攻略失敗99回目。もう諦めました。

VVV

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ロイ・アスコット

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「痛み止めよ。炎症を抑える効果もある。肺に水が入ったなら飲んでおいた方がいいわ」

 適当に言い繕ったレイナの顔を見て、子どもは大人しく薬を飲んだ。
 目がくりっとしていて睫毛が長く、頬は桃のようにふっくらした可愛らしい男の子だった。
 
「……ありがとう、お姉さん。すごく楽になった。すごいね、この薬。効きすぎじゃない?」

 そう言ってレイナを見上げた子どもの目には光が戻っている。さっきまで死にそうな目をしていたのに。

『――ロイ・アスコット。アスコット財閥本家の四男。10歳。跡目争いに巻き込まれて死にかけていたところをレイナに助けられた』

 頭の中にナレーションの声が響いた……。
 レイナはこれが何なのか知っている。ゲームにおけるネームドキャラに遭遇し、最初の出会いイベントをこなすと出てくるのだ。
 事情を聞こうと思っていたレイナは脳内で大体の情報を把握してしまい、遠い目をした。
 アスコット財閥かぁ……。
 アスコット……。

「えっ!?」

 アスコット財閥!?

 レイナは子どもを二度見した。
 アスコット家といえば大国Eを代表する大財閥で、その歴史は古く、世界的に名の通った企業をいくつも所有し一族の中には国政の中枢に関わる者が何人もいる名家中の名家だ。
 普段から富豪の相手ばかりしているレイナでも国外、ましてやそこまで格式の高い家との繋がりはない。
 ダリルやロワールなら面識くらいはあるかもしれないが……それでもやはり格が違う。
 
 きみ、そんなところの息子なの……?

 とんでもない陰謀に首を突っ込んでしまった……。

 後悔するが時すでに遅し。
 サヨナラするにしても殺されかけたばかりの子ども一人をこんな場所で放り出すと後味が悪い。
 せめて誰か信頼できる人間に託してから離れよう……。
 そう思って彼に声をかける。

「君、名前は?」

 もう知っちゃったけど、一応聞いとかないとね。
 でないと会話に困るから。
 
「……ロイ」
 
「そう。ロイ、私そこのホテルに泊まってるんだけど、まずはお風呂に入って着替えない? どうするかはその後考えよう」

 ロイは素直に頷いた。

「良い子ね。ほら、おぶって行ってあげるから乗りなさい」

 多少回復したとはいえさっきまで瀕死だった子を歩かせるのは忍びなく、レイナはしゃがんで背中を向ける。

「うん」

 ロイを背負ったレイナはゆっくり歩き、ホテルの正面に向かった。
 しかし花火が終わってパーティーが終了し、参加者達が続々と出てくるのを見て踵を返した。
 顔を合わせれば絡まれるのは間違いない。それにロイの顔を不用意に晒したくない。
 結局レイナは厨房の窓から入ることにした。
 出て行った時のレイナの様子にただならない何かを感じていたらしいコナーは何も言わずに通してくれた。
 お礼を言って、人目を避けるようにして非常階段を登る。
 ようやく部屋に着いた時には太ももがプルプルし腕も千切れそうになっていたが、気力を振り絞って浴室へ行きバスタブにお湯を張った。
 
 交代で入浴を済ませ、室内着に着替えた二人は改めて室内で向き合った。
 さて、何から切り出すべきか……。
 迷った末にレイナは腹を決めた。

「ロイ。信頼できる人はいる?」

 ロイはレイナを指さして「……お姉さん」と言った。
 
「私?」

 助けたとはいえ見ず知らずの自分を……。
 ロイはアスコット家の人間を誰も信頼していないのかしら。
 まあ、殺されかけたんだから無理もないけど……それでも一人くらいはいるはずだわ。
 
 本当に味方がいない子ならそもそも殺人などというリスクを負ってまで始末する必要はない。
 それなりに重要人物だから危険な目に遭うのだ。
 それに、ロイを海に投げ込んだ者達の手口の稚拙さといったら……前回成功したのが奇跡に感じるほど。
 人脈に乏しく、あまり荒事に慣れていない人物の仕業だろうなと思った。

「ロイ。冗談を言っている場合ではないの。言っておくけど、私じゃあなたを守り切れないわよ。誰でもいい、連絡を取れる人はいる?」

 するとロイはしばらくの沈黙の末にようやく口を開いた。
 
「……お兄ちゃんなら助けてくれるかも」

「わかった。お兄ちゃんね。電話番号かSNSのアカウントは分かる?」

「うん。電話番号は覚えてる。ぼく、数字を覚えるのが得意だから」

「じゃあ電話しようか。スマホは……持ってないわよね。貸してあげる。使って」

 スマホを差し出し、操作するロイを見守る。
 静かな室内に呼び出し音が響くが、いつまで待っても相手が応答することはなかった。

「……出ない。きっと忙しいんだ」

「知らない番号だからかもしれないわ。SMSで送ってみたらどう?」

「ううん。誰の目に入るか分からないから、文字は残したくない」

「確かにそうね……」

 レイナは彼の年齢に不釣り合いな思慮深さに驚いた。
 パニックを起こしてもおかしくないほどの体験をした直後なのにこの落ち着き。
 やはり世界に名の通った家の子は精神力からして違うんだわ――と思った。
 
 もう一度かけてみたら――そう言いかけた時、部屋の扉がノックされた。
 二人同時に警戒が顔に浮かぶ。
 まさか……見付けられた?

 跳ね上がる心臓をおさえておそるおそるドアスコープを覗く。
 部屋の前にいたのは――ロワールだった。

「レイナ。開けろ」

 
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