虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第2章

第49話:三度目の朝

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 穏やかな日々が永遠に続けばいいと願う僕の切実な思いとは裏腹に、避けることのできない「運命の日」は無慈悲にやってきた。 三度目の、魔力提供の日。

 朝早く、まだ白い霧が塔の周りに深く立ち込め、太陽の光さえ届かぬ時間に重厚な扉が開いた。 現れたヨハンの表情は、ここ数日の間に見せてくれていた柔らかなものとは正反対だった。眉間に深い皺を刻み、その瞳はどこか鋭く、刺すような険しさを帯びている。 館で流れているという不穏な噂が彼の耳に届いているせいなのか、それとも、大切にしたいと思い始めた僕に再び耐え難い苦痛を強いることへの激しい葛藤ゆえなのか。彼は一言も発さぬまま、僕が用意した朝食を、まるで味のしない砂を噛むような義務感で共に摂った。

「……そろそろ、時間だ。いいか」

 食後の茶を飲み終えると、ヨハンは断頭台へ向かう死刑執行人のような足取りで静かに立ち上がった。 僕は言葉を返す代わりに黙って頷き、いつもの柔らかなソファへと移動する。心臓が早鐘を打ち、指先が氷のように冷たくなっていくのが分かった。

 けれど今回は、前回までとは決定的に違うことが一つあった。 ヨハンが、僕の掌に冷たい魔石を持たせたのだ。

 そして、あろうことか、恐怖に震える僕の手を丸ごと包み込むように、彼自身の厚く、力強い大きな手で、壊れものを守るように握りしめてくれたのだ。

「…………」

 言葉は、何一つ交わされなかった。けれど、その力強い手の圧力と、肌から直に伝わってくる熱い鼓動から、「決して一人にはさせない」「この苦痛を俺も共に背負う」という、彼の痛いほどの強い意志が伝わってくる。 それだけで、胸の奥に澱のように溜まっていた暗い恐怖が、魔法にかけられたかのようにすうっと消えていくのを感じた。

「……始めるぞ。耐えてくれ、レリル」

 ヨハンの低く震える声を合図に、部屋の空気を震わせる重厚な詠唱が満ち始める。 次の瞬間、これまでの搾取を遥かに上回るような、凄まじい衝撃が全身の神経を貫いた。

「っ、が、あ……ぁあああ……っ!!」

 手を握られているからといって、肉体を焼き尽くす激痛が消えるわけではない。 むしろ、滋養のある食事を摂り、体調が回復して魔力が増しているせいか、魂の根源を引き剥がされる感覚は、前回よりも鋭く、より残酷なものへと深化していた。

 視界が真っ白に弾け、呼吸が止まる。 ヨハンの掌の温もりを、この世に繋ぎ止めてくれる唯一の命綱にしながら。僕はまたしても、抗う術のない底なしの深い闇の底へと、真っ逆さまに引きずり込まれていった。
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