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「あら、あれって……」
鍛冶工房の裏に誰かいるのにフローラは気づいた。
あれはアンナだろうか。ハインツの婚約者の。
最初はあの人は何をしているのだろう、と思うだけだった。ハインツに会いに来たのだろうかと。
人目を避けるように動いているように見えるのはハインツを驚かせようと隠れているため?
そのように最初のうちは色々と好意的にも考えていたが、ハインツがいないのが分かっているのにまだいたり、フローラが見ているのに気づくとさりげなさを装ってその場を離れたりすることが何度も続くとさすがに怪しく思えてくる。
フローラは立場上、ハインツの予定を完全に把握していたからこそ、ハインツがいない時を狙って彼女が来ているとしか思えなかった。
だから、次の仕事でかちあった時に、ハインツにわだかまりを感じていたことを尋ねた。
「ハインツ……あのアンナさん、工房の近くをうろうろしていたけど、うちの倉庫の場所を教えたりしてないわよね?」
「場所は教えてるな。倉庫の整理をした時、その前で待ち合わせて落ち合ってからデートしようって言われたから」
「なんですって!?」
ハインツのあっけらかんとした返答にフローラの顎が落ちる。
「なんでそんなこと教えたの!? 彼女は部外者なのに」
師匠は腕がよくて遠くから貴重な品を預けられて修理を行うことも多い。
盗難を防ぐために、工房の管理庫に入れるのは師匠と二人の見習いの3人だけで、鍵のありかだけでなく、特別な錠前などの位置すら絶対に誰にも教えないように言い含められている。
「彼女は部外者じゃないだろ。俺の婚約者なのに。場所は教えたけど中には入れてないからいいだろ」
「そこに貴重な品があるかもしれないことが分かってしまうってことじゃないの!」
特にここには武器も存在している。
ここからそれらを盗まれて、押入り強盗でもされたら、管理の責任問題に発展する。
貴重品が確実にあるとわかれば、壁を壊してでも強奪される可能性があるのだ。
「あの人、本当に信じられるの? あの娘の狙いが貴方を利用してこの工房の構造を知ることだったら、とんでもないことになるのよ!?」
「アンナを悪く言うな!」
大声で怒鳴られて、驚いたフローラの身体がびくっと揺れた。
「君は彼女の何を知っているというんだ!」
「貴方だって彼女の何を知っているというのよ。ついこないだまで他人だったじゃない!」
呆れて現実を見るように言うが、頭に血が上っているようなハインツは聞く耳を持ってくれない。
「少なくとも、私が貴方を騙す理由はないってことはわかっているでしょう?」
「……君、俺のこと好きなのか?」
「はぁ!?」
「だからアンナに嫉妬して邪魔しようとしてるんだろ? 俺のことがずっと好きだったくせにやせ我慢して祝福なんかして。今更後悔してアンナの嫌な噂を流そうとしてるんだろう」
「図々しい勘違いをしないでちょうだい。大体、私が誰を好きだろうと、窃盗の下見じゃないかって言ってる話とそんなことは別でしょう?」
「図々しいのは君の方だ。これは俺たちの問題だ。部外者が口出してくるなよ」
「そう、私は確かに部外者よね。でも被害が出るのはうちの工房であってあんたじゃないのよ?」
「そうなったら責任は俺がとるだけだろ」
あんたが取りきれる責任じゃないでしょ!
そう言いたかったが、わかってくれない相手にもう何も言う気も起きなくなり、フローラはうなだれるとそのままハインツに背を向けた。
しょんぼりと工房に入るとフローラの顔を見て師匠が驚いた顔をしている。
「フローラ、どうした?」
「師匠……きいてください」
アンナが鍛冶工房の近隣をうろついていていることや、ハインツがアンナに保管庫の場所を明かしてしまっている事実など、全てを打ち明けた。
「ふむ、それは奇妙な話だな……ちょっと警備を固くしておこう」
「信じてくれて、ありがとうございます」
涙が出て来た。これが普通の反応だろう、と自分が間違っていなかったことにほっとして。
ハインツはアンナの行動の怪しさをわかってくれなかったのに。
「取り越し苦労だったらよいのですが……」
「よいよい。警戒しすぎて損になることはない。被害がない方がいいんだから」
師匠は大口を開けて笑うと「とりあえず罠を仕掛けるか」と請け負ってくれた。
鍛冶工房の裏に誰かいるのにフローラは気づいた。
あれはアンナだろうか。ハインツの婚約者の。
最初はあの人は何をしているのだろう、と思うだけだった。ハインツに会いに来たのだろうかと。
人目を避けるように動いているように見えるのはハインツを驚かせようと隠れているため?
そのように最初のうちは色々と好意的にも考えていたが、ハインツがいないのが分かっているのにまだいたり、フローラが見ているのに気づくとさりげなさを装ってその場を離れたりすることが何度も続くとさすがに怪しく思えてくる。
フローラは立場上、ハインツの予定を完全に把握していたからこそ、ハインツがいない時を狙って彼女が来ているとしか思えなかった。
だから、次の仕事でかちあった時に、ハインツにわだかまりを感じていたことを尋ねた。
「ハインツ……あのアンナさん、工房の近くをうろうろしていたけど、うちの倉庫の場所を教えたりしてないわよね?」
「場所は教えてるな。倉庫の整理をした時、その前で待ち合わせて落ち合ってからデートしようって言われたから」
「なんですって!?」
ハインツのあっけらかんとした返答にフローラの顎が落ちる。
「なんでそんなこと教えたの!? 彼女は部外者なのに」
師匠は腕がよくて遠くから貴重な品を預けられて修理を行うことも多い。
盗難を防ぐために、工房の管理庫に入れるのは師匠と二人の見習いの3人だけで、鍵のありかだけでなく、特別な錠前などの位置すら絶対に誰にも教えないように言い含められている。
「彼女は部外者じゃないだろ。俺の婚約者なのに。場所は教えたけど中には入れてないからいいだろ」
「そこに貴重な品があるかもしれないことが分かってしまうってことじゃないの!」
特にここには武器も存在している。
ここからそれらを盗まれて、押入り強盗でもされたら、管理の責任問題に発展する。
貴重品が確実にあるとわかれば、壁を壊してでも強奪される可能性があるのだ。
「あの人、本当に信じられるの? あの娘の狙いが貴方を利用してこの工房の構造を知ることだったら、とんでもないことになるのよ!?」
「アンナを悪く言うな!」
大声で怒鳴られて、驚いたフローラの身体がびくっと揺れた。
「君は彼女の何を知っているというんだ!」
「貴方だって彼女の何を知っているというのよ。ついこないだまで他人だったじゃない!」
呆れて現実を見るように言うが、頭に血が上っているようなハインツは聞く耳を持ってくれない。
「少なくとも、私が貴方を騙す理由はないってことはわかっているでしょう?」
「……君、俺のこと好きなのか?」
「はぁ!?」
「だからアンナに嫉妬して邪魔しようとしてるんだろ? 俺のことがずっと好きだったくせにやせ我慢して祝福なんかして。今更後悔してアンナの嫌な噂を流そうとしてるんだろう」
「図々しい勘違いをしないでちょうだい。大体、私が誰を好きだろうと、窃盗の下見じゃないかって言ってる話とそんなことは別でしょう?」
「図々しいのは君の方だ。これは俺たちの問題だ。部外者が口出してくるなよ」
「そう、私は確かに部外者よね。でも被害が出るのはうちの工房であってあんたじゃないのよ?」
「そうなったら責任は俺がとるだけだろ」
あんたが取りきれる責任じゃないでしょ!
そう言いたかったが、わかってくれない相手にもう何も言う気も起きなくなり、フローラはうなだれるとそのままハインツに背を向けた。
しょんぼりと工房に入るとフローラの顔を見て師匠が驚いた顔をしている。
「フローラ、どうした?」
「師匠……きいてください」
アンナが鍛冶工房の近隣をうろついていていることや、ハインツがアンナに保管庫の場所を明かしてしまっている事実など、全てを打ち明けた。
「ふむ、それは奇妙な話だな……ちょっと警備を固くしておこう」
「信じてくれて、ありがとうございます」
涙が出て来た。これが普通の反応だろう、と自分が間違っていなかったことにほっとして。
ハインツはアンナの行動の怪しさをわかってくれなかったのに。
「取り越し苦労だったらよいのですが……」
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