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フローラ(16)……マーブル村の鍛冶工房に勤めている鍛冶見習い。
ハインツ(20)……フローラの相方の鍛冶見習い。力が強い。フローラとは幼なじみでもある。
* * *
「フローラ、今度の夏祭りに一緒に行かないか?」
「いいねえ。この斧の仕上げが終わってからだけどね」
ここは鍛冶場の工房。斧の柄付けや研ぎなどは比較的気楽な作業の方だから、ついついお喋りしてしまう。
フローラとハインツが夏祭りの話題で盛り上がっていれば、師匠から「そこ、口より手を動かせ!」と叱られ、二人して首を竦めた。
二人は幼なじみでもあり、仕事上の相棒でもあって気心が知れている仲だった。
「ほら、これは俺が運ぶよ」
「あ、ありがと」
フローラが重さでふらふらになりながら運んでいる鉄材や冷却水などを男のハインツはけろっともっていってしまう。
男の職場と言われる鍛冶屋に特別体が大きいわけでも丈夫というわけでもない普通の体格の女性フローラがいるのは、単にこの仕事が好きだからである。
フローラは男ほど体力がないし、ハインツはフローラほどの細心さと繊細さがなかったため、その辺りはフローラが請け負っていて、お互いカバーをしあって過ごしていた。
しかし、作業場を出ればフローラはただの一人の女の子だ。
休みの日は村の女友達と遊びに行くことだってある。
今日は仲良しなエレインと店を冷やかしながら歩いていた。
「もうすぐ夏祭りね。フローラはどうするの?」
やはり村に住む者にとって大きな話題は、もうすぐ開催される夏祭りだ。みんな楽しみにしているのだろう。
「私はハインツと一緒に行くつもりだよ」
あ、これ、可愛いね、と売り物のカップを手に取りながら、エレインの質問にフローラは何気なく答えた。そんなフローラをエレインはなんとも言えない顔をしてみていたが。
「…………。ねえ、フローラ、貴方、ハインツと付き合ってるの?」
唐突なエレインの不躾な質問にフローラは眉をひそめる。
「はあ? そんなわけないでしょ?」
「だって、ずっと一緒にいるじゃない。職場でも一緒なだけでなく、お祭りまで一緒にいくなんて」
「誘われたから行くだけよ」
「フローラ、あなたって村の男の子に人気あるのに……幼馴染とずっと一緒にいるから、みんなあなたたちのことを邪推しちゃうのよ?」
「人気ある? そんなわけないって! それに今の私には、恋人作りとかより仕事の方が大事だしね」
そんな相手ではないと全力でエレインの言葉を否定し、笑った次の日のことだった。
師匠がにやにや笑いながらハインツに『隣の大工のオヤジから口利きを頼まれたんだけどよぉ』と話しかけてきた。
そこにいるフローラも、別に聞き耳を立てるわけではなかったが、一緒になって話をきくこととなってしまった。
「ハインツ、お前に見合いの話が来ている」
その言葉にフローラは「わぁ!」と両手を売って面白がり、ハインツは照れて真っ赤になった。
「へー、ハインツ、おめでとう! 式には呼んでよ」
「まだ相手の娘と会ってもないんだぞ!? 気が早いって!」
「ハインツがいいなら会ってみるか?」
その言葉と場に流された形となってハインツが頷き、アンナという隣村の女性と見合いすることになったのだが、その噂は狭い村の中で、あっという間に広がった。
その後、顔合わせをしたハインツとアンナは幸いにもお互いを気に入ったようで、結婚を前提のお付き合いも順調に進んでいっているようなのだが。
そんな中でフローラは何度も、村の人からこっそりと尋ねられていた。
「フローラ、お前いいのか?」
「なにが?」
「お前、ハインツのこと好きなんじゃないの?」
「幼馴染ってだけだってば」
ハインツの婚約でなぜかフローラが気遣われることがあって当惑してしまった。他の人もフローラを物言いたげに見ている気がするし。
「すまない、夏祭りの約束していたのに行けそうにない」
「そりゃそうでしょ。婚約者と行きなさいよ」
そしてなぜかハインツまでも済まなそうな顔をしているのも解せなくて、フローラは彼の肩を笑って頑張れ、と叩いた。
ハインツ(20)……フローラの相方の鍛冶見習い。力が強い。フローラとは幼なじみでもある。
* * *
「フローラ、今度の夏祭りに一緒に行かないか?」
「いいねえ。この斧の仕上げが終わってからだけどね」
ここは鍛冶場の工房。斧の柄付けや研ぎなどは比較的気楽な作業の方だから、ついついお喋りしてしまう。
フローラとハインツが夏祭りの話題で盛り上がっていれば、師匠から「そこ、口より手を動かせ!」と叱られ、二人して首を竦めた。
二人は幼なじみでもあり、仕事上の相棒でもあって気心が知れている仲だった。
「ほら、これは俺が運ぶよ」
「あ、ありがと」
フローラが重さでふらふらになりながら運んでいる鉄材や冷却水などを男のハインツはけろっともっていってしまう。
男の職場と言われる鍛冶屋に特別体が大きいわけでも丈夫というわけでもない普通の体格の女性フローラがいるのは、単にこの仕事が好きだからである。
フローラは男ほど体力がないし、ハインツはフローラほどの細心さと繊細さがなかったため、その辺りはフローラが請け負っていて、お互いカバーをしあって過ごしていた。
しかし、作業場を出ればフローラはただの一人の女の子だ。
休みの日は村の女友達と遊びに行くことだってある。
今日は仲良しなエレインと店を冷やかしながら歩いていた。
「もうすぐ夏祭りね。フローラはどうするの?」
やはり村に住む者にとって大きな話題は、もうすぐ開催される夏祭りだ。みんな楽しみにしているのだろう。
「私はハインツと一緒に行くつもりだよ」
あ、これ、可愛いね、と売り物のカップを手に取りながら、エレインの質問にフローラは何気なく答えた。そんなフローラをエレインはなんとも言えない顔をしてみていたが。
「…………。ねえ、フローラ、貴方、ハインツと付き合ってるの?」
唐突なエレインの不躾な質問にフローラは眉をひそめる。
「はあ? そんなわけないでしょ?」
「だって、ずっと一緒にいるじゃない。職場でも一緒なだけでなく、お祭りまで一緒にいくなんて」
「誘われたから行くだけよ」
「フローラ、あなたって村の男の子に人気あるのに……幼馴染とずっと一緒にいるから、みんなあなたたちのことを邪推しちゃうのよ?」
「人気ある? そんなわけないって! それに今の私には、恋人作りとかより仕事の方が大事だしね」
そんな相手ではないと全力でエレインの言葉を否定し、笑った次の日のことだった。
師匠がにやにや笑いながらハインツに『隣の大工のオヤジから口利きを頼まれたんだけどよぉ』と話しかけてきた。
そこにいるフローラも、別に聞き耳を立てるわけではなかったが、一緒になって話をきくこととなってしまった。
「ハインツ、お前に見合いの話が来ている」
その言葉にフローラは「わぁ!」と両手を売って面白がり、ハインツは照れて真っ赤になった。
「へー、ハインツ、おめでとう! 式には呼んでよ」
「まだ相手の娘と会ってもないんだぞ!? 気が早いって!」
「ハインツがいいなら会ってみるか?」
その言葉と場に流された形となってハインツが頷き、アンナという隣村の女性と見合いすることになったのだが、その噂は狭い村の中で、あっという間に広がった。
その後、顔合わせをしたハインツとアンナは幸いにもお互いを気に入ったようで、結婚を前提のお付き合いも順調に進んでいっているようなのだが。
そんな中でフローラは何度も、村の人からこっそりと尋ねられていた。
「フローラ、お前いいのか?」
「なにが?」
「お前、ハインツのこと好きなんじゃないの?」
「幼馴染ってだけだってば」
ハインツの婚約でなぜかフローラが気遣われることがあって当惑してしまった。他の人もフローラを物言いたげに見ている気がするし。
「すまない、夏祭りの約束していたのに行けそうにない」
「そりゃそうでしょ。婚約者と行きなさいよ」
そしてなぜかハインツまでも済まなそうな顔をしているのも解せなくて、フローラは彼の肩を笑って頑張れ、と叩いた。
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