攻略失敗99回目。もう諦めました。

VVV

文字の大きさ
19 / 19

もうすぐ到着するよ

しおりを挟む
「クソッ、気付かれたか?」

 苛立ってキーボードを破壊しかねない勢いでタイピングし始めるロワールを、横にいるハッカーはなにか滑稽なものを見る気持ちで眺めた。
 本命でもない女の調査にここまで本気になってどうする?
 裏切っているかどうかの調査なんて部下に任せて、ボスは悠然と結果を待っていれば良いのだ。実際さっきまではそうするつもりでいたはず。
 なのにアクシデント一つで頭に血をのぼらせ少しも冷静じゃない状態で、自らキーボードを叩き再侵入を試みようとしている。まるで子どもの癇癪だ。

「ロワール様、落ち着いてください。いったん引きましょう。これはきっと警告です。あんまりやりすぎるとダリル様も見て見ぬふりをしてくれなくなりますよ」

 その言葉に全ての動きがピタリと止まった。
 ……そうだ。宿敵・ダリル。
 社会的なライバルに留まらず恋愛的な意味でも最大の障壁であり続ける男。
 こいつは抜け目がない。ロワールがホテルの監視カメラシステムに侵入していたことだって、知ってて放置していたに決まっている。
 それがこの謎のタイミングでのネットワーク追放……。あそこはあいつの縄張りだ。何か自分に見せたくない行動をするつもりに違いない。
 ……まさか、ダリルもあの場所にいるのか?

「……車を出せ。今からホテルガーネットへ行く」
 
「なぜです!?」

 ハッカーが声を上げたが、背後で控えていた特助――エドワード第一特別助手は頷き、すぐに駐車場に足を向けた。
 このエドワード特助、ロワールの一番の側近としてレイナともそれなりに長い付き合いだった。
 その中でレイナの人柄、ひたむきさ、有能さに何度も触れてきたのだ。
 あの子はボスの心があの超ド級天然令嬢・ジュディにあると分かっていてなお心から尽くしていた。
 どんなに踏み付けられても、この愛情に飢えたボスのことを決して見放さなかった。
 情が移らないはずがない。

「ボス、ビルの正面に車を付けます。後から降りてきてください」

 頷くロワールを見て足早に役員専用エレベーターに乗り込むエドワード特助。
 その心の中は複雑だ。
 
 あの子はいい子だ。幸せになってほしい。
 おそらく、ボスの元ではそれは叶わないだろう。あの子のためを思うならこの機にボスから離れるのを応援するべきである。
 しかし、可能ならこの目であの子の一途な想いが成就し、ボスと結ばれるさまを見てみたいと思ってしまう……。
 
 ボスにしても同じだ。 
 初恋の相手に盲目で何も見えていないが、今あのお方が巨大なクワイエットグループを背負い堂々とジュディ嬢の前に立てているのはあの子――レイナのおかげだ、とエドワード特助は思っていた。
 
 ボスは親の愛に恵まれず、幼少期から孤独を抱えて生きてきた。ああ見えて内面はコンプレックスだらけなのだ。
 その欠けた心を埋めていたのは他ならぬレイナの一途な愛。何をしても許してくれる母親のような存在が、あらゆる面でボスに勇気を与えている。
 ボス本人はそのようなことは意識していないが、ボスとレイナを一番近くで見てきたエドワード特助の視点からは一目瞭然だった。
 ボスのあの慌てふためきようはそのせいだ。足元がぐらつけば天の月に手を伸ばすことなど叶わないのだから、そうなるのも当然だと思う。
 だからレイナが他人の手に渡るかもしれないと思うと居ても立ってもいられなくなるのだ。

 ロールスロイスに乗ってクワイエット本社ビルの正面に付けると、ロワール・クワイエットは従業員達がお辞儀をする中、黒いカシミヤのコートを肩に引っ掛けて出て来た。
 その堂々たるオーラはまさしく帝王と呼ぶにふさわしい。

 ……レイナがいないとあのオーラを保てない、とボス本人が自覚してくれれば……あの子も少しは報われるのになぁ。

 エドワード特助はため息をつき、運転席から降りて後部座席のドアを開けに行った。


 
 レイナは昼食後、一人になったスイートルームでタブレット端末を前にクワイエットグループの仕事を本来受け持つべき人達に引き継いでいた。
 これらの仕事内容は多岐に渡り、観光部門からファッション部門、果ては不動産部門まで。
 グループ内の手の焼ける厄介な案件は全てレイナの元に預けられるようになっていた。
 しかし、レイナは社員ではない。労働契約を結んでいないのだ。
 案件が成功したらロワールからお小遣いという形で個人的に報酬を貰うのみ。最初がそうだったせいで今でもそのやり方をズルズルと踏襲していた。
 つまり――レイナにはこれらの仕事を完遂する義務は、そもそもない。
 一度受けたものを途中で投げ出すことに抵抗はあれど、幸い今は急ぎの仕事はなく時間に余裕のある案件ばかりだ。
 下手に責任感を発揮してこれ以上関わりを持ち続けるのは良くない。
 
 一通りメールを送り、返信を待つ間にスマホを開いて人材募集アプリを覗いた。
 ……ああ、メッセージが来てる。
 例の2人が、さきほどレイナがいくつか提示した候補日の中から希望の日程を提出してきたのだ。
 それによると、2人が動ける日で一番近いのは明後日。
 じゃあそこでいいや、と日にちを決定するメッセージを作成していたらまたしても未登録の番号から着信が来た。
 この番号には見覚えがある――。
 ざっと記憶をさらってみたレイナの頭に、昨晩ロイが操作していた端末が浮かんだ。
 
 ロイのお兄さんだ!
 
 通話ボタンを押すと、少しの沈黙ののち低くて落ち着いた声が耳に響いた。

『……レイナ・ハリス?』

 名前を呼ばれてしまった。
 どうやら調べはついているようだ。
 レイナは「ええ」と肯定し、「あなたはノーラン・アスコットね?」と返した。
 
 

 
 
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

はな
2026.01.20 はな

えっ…メインヒーローから電話!?
まさかメインヒーローと!?
私的にはヒロのお兄さん(まだ、ちゃんと出てきてないけど)とくっついて欲しいです。
そして皆には盛大なざまぁを!!
続きを楽しみにしています!

解除
ねねね
2026.01.15 ねねね
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

その幸せ(偽物の)欲しいなら差し上げます。私は本当の幸せを掴むので

瑞沢ゆう
恋愛
 とある国の古都で道具屋を営む"アリーナ"は、三十歳を迎えていた。子供は居ないものの、夫と二人仲睦まじく暮らしていたのだがーー 「ごめんなさいアリーナ。私、あなたの旦那との赤ちゃんが出来たみたいなの」  幼馴染のミレナから告げられた最悪の宣告。夫を亡くしたばかりのミレナは、悲しみのあまりアリーナの夫が慰める甘い言葉にのぼせて関係を持ったという。 「すまないアリーナ。僕はミレナと一緒になるから、君はこの家を出てくれないか?」  夫と幼馴染が関係を持っただけではなく、自分の父から継いだ店を取られ家を追い出されるアリーナ。  それから一年後、木工職人としてフィギュアなどを作って生計を立てていたアリーナの元へ来訪者が現れる。 「私はあの時拾って貰った子犬だ。アリーナーー君を幸せにするため迎えにきた」  なんと、現れたのは子供の頃に拾った子犬だという。その実、その子犬はフェンリルの幼生体だった。  アリーナを迎えに来たフェンリルは、誰もが見惚れるような姿をした青年。そんな青年は、国を作り王として君臨していた。  一夜にして王国の妃候補となったアリーナは、本当の幸せを掴むため大海へと漕ぎ出していくーー ※なろう、カクヨムでも投稿中。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

聖女様の仰せのままに

黒幸
恋愛
愛されたいと願った一人の少女がいた。少女はただ愛されたいと願い、それが叶った。だがその先に何が待ち受ける者を誰も知らない。聖女の名の下に少女の欲望は留まることを知らず、いつしか歪んでいく。

愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa
恋愛
今まで虐げられ続けて育ち、愛を忘れてしまった男爵令嬢のミレー。 彼女の義妹・アリサは、社交パーティーで出会ったオリヴァーという公爵家の息子に魅了され、ミレーという義姉がいることを一層よく思わないようになる。 そこでミレーを暴漢に襲わせ、あわよくば亡き者にしようと企んでいたが、それを下町に住むグランという青年に助けられ失敗し、ミレーはグランの家で保護され、そのまま一緒に暮らすようになる。 そしてそのグランこそがアリサが結婚を望んだオリヴァーであり、ミレーと婚約することになる男性だった。 やがてグランが実は公爵家の人間であったと知ったミレーは、公爵家でオリヴァーの婚約者として暮らすことになる。 だが、ミレーを虐げ傷つけてきたアリサたちを許しはしないと、オリヴァーは密かに仕返しを目論んでいた。 ※アリサは最後痛い目を見るので、アリサのファンは閲覧をオススメしません。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない

春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」 それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。 「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」 父親から強い口調で詰られたエルリカ。 普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。 けれどエルリカは違った。 「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」 そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。 以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。 ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。 おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。