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第5章 魔王視点
第5話:王城の罠と闇の影響
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セレの王城への攻撃は、一線を越えつつあった。
彼はもはや、魔物討伐の任務すら蔑ろにし、勇者という立場を利用して、王城の腐敗の根を直接叩き始めている。彼が帰宅する間隔は長くなり、教会に戻ったときの彼の顔は、疲弊と狂気に近しい冷たい高揚感に満ちていた。
俺は、鎖に繋がれたまま、セレのその変化を目の当たりにし、ある恐ろしい可能性に囚われ始めていた。
(僕の闇の力は、すべてを喰らい、そして歪ませる。もし、僕が放出した闇の残滓が、この教会、あるいはセレの心に、まだ残っているとしたら――)
俺の闇の力は、聖炎によって封じられている。だが、彼の復讐心や憎悪が、俺の闇の性質である「すべてを歪ませる力」と共鳴し、彼の光を「すべてを焼き尽くす傲慢な光」へと変質させているのではないか。
「セレ……君の復讐心は、あまりに強すぎる。まるで、何かに急かされているようだ」
俺は、鎖の届く限界まで彼に身を乗り出した。
「僕の闇が、君の光を歪ませているのではないか?君の聖炎が、憎しみの炎に変わっているのは、僕のせいだ……」
セレは、その言葉を聞くと、初めて嘲笑した。
「馬鹿げている。俺の憎しみは、お前の裏切りと、王城の冷遇から生まれた、俺自身のものだ。お前のせいにするな。お前はただの囚人だ」
彼はそう言い捨てたが、その瞳の奥には、俺の指摘に対する微かな動揺が垣間見えた。彼自身も、自分の感情の制御ができなくなりつつあることを、薄々感じているのかもしれない。
-----------------------------------------
その日の夜、セレは緊急の任務で呼び出され、教会を後にした。彼の表情は、どこか油断しているように見えた。彼は、自分の光の力が、王城の大人たちよりも優位にあると、過信し始めている。
数時間後、教会に異変が起きた。
セレが張っていた厳重な結界が、外部からの強大な光の魔力によって、一瞬で破られたのだ。その魔力は、セレの聖炎とは異なる、冷たく、組織的な光だった。
ドォン!
教会の扉が砕け散り、複数の騎士が雪崩れ込んできた。彼らが纏うのは、騎士団長の配下であることを示す、厳重な鎧と、魔力抑制の道具だ。
「魔王ノアール!勇者セレの虚偽の報告は承知している!貴様は生きているな!」
彼らの中心には、俺を森の屋敷から連れ出した、あの騎士団長が立っていた。彼の表情は、怒りではなく、恐れに満ちていた。
「勇者セレは、王城の命令を無視し、魔王を秘密裏に匿い、その力を利用して王城に反逆した。我々の任務は、貴様の再度の滅却、そして、裏切り者セレの拘束だ」
騎士団長は、そう言って、俺に向かって魔力抑制の矢を構えた。その矢は、俺の首の銀の鎖と同じく、光の魔力が込められていた。
俺は、鎖の届く範囲から一歩も動けなかった。彼らは、セレが最も脆弱な時を狙って、この教会に踏み込んできたのだ。
そして、俺は悟った。これは、俺を殺すための罠であると同時に、王城が、制御不能になった勇者セレを排除するための、決定的な罠だ。
俺は、鎖に繋がれたまま、彼らの攻撃を受け入れるしかなかった。このままでは、俺は滅却される。そして、セレは、魔王を匿った裏切り者として、王城から追われる身となる。
俺は、全身の魔力が封じられているにもかかわらず、意識を集中させた。俺の鎖は、物理的に解けない。しかし、俺が、セレの光を歪ませた闇の影響があるのなら、この闇で、彼らに警告を送ることはできないだろうか――。
騎士団長の矢が放たれた瞬間、俺は、僅かに残る自分の闇の奔流を、教会全体に、無差別な警告の波動として解き放った。
「セレ、逃げろ!」
それは、言葉ではなく、純粋な闇の絶望を帯びた魔力の叫びだった。
彼はもはや、魔物討伐の任務すら蔑ろにし、勇者という立場を利用して、王城の腐敗の根を直接叩き始めている。彼が帰宅する間隔は長くなり、教会に戻ったときの彼の顔は、疲弊と狂気に近しい冷たい高揚感に満ちていた。
俺は、鎖に繋がれたまま、セレのその変化を目の当たりにし、ある恐ろしい可能性に囚われ始めていた。
(僕の闇の力は、すべてを喰らい、そして歪ませる。もし、僕が放出した闇の残滓が、この教会、あるいはセレの心に、まだ残っているとしたら――)
俺の闇の力は、聖炎によって封じられている。だが、彼の復讐心や憎悪が、俺の闇の性質である「すべてを歪ませる力」と共鳴し、彼の光を「すべてを焼き尽くす傲慢な光」へと変質させているのではないか。
「セレ……君の復讐心は、あまりに強すぎる。まるで、何かに急かされているようだ」
俺は、鎖の届く限界まで彼に身を乗り出した。
「僕の闇が、君の光を歪ませているのではないか?君の聖炎が、憎しみの炎に変わっているのは、僕のせいだ……」
セレは、その言葉を聞くと、初めて嘲笑した。
「馬鹿げている。俺の憎しみは、お前の裏切りと、王城の冷遇から生まれた、俺自身のものだ。お前のせいにするな。お前はただの囚人だ」
彼はそう言い捨てたが、その瞳の奥には、俺の指摘に対する微かな動揺が垣間見えた。彼自身も、自分の感情の制御ができなくなりつつあることを、薄々感じているのかもしれない。
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その日の夜、セレは緊急の任務で呼び出され、教会を後にした。彼の表情は、どこか油断しているように見えた。彼は、自分の光の力が、王城の大人たちよりも優位にあると、過信し始めている。
数時間後、教会に異変が起きた。
セレが張っていた厳重な結界が、外部からの強大な光の魔力によって、一瞬で破られたのだ。その魔力は、セレの聖炎とは異なる、冷たく、組織的な光だった。
ドォン!
教会の扉が砕け散り、複数の騎士が雪崩れ込んできた。彼らが纏うのは、騎士団長の配下であることを示す、厳重な鎧と、魔力抑制の道具だ。
「魔王ノアール!勇者セレの虚偽の報告は承知している!貴様は生きているな!」
彼らの中心には、俺を森の屋敷から連れ出した、あの騎士団長が立っていた。彼の表情は、怒りではなく、恐れに満ちていた。
「勇者セレは、王城の命令を無視し、魔王を秘密裏に匿い、その力を利用して王城に反逆した。我々の任務は、貴様の再度の滅却、そして、裏切り者セレの拘束だ」
騎士団長は、そう言って、俺に向かって魔力抑制の矢を構えた。その矢は、俺の首の銀の鎖と同じく、光の魔力が込められていた。
俺は、鎖の届く範囲から一歩も動けなかった。彼らは、セレが最も脆弱な時を狙って、この教会に踏み込んできたのだ。
そして、俺は悟った。これは、俺を殺すための罠であると同時に、王城が、制御不能になった勇者セレを排除するための、決定的な罠だ。
俺は、鎖に繋がれたまま、彼らの攻撃を受け入れるしかなかった。このままでは、俺は滅却される。そして、セレは、魔王を匿った裏切り者として、王城から追われる身となる。
俺は、全身の魔力が封じられているにもかかわらず、意識を集中させた。俺の鎖は、物理的に解けない。しかし、俺が、セレの光を歪ませた闇の影響があるのなら、この闇で、彼らに警告を送ることはできないだろうか――。
騎士団長の矢が放たれた瞬間、俺は、僅かに残る自分の闇の奔流を、教会全体に、無差別な警告の波動として解き放った。
「セレ、逃げろ!」
それは、言葉ではなく、純粋な闇の絶望を帯びた魔力の叫びだった。
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