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2章 死亡ふらぐ破壊と恋愛感情は別ですよね?
6話 悪役公爵の言い訳②
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「……いや。七回目は失敗だった」
公爵が渋い顔になる。
まだ起こってもいないのに。いくら使命を持たない第二王子とはいえ、結婚生活くらいしっかり果たせる――だろうか?
公爵への恋心を捨てきれないままで。
兄の婚約者でなくなった公爵に迫られたら、拒めないかもしれない。今だって狭い密室にふたりきりなのを急に意識してしまい、そわそわと座り直す。
「……またわたしを弄んで」
「何を言う。私はこう見えて、弄ぶなどという上級テクニックは持ち合わせていない。ただ君に生きて、幸せになってほしいのだ」
公爵が言葉じりを捉え、わたしを射竦めた。あまりにも必死で、わたしは瞬きすらできない。
数拍見つめ合う。公爵が「申し訳ない」と先に目を逸らした。
痩躯が何だか心許なげで、先ほどと逆に、公爵の手に手を重ねながら告げる。
「国の安寧が、わたしの幸せなのです」
あなたと結ばれたらいちばん幸せです。とは言えない。第二王子との恋愛は公爵に何の利点もない。公爵を二度も葬送せずに済むなら、それでよい。
「君はいつも、そうだったな」
公爵は含みのある声色で頷く。
第二王子が何を言う、と嗤われなかったのが、背中を押されたように感じる。
「この後、わたしはどうすればよいですか? フセスラウのためにも、兄を支えて差し上げたいのですが」
何にせよ、婚約破棄はもう取り消せない。それを踏まえての立ち回りを尋ねた。
公爵は指先で唇をなぞりつつ思案する。
「安寧……スローライフエンドを、久しぶりに望んでも許されるか」
(すろうらいふえんど? 新しい魔法の呪文のようです)
「四~八回目のように原作を変え過ぎても、強制力が働く。十二回目はあまり干渉しなかったのが、あの日までは奏功したと言える。サブストーリーも考慮すれば――」
わたしは静かに公爵の低い声を堪能した。
何回目というのは、選択を変えた場合の未来予知の回数とみた。将来の王婿の座を手放すにもかかわらず、フセスラウのために魔法を駆使していたのだ。
揺らぎかけた信頼が回復する。
同時に、公爵の結論が出たらしい。
「原点でいこう。ユーリィには優し過ぎずにいてもらう」
「別に、優しい人間ではないですよ」
「いや、いちばん優しい」
怜悧な口角が片側だけ持ち上がる。よく公爵がする表情で、これまでの公爵ならおよそ口にしない台詞を吐く。
蘇生を機に見え始めた一面は、不思議に思うが嫌ではない。国の安寧を願う気持ちを認めてくれたのも、嬉しい。
「それと、その礼服がとてもよく似合っている。銀髪とのコントラストがいい」
「え……それほど、でも」
極めつけに、舞踏会の参列者で唯一、装いを褒めてくれた。兄の婚儀なので当然と言えば当然だが。今日でなくとも、みな美しい兄のみを褒める。両親でさえも。
両親の顔が頭を過ぎる。途端、ゆるみかけた頬が引き攣った。
「待ってください。婚約解消となった場合、閣下もお亡くなりになるとのことでしたが。もしや父が激怒して除籍や廃爵……ミロシュ家取り潰しになってしまうのではありませんか?」
それ以外、まだ二十代の公爵の死の要因は思いつかない。謹慎や幽閉では済まないのだ。
「え、いや」
公爵は、わたしと公爵の身体の間で中途半端に両手を浮かせたまま、黙り込む。
わたしを怖がらせないよう、詳細を濁したに違いない。
「婚約破棄でも、同じことが起こり得るでしょう。何か対策されているのですか」
心配が募る。わたしとて義憤で公爵を追ってきた。兄に失望されなければわたしに死の危機があるらしいが、両親は失望どころか激高していてもおかしくない。
「そこは、君が何とかしてくれるだろう?」
さらりと頼まれ、わたしは絶句した。
わたしを両親の説得に当たらせるために、わたしの戻りを待ち、婚約破棄の意図を問わせて聞かせたとしか思えない。
「そんな大役、わたしに務まるはずがありません」
「できるとも、ユーリィになら」
しかし蠱惑的な笑みに搦め捕られ、反論できなくなる。
公爵に期待されて舞い上がってしまっている。未来を惑わす張本人なのに。
公爵は、わたしがいちばん喜ぶことを知っている。いつから? それとも魔法で見透かしたのか。
(わたしの恋心は、お見とおしではないですよね?)
渦巻く感情をすべて呑み込むほどの恋心を捕まえるかのごとく、浮いていた公爵の手がわたしを引き寄せる。すううはああと長めに深呼吸された末、解放された。
公爵が渋い顔になる。
まだ起こってもいないのに。いくら使命を持たない第二王子とはいえ、結婚生活くらいしっかり果たせる――だろうか?
公爵への恋心を捨てきれないままで。
兄の婚約者でなくなった公爵に迫られたら、拒めないかもしれない。今だって狭い密室にふたりきりなのを急に意識してしまい、そわそわと座り直す。
「……またわたしを弄んで」
「何を言う。私はこう見えて、弄ぶなどという上級テクニックは持ち合わせていない。ただ君に生きて、幸せになってほしいのだ」
公爵が言葉じりを捉え、わたしを射竦めた。あまりにも必死で、わたしは瞬きすらできない。
数拍見つめ合う。公爵が「申し訳ない」と先に目を逸らした。
痩躯が何だか心許なげで、先ほどと逆に、公爵の手に手を重ねながら告げる。
「国の安寧が、わたしの幸せなのです」
あなたと結ばれたらいちばん幸せです。とは言えない。第二王子との恋愛は公爵に何の利点もない。公爵を二度も葬送せずに済むなら、それでよい。
「君はいつも、そうだったな」
公爵は含みのある声色で頷く。
第二王子が何を言う、と嗤われなかったのが、背中を押されたように感じる。
「この後、わたしはどうすればよいですか? フセスラウのためにも、兄を支えて差し上げたいのですが」
何にせよ、婚約破棄はもう取り消せない。それを踏まえての立ち回りを尋ねた。
公爵は指先で唇をなぞりつつ思案する。
「安寧……スローライフエンドを、久しぶりに望んでも許されるか」
(すろうらいふえんど? 新しい魔法の呪文のようです)
「四~八回目のように原作を変え過ぎても、強制力が働く。十二回目はあまり干渉しなかったのが、あの日までは奏功したと言える。サブストーリーも考慮すれば――」
わたしは静かに公爵の低い声を堪能した。
何回目というのは、選択を変えた場合の未来予知の回数とみた。将来の王婿の座を手放すにもかかわらず、フセスラウのために魔法を駆使していたのだ。
揺らぎかけた信頼が回復する。
同時に、公爵の結論が出たらしい。
「原点でいこう。ユーリィには優し過ぎずにいてもらう」
「別に、優しい人間ではないですよ」
「いや、いちばん優しい」
怜悧な口角が片側だけ持ち上がる。よく公爵がする表情で、これまでの公爵ならおよそ口にしない台詞を吐く。
蘇生を機に見え始めた一面は、不思議に思うが嫌ではない。国の安寧を願う気持ちを認めてくれたのも、嬉しい。
「それと、その礼服がとてもよく似合っている。銀髪とのコントラストがいい」
「え……それほど、でも」
極めつけに、舞踏会の参列者で唯一、装いを褒めてくれた。兄の婚儀なので当然と言えば当然だが。今日でなくとも、みな美しい兄のみを褒める。両親でさえも。
両親の顔が頭を過ぎる。途端、ゆるみかけた頬が引き攣った。
「待ってください。婚約解消となった場合、閣下もお亡くなりになるとのことでしたが。もしや父が激怒して除籍や廃爵……ミロシュ家取り潰しになってしまうのではありませんか?」
それ以外、まだ二十代の公爵の死の要因は思いつかない。謹慎や幽閉では済まないのだ。
「え、いや」
公爵は、わたしと公爵の身体の間で中途半端に両手を浮かせたまま、黙り込む。
わたしを怖がらせないよう、詳細を濁したに違いない。
「婚約破棄でも、同じことが起こり得るでしょう。何か対策されているのですか」
心配が募る。わたしとて義憤で公爵を追ってきた。兄に失望されなければわたしに死の危機があるらしいが、両親は失望どころか激高していてもおかしくない。
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「そんな大役、わたしに務まるはずがありません」
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