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2章 死亡ふらぐ破壊と恋愛感情は別ですよね?
7話 取り潰し危機とげえむの正体①
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ミロシュ領は王宮の南方に位置する。馬車で半日の距離だ。起伏ある林道を辿っていくと、麓に尖塔が現れる。
「一週間ぶりだな。ようこそ」
領主――エドゥアルド公爵が直々に出迎えてくれた。
無彩色の礼服姿。それで魅力が損なわれるどころか、却って色気が増す。わたしは私情を挟まないよう深呼吸した。
「この度の事情聴取次第で処分が決定します。ご協力ください」
やはり婚約破棄は不問とはいかなかった。
背後で窺う公爵の両親や執事たちは、一縷の望みに縋る様子だ。予想だにしない心労で、みな顔色が悪い。
(わたしも綱渡りでした)
事後処理が山積みの中、元凶の公爵に厳罰を望む派閥を宥めるのに苦労した。
婚約破棄の真意などを聴取して処遇を決める流れに、ようやく持ち込んだ。
王太子の心情を思えば公爵を王宮に入れたくない。領地に出向くのも癪だが第二王子が引き受けると言うなら、と聴取役になれた。
(よくも悪くも第二王子、といったところでしょうか)
「さあ、こちらへ。ふたりきりで話そう」
案内に従う。公爵は、妙にわたしの背後や足下や頭上を気にしている。
「あの、自力で上れますゆえ」
「む、そうか」
石階段に至っては、わたしを支えるようにぴたりと一段後ろをついてくる。
わたしとしては、公爵の体温や息遣いを間近に感じるほうが歩がままならない。
やっと最上階の私室に着いたと思ったら、
「無事に着けた」
後ろから抱き締められた。巻き毛に鼻先を擦りつけられ、くすぐったい。何とも大げさだ。
「か、閣下。キョウセイリョクに屈しないのではなかったのですか」
拘束は強くないのに逃げない自分を棚に上げて諫めれば、公爵はばつが悪そうに手を引っ込めた。
どこか切なさを湛えた紅眼に、絆されかける。しかし段取りが飛んではいけない。
向かい合わせに座って、本題に入った。
「両親の温情により、取り潰しはありません。ご安心ください」
もともと両親は政務に長じた公爵を頼りにしていた。今も、兄の心を傷つけたからといって厳罰は現実的でない、という考えに落ち着いた。
わたしの手柄ではないものの、胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
「そうだろう。おおむね原作に沿う展開だ」
一方の公爵は、余裕たっぷりに脚を組む。先に予知したのかもしれない。
「償いではないですが、引き続き政務面で国に貢献する意思はありますか? であれば謹慎に留め、段階的に復帰していく形にまとめられるかと」
「意思はある。ただ、主人公次第だが」
一転、公爵の顔に険が帯びた。
そう言えば、公爵はニコを「主人公」と呼んだ。
「どうして、洞窟管理役が主人公なのですか。げえむとやらも魔法ですか? 死亡ふらぐに関係あるなら、教えてください。代わりに、『わたしの身体を捧げます』」
公爵が目を見開く。わたしも手で口を覆った。
(今、口が勝手に動きました)
自分の命や恋のためでなく、国のために公爵を訪ねてきたのに、何を言い出すのだ。
「君の魔力の封印は解けないが」
「違います、ただこの機にお話を伺おうと。わたしに魔法は扱えません」
慌てて首を振る。
封印を解く方法を聞き出す発想はなかった。禁忌を犯したとて公爵のようにうまく活用できまい。罰も受けるだろう。
公爵はわたしを警戒まじりに観察していたが、やがてひとり得心する。
「強制力がユーリィにも働いたか? ふむ。ちょうどいい、話しておこう」
(これは……取引成立ですね?)
魔力解放方法と引き換えでなく、わたしの身体と引き換えに、情報をもらう。
十代を片想いに費やしたわたしは、誰にも身体を捧げた経験はないけれど……。
フセスラウのためだ。先の一言を自分の意思で言ったことにする。緊張は、上衣を握り締めてやり過ごす。
(閣下が、相手なら)
すぐにでも、組み敷かれた夜の続きが始まるだろうか。枕元に「始まりの魔法遣いたち」の絵が掲げられた寝台を見遣る。
案の定、公爵はわたしの手を強く引いた。
「長くなるゆえ、場所を変える」
「一週間ぶりだな。ようこそ」
領主――エドゥアルド公爵が直々に出迎えてくれた。
無彩色の礼服姿。それで魅力が損なわれるどころか、却って色気が増す。わたしは私情を挟まないよう深呼吸した。
「この度の事情聴取次第で処分が決定します。ご協力ください」
やはり婚約破棄は不問とはいかなかった。
背後で窺う公爵の両親や執事たちは、一縷の望みに縋る様子だ。予想だにしない心労で、みな顔色が悪い。
(わたしも綱渡りでした)
事後処理が山積みの中、元凶の公爵に厳罰を望む派閥を宥めるのに苦労した。
婚約破棄の真意などを聴取して処遇を決める流れに、ようやく持ち込んだ。
王太子の心情を思えば公爵を王宮に入れたくない。領地に出向くのも癪だが第二王子が引き受けると言うなら、と聴取役になれた。
(よくも悪くも第二王子、といったところでしょうか)
「さあ、こちらへ。ふたりきりで話そう」
案内に従う。公爵は、妙にわたしの背後や足下や頭上を気にしている。
「あの、自力で上れますゆえ」
「む、そうか」
石階段に至っては、わたしを支えるようにぴたりと一段後ろをついてくる。
わたしとしては、公爵の体温や息遣いを間近に感じるほうが歩がままならない。
やっと最上階の私室に着いたと思ったら、
「無事に着けた」
後ろから抱き締められた。巻き毛に鼻先を擦りつけられ、くすぐったい。何とも大げさだ。
「か、閣下。キョウセイリョクに屈しないのではなかったのですか」
拘束は強くないのに逃げない自分を棚に上げて諫めれば、公爵はばつが悪そうに手を引っ込めた。
どこか切なさを湛えた紅眼に、絆されかける。しかし段取りが飛んではいけない。
向かい合わせに座って、本題に入った。
「両親の温情により、取り潰しはありません。ご安心ください」
もともと両親は政務に長じた公爵を頼りにしていた。今も、兄の心を傷つけたからといって厳罰は現実的でない、という考えに落ち着いた。
わたしの手柄ではないものの、胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
「そうだろう。おおむね原作に沿う展開だ」
一方の公爵は、余裕たっぷりに脚を組む。先に予知したのかもしれない。
「償いではないですが、引き続き政務面で国に貢献する意思はありますか? であれば謹慎に留め、段階的に復帰していく形にまとめられるかと」
「意思はある。ただ、主人公次第だが」
一転、公爵の顔に険が帯びた。
そう言えば、公爵はニコを「主人公」と呼んだ。
「どうして、洞窟管理役が主人公なのですか。げえむとやらも魔法ですか? 死亡ふらぐに関係あるなら、教えてください。代わりに、『わたしの身体を捧げます』」
公爵が目を見開く。わたしも手で口を覆った。
(今、口が勝手に動きました)
自分の命や恋のためでなく、国のために公爵を訪ねてきたのに、何を言い出すのだ。
「君の魔力の封印は解けないが」
「違います、ただこの機にお話を伺おうと。わたしに魔法は扱えません」
慌てて首を振る。
封印を解く方法を聞き出す発想はなかった。禁忌を犯したとて公爵のようにうまく活用できまい。罰も受けるだろう。
公爵はわたしを警戒まじりに観察していたが、やがてひとり得心する。
「強制力がユーリィにも働いたか? ふむ。ちょうどいい、話しておこう」
(これは……取引成立ですね?)
魔力解放方法と引き換えでなく、わたしの身体と引き換えに、情報をもらう。
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フセスラウのためだ。先の一言を自分の意思で言ったことにする。緊張は、上衣を握り締めてやり過ごす。
(閣下が、相手なら)
すぐにでも、組み敷かれた夜の続きが始まるだろうか。枕元に「始まりの魔法遣いたち」の絵が掲げられた寝台を見遣る。
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