攻略失敗99回目。もう諦めました。

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プレゼント

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 戸惑っていると、囲いの男の一人――カルバンが前に出てきて、見下すような笑みを浮かべながら言った。

「ロワールはこんな事もあろうかと予備のケーキも注文していたんだ。お前に台無しにされても大丈夫なようにな。つまり、お前の企みは無駄だったってワケ。残念だったな」

 ロワールの方を見ると、彼は冷たい視線をこっちに向けてすぐに逸らした。
 呆然とするレイナの横に、申し訳なさそうな顔をしたジュディが近寄ってきて「ごめんなさい、レイナさん……。わたし、レイナさんにもすぐに教えてあげるべきだって言ったんだけど……ロワールが黙っておけって言うから……」と言った。

 ああ、そう。
 つまりロワールは、最初から私を信じていなかったってことね。
 急いで作り直す必要はなかったというのに、それを隠して責め立てて、私が皿洗いをしている最中にみんなでケーキのお祝いを済ませて――。
 
 ワゴンに載った豪華なケーキの上で、ちろちろ燃えるキャンドルが溶けて流れ落ちる。
 悲しくはない。ただ、コナー達に無駄な仕事をさせてしまったことを心の底から申し訳なく思った。
 
 うつむき、ケーキに目を落とすレイナ。それを見下ろし満足げな表情になったカルバンは彼女の隣にいるダリルに目を向け、腕を掴んだ。

「おまえ、いないと思ったらこの女と一緒だったのかよ。全然戻ってこないから先にケーキ分けちゃったぜ。ほら、こっちに来いよ。ジュディがお前の分のケーキを取っておいてくれてるんだぞ」

「あ、ああ……。しかし」

 彼も予備ケーキの存在を知らなかったのだろう。戸惑いながらもジュディからケーキを受け取り「レイナが用意したケーキはどうするんだ」と言った。

「はっ! そんな何が入ってるか分からないモン誰が食うかよ! 放っとけ! 勝手に用意して勝手に持ってきたんだ、自分で処理させろ!」

 何か言いかけたダリルだったが、ジュディが優しく柔らかな笑みでケーキをフォークに載せて口元に運んでくるのを見て、条件反射みたいにそれを受け入れた。
 もぐもぐしながら複雑そうな顔でチラッとレイナに視線を向ける。
 ケーキが安全なのはこの中にいる誰よりも自分が知っている。最初から最後までずっと見ていたから、彼女が妙な小細工をする隙なんてなかった。
 
「……いや、あのケーキは」

「はいはい、もういいって! それより、プレゼントの時間だ。時間が押してたけど、みんなお前が戻るのを待ってた。すぐに始めよう」

 カルバンはそう言って隅に控えていた使用人達に合図し、用意していたギフトボックスを持ってこさせた。
 他の人達も動き始め、それぞれが持ち込んだジュディへのプレゼントが彼女の元へ続々と運ばれていく。

「ジュディ、お誕生日おめでとう。これは地中海の別荘の鍵と権利書だ。君のために買い取った。旅行に行った時にでも自由に使ってくれ」

「俺からは馬を。皇帝ナポレオンの愛馬マレンゴの血を引く名馬だ。君にこそふさわしい。これは血統書」

「俺は最高ランクのダイヤモンドを使ったパリュールだ。君に似合うものを半年かけて探し出した」

 その他にもロールスロイスの鍵や不動産の権利書、世界的有名デザイナーに特注で作らせた一点もののバッグなどが差し出される。
 世界中の富を集めたかのような豪華なプレゼントが、ホテルクワイエットのホールの片隅に次々と無造作に積み上げられていく。
 
「わぁ、ありがとう。みんな、すごいね! 今年もこんなにたくさん贈り物をしてくれて……どうしよう、わたし、お返ししきれないよ……」

「お返しなんていいさ。みんな、君が喜ぶ顔が見たくてやってるんだ。その笑顔が一番のお返しだよ」

 ジュディは頬を赤らめ、小さく縮こまってダリルの背後に隠れた。
 その照れた仕草がよりいっそう愛らしくて、みんなの顔に微笑みが浮かぶ。

「うぅ……どうしてわたしなんかの笑顔がお返しになるのよぉ。ね、ダリル。あなたもみんなに何か言ってやってよ……」

 レイナはホールの入り口で孤独にぽつんと佇み、その様子を眺めていた。

 私も誕生日なんだけどな……。

 みんなそれを知っているし、ロワールだって同じだけど彼は一度も祝ってくれたことがない。
 毎年こうして贅を尽くしたパーティーとプレゼントを開き、全ての愛情を惜しみなくジュディだけに注いでいる。
 今年の彼のプレゼントは一等地の豪邸だったけど、レイナはそれが彼女の物置兼クローゼットとしてしか使われないことをよく知っていた。
 囲いの男達から毎年不動産を贈られるジュディにとっては、一等地の豪邸といえど立地の良いウォークインクローゼット程度の価値しかない。
 それでも彼は喜んでプレゼントをした。彼女を愛する男の一人として、その他大勢の男達と共に。
 
 レイナはフラフラと椅子に腰かけ、誰からも見向きもされなかったケーキに目を向けた。
 コナー達が一生懸命作ってくれたケーキ。吹き消されることのなかったキャンドルは、もうすぐ燃え尽きる。
 無駄にする訳にはいかない。
 
 決心したレイナはバースデーケーキをナイフで切り分けて小皿に載せ、一口で食べた。
 上質な生クリームはコクがありつつ甘みがサッパリしていて、とっても食べやすいし美味しい。
 無言でもう一切れ取って、こんどは二口で食べる。
 
 全部食べ切って帰ろう。
 これが私のバースデーケーキってことで。

 真ん中に置かれた『ジュディ、ハッピーバースデー!』と書かれたプレートはそっと外して別の小皿に置いた。
 
 ホールの中心では相変わらずプレゼント開封の儀が続いている。
 レイナは知っていた。
 今夜のパーティーでヒーローのダリルはジュディにプロポーズするのだ。
 つまり今年の彼のプレゼントは婚約指輪。
 指輪そのものの価値は他の男達のプレゼントと比べれば多少霞むかもしれないけど、それが本当に意味するものは彼の家――ガーネット財閥の跡継ぎ、その正妻の椅子である。
 この国では既に貴族制度は廃止されているものの、その影響は未だ根強く、名家と呼ばれる家は大体旧貴族。
 財閥はその残滓の際たるもので、旧貴族にして有数の財閥・ガーネット家のお嫁さんは、国内全ての女の子の憧れであり、正真正銘のプリンセスと言えた。
 
 これからプロポーズするのね……。

 人の輪の中心でジュディを腕にぶら下げうつむくダリルを、レイナは冷たい目で見つめた。
 覚えている。彼のプロポーズを受けたジュディは涙を浮かべて喜び、その場で婚約が成立するのだ。
 囲いの男達はみんなこの二人が両想いなのを知っていたので、拍手したり口笛を吹いたりしてジュディの恋の成就を喜び、囃し立てる。
 ただロワールだけは暗く沈んだ顔で黙り込み、シャンパンをがぶ飲みして、酔い潰れて運び込まれたホテルの一室でレイナに結婚を申し込んだ。
 明らかにヒーローとヒロインへの当てつけだった。レイナは最後までジュディの身代わりにしかなれなかったが、あの時はそれでもいいと思っていた。
 時間をかけてでもジュディへの想いを断ち切り、いつか自分と向き合ってくれればそれでいいと――。
 
 でも、もういい。
 死んで分かった。彼は絶対にレイナなんて好きにならない。
 
 このあとロワールはヤケ飲みして酔い潰れるだろうが、もう部屋に運び込んだりしない。彼の使用人に任せる。
 
 私はこのケーキを食べ終えたら、静かにこのパーティーから去ろう。
 
 そう思いながら黙々とケーキを口に運び、プレゼント開封の儀を眺めていたが――。

「さあ、最後はダリルだ。今年のプレゼントは何だ?」

 カルバンが大きな声でそう言ってダリルに注目を集め、期待を煽る。
 ダリルは内ポケットに手を入れたが、しばらく逡巡してからっぽの片手を出し

「……実は、ここにはないんだ」

 と言った。

(え……!?)

 プロポーズ、しないの……!?

 
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