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第3章:崩壊のその先
第23話:逃亡の王
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「馬車の準備を急げ! 帝國との国境へ向かうぞ!」
カスティエ王は、レオを見捨てて北への逃亡を選択した。帝國ヴォルガルドであれば、レオの暴走から逃れられるだけでなく、聖王国の情報を手土産に亡命できると考えたのだ。
彼らはレオに「地脈の調整」という嘘の重責を押し付け、暗い夜の闇に紛れて、北の国境へと馬車を走らせた。
-----------------------------------------
「……逃げた、だと?」
エルヴィンの低い声が、深夜の回廊に冷たく響いた。
先ほどまでレオと未来を誓い合っていた温かな空気は、駆け込んできた伝令の震える報告によって、一瞬で凍りついた。
「は、はい! カスティエ公爵……いいえ、国王閣下は、レオ様の地脈暴走に恐れをなし、『あの化け物と一緒にいられるか!』と叫びながら、王宮の隠し倉庫にあった金塊と魔石をありったけ馬車に詰め込み……先ほど西の門から姿を消されました!」
レオは、握っていたエルヴィンの手が、微かに震えるのを感じた。
「……あの人は、僕を『聖勇者』って呼んだじゃないか。僕の力で、この国をもっと豊かにしろって……言ったのに」
レオの頭に、昨日の宴の光景がフラッシュバックする。脂ぎった顔で笑い、レオを称えていた重臣たち。カスティエはレオを救世主だと持ち上げ、その力を吸い尽くそうとしていた。
だが、その「道具」が思い通りにならず、自分たちに牙を剥く可能性があると知った途端、彼は国も民も、そして自分が祭り上げた勇者すらも捨てて、金だけを持って逃げ出したのだ。
「閣下だけではありません……。閣下に従っていた主要な大臣たちも、それぞれの私有財産をまとめて逃亡を始めています。王宮は……今や、もぬけの殻です」
エルヴィンは静かに、けれど折れそうなほど強く、腰の剣の柄を握りしめた。
「……セシル様を追放し、兄上を追い出し……この国の中枢に居座った結果がこれか。彼らにとって、この国は守るべき故郷ではなく、ただの食い潰すための果実に過ぎなかったということだ」
エルヴィンの瞳に、かつてないほどの激しい軽蔑と怒りが宿る。
不器用な彼が、不器用なりに愛そうとし、守ろうとした国の「頭脳」が、これほどまでに醜悪な形で崩壊した。
「レオ、顔を上げてください」
エルヴィンは、呆然と立ち尽くすレオの肩を抱き寄せた。その呼び方は、もはや形式上の「レオ様」ではなく、一人の共犯者を呼ぶ、深く、重い響きになっていた。
「王は逃げた。重臣もいない。……ですが、私たちが手を取り合ったことに変わりはありません。あの臆病者たちが捨てたこの瓦礫の山を、私たちが拾い上げればいいだけの話です」
「……エルヴィン。……うん、そうだね。僕たちが、やるしかないんだよね」
レオは震える声で答えた。
カスティエへの失望よりも、この状況で自分を離さないエルヴィンの存在が、レオを狂おしいほどに安心させていた。
しかし、運命は彼らに「国を立て直す時間」など一刻も与えはしなかった。
王宮の鐘が、今度は火急の事態を知らせる乱打となって鳴り響く。
「北の国境守備隊より緊急報告! ――帝國ヴォルガルドの主力軍が、国境を越え侵攻を開始しました!!」
カスティエの逃亡を知っていたかのような、あまりに完璧なタイミング。
弱りきった果実を狩りに来る、強欲な隣国の爪が、今まさに王都へと向けられた。
カスティエ王は、レオを見捨てて北への逃亡を選択した。帝國ヴォルガルドであれば、レオの暴走から逃れられるだけでなく、聖王国の情報を手土産に亡命できると考えたのだ。
彼らはレオに「地脈の調整」という嘘の重責を押し付け、暗い夜の闇に紛れて、北の国境へと馬車を走らせた。
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「……逃げた、だと?」
エルヴィンの低い声が、深夜の回廊に冷たく響いた。
先ほどまでレオと未来を誓い合っていた温かな空気は、駆け込んできた伝令の震える報告によって、一瞬で凍りついた。
「は、はい! カスティエ公爵……いいえ、国王閣下は、レオ様の地脈暴走に恐れをなし、『あの化け物と一緒にいられるか!』と叫びながら、王宮の隠し倉庫にあった金塊と魔石をありったけ馬車に詰め込み……先ほど西の門から姿を消されました!」
レオは、握っていたエルヴィンの手が、微かに震えるのを感じた。
「……あの人は、僕を『聖勇者』って呼んだじゃないか。僕の力で、この国をもっと豊かにしろって……言ったのに」
レオの頭に、昨日の宴の光景がフラッシュバックする。脂ぎった顔で笑い、レオを称えていた重臣たち。カスティエはレオを救世主だと持ち上げ、その力を吸い尽くそうとしていた。
だが、その「道具」が思い通りにならず、自分たちに牙を剥く可能性があると知った途端、彼は国も民も、そして自分が祭り上げた勇者すらも捨てて、金だけを持って逃げ出したのだ。
「閣下だけではありません……。閣下に従っていた主要な大臣たちも、それぞれの私有財産をまとめて逃亡を始めています。王宮は……今や、もぬけの殻です」
エルヴィンは静かに、けれど折れそうなほど強く、腰の剣の柄を握りしめた。
「……セシル様を追放し、兄上を追い出し……この国の中枢に居座った結果がこれか。彼らにとって、この国は守るべき故郷ではなく、ただの食い潰すための果実に過ぎなかったということだ」
エルヴィンの瞳に、かつてないほどの激しい軽蔑と怒りが宿る。
不器用な彼が、不器用なりに愛そうとし、守ろうとした国の「頭脳」が、これほどまでに醜悪な形で崩壊した。
「レオ、顔を上げてください」
エルヴィンは、呆然と立ち尽くすレオの肩を抱き寄せた。その呼び方は、もはや形式上の「レオ様」ではなく、一人の共犯者を呼ぶ、深く、重い響きになっていた。
「王は逃げた。重臣もいない。……ですが、私たちが手を取り合ったことに変わりはありません。あの臆病者たちが捨てたこの瓦礫の山を、私たちが拾い上げればいいだけの話です」
「……エルヴィン。……うん、そうだね。僕たちが、やるしかないんだよね」
レオは震える声で答えた。
カスティエへの失望よりも、この状況で自分を離さないエルヴィンの存在が、レオを狂おしいほどに安心させていた。
しかし、運命は彼らに「国を立て直す時間」など一刻も与えはしなかった。
王宮の鐘が、今度は火急の事態を知らせる乱打となって鳴り響く。
「北の国境守備隊より緊急報告! ――帝國ヴォルガルドの主力軍が、国境を越え侵攻を開始しました!!」
カスティエの逃亡を知っていたかのような、あまりに完璧なタイミング。
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