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第3章:崩壊のその先
第25話:枯死する大地
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帝國軍の足音が近づく中、聖王国の至る所で「異変」が起きていた。
それは敵の攻撃によるものではなかった。王都を囲む豊かな並木が、一瞬にして葉を落とし、白く乾いた骸骨のような姿へと変わり果てていく。
「な、なんだ……!? 花が、一瞬で枯れていくぞ!」
迎撃に出ようとしていたわずかな兵士たちが、足元の草花が砂となって崩れ去る光景に声を上げた。
レオが先ほど爆発させた「全部消えちゃえ」「滅んじゃえばいい」という負の感情。地脈を掌握していた彼がパニックのままに放ったその「願い」は、地脈に流れる生命力を根こそぎ焼き尽くしていたのだ。
「……僕のせいだ。僕の心が、地脈を殺してる……」
レオは王宮の石畳に膝をついた。
地脈と深く繋がっているレオには、大地が悲鳴を上げ、乾ききっていく感覚がダイレクトに伝わってくる。
かつてセシルが12年かけて慈しみ、育ててきた豊かな土壌が、レオのたった一度の感情の暴走で、二度と再生不能な「死の大地」へと成り果てていく。
「レオ、しっかりしてください!」
エルヴィンが駆け寄り、崩れ落ちそうなレオを抱き上げる。
だが、エルヴィンの目の前でも、王宮の柱を飾っていた蔦が枯れ、美しい噴水の水がどす黒く濁って蒸発していった。
「地脈が枯死している……。これでは、防衛の術式も、都市の結界も機能しません」
エルヴィンの表情が険しくなる。聖王国の強みは、地脈の恩恵による強固な守護にあった。それが消えた今、この国は文字通り「ただの枯れ木」だ。
帝國軍はその異様な光景に一瞬怯んだものの、守護を失った王都へ、さらに激しい勢いでなだれ込んできた。
帝國軍の進軍ラッパが、地鳴りのように響き渡る。
だが、聖王国を襲っていたのは敵の剣だけではなかった。レオが地脈に叩きつけた「拒絶」の感情が、この国の生命線を根底から腐らせ始めていたのだ。
王宮を彩っていた美しい庭園の花々が、一瞬にして黒く変色し、ボロボロと灰になって崩れ落ちる。地脈と深く繋がっているレオの脳内には、国中の木々や作物が一斉に立ち枯れていく「死の音」が絶え間なく流れ込んでいた。
「っ、ああ……っ! やだ、もう、やめてよ……!」
レオは耳を塞ぎ、王宮の床を転げ回った。
自分が「最適化」したはずの回路が、今や自分の心を焼き切る毒液を流し続けている。レオのパニックに呼応するように、大地は急速にその水分と魔力を失い、ひび割れ、砂漠のような死の大地へと変貌していく。
「レオ様! しっかりしてください、地脈を再接続して、せめて王宮の結界だけでも……!」
エルヴィンがレオの肩を揺さぶり、必死に呼びかける。
だが、レオはエルヴィンのマントに顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。
「無理……無理だよ! できない! なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ! 怖い、怖いよエルヴィン、もう嫌だ、ここにいたくない!」
かつて「勇者」になりたいと願っていた少年の面影は、どこにもなかった。
自分が枯らしてしまった大地、押し寄せる敵軍、そして民衆への責任。そのすべてがあまりに重すぎて、レオの心は完全に破綻していた。
「……逃げよう? ねぇ、逃げようよ、エルヴィン! 君が護ってくれるんでしょ? こんな国、もうどうなったっていい! 僕は死にたくない! どこか遠くへ、僕たちのことを誰も知らないところへ連れて行って!」
レオは必死に、エルヴィンの腕に縋りついた。
自分を利用した王も、石を投げた民も、責任も、すべてをこの燃え盛る王都に置いて逃げ出したい。そんな浅ましくも切実な「逃避」が、レオの今のすべてだった。
エルヴィンは、一瞬だけ目を見開いた。
騎士として、国を見捨てて逃げるなど、本来許されることではない。
けれど、自分の腕の中で震えるこの少年が、自分にだけは「助けて」と泣きついている。その依存こそが、エルヴィンが求めていたものだった。
「……承知しました。行きましょう、レオ」
エルヴィンは、もはや枯れ木と同然となった聖王国の玉座に背を向けた。
騎士としての誇りも、国への忠誠も、すべてを捨てた。
ただ、自分を必要としてくれるこの壊れた少年一人だけを抱えて、二人は地獄と化した王都を脱走すべく、戦火の中へと走り出した。
それは敵の攻撃によるものではなかった。王都を囲む豊かな並木が、一瞬にして葉を落とし、白く乾いた骸骨のような姿へと変わり果てていく。
「な、なんだ……!? 花が、一瞬で枯れていくぞ!」
迎撃に出ようとしていたわずかな兵士たちが、足元の草花が砂となって崩れ去る光景に声を上げた。
レオが先ほど爆発させた「全部消えちゃえ」「滅んじゃえばいい」という負の感情。地脈を掌握していた彼がパニックのままに放ったその「願い」は、地脈に流れる生命力を根こそぎ焼き尽くしていたのだ。
「……僕のせいだ。僕の心が、地脈を殺してる……」
レオは王宮の石畳に膝をついた。
地脈と深く繋がっているレオには、大地が悲鳴を上げ、乾ききっていく感覚がダイレクトに伝わってくる。
かつてセシルが12年かけて慈しみ、育ててきた豊かな土壌が、レオのたった一度の感情の暴走で、二度と再生不能な「死の大地」へと成り果てていく。
「レオ、しっかりしてください!」
エルヴィンが駆け寄り、崩れ落ちそうなレオを抱き上げる。
だが、エルヴィンの目の前でも、王宮の柱を飾っていた蔦が枯れ、美しい噴水の水がどす黒く濁って蒸発していった。
「地脈が枯死している……。これでは、防衛の術式も、都市の結界も機能しません」
エルヴィンの表情が険しくなる。聖王国の強みは、地脈の恩恵による強固な守護にあった。それが消えた今、この国は文字通り「ただの枯れ木」だ。
帝國軍はその異様な光景に一瞬怯んだものの、守護を失った王都へ、さらに激しい勢いでなだれ込んできた。
帝國軍の進軍ラッパが、地鳴りのように響き渡る。
だが、聖王国を襲っていたのは敵の剣だけではなかった。レオが地脈に叩きつけた「拒絶」の感情が、この国の生命線を根底から腐らせ始めていたのだ。
王宮を彩っていた美しい庭園の花々が、一瞬にして黒く変色し、ボロボロと灰になって崩れ落ちる。地脈と深く繋がっているレオの脳内には、国中の木々や作物が一斉に立ち枯れていく「死の音」が絶え間なく流れ込んでいた。
「っ、ああ……っ! やだ、もう、やめてよ……!」
レオは耳を塞ぎ、王宮の床を転げ回った。
自分が「最適化」したはずの回路が、今や自分の心を焼き切る毒液を流し続けている。レオのパニックに呼応するように、大地は急速にその水分と魔力を失い、ひび割れ、砂漠のような死の大地へと変貌していく。
「レオ様! しっかりしてください、地脈を再接続して、せめて王宮の結界だけでも……!」
エルヴィンがレオの肩を揺さぶり、必死に呼びかける。
だが、レオはエルヴィンのマントに顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。
「無理……無理だよ! できない! なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ! 怖い、怖いよエルヴィン、もう嫌だ、ここにいたくない!」
かつて「勇者」になりたいと願っていた少年の面影は、どこにもなかった。
自分が枯らしてしまった大地、押し寄せる敵軍、そして民衆への責任。そのすべてがあまりに重すぎて、レオの心は完全に破綻していた。
「……逃げよう? ねぇ、逃げようよ、エルヴィン! 君が護ってくれるんでしょ? こんな国、もうどうなったっていい! 僕は死にたくない! どこか遠くへ、僕たちのことを誰も知らないところへ連れて行って!」
レオは必死に、エルヴィンの腕に縋りついた。
自分を利用した王も、石を投げた民も、責任も、すべてをこの燃え盛る王都に置いて逃げ出したい。そんな浅ましくも切実な「逃避」が、レオの今のすべてだった。
エルヴィンは、一瞬だけ目を見開いた。
騎士として、国を見捨てて逃げるなど、本来許されることではない。
けれど、自分の腕の中で震えるこの少年が、自分にだけは「助けて」と泣きついている。その依存こそが、エルヴィンが求めていたものだった。
「……承知しました。行きましょう、レオ」
エルヴィンは、もはや枯れ木と同然となった聖王国の玉座に背を向けた。
騎士としての誇りも、国への忠誠も、すべてを捨てた。
ただ、自分を必要としてくれるこの壊れた少年一人だけを抱えて、二人は地獄と化した王都を脱走すべく、戦火の中へと走り出した。
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