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しおりを挟む「兄上、リゼットに何をしたんですか」
責める様にレンブラントがアルフォンスに詰めるが、彼は意に返す事なく鼻を鳴らす。
「人聞きの悪い事言わないでよ。何もしてないよ」
少し前、リゼットを連れアルフォンスが広間に戻って来た。すると、リゼットはクロヴィスの前へ来ると、笑みを浮かべた。そして……。
『クロヴィス様、私アルフォンス様の元へ嫁ぎます』
そう言った。クロヴィスは暫し呆然としたが「それが君の意思なら」とだけ返した。
その後直ぐに夜会はお開きとなった。リゼットの夫選びの目的は済んだので、参加者等は肩を落としながらも早々に帰って行った。
リゼットは部屋に下がらせたので、残っているのはクロヴィスとレンブラント、アルフォンスだけだ。
「そうだ、聞きましたよ。叔父上には愛する女性がいらっしゃっるそうですね。初耳で驚きました。リゼットという妻がありながら、ずっと浮気されていたんですね。全く酷い人だ、彼女が不憫でならない。まあでも、これで叔父上は彼女を厄介払い出来てその女性と結婚出来て幸せになれますね。僕は愛するリゼットを妻に迎えられて幸せになるし、正に皆ハッピーエンドだ」
クロヴィスはグッと堪える様にして拳を握った。レンブラントが怪訝そうな顔をする。
「叔父上、随分と悔しそうな顔されますね。それはそうか。何しろ僕だけには何があってもリゼットを渡したくなかったんですから」
「っ……」
「それに、こんな夜会は茶番だ。本当は初めからレンブラントをリゼットの夫にするつもりだったんですよね?レンブラントならリゼットを溺愛なんてしない。かと言って蔑ろにもしない。付かず離れずの夫婦になれる。貴方は、狡い人だ。本当は彼女を誰にも奪られたくない。だが自分で一度決めた信念を曲げる事も出来ない臆病者だ。リゼットの幸せを口では願いながら、自分じゃない男と幸せになるのが赦せないんでしょう?僕が彼女を心から愛していると知っているから……彼女が僕のその愛に応えるのが耐えられないと思ったんだ。僕を除いた今夜の参加者の中なら、リゼットは絶対に友人であり昔から良く知るレンブラントを選ぶと踏んだ。でも予定外に僕が現れ、結局リゼットは僕を選んだ。残念な話ですね、叔父上」
何も反論が出来なかった。意図的では無かった。無意識だったが、全てアルフォンスの言う通りかも知れない。
あの日、彼女の兄代わりになると誓い、でも何時しか男として彼女を愛する様になり、結局兄にはなってあげられなくて……もう、どうすれば良いのか分からなくなってしまったんだ……。
◆◆◆
十年前ー。
『兄上、いきなり嫁を娶れとはどう言う事ですか⁉︎』
クロヴィスは国王である兄コンラートに急遽呼び出され、学院を早退して城に向かった。
『実はな、アリセアから服従の証として献上品なるものが送られて来てな』
『献上品、ですか……』
話が全く見えない。何故自分が嫁を娶る事と、アリセアからの献上品が関係しているのか……。クロヴィスは眉根を寄せる。
『アリセアは、弱小国故此方から出向く前に先手を打ち我が国に服従する意思を見せた。アリセアは貧しく経済力も乏しい。貢ぐ物が無く仕方が無かったのだろうな』
『はぁ……?』
やはり、何が言いたいのかさっぱりだ。思わず間の抜けた声が洩れてしまった。コンラートはワザとらしい咳払いをする。
『兎に角、ついて来なさい』
訳の分からないままコンラートの後をついていくと、中庭に出た。
『クロヴィス、あそこに居るのがアリセアより送られて来た献上品だ』
『なっ、献上品ってまさか……』
『そのまさかだ』
兄の視線の先にあった、いや居たのは小さな少女だった。白いベンチにちょこんと腰掛けている。
『リゼット嬢だ。まだ五つになったばかりらしくてな……。流石に私は娶る事は出来ん』
それはそうだろう。クロヴィスと兄ですら十五歳も離れているのだ。あの少女となら親子以上に離れている事になる。何の躊躇いもなくコンラートが妃に迎えたら、それはただの変態だと周りから思われるだろう。そんな事になったらクロヴィスも軽蔑するかも知れない。
『でしたら何処かの家に養女に出されたら如何ですか』
普通に考えて、その方が現実的だ。彼女が十五、六の少女だったならば、娶るというのも分かる。だがまだ五歳だ。無理矢理結婚させる理由が分からない。
『……それはダメだ。幾ら弱小国と言えど、向こうにも体裁があるだろう。無下には出来ん』
『どういう事ですか』
『彼女は、アリセア国の王女だからな』
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