ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!

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5 運命の番の特別な力

5 断罪

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 声が出そうになり、口を手で覆った。
 この場で例の事件も言及するとは聞いていない。
 まとめて解決するに越したことはないが、勝算はあるのかと心配が募る。

「その外衣マント。盗まれた馴鹿の毛皮だな? 背が灰色、腹が茶に白い斑点だ」

 当のエリセイは、密会に続いて二度も後手には回らないという顔で、証拠を挙げた。

(外衣だと?)

 その毛皮を何度か見ている。しかし、村のオメガが絵に描いてくれた馴鹿の特徴と同じとは気づかなかった。
 馴鹿好きなエリセイならではの発見だ。
 言われてみると、ルドルフの胸側にくる部分と背中側になる部分で色が違う。

「村の者に、世話していた馴鹿の絵を描いてもらった」

 エリセイが、丁重に持ち帰った羊皮紙の絵を広げてみせる。――ただ。

「はっ、その落書きが証拠だと? 背と腹で毛並の異なる個体が何頭いると思っている」

 ルドルフは取り合わない。彼の言うとおり、この毛並は多くはないが特定にも至らないのだ。

「裾の少し色が濃くなってるところ。毛皮を剥がすときの血じゃない。馴鹿牧夫小屋で斬りつけられたオメガの血の染みだ。彼を庇った馴鹿を殺めて、証拠隠滅したな」

 エリセイは百も承知とばかりに、さらに証拠を重ねた。
 村のオメガは、馴鹿が「私を守るみたいに小屋に飛び込んできてくれた」と言っていた。
 もし再び真犯人にまみえれば、角で攻撃するに違いない。

 いわば「目撃者」を黙らせるには、殺すのが手っ取り早い。それも、もともと自身が所有していた一頭と見せかけて。
 毛皮を外衣にしたのは、めずらしい毛並に惹かれたか、それとも「自分の一存で好きにできるもの」と示威するためか。

 一気に形勢逆転する。

「オメガを襲った犯人は、大柄で金髪で、オメガの妾を求めてて、なびかない相手には剣を振るうアルファだ」
「おれ以外にも金髪はいる、」
「夜闇で顔が見えにくいからとレクス殿下の名を騙りもした。ソコロフ城に入り浸って、殿下の足下を掬えそうな瑕疵を探してたのは誰だ? 殿下を引き摺りおろして自分が王になろうとしてたのは」

 息吐く間もなく核心をついた。

「……アナトリエ分家の公子といっても失礼じゃないか」

 ルドルフは図星だったのか、笑ってみせるが弱々しい。

「それから二年前、戦場でレクス殿下を暗殺せんとする弓兵がいたそうだが。そいつが使った黒曜石の矢じりは、鉱山のないアナトリエ領ではほとんど見ない。いったいどの家の弓兵かな。その矢を阻止した騎士にちょっかいを出したのは、口止めを兼ねてか?」
(矢じり?)

 ぴくりと耳をそばだたせた。
 自分が阻止した一矢。この流れで聞くと、ルドルフが二年前の時点でレクスを――王位を狙っていたように聞こえる。

 敵は内にいたのだ。エリセイの洞察力に、何度目かの感心を覚える。

「プナイネン公が代替わりして以降、村のオメガが襲われたり、ソコロフ家とアナトリエ家の公子が矢面に立たされたり、ずいぶん騒がしいことだ」

 エリセイは手をゆるめず、とどめを刺した。

 もしかしたら先代のプナイネン公は、息子であるルドルフの姦計を窘めていたのかもしれない。
 ソコロフ派の裁定人が、「先代は病死とのことだが、思えば急だったな」とひそひそ言い交わす。

 こうなっては、エリセイの主張とルドルフの主張どちらが受け入れられるか、合議の決着も見えてくる。
 両公子の「密通」を合議にかけると聞いたときは耳を疑ったが、今は手応えしかない。

「エリセイ。ソコロフ内の事件も調べてくれて痛み入る。その二件は私が持ち帰り沙汰を下す」

 レクスが冷静に話を引き取った。
 エリセイとレクスに挟まれたルドルフは、ついに黙りこくる。

 あとはレクスとニキータが、イスの未来を変えることにもつながる交際を宣言して、要人たちに認めてもらえば――。

(何のつもりだ?)

 角度的に、いち早く気づいた。
 ルドルフが外衣の下で、剣の柄に手を掛けるのを。

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