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第8章
第2話:融合の可能性
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海辺の廃墟は、王城から遥かに離れ、追跡の魔力が届きにくい場所だった。俺は、ここをノアールを独占するための新たな檻と定めた。
ノアールは、鎖に繋がれたまま、光の牢獄の傷が癒え始めたことで、少しずつ気力を取り戻していた。
俺は、食料や魔導具の調達のため、廃墟を一時的に離れることがあったが、戻るたびに、まずノアールの鎖を強く引き寄せ、彼が逃げていないことを確認する。
「お前が生きている。それが、俺のすべてだ」
俺の行動は、支配というよりも、切実な確認作業に近いものになっていた。
ある日、俺が戻ると、ノアールは鎖に繋がれたまま、廃墟の隅に座り込み、何かを熱心に調べていた。それは、俺が王城から奪い出した、古い予言の文献だ。
「何をしている」
俺が冷たい声で問うと、ノアールは顔を上げ、彼の瞳に、かつての魔王としての知識の光が宿っているのを見た。
「この鎖について、調べているんだ、セレ」
ノアールは、王城の騎士団長が言った「光と闇の融合」という言葉に、深く囚われているようだった。
「僕たちの鎖が解ける条件は二つ。一つは、僕の許し。もう一つは、光の魔力と闇の魔力の完全な融合だと。そして、この古い文献には、その『融合』について記されている」
俺は、鎖を握る手に力を込めた。鎖が解けることは、俺の孤独が再開することを意味する。
「融合などありえない。光と闇は、互いを打ち消すために存在する」
俺は断定したが、ノアールは静かに首を振った。
「かつての魔導師団は、魔王の力を恐れ、光と闇を敵対関係として定義づけた。しかし、本当の予言は違った。『光と闇が、互いの本質を認め合い、対等の愛で結びつく時、世界に新たな理が生まれる』。この記述は、『融合』の真の意味を示している」
ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「つまり、セレ。この鎖は、僕の闇を縛っているのではない。君の支配欲を、僕に縛り付けているんだ」
「黙れ!」
俺は激昂し、ノアールの頬を強く叩いた。彼の蒼白な頬に、すぐに赤い痕が残る。
「お前は、俺の感情を支配欲で片付けるな!お前が俺を裏切った憎しみは、俺の存在そのものだ!」
俺はそう怒鳴りつけたが、手を上げた後の激しい自己嫌悪が、一瞬で俺の心を支配した。
(俺は、何をしている? 俺は、彼を支配したいのではない。ただ、彼が俺のそばにいるという、確証が欲しいだけだ)
ノアールは、叩かれた頬を押さえもせず、俺の動揺を静かに見つめた。
「セレ。君が本当に僕を憎んでいるなら、なぜ僕を光の牢獄から救い出した? なぜ、この鎖を破壊できないことに、そんなに焦っている?」
彼の問いは、俺自身の感情の核心を突いた。
俺の行動は、憎悪の復讐ではない。それは、「ノアールがいない世界」を恐れる、俺の未熟で歪んだ愛だった。
「…俺は、お前を許さない」
俺は、そう絞り出すのが精一杯だった。俺の瞳の聖炎は、憎悪ではなく、混乱と悲哀の色を帯びていた。
ノアールは、俺のその弱さを見た上で、そっと俺の手に触れた。鎖が、俺たちの間に物理的に繋がっている。
「鎖が解ける時、それは、君が僕を支配するのではなく、僕たちの間に対等の関係が生まれた時だ。その時、君は初めて、勇者としての役割や、王城の責任ではない、君自身の本当の光を見つける」
俺は、その言葉に反論できなかった。ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺を支配する鎖を解く鍵を、俺自身に委ねたのだ。
ノアールは、鎖に繋がれたまま、光の牢獄の傷が癒え始めたことで、少しずつ気力を取り戻していた。
俺は、食料や魔導具の調達のため、廃墟を一時的に離れることがあったが、戻るたびに、まずノアールの鎖を強く引き寄せ、彼が逃げていないことを確認する。
「お前が生きている。それが、俺のすべてだ」
俺の行動は、支配というよりも、切実な確認作業に近いものになっていた。
ある日、俺が戻ると、ノアールは鎖に繋がれたまま、廃墟の隅に座り込み、何かを熱心に調べていた。それは、俺が王城から奪い出した、古い予言の文献だ。
「何をしている」
俺が冷たい声で問うと、ノアールは顔を上げ、彼の瞳に、かつての魔王としての知識の光が宿っているのを見た。
「この鎖について、調べているんだ、セレ」
ノアールは、王城の騎士団長が言った「光と闇の融合」という言葉に、深く囚われているようだった。
「僕たちの鎖が解ける条件は二つ。一つは、僕の許し。もう一つは、光の魔力と闇の魔力の完全な融合だと。そして、この古い文献には、その『融合』について記されている」
俺は、鎖を握る手に力を込めた。鎖が解けることは、俺の孤独が再開することを意味する。
「融合などありえない。光と闇は、互いを打ち消すために存在する」
俺は断定したが、ノアールは静かに首を振った。
「かつての魔導師団は、魔王の力を恐れ、光と闇を敵対関係として定義づけた。しかし、本当の予言は違った。『光と闇が、互いの本質を認め合い、対等の愛で結びつく時、世界に新たな理が生まれる』。この記述は、『融合』の真の意味を示している」
ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「つまり、セレ。この鎖は、僕の闇を縛っているのではない。君の支配欲を、僕に縛り付けているんだ」
「黙れ!」
俺は激昂し、ノアールの頬を強く叩いた。彼の蒼白な頬に、すぐに赤い痕が残る。
「お前は、俺の感情を支配欲で片付けるな!お前が俺を裏切った憎しみは、俺の存在そのものだ!」
俺はそう怒鳴りつけたが、手を上げた後の激しい自己嫌悪が、一瞬で俺の心を支配した。
(俺は、何をしている? 俺は、彼を支配したいのではない。ただ、彼が俺のそばにいるという、確証が欲しいだけだ)
ノアールは、叩かれた頬を押さえもせず、俺の動揺を静かに見つめた。
「セレ。君が本当に僕を憎んでいるなら、なぜ僕を光の牢獄から救い出した? なぜ、この鎖を破壊できないことに、そんなに焦っている?」
彼の問いは、俺自身の感情の核心を突いた。
俺の行動は、憎悪の復讐ではない。それは、「ノアールがいない世界」を恐れる、俺の未熟で歪んだ愛だった。
「…俺は、お前を許さない」
俺は、そう絞り出すのが精一杯だった。俺の瞳の聖炎は、憎悪ではなく、混乱と悲哀の色を帯びていた。
ノアールは、俺のその弱さを見た上で、そっと俺の手に触れた。鎖が、俺たちの間に物理的に繋がっている。
「鎖が解ける時、それは、君が僕を支配するのではなく、僕たちの間に対等の関係が生まれた時だ。その時、君は初めて、勇者としての役割や、王城の責任ではない、君自身の本当の光を見つける」
俺は、その言葉に反論できなかった。ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺を支配する鎖を解く鍵を、俺自身に委ねたのだ。
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