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七話〜招かれざる客〜
しおりを挟む「幾ら夫婦でも部屋に入る時はノックくらいするのが礼儀ではないのですか?」
余計な事は言わない方がいいと分かっているが、彼の言動の無礼さに我慢できずについそんな言葉が口を突いてでた。
初対面の時同様、仏頂面の彼に注意をすると案の定更に不機嫌となり目付きが鋭くなる。
「質問に答えろ」
しかもエレノラの問いに答えるつもりはないようで完全に無視された。
「……お話をしにいらしていただけです」
「幾ら義理の弟とはいえ男を部屋に招き入れるなど正気か?」
そう言われると確かに軽率だったかも知れない。
ロベルトが思った以上に子供っぽいので弟達と変わらない感覚でいた。
だが!
彼にだけは言われたくない。
それに使用人もいるのだし、二人きりではないのでそこまで言われるのは納得がいかない。
それに初夜から約一ヶ月経つが、その間、ユーリウスは一度たりとも屋敷に帰って来なかった。
行き先は断言は出来ないが、恐らく沢山の愛人達の所だろう。
どちらかと言えば正気じゃないのは彼の方だ。
「まさか、身体の関係がある訳じゃないだろうな」
「っ‼︎」
とんでもない事を言い出すユーリウスに、エレノラは目を見張り固まった。
これでもまだ十七歳の生娘だ。
人の夜の事情を軽く受け流すくらいの免疫は備わっているが、流石に面と向かってそんな事を言われたら羞恥心が湧くに決まっている。
顔に熱が集まるのを感じ俯いた。
「あるのか? ロベルトに抱かれたのか?」
ユーリウスは詰め寄ってくるが、次々に繰り出される小恥ずかしい言葉にエレノラの思考は停止し言葉が出ない。
「不貞をするなど、妻としての自覚はないのか?」
黙り込む様子から完全に黒だと勘違いしたユーリウスから叱責を受ける。
「聞いているのか?」
要するに自分は浮気をするけれど、妻には絶対に許さないという事だろうか……。
(なにそれ)
唖然とする。
勿論エレノラに浮気をしたい気持ちなど微塵もない。だが自分は良くて人には許さないなんてーー
(クズだわ)
自らを棚に上げた発言をする彼に、一気に冷静さを取り戻した。
「以前、私を妻だとは認めないと仰っておりませんでしたか? それに今までユーリウス様はどちらにいらしたのですか?」
「君には関係ない」
「それでしたら、ユーリウス様にとやかく言われる筋合いはありません」
俯いていた顔を上げると彼を睨み付けた。
頭では、しおらしくしなくてはお金が、借金が……と思うが、ユーリウスの傲慢な態度に腹が立ち口が勝手に動いてしまう。
「……」
「……」
暫しその場の空気が凍りついた。
互いに無言で睨み合い一歩も譲らない。
シュウ……?
そんな中、ミルの声に我に返った。
不穏な空気を感じ取ったらしく、心配そうにエレノラを見上げている。
「なんだ、その生き物は。ネズミか? 汚らわしい」
「汚らわしいってそんな言い方、酷過ぎます! それにミルはネズミではなく、モモンガです!」
ミルはペットだが大切な家族だ。
汚いと言われて腹が立つ。
訂正をするが、彼は謝罪する気はまるでなさそうだ。
「それで、お忙しいユーリウス様がわざわざ訪ねていらっしゃるなんて、一応妻の私に何かご用意ですか?」
貼り付けたような満面の笑みを浮かべ、嫌みたらしく言ってのけた。
「別に来たくて来たわけではない。……父上から来月に開く夜会に参加するようにと言われ、その前準備の為に帰って来ただけだ」
「夜会ですか?」
「不本意だが夫婦として出席する事となる」
所謂エレノラのお披露目会といった所だろう。
「訪ねた理由は、その芋っぽさをどうにかしろと言いに来ただけだ」
「え……」
「妻として私の隣に立つに相応しく……は無理でも、少しはマシに見えるように努めるように」
頭のてっぺんからつま先まで眺める。その目は哀れみ混じりに見えた。おまけに咳払いまでされて何とも言い難い気分になる。
「話はそれだけだ」
言いたい放題言い終えたユーリウスは、エレノラの返答も待たずにさっさと部屋から出て行く。だが、部屋を出た瞬間立ち止まると振り返った。
「後、その汚らわしいネズミは絶対に連れて来るな」
次の瞬間にはパタンと扉が閉められ、エレノラは一人「クズだわ……」と呟いた。
以前、躾直せとでもいうのかと考えた事があったが、これは絶対に無理だと断言出来る。
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