復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。

篠雨

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第3章 勇者視点

第5話:聖炎と闇

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俺の剣から放たれた光の魔力、『聖炎』が、ノアールに向かって一直線に走った。それは、この三年間、俺が痛みと孤独に耐えて練り上げた、最高純度の光だった。師範たちが教えた、闇を完全に滅却するための、迷いのない一撃。

ノアールは、その攻撃を避けようとはしなかった。彼は、ただ静かに、その場で光を受け止めようと立っている。彼の周囲を覆う闇の魔力が、聖炎と衝突する瞬間、凄まじい反発の轟音が屋敷全体を揺るがした。

キィン!

聖炎はノアールの闇の鎧を貫き、彼の肩を浅く切り裂いた。しかし、闇の鎧はその直後、すぐに傷を修復し、ノアールの身体を再び覆い尽くした。

「……僕の闇は、君の光に呼応して強くなる。君が僕を本気で滅ぼそうとすればするほど、僕は君の敵として完成してしまうよ、セレ」

ノアールの声は、どこか諦めを含みながらも、冷徹だった。その瞳は、俺の感情を試すかのように、虚ろに俺を見つめている。
俺は舌打ちをした。ノアールは、俺の光を避けるどころか、それを自分の魔力の増幅に利用している。まるで、俺が彼を討つことに躊躇することを、許さないかのように。

「逃げるな!覚悟を決めたなら、俺の光から逃げてみろ!」

俺は、彼のその自己滅却の姿勢に、激しい苛立ちを感じた。彼は、俺に罰を与える機会さえ、自分の都合の良い死という形で奪おうとしている。

俺は、剣を一度大きく振りかぶり、さらに強力な光の波動を剣に集中させた。

――グオオオオッ!

広間の空気は光と闇の魔力によって張り詰め、家具の破片や埃が舞い上がった。俺は、ノアールの目を見据え、一気に間合いを詰めた。

「俺は、お前の鎖を解かれた屈辱を、絶対に忘れはしない!」

剣がノアールの心臓目掛けて突き出される。

しかし、ノアールはその瞬間に初めて、自らの闇の力を振るった。

彼の身体から、黒い奔流のような闇の魔力が噴出する。それは、俺の聖炎とは対照的な、すべてを腐敗させ、飲み込むような重い力だった。闇の奔流は、俺の剣を直接受け止めるのではなく、俺の身体を迂回するように、屋敷の天井と床を狙った。

ゴウッ!バキィン!

闇の奔流が通過した場所は、石造りの天井も床も、一瞬にして炭のように脆く崩壊した。屋敷全体が、さらに激しく軋み、今にも崩れ落ちそうになった。

ノアールは、俺の剣を避けながら、冷たい声で言った。

「君が僕を討てば、この屋敷は崩れ、君は外界の大人たちのもとに帰れる。僕が君をここで殺せば、君は道具として生きる苦しみから解放される」

彼は、俺の心を狙って闇の力を振るっていた。彼の攻撃は、俺の命を奪うことよりも、俺の居場所を奪うことを目的としているかのようだった。

「僕が、君に与えられる最後の優しさは、君の解放だけだ」

「余計なお世話だ!」

俺は剣を振り払い、崩れた床を蹴って再びノアールとの距離を詰める。俺は、彼の同情などいらない。彼が俺の鎖を解いた理由が「優しさ」だったとしても、俺が彼に求めているのは、その優しさの代償だ。

俺の聖炎とノアールの闇は、何度も激しく衝突した。それは、光と闇の戦いであると同時に、愛と絶望の交錯だった。

ノアールは、常に俺の感情を刺激する言葉を投げかけた。

「君を森に置いていった僕を憎めばいい。王城の大人たちに道具として扱われる苦しみを、僕にすべてぶつけるといい」

彼の言葉を聞くたびに、俺の瞳の金色の光は増幅した。俺の憎悪と屈辱こそが、ノアールの闇を、そして俺の光を育てていた。

戦いは一進一退だったが、このままでは屋敷が完全に崩壊し、俺たちの再会が終わってしまう。

俺は、ノアールを殺すつもりはなかった。だが、彼を連れ戻すためには、一度、完全に彼の闇を鎮めなければならない。

(ノアール。お前は、俺の鎖を解いた。その償いは、お前の命で終わらせてやるものか)

俺は、憎しみを抱えたまま、全身の魔力を込めた一撃を放つ準備をした。それは、ノアールを殺さず、彼の闇の力を一時的に封印するための、最後の賭けだった。
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