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何もないところで転ぶな
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「ここにはない?」
カルバンが頭の上に?マークを浮かべて言った。
ジュディも似たようなもので、愛らしい目をぱちくりさせてダリルを見上げる。
「ダリル……?」
不安そうな彼女にダリルは慌てて弁解をした。
「このあと、うちに寄って行ってよ。いくつか候補があるから、君に選んでほしい」
その言葉にやや緊張を帯びた空気が一気に緩んだ。
「な、なんだ! そういう事か! 忘れてきたのかと思った! そんな訳ないよな、ダリルともあろう者が。……まさかプレゼントを家に連れ込むための口実にするなんて、さすがだな、ガーネット家の跡取り。恐れ入ったぜ」
「もう! カルバンったら、変なこと言わないでよ! ダリルはあなたと違って紳士なんだからね!」
頬を膨らませ、カルバンの胸板をぽかぽか叩くジュディの姿に周りの男達から笑いがあふれる。微笑ましい光景だ。
どうしてダリルがプロポーズを見送ったのか分からないが、レイナには関係ないことだ。
ともあれこれでプレゼントの時間が終わり、パーティーの主要イベントはほぼ済んだ。
後は12時にこのホールから見える海上で花火が上がって解散になる。
そんな深夜に打ち上げ花火なんて頭おかしいとレイナは思うけど、ここにそんな普通の感覚を持つ庶民は一人もいない。全員札束で白を黒に変えるような人間ばかりなので、どんな無理でも通ってしまうのだ。まして、ジュディに関することならなおさら。
そんなことより、12時まであと少し。
早くケーキを食べ終えないと……。
ホールの使用時間は撤収まで含めて深夜1時までと申請してある。
それまでに綺麗に片付けて元の状態に戻さないといけないのだ。作業するスタッフ達のことを考えると居残って食事なんてとてもできない。
でもまだ六分の一も減ってない。どうしよう。
ただでさえ参加者全員に行き渡るサイズの大型ケーキなのに、普段あまりものを食べていないせいで胃が小さいレイナのお腹にはもうスイーツ用の別腹さえも残っていなかった。
だめだ……美味しいけど吐きそう。仕方ない、持ち帰ろう……。
コナー達のために完食したいけど無理なものはどう頑張っても無理なので、素直に白旗を上げて給仕に箱詰めをお願いした。
給仕は頷き「かしこまりました。後でお部屋にお持ちします」と言って、ワゴンを引き上げていく。
「お願いします」
今日、レイナはホテルクワイエットに一部屋取っていた。
会場の準備のために前日入りしていたからだ。ケーキはその部屋に運ばれるらしい。
……さて、もうここにいる理由はないわね。
撤収作業はスタッフ達がやってくれる段取りだし、花火は私がいなくても打ち上がる。
明日のチェックアウトの時間まで部屋に引きこもろう。
そう思って立ち上がりホールの出入り口に向かうと、人垣の中からジュディがぱたぱたとこちらに向かって小走りで駆けてくるのが見えた。
「レイナさん! 待って!」
嫌な予感がしつつ振り返る。
ジュディの背後では彼女の囲いの男達が不審者を見る目でレイナをじっと見ていた。
警戒半分、また何かやらかさないかという期待も半分の目。
ジュディに心酔している彼らにとってレイナは女神をいじめる仇であると同時に、彼女への届かない愛という鬱屈した思いをぶつける格好の的でもあった。
ダリルとジュディの両想いは認めているけれど、だからといって何も感じない訳ではない――その思いの捌け口はレイナという後ろ盾のない孤独な女が全て担わされていた。
「きゃっ!」
案の定ジュディは転んだ。
幼児じゃあるまいし、なぜ何もないところでいつも転ぶのか……。レイナは不思議で仕方なかったが、それがヒロインという者が背負う定めなのだろう。
ジュディが転んだ瞬間、背後の男達がわらわらと走り出し彼女の元に駆け寄る。
「大丈夫か? 怪我してない?」
「だいじょうぶよ……。わたしったら、ついうっかり……いたた……」
手を支えられて慎重に立ち上がらせられるジュディ。
レイナは一歩も動かず黙ってその様子を眺めていた。
危なかった。もし近くで転ばれていたら完全に私のせいにされるところだった。
今回は多少離れていたから男達もレイナを責めるのは無理筋だと感じているらしく、何も言ってこなかった。
しかし心配の言葉ひとつかけない事が気に入らないようで、カルバンが目の前に立ち塞がり苛立った目で見下ろしてくる。
「なんで黙って見てんだよ。手を差し伸べることすらしないのか?」
「無理よ。すぐに皆さんが大勢で駆け寄って来られたんだもの。私、圧倒されちゃって……怖くて動けなかったわ」
「なんだと?」
言葉の裏に忍ばされた皮肉を敏感に感じ取ったカルバンは眉をぴくりと動かして睨む。
「俺達が過保護だって言いたいのか!?」
「あら、自覚あったの? 意外ね。大の大人が揃いも揃って一人の女を追いかけ回して何でもしてあげて……これが過保護じゃなかったら何なのかしら。私があなた達を見るたびに感じていたことを教えて差し上げましょうか。『ピクミンみたい』……ずっとそう思ってた」
遠くでスタッフが噴き出して、慌てて逃げて行った。
サッとカルバンの顔色が変わる。
これまでロワールの側近という立場から外されるのを恐れて何も言い返してこなかったレイナが、初めて毒を吐いたのだ。
咄嗟に言葉が出てこないようで、口をぱくぱくしながら顔を赤くする。
「お、お、おま、え」
「いや、違うわね。ピクミンは可愛いけどあんた達はむさ苦しい上に有害だもの。ピクミンに失礼だったわ。ね? そう思わない?」
チラッとジュディに目をやると彼女は唖然とした顔でこちらを見ていた。
彼女も驚いているようだ。「え? えぇ……わ、わたしは……」と混乱した様子でカルバンとレイナを交互に眺める。
「まぁどうでもいいわね、そんなこと。で、何の用なの? ジュディさん」
「お前! そこまで侮辱しておいて何事もなかったように話を進めるな! 分かってんのか!? レイナ! お前は今、ロワールもピクミン扱いしたんだぞ!?」
そう言われて初めてロワールの方を見た。
彼は眉間に皺を寄せてレイナを睨んでいる。
怒っていても彼は美しい。だてに長年追い続けてきた訳じゃない。
攻略といえどもロワールを愛する心は本物だった。でなければ誰が99回も命を懸けて助けてきただろうか。
でも、もういい。
あちらから『お前はクビだ』と言ってくれるなら後くされがなくてむしろ助かる。
数秒、ロワールの美しい瞳と見つめ合ったが、彼は何も言わずふいと視線を逸らした。
ジュディは沈黙に耐えきれなかったのか、小さく震えながら前に一歩出てくる。
「そんなこと言わないで。レイナさん、ずっとみんなと仲良しだったでしょう? どうして友達にそんなひどい事を……」
「友達? 誰が?」
思わず鼻で笑ってしまった。
涙が浮かぶジュディの瞳をじっと見下ろす。
長年の付き合いで分かったことがある。
この子は、正真正銘のヒロインだ。
どこまでも素直で、心が綺麗で善良で、人を疑う事を知らない。
今までどれだけレイナが見下され罵声を浴びせられても、些細な事でロワールからの体罰を受けても――それは『気の置けない仲間同士が本音でぶつかり合っている証』としか彼女の目には映っていなかった。
大切に守られすぎて、身近に悪意が存在するという事を知らないのだ。
『レイナさんはみんなから本当の友達だと思われているのよね……。わたし、ちょっと寂しくて……。羨ましいな』と、涙混じりに言われた事すらある。
煽ってんのかと思ったけどそうではなく、本心からの言葉だったようで、当時は唖然としたものだ。
悪い子じゃないけど天然――それがレイナから見たヒロイン像だった。
「友達でしょう? みんなで一緒に旅行したりパーティーしたり、お誕生日だってお祝いするのに……これが友達じゃなかったらなに?」
レイナは再び笑った。
旅行もパーティーもロワールが企画するものを側近として手伝っていただけだ。まして誕生日なんて。
彼女がこの状況を少しでも注意して見ていたら、レイナが誰からも祝われていない事くらい気付くはず。
「あのね、ジュディさん。実は私も今日、誕生日なの。みんな忘れちゃってるみたいだけどね」
するとジュディは目を見開いて口元に手を当て、「あっ……! も、もちろん覚えているわよ! 私と合同のパーティーなのよね! ほら、バルーンにだってレイナさんの名前があるでしょう?」と言って会場の飾りのメッセージ入りバルーンを指さした。
「……あらっ?」
もちろんそこにはジュディの名前しかない。
慌てた表情で会場中を見回すけれど、どこにもレイナの名前はなかった。
みるみるうちに目に涙が浮かんでくるジュディを見かねて、ロワールが彼女の肩を抱きカルバンがレイナとジュディの間に立った。
「大丈夫、ジュディ。君は何も悪くない……」
「あのなぁ、会場設営の責任者はお前だろう? 何を被害者ぶってるんだ! 自分で準備しておけば良かっただけじゃないか! 今になってそんな事を言い出すなんて! ロワールが信頼して任せたはずの立場を使ってジュディを悪者に仕立て上げるんじゃない! 本当に性根が腐った奴だよ、お前は!」
周囲から注がれる心の底からの軽蔑と、見下しの視線。
大丈夫。もう慣れた。
レイナは真っ直ぐな目で見返す。
「ジュディの誕生日を私との合同になんてできる訳ないでしょ。だって私、『余計なものを混ぜるな』ってあらかじめ言われているのよ」
信じられない、という目でロワールがレイナを見た。
ジュディ以外の誰もがそういうやり取りがあると知っているが、レイナ本人がこうして人前で蒸し返すのは初めてだ。
主人の面子を潰すような発言だとレイナは分かっていたが、言わずにいられなかった。
純粋なジュディは驚いたようで、ふらふらとカルバンの前に出てくる。
「嘘でしょう……? 誰がそんなひどい事を言うの……?」
「話の流れで分からなかった? だったらそれでいいと思うわ。あなたは何も知らなくていいの。みんなの大切なお姫様だものね」
「そんな……」
どれだけ天然でもなんとなくバカにされているのは感じ取ったようだ。
両手で顔を覆って泣き出すジュディの肩をロワールは大事そうに抱きしめ、ぽんぽんとあやすように軽く叩いてから彼女を放し、レイナの前に立つ。
カルバンを含めた周囲の男達は目に期待を浮かべた。
ロワールがレイナに下す制裁は彼らにとって一番楽しいエンターテイメントだ。
彼らが普段どれだけレイナを見下していても、彼女の主人がロワールである以上、罵声を浴びせる程度しかできない。
レイナに直接手を出せるのはロワールだけ。
レイナの奮闘で悪役ルートを回避しているとは言っても、やはりロワールの奥底には暴力の素質が潜んでいる。
ふとした拍子に顔を覗かせるそれは主にジュディ絡みの時に出るものだった。
「レイナ」
ロワールの低く、冷たい声が響く。
カルバンが頭の上に?マークを浮かべて言った。
ジュディも似たようなもので、愛らしい目をぱちくりさせてダリルを見上げる。
「ダリル……?」
不安そうな彼女にダリルは慌てて弁解をした。
「このあと、うちに寄って行ってよ。いくつか候補があるから、君に選んでほしい」
その言葉にやや緊張を帯びた空気が一気に緩んだ。
「な、なんだ! そういう事か! 忘れてきたのかと思った! そんな訳ないよな、ダリルともあろう者が。……まさかプレゼントを家に連れ込むための口実にするなんて、さすがだな、ガーネット家の跡取り。恐れ入ったぜ」
「もう! カルバンったら、変なこと言わないでよ! ダリルはあなたと違って紳士なんだからね!」
頬を膨らませ、カルバンの胸板をぽかぽか叩くジュディの姿に周りの男達から笑いがあふれる。微笑ましい光景だ。
どうしてダリルがプロポーズを見送ったのか分からないが、レイナには関係ないことだ。
ともあれこれでプレゼントの時間が終わり、パーティーの主要イベントはほぼ済んだ。
後は12時にこのホールから見える海上で花火が上がって解散になる。
そんな深夜に打ち上げ花火なんて頭おかしいとレイナは思うけど、ここにそんな普通の感覚を持つ庶民は一人もいない。全員札束で白を黒に変えるような人間ばかりなので、どんな無理でも通ってしまうのだ。まして、ジュディに関することならなおさら。
そんなことより、12時まであと少し。
早くケーキを食べ終えないと……。
ホールの使用時間は撤収まで含めて深夜1時までと申請してある。
それまでに綺麗に片付けて元の状態に戻さないといけないのだ。作業するスタッフ達のことを考えると居残って食事なんてとてもできない。
でもまだ六分の一も減ってない。どうしよう。
ただでさえ参加者全員に行き渡るサイズの大型ケーキなのに、普段あまりものを食べていないせいで胃が小さいレイナのお腹にはもうスイーツ用の別腹さえも残っていなかった。
だめだ……美味しいけど吐きそう。仕方ない、持ち帰ろう……。
コナー達のために完食したいけど無理なものはどう頑張っても無理なので、素直に白旗を上げて給仕に箱詰めをお願いした。
給仕は頷き「かしこまりました。後でお部屋にお持ちします」と言って、ワゴンを引き上げていく。
「お願いします」
今日、レイナはホテルクワイエットに一部屋取っていた。
会場の準備のために前日入りしていたからだ。ケーキはその部屋に運ばれるらしい。
……さて、もうここにいる理由はないわね。
撤収作業はスタッフ達がやってくれる段取りだし、花火は私がいなくても打ち上がる。
明日のチェックアウトの時間まで部屋に引きこもろう。
そう思って立ち上がりホールの出入り口に向かうと、人垣の中からジュディがぱたぱたとこちらに向かって小走りで駆けてくるのが見えた。
「レイナさん! 待って!」
嫌な予感がしつつ振り返る。
ジュディの背後では彼女の囲いの男達が不審者を見る目でレイナをじっと見ていた。
警戒半分、また何かやらかさないかという期待も半分の目。
ジュディに心酔している彼らにとってレイナは女神をいじめる仇であると同時に、彼女への届かない愛という鬱屈した思いをぶつける格好の的でもあった。
ダリルとジュディの両想いは認めているけれど、だからといって何も感じない訳ではない――その思いの捌け口はレイナという後ろ盾のない孤独な女が全て担わされていた。
「きゃっ!」
案の定ジュディは転んだ。
幼児じゃあるまいし、なぜ何もないところでいつも転ぶのか……。レイナは不思議で仕方なかったが、それがヒロインという者が背負う定めなのだろう。
ジュディが転んだ瞬間、背後の男達がわらわらと走り出し彼女の元に駆け寄る。
「大丈夫か? 怪我してない?」
「だいじょうぶよ……。わたしったら、ついうっかり……いたた……」
手を支えられて慎重に立ち上がらせられるジュディ。
レイナは一歩も動かず黙ってその様子を眺めていた。
危なかった。もし近くで転ばれていたら完全に私のせいにされるところだった。
今回は多少離れていたから男達もレイナを責めるのは無理筋だと感じているらしく、何も言ってこなかった。
しかし心配の言葉ひとつかけない事が気に入らないようで、カルバンが目の前に立ち塞がり苛立った目で見下ろしてくる。
「なんで黙って見てんだよ。手を差し伸べることすらしないのか?」
「無理よ。すぐに皆さんが大勢で駆け寄って来られたんだもの。私、圧倒されちゃって……怖くて動けなかったわ」
「なんだと?」
言葉の裏に忍ばされた皮肉を敏感に感じ取ったカルバンは眉をぴくりと動かして睨む。
「俺達が過保護だって言いたいのか!?」
「あら、自覚あったの? 意外ね。大の大人が揃いも揃って一人の女を追いかけ回して何でもしてあげて……これが過保護じゃなかったら何なのかしら。私があなた達を見るたびに感じていたことを教えて差し上げましょうか。『ピクミンみたい』……ずっとそう思ってた」
遠くでスタッフが噴き出して、慌てて逃げて行った。
サッとカルバンの顔色が変わる。
これまでロワールの側近という立場から外されるのを恐れて何も言い返してこなかったレイナが、初めて毒を吐いたのだ。
咄嗟に言葉が出てこないようで、口をぱくぱくしながら顔を赤くする。
「お、お、おま、え」
「いや、違うわね。ピクミンは可愛いけどあんた達はむさ苦しい上に有害だもの。ピクミンに失礼だったわ。ね? そう思わない?」
チラッとジュディに目をやると彼女は唖然とした顔でこちらを見ていた。
彼女も驚いているようだ。「え? えぇ……わ、わたしは……」と混乱した様子でカルバンとレイナを交互に眺める。
「まぁどうでもいいわね、そんなこと。で、何の用なの? ジュディさん」
「お前! そこまで侮辱しておいて何事もなかったように話を進めるな! 分かってんのか!? レイナ! お前は今、ロワールもピクミン扱いしたんだぞ!?」
そう言われて初めてロワールの方を見た。
彼は眉間に皺を寄せてレイナを睨んでいる。
怒っていても彼は美しい。だてに長年追い続けてきた訳じゃない。
攻略といえどもロワールを愛する心は本物だった。でなければ誰が99回も命を懸けて助けてきただろうか。
でも、もういい。
あちらから『お前はクビだ』と言ってくれるなら後くされがなくてむしろ助かる。
数秒、ロワールの美しい瞳と見つめ合ったが、彼は何も言わずふいと視線を逸らした。
ジュディは沈黙に耐えきれなかったのか、小さく震えながら前に一歩出てくる。
「そんなこと言わないで。レイナさん、ずっとみんなと仲良しだったでしょう? どうして友達にそんなひどい事を……」
「友達? 誰が?」
思わず鼻で笑ってしまった。
涙が浮かぶジュディの瞳をじっと見下ろす。
長年の付き合いで分かったことがある。
この子は、正真正銘のヒロインだ。
どこまでも素直で、心が綺麗で善良で、人を疑う事を知らない。
今までどれだけレイナが見下され罵声を浴びせられても、些細な事でロワールからの体罰を受けても――それは『気の置けない仲間同士が本音でぶつかり合っている証』としか彼女の目には映っていなかった。
大切に守られすぎて、身近に悪意が存在するという事を知らないのだ。
『レイナさんはみんなから本当の友達だと思われているのよね……。わたし、ちょっと寂しくて……。羨ましいな』と、涙混じりに言われた事すらある。
煽ってんのかと思ったけどそうではなく、本心からの言葉だったようで、当時は唖然としたものだ。
悪い子じゃないけど天然――それがレイナから見たヒロイン像だった。
「友達でしょう? みんなで一緒に旅行したりパーティーしたり、お誕生日だってお祝いするのに……これが友達じゃなかったらなに?」
レイナは再び笑った。
旅行もパーティーもロワールが企画するものを側近として手伝っていただけだ。まして誕生日なんて。
彼女がこの状況を少しでも注意して見ていたら、レイナが誰からも祝われていない事くらい気付くはず。
「あのね、ジュディさん。実は私も今日、誕生日なの。みんな忘れちゃってるみたいだけどね」
するとジュディは目を見開いて口元に手を当て、「あっ……! も、もちろん覚えているわよ! 私と合同のパーティーなのよね! ほら、バルーンにだってレイナさんの名前があるでしょう?」と言って会場の飾りのメッセージ入りバルーンを指さした。
「……あらっ?」
もちろんそこにはジュディの名前しかない。
慌てた表情で会場中を見回すけれど、どこにもレイナの名前はなかった。
みるみるうちに目に涙が浮かんでくるジュディを見かねて、ロワールが彼女の肩を抱きカルバンがレイナとジュディの間に立った。
「大丈夫、ジュディ。君は何も悪くない……」
「あのなぁ、会場設営の責任者はお前だろう? 何を被害者ぶってるんだ! 自分で準備しておけば良かっただけじゃないか! 今になってそんな事を言い出すなんて! ロワールが信頼して任せたはずの立場を使ってジュディを悪者に仕立て上げるんじゃない! 本当に性根が腐った奴だよ、お前は!」
周囲から注がれる心の底からの軽蔑と、見下しの視線。
大丈夫。もう慣れた。
レイナは真っ直ぐな目で見返す。
「ジュディの誕生日を私との合同になんてできる訳ないでしょ。だって私、『余計なものを混ぜるな』ってあらかじめ言われているのよ」
信じられない、という目でロワールがレイナを見た。
ジュディ以外の誰もがそういうやり取りがあると知っているが、レイナ本人がこうして人前で蒸し返すのは初めてだ。
主人の面子を潰すような発言だとレイナは分かっていたが、言わずにいられなかった。
純粋なジュディは驚いたようで、ふらふらとカルバンの前に出てくる。
「嘘でしょう……? 誰がそんなひどい事を言うの……?」
「話の流れで分からなかった? だったらそれでいいと思うわ。あなたは何も知らなくていいの。みんなの大切なお姫様だものね」
「そんな……」
どれだけ天然でもなんとなくバカにされているのは感じ取ったようだ。
両手で顔を覆って泣き出すジュディの肩をロワールは大事そうに抱きしめ、ぽんぽんとあやすように軽く叩いてから彼女を放し、レイナの前に立つ。
カルバンを含めた周囲の男達は目に期待を浮かべた。
ロワールがレイナに下す制裁は彼らにとって一番楽しいエンターテイメントだ。
彼らが普段どれだけレイナを見下していても、彼女の主人がロワールである以上、罵声を浴びせる程度しかできない。
レイナに直接手を出せるのはロワールだけ。
レイナの奮闘で悪役ルートを回避しているとは言っても、やはりロワールの奥底には暴力の素質が潜んでいる。
ふとした拍子に顔を覗かせるそれは主にジュディ絡みの時に出るものだった。
「レイナ」
ロワールの低く、冷たい声が響く。
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