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第1章:氷の王座と、崩れゆく嘘
第8話:身体を酷使する王
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アドレアン王国に、一年のうちで最も残酷な「収穫の季節」が訪れた。
本来ならば、たわわに実る黄金の稲穂に民が感謝を捧げる喜びの季節だ。しかし、その黄金色の海は、セシルの血管を流れる魔力を吸い上げて無理やり着色された、偽物の輝きだった。
「――出力を、もう二段階上げる」
地下祭壇の冷気が、セシルの肌を刺す。
傍らに立つ魔導官たちは、セシルの言葉に戦慄した。今の彼から放たれる魔力は、すでに人の許容範囲をとうに超え、周囲の空間を歪ませるほどの圧力を持っていたからだ。
「陛下、これ以上は……! 御身が持ちませぬ!」
「構わない。……東部の雨は止めない。南部の地熱も維持する。……私の命は、そのためにある」
セシルの両目は血走り、爪先からは絶え間なく血が滲んでいた。
祭壇の床に描かれた巨大な魔法陣が、セシルの命を啜って脈動する。ドクン、ドクンと、大地がセシルの心臓と同期し、そのたびに彼の寿命が年単位で削り取られていく。
(……ああ、視界が、暗い)
一週間、まともな食事も睡眠も摂っていない。
アルヴィスが強引に口へ運ぶスープも、今のセシルには砂を噛むような味しかしなかった。
その時、祭壇の重厚な扉が、蹴破るような勢いで開かれた。
「――そこまでだ!!」
怒号とともに現れたのは、アルヴィスだった。
アルヴィスは、魔力の奔流に髪をなびかせながら、狂気に取り憑かれたように魔法陣の中央へ踏み込んだ。
「アルヴィス……来るな……! 今、接続を切れば、反動で……!」
「反動など知るか! 貴方がここで干からびるのを見ているよりはマシだ!」
アルヴィスは、激しい閃光を放つ魔力の壁を、その強靭な肉体だけで突破した。彼の腕の皮膚が魔力の摩擦で焼け、焦げた匂いが漂う。それでも彼は止まらなかった。
アルヴィスは、祭壇の中央で跪くセシルの腰を抱き寄せ、無理やり魔法陣から引き剥がした。
「がはっ……、あ、あああああッ!!」
強引な切断による衝撃が、セシルの全身を駆け抜ける。
神経を一本ずつ引き抜かれるような激痛。セシルはアルヴィスの腕の中で大きくのけぞり、そのまま真っ赤な鮮血を彼の甲冑へとぶちまけた。
「セシル! セシル!!」
アルヴィスの叫びが、祭壇の天井に反響する。
セシルの視界からは色が消え、ただアルヴィスの絶望に満ちた瞳だけが、最後に見えた光だった。
――ガシャン、と重い音が響く。
セシルの体が、アルヴィスの腕の中で完全に弛緩した。
王宮中に、収穫を祝う鐘の音が鳴り響く中、その奇跡の主は、真っ白な灰のように燃え尽きて倒れたのだ。
「……あ……あ…………」
アルヴィスは、血に濡れたセシルを抱きしめたまま、獣のような声を漏らした。
腕の中にあるのは、もはや生きている人間とは思えないほどに軽く、冷たくなった「王」の残骸。
この瞬間、アルヴィスの中で、何かが決定的に壊れた。
主従という絆も、騎士という誇りも、セシルの命を削るこの国への忠誠も。
すべてが、ドロドロとした黒い怒りへと塗りつぶされていった。
本来ならば、たわわに実る黄金の稲穂に民が感謝を捧げる喜びの季節だ。しかし、その黄金色の海は、セシルの血管を流れる魔力を吸い上げて無理やり着色された、偽物の輝きだった。
「――出力を、もう二段階上げる」
地下祭壇の冷気が、セシルの肌を刺す。
傍らに立つ魔導官たちは、セシルの言葉に戦慄した。今の彼から放たれる魔力は、すでに人の許容範囲をとうに超え、周囲の空間を歪ませるほどの圧力を持っていたからだ。
「陛下、これ以上は……! 御身が持ちませぬ!」
「構わない。……東部の雨は止めない。南部の地熱も維持する。……私の命は、そのためにある」
セシルの両目は血走り、爪先からは絶え間なく血が滲んでいた。
祭壇の床に描かれた巨大な魔法陣が、セシルの命を啜って脈動する。ドクン、ドクンと、大地がセシルの心臓と同期し、そのたびに彼の寿命が年単位で削り取られていく。
(……ああ、視界が、暗い)
一週間、まともな食事も睡眠も摂っていない。
アルヴィスが強引に口へ運ぶスープも、今のセシルには砂を噛むような味しかしなかった。
その時、祭壇の重厚な扉が、蹴破るような勢いで開かれた。
「――そこまでだ!!」
怒号とともに現れたのは、アルヴィスだった。
アルヴィスは、魔力の奔流に髪をなびかせながら、狂気に取り憑かれたように魔法陣の中央へ踏み込んだ。
「アルヴィス……来るな……! 今、接続を切れば、反動で……!」
「反動など知るか! 貴方がここで干からびるのを見ているよりはマシだ!」
アルヴィスは、激しい閃光を放つ魔力の壁を、その強靭な肉体だけで突破した。彼の腕の皮膚が魔力の摩擦で焼け、焦げた匂いが漂う。それでも彼は止まらなかった。
アルヴィスは、祭壇の中央で跪くセシルの腰を抱き寄せ、無理やり魔法陣から引き剥がした。
「がはっ……、あ、あああああッ!!」
強引な切断による衝撃が、セシルの全身を駆け抜ける。
神経を一本ずつ引き抜かれるような激痛。セシルはアルヴィスの腕の中で大きくのけぞり、そのまま真っ赤な鮮血を彼の甲冑へとぶちまけた。
「セシル! セシル!!」
アルヴィスの叫びが、祭壇の天井に反響する。
セシルの視界からは色が消え、ただアルヴィスの絶望に満ちた瞳だけが、最後に見えた光だった。
――ガシャン、と重い音が響く。
セシルの体が、アルヴィスの腕の中で完全に弛緩した。
王宮中に、収穫を祝う鐘の音が鳴り響く中、その奇跡の主は、真っ白な灰のように燃え尽きて倒れたのだ。
「……あ……あ…………」
アルヴィスは、血に濡れたセシルを抱きしめたまま、獣のような声を漏らした。
腕の中にあるのは、もはや生きている人間とは思えないほどに軽く、冷たくなった「王」の残骸。
この瞬間、アルヴィスの中で、何かが決定的に壊れた。
主従という絆も、騎士という誇りも、セシルの命を削るこの国への忠誠も。
すべてが、ドロドロとした黒い怒りへと塗りつぶされていった。
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