僕の腕の中で動かぬまま、布に包まれたカラスを一瞥し、一瞬だけ苦虫を噛み潰したようにわずかに顔を歪めた。
それから、昨日までの傲慢な態度とは裏腹に、どこか落ち着かなげに視線をふいと逸らすと、まるで自分自身に言い聞かせるような居心地の悪そうな口調でぶっきらぼうに言った。
「……昨日、首輪に魔力封じの術をちゃんとかけないまま、慌てて出てきてしまったことに気づいた。調整が甘いと反動で貴様の体が壊れる。それは俺にとっても不都合だ。再調整してやるから、さっさとこっちへ来い」
ヨハンはそう言って、重い鉄靴を床に叩きつけるように鳴らしながら、僕の方へと威圧的に、けれどどこか焦ったような足取りで近づいてきた。
僕は丸一日、満足に眠ることも食べることもできず、蓄積した疲労と空腹で意識が朦朧としながらも、あの子のそばを片時も離れることができなかった。一ヶ月分の魔力を最後の一滴まで根こそぎ搾り取られた後の凄まじい倦怠感が、まるで全身の細胞を重い鉛に変えてしまったかのように、僕の細い身体を冷たい石床へと縫い付けて離してくれないのだ。
その時だった。
――ガコン。
塔の底、一階に位置するあの重厚な鉄の扉が、不快な金属音を立てて強引に開かれる振動が、塔の壁を伝って僕の心臓まで響き渡った。
僕はびくりと大きく肩を揺らし、外敵から守るようにしてカラスの小さな身体をより強く胸に抱きしめる。
「……強盗、だろうか。それとも、王都からの刺客か」
今の僕には、不法な侵入者に対して反撃する術なんて、爪の先ほども残っていない。
震える手でカラスを落とさぬよう必死に抱え、書庫の棚の陰にでも隠れようとしたが、限界を超えた膝ががくがくと笑ってしまい、立ち上がることさえままならない。這いつくばってでも逃げ場を探そうと床を掻いたが、自由の利かない身体は無様に石の冷たさを拾うだけだった。
「レリル! どこにいる。さっさと姿を見せろ!」
一階の吹き抜けから塔全体を震わせるように響いてきたのは、昨日も聞いたあの野太く、圧倒的な威圧感に満ちた声だった。
ヨハン・ストルムベルク。
なぜだ。なぜ、この男がまた現れた? 昨日の僕の、あの不敬極まる拒絶の態度を、改めて処罰しにでも来たのだろうか。
もし本当にこの極北の地を統べる絶対的な支配者である辺境伯本人が、怒りに任せて再訪したのだとしたら、ここで隠れて余計な不信感を買うのはあまりに危険すぎる。逆らうことは、僕自身の命のみならず、僕が抱いているこの子の僅かな命の火さえも、今度こそ完全に吹き消してしまう致命的な失策になりかねない。
僕は死に物狂いで遠のこうとする意識を繋ぎ止め、壁に指を立てて這うようにして立ち上がると、カラスを抱えたまま一階の扉へと続く踊り場の方へ、フラフラとした覚束ない足取りで向かった。
階段の踊り場から見下ろした扉の前には、やはり昨日と同じ、漆黒の猛禽を思わせる威圧的なマントを纏ったヨハンが、苛立ったように仁王立ちしていた。
「……また何の、御用でしょうか。魔石なら昨日、すべて引き渡したはずですが」
自分でも驚くほど、感情の色彩を一切感じさせない、ひどく冷めきった声が出た。
僕が孤独の中で唯一心を通わせていた大切なカラスを、あんなにも無惨に傷つけ、絶望の淵に突き落としたこの男を、今の僕の心はどうしても受け入れることができなかったのだ。
するとヨハンは、僕の腕の中で動かぬまま、布に包まれたカラスを一瞥し、一瞬だけ苦虫を噛み潰したようにわずかに顔を歪めた。
それから、昨日までの傲慢な態度とは裏腹に、どこか落ち着かなげに視線をふいと逸らすと、まるで自分自身に言い聞かせるような居心地の悪そうな口調でぶっきらぼうに言った。
「……昨日、首輪に魔力封じの術をちゃんとかけないまま、慌てて出てきてしまったことに気づいた。調整が甘いと反動で貴様の体が壊れる。それは俺にとっても不都合だ。再調整してやるから、さっさとこっちへ来い」
ヨハンはそう言って、重い鉄靴を床に叩きつけるように鳴らしながら、僕の方へと威圧的に、けれどどこか焦ったような足取りで近づいてきた。
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