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二度目の初めて
しおりを挟む公爵家からの使用人は気付くとどこにもいなくなっていた。屋敷でアルバの姿を見ることはほとんどなく、夫婦の寝室は一人で使っていた。その代わりと言ってはなんだがリオールの側をついて回るは、アルバの部下だった。剣を携え、まるで何かに警戒しているかのように、付き従っていた。
「アルバは」
「王家に顔を出しています」
「そうですか。……もうすぐ発情期が来ると、伝えておいてください」
あの人は何処にも属さない人だったと思う。だが故に誰も制御ができずに、首輪が嵌められなかった。そういった性質から恐れられていたし、手に入れようとした。前とは違う動きに少し戸惑う。
アルバからは番契約がある限り離れられない。リオールはオメガであるが、自分の体のことを子どもを孕めることと発情期があることくらいしか知らない。そう言えばアルバとは子どもが出来なかった。それについて何かを話すことはない。ただ、夫のすることを全て受け入れて信じていた。馬鹿で、無知な自分に腹が立つ。アルバは、聖人と番いたかったのだろうか。
書斎には初めて入った。以前は文字が読めなかったし、アルバが課題として与えてくれた本は、絵本や小説のようなものが多かった。絵も多く、文字を読むのにつっかえても内容を理解しやすいものだった。ハッと鼻を鳴らす。アルバがリオールに文字を教えたことが、リオールが文字を書くことにつながり、それが結果としてアルバの命を救った。父に手紙を書いたのは初めてだった。多忙な父に生前あった事はほとんどなく、手紙は読んでもらえたのかと複雑な気持ちになる。
「番について……、番、に……」
書斎で本を読む。暗くて埃っぽい場所であった。自分が生きていた公爵家より随分マシである。
番契約の破棄について。書かれた書籍は少なかった。何故なら、番契約を破棄という事はほとんど行われない。大抵は死別である。
「番と死別したアルファは、その生涯を……、耐え難い苦痛と共に、過ごす……」
眉を顰めた。あの時読んだ本にはさらりと書かれていた顛末には、アルバの気持ちなど一ミリも書かれていなかった。ただ、悪行の限りを尽くし、自殺をしたとそれだけ。
番と死別したオメガの方は精神的ショックも大きく、精神的不調から体を壊し亡くなる事例もなくはない。でも多くは、生きる。バースは子孫の繁殖に特化したものであり、子どもの命を繋いでいくためかも知れない。
アルバが死んだ後、リオールが生きていたらどうなったのだろうか。公爵家に連れ戻され、次は違う旦那を当てがわれるのだろうか。あのまま殺される事はあまり考えていなかった。
「発情期が近いのに、何故出歩く」
「……アルバ、さま」
「寝室に戻れ。本ならいくらでも持っていけばいい」
リオールの開いていた本にアルバは少し目を落とし、閉じてから小脇に抱えた。部屋に戻り、リオールがベッドに寝転がるとアルバは本をベッドサイドに置いた。アルバの顔が、ベッドサイドの灯りに照らされている。掘りの深い目元に影が落ちる。
耐え難い苦痛を、貴方は何年耐えたのですか。貴方は何を望んで、何を見て、何を考え、俺に死んでくれと頼んだのですか。
「アルファは……、頭がいいんですね。体が大きいのも、番には優しいのも、貴方がアルファのせいなんですね」
「さあ。他のアルファは知らない」
「俺の頭が悪いのは、オメガのせいですか。何でも貴方のいうことに従うのは、オメガのせいですか」
「さあ……。他のオメガは知らない」
自分の指を握る。アルバの手が俺の手を包んで握る。アルバの体温はいつも落ち着いている。今は発情期前でリオールの方が体温が高い。
「番契約の解除。俺もそれについて調べる」
「…………そうですね、おれもそっちの方がいいと思います」
「発情期にはキチンと務めは果たす。抱くから服を脱げ。本格的に発情する前に一度ヤれば、大人しく過ごせるはずだ」
服を脱いだ。アルバもジャケットを脱ぎ、逞しい体を久しぶりに見た。ベッドに押し倒されてのしかかられる。大きな体は最初は怖くて、食べられてしまうかと思った。
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