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八話〜戦闘準備〜
しおりを挟むブロンダン家、夜会当日ーー
ど田舎貴族で貧乏だけど、これでも一応伯爵家の娘だ。基本的な教養は備わっていると自負している。ただこれまで披露する機会はなくこれが初めてだ。その為、柄にもなく少し緊張している。
結婚してから一ヶ月と半月程。
先日ユーリウスが話していたように、今夜はブロンダン家本邸で夜会が開かれる。
その為、エレノラは朝から準備に追われていた。
夜会は当たり前だが夜からだ。それなのにも拘らず、朝から湯浴みをする事となり入念に身体中を隅々まで洗われた。
「若奥様、お肌が綺麗ですね!」
「あら本当ですわ、すべすべです!」
ボニー以外の侍女達も集結し、ああでもないこうでもないと身なりを整えられていく。
何故か皆、気合いが入っており楽しそうだ。
身体中に保湿液を塗りたくり、全ての爪を磨きあげ、顔には蜂蜜でパックをされた。肌に良いと言われたが、勿体無い……パンに塗って食べたら絶対に美味しいのにと悶々とする。
「若奥様、絶対に動かないで下さいね」
「え、ええ……」
化粧を施されている最中、眉毛から目元に差し掛かった時、細い筆を手にした侍女に深刻な面持ちで言われた。
その視線の鋭さに思わず息を呑む。
「ちょっ、待って‼︎ そんなに締めたらっ」
「もう少しいきますよ‼︎」
「っ‼︎ーー」
髪を整えた後ドレスに着替えたのは良いが、これでもかという程コルセットを締められた。
(締め殺されるかと、思ったわ……)
そうして夜会が始まる一時間前に、ようやく全ての準備を終えた。
エレノラはぐったりとして椅子に座る。
これから夜会だというのに、既に疲労困憊だ。着飾る事がこんなに大変な事だとは知らなかった……。
「元々細身ですから、これで今夜一番ウェストが細いのは若奥様ですよ!」
「素晴らしいですわ~」
「頑張った甲斐がありますね!」
ボニーの言葉に何故か侍女達は拍手をして歓喜する。その様子をぼんやりと眺めていた。
ちょっと何を言っているのか分からない。
(それって、そんなに重要な事?)
別にウェストなんてどうでもいい。それに一番でなくても構わない。機能性が大事だ。
これでは動き辛いし、苦しくて水すら飲める気がしない。
だがこれが都会では普通なのだろう。
(都会って、怖い……)
「とてもお綺麗です。本日の主役は若奥様です。若旦那様や他のご令嬢方に負けないで下さい!」
「健闘を祈っております」
「頑張って下さい!」
「若奥様なら、絶対に勝つ事が出来ると信じています」
まるで戦地にでも送り出される気分になる。
エントランスには離れ中の侍女達が立ち並び、その表情は一様に真剣そのものだ。
他の令嬢とは所謂愛人達の事だと思われるが、負けないとは一体どういう意味なのだろう。
(私は一体なにと戦えばいいの?)
エレノラの知っている夜会は、優雅に踊ったり可笑しくもないのに常に笑っていなくてはならない我慢大会のようなものと思っていたが、もしかしたら競技でも行われているのかも知れない。
実際に参加した事はないので知らなかったが、大いにあり得る。
暫し立ち尽くし考え込んでいたが、我に返る。そうだ、今はそれ所ではなかった。
実は夜会が始まる三十分前まで部屋で待っていたのだが、結局ユーリウスは現れなかった。
代わりに申し訳なさ気な執事長のスチュアートがやって来て、準備を終えたユーリウスは一人本邸へと向かったと言われた。
その為、本邸の広間まではエスコートなしで向かう事となる。
多少心細くはあるが致し方がない。これも全てはお金延いては借金返済の為だ。
要は仕事のようなもの、臆している場合ではない!
「皆、ありがとう。頑張ってくるわ」
ここまで時間を掛けて身なりを整えてくれたボニー達の為にも気合いを入れる。
最低限、田舎者だと恥をかかないようにしなくてはならない。
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