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2章 死亡ふらぐ破壊と恋愛感情は別ですよね?
6話 悪役公爵の言い訳①
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公爵はもう王宮を発ったろうか。待機場に馬車はまばらだ。
(微妙な態度でお別れしてしまいました。改めてお話できるでしょうか……)
肩を落とすも、
「ユーリィ。おいで」
名を呼ばれた。暗がりに停まった馬車内で、紅眼が妖しく誘っている。
小走りで乗り込むなり、扉を閉められた。
「はい、葡萄酒。行ったり来たりして疲れたろう」
「い、え? 結構です」
「……そうか」
喉が渇いてはいたものの、公爵らしからぬもてなしに驚いて固辞してしまった。残念そうな横顔が気になるけれど。
「それより伺いたいことがございます」
「コンスタンティネとニコを見ても納得できなかったか」
「いえ。むしろ閣下の特別な力について詳しくお聞きしたく」
「特別な力? 土下座くらいだが」
「ご謙遜を。閣下の魔法は、未来予知もできるのでしょう」
勢い込むわたしと裏腹に、公爵は数拍溜めたのちに頷いた。
「なるほど。君に言わせれば、確かに私はこれから何が起こるか知っている」
やはり。ごくりと唾を呑み込む。彼は蘇生以外にも大掛かりな魔法を遣えるのだ。
「では、フセスラウの未来を教えてくださいませんか。誰にも口外しません。政務にのみ活用します」
「……。さまざまな選択肢があって、どの未来に行き着くか断言できない。それに、私にとって国よりユーリィの命のほうが大事ゆえ、話せないこともある」
公爵が言葉を選びながら答える。
わたしは「第二王子の務め」を得た昂揚がみるみる萎んだ。代わりに複雑な気持ちがふくらむ。
国よりわたしの命が大事なわけがないし、公爵がそんなことを言うはずない。
しかも、未来不確定にもかかわらず、あんな形で婚約破棄したのか?
「閣下は、禁忌を犯したご自身を『悪役』と称されますが。封印を解くと、人が変わったようになるのですか?」
義憤まで復活し、恨み言が口をついた。
公爵が小声で「鋭いな」とつぶやく。今度という今度はうやむやにさせない。
「婚約破棄とわたしの死の危機の関係も、説明してください。あのやり方以外なかったのですか」
積もり積もった疑問をぶつける。
客室にふたりきりで逃げ場はない。公爵が観念した様子で口を開く。
「まず、馬車の滑落で、君の知る『公爵』は死んだのだ。もっとも彼の記憶はある。本当にコンスタンティネに恋愛感情はなかった」
ようやく得られた返答はしかし、難解だ。
(わたしはこの十年、公爵を遠くから眺めてきました。「君の知る公爵は死んだ」とは、わたしの知らない一面が出ているという意味でしょうか)
わたしが考え込む間に、公爵が続ける。
「それに、先にコンスタンティネから婚約を解消したい旨の書簡が届いたのだ。本人に訊いたら覚えがないと嘯いたが、彼も愛がないと薄々気づいている」
「兄から……? あり得ません」
今夜は驚きの連続だ。呆然とするほかない。
「そうでもない。実際、婚約したままだと、最終的にコンスタンティネから婚約を解消される。そして君も私も死ぬ」
「閣下、も?」
畳み掛けられ、眩暈がした。おそろしい。その未来だけは避けたい。
「今回はそうならない。婚約破棄したから」
寒気で腕をさするわたしを見兼ねて、公爵が言いきる。ついさっき、未来はわからないと言ったのに。でも、気まぐれな優しさであっても縋りたい。
公爵がわたしを窺いながら話を再開する。
「私たちは王族ゆえ。かと言って穏便に婚約解消し、コンスタンティネが私に想いを残す形だと、後々ややこしいことになる。優しい君は……とばっちりで死ぬ」
「何ですか、とばっちりとは」
生死に関わると思えない単語を指摘すると、公爵は釈明の代わりに微笑んだ。それでいてさみしそうで、強く問い質せない。
「とにかく、婚約破棄しなければ閣下にも死の危機があるのは理解しました。わたしの政略結婚というのも、予知された未来のひとつですか?」
(微妙な態度でお別れしてしまいました。改めてお話できるでしょうか……)
肩を落とすも、
「ユーリィ。おいで」
名を呼ばれた。暗がりに停まった馬車内で、紅眼が妖しく誘っている。
小走りで乗り込むなり、扉を閉められた。
「はい、葡萄酒。行ったり来たりして疲れたろう」
「い、え? 結構です」
「……そうか」
喉が渇いてはいたものの、公爵らしからぬもてなしに驚いて固辞してしまった。残念そうな横顔が気になるけれど。
「それより伺いたいことがございます」
「コンスタンティネとニコを見ても納得できなかったか」
「いえ。むしろ閣下の特別な力について詳しくお聞きしたく」
「特別な力? 土下座くらいだが」
「ご謙遜を。閣下の魔法は、未来予知もできるのでしょう」
勢い込むわたしと裏腹に、公爵は数拍溜めたのちに頷いた。
「なるほど。君に言わせれば、確かに私はこれから何が起こるか知っている」
やはり。ごくりと唾を呑み込む。彼は蘇生以外にも大掛かりな魔法を遣えるのだ。
「では、フセスラウの未来を教えてくださいませんか。誰にも口外しません。政務にのみ活用します」
「……。さまざまな選択肢があって、どの未来に行き着くか断言できない。それに、私にとって国よりユーリィの命のほうが大事ゆえ、話せないこともある」
公爵が言葉を選びながら答える。
わたしは「第二王子の務め」を得た昂揚がみるみる萎んだ。代わりに複雑な気持ちがふくらむ。
国よりわたしの命が大事なわけがないし、公爵がそんなことを言うはずない。
しかも、未来不確定にもかかわらず、あんな形で婚約破棄したのか?
「閣下は、禁忌を犯したご自身を『悪役』と称されますが。封印を解くと、人が変わったようになるのですか?」
義憤まで復活し、恨み言が口をついた。
公爵が小声で「鋭いな」とつぶやく。今度という今度はうやむやにさせない。
「婚約破棄とわたしの死の危機の関係も、説明してください。あのやり方以外なかったのですか」
積もり積もった疑問をぶつける。
客室にふたりきりで逃げ場はない。公爵が観念した様子で口を開く。
「まず、馬車の滑落で、君の知る『公爵』は死んだのだ。もっとも彼の記憶はある。本当にコンスタンティネに恋愛感情はなかった」
ようやく得られた返答はしかし、難解だ。
(わたしはこの十年、公爵を遠くから眺めてきました。「君の知る公爵は死んだ」とは、わたしの知らない一面が出ているという意味でしょうか)
わたしが考え込む間に、公爵が続ける。
「それに、先にコンスタンティネから婚約を解消したい旨の書簡が届いたのだ。本人に訊いたら覚えがないと嘯いたが、彼も愛がないと薄々気づいている」
「兄から……? あり得ません」
今夜は驚きの連続だ。呆然とするほかない。
「そうでもない。実際、婚約したままだと、最終的にコンスタンティネから婚約を解消される。そして君も私も死ぬ」
「閣下、も?」
畳み掛けられ、眩暈がした。おそろしい。その未来だけは避けたい。
「今回はそうならない。婚約破棄したから」
寒気で腕をさするわたしを見兼ねて、公爵が言いきる。ついさっき、未来はわからないと言ったのに。でも、気まぐれな優しさであっても縋りたい。
公爵がわたしを窺いながら話を再開する。
「私たちは王族ゆえ。かと言って穏便に婚約解消し、コンスタンティネが私に想いを残す形だと、後々ややこしいことになる。優しい君は……とばっちりで死ぬ」
「何ですか、とばっちりとは」
生死に関わると思えない単語を指摘すると、公爵は釈明の代わりに微笑んだ。それでいてさみしそうで、強く問い質せない。
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