虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第2章

第50話:記憶の正体

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 意識が浮上した先で、僕は再び、あの忌まわしい過去の深淵へと突き落とされていた。 前回よりも視点が高くなっている。あどけなさが消え、少しだけ成長した少年の体。けれど、満足に栄養を与えられていない体は悲鳴を上げ、ただ立っているのが精一杯なほど、全身に鉛のような鈍い痛みが走っている。

『おい! 聞いているのか、レリル!!』

 耳を劈くような激しい怒声。 

(レリル……!?)

  今の僕を呼ぶその名前が、この夢の中で虐げられている少年の正体であることを、僕は改めて残酷に突きつけられ、思考が激しく混乱した。

 ヒュンッ、と空気を鋭く裂く音がした直後、背中に灼熱の痛みが走った。 皮鞭だ。 

(痛い……っ、やめて……! お願いだから、やめて……!!)

 夢の中だというのに、心と身体がダイレクトに共有するこの剥き出しの痛みには、どれほど繰り返しても慣れることなどできない。 僕が掠れた悲鳴を上げ、膝を突き、震える手で地面を這って動けないでいると、頭上から冷酷な蔑みの視線が降ってきた。

『とっとと動け、この愚図が! 貴様の代わりなどいくらでもいるんだ。このままでは一生「兵器」として役に立つことすら出来んぞ!』

「……兵器……?」 
(……兵器……?)

 僕の震える口と、僕の凍りついた心が、同時に同じ絶望的な言葉を紡いだ。

『そうだ。お前はその莫大な魔力量だけを見込まれ、家畜同然に買い取られてここに連れてこられたのだ。無価値な平民が、この偉大なる国のために「糧」となれることを、精一杯感謝するといい』

(そんなの……知らない……。そんな、誰かを傷つける道具になるために、僕は生まれてきたんじゃない……!)

 僕がこれまで知っていた「レリル」の断片的な記憶は、どれも傍若無人で傲慢、他者を見下す化け物のような姿ばかりだった。けれど、その漆黒の根底に、これほどまでに凄惨で血塗られた過去が隠されていたなんて。 彼は育てられたのではない。人間としての心を削られ、ただの効率的な殺戮「兵器」として、冷徹に「造り替えられていた」のだ。

『そんなの……怖い……嫌だ……誰か、助けてぇえええ!!!!』

 少年の限界を超えた絶望が爆発した瞬間、僕の体から意志とは無関係に、荒れ狂う嵐のような膨大な魔力が溢れ出した。 「魔力暴走」 制御を失った光が炸裂し、重厚なはずの石壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。自分を打っていた大人たちが、木の葉のように無様に吹き飛ばされ、悲鳴を上げて転がっていく。

 その地獄のような光景を見たとき、僕の中に、ひどく暗くて冷たい、歪んだ笑みが浮かんだ。

『……なんだ。そうか。こうすれば、良かったのか……』

 力が、僕を守ってくれる。力が、僕を傷つけるものをこの世から排除してくれる。 その取り返しのつかない歪んだ気づきが、純粋だったレリルの魂を漆黒に染め上げ、今の「大罪人」へと変貌させていく過程を、僕は自分のことのように生々しく感じながら、弾き出されるように現実の光の中へと引き戻された。
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