異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

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12 これで農閑期を越せる

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「あなたが…看病してくださったのか」

男性は話すそばからゴホゴホとせき込む。男の子が心配そうに男性に駆け寄って、男性は「レオ、無事でよかった」と男の子を抱きしめる。そして私が差し出した水を飲みほした。

「感謝する」
「感謝するならクリスタちゃんに。どうもあなたはなにか悪い病気にかかっていたようで、彼女が治療してくれました」

男性はブラウントルマリンみたいな、見る角度や光の加減によって色が変わる不思議な目を見開く。そしてクリスタちゃんの手首を見て、「魔力持ちか」とつぶやいた。私は思わずかちんとしてしまう。この世界でその言葉が差別的な意味をもつことを、もう理解しているから。

「ありがとうも言わずに、失礼じゃないですか?魔力持ちには感謝する気すらないんですか?そういう差別主義者はお断りなので、今すぐ出て行ってください。お子さんの分の水とお弁当だけお渡ししますから」

男性はハッとして、ベッドから下りて立ち上がった。すらりと背が高くて、モデルみたいにスタイルがいい。そしてクリスタちゃんの前で跪いて、頭を下げた。いや、絶対この人、高貴な身分の人だよね。元の世界では絶対にお目にかからない気障な姿勢が、ほんと絵になってる。

「命を救っていただき、感謝する。そして”魔力持ち”などと言って申し訳なかった。せめてものお礼と謝罪の印に、こちらを」

差し出された袋には金貨が数えきれないくらい入っていた。いや、それはそれで子どもに渡すような額ではない。きっと高貴過ぎて金銭感覚が庶民とは違うんだ。しかも「出て行け」とか言ったあとに差し出されたら、まるでこっちが脅してお金を奪い取ったみたいで嫌じゃない。

「いえいえ、いくらなんでもそんな大金は受け取れません!ね、クリスタちゃん!!」

果樹園のりんごを全部まとめて売っても、マリウスさんからこんなにお金はもらえない。クリスタちゃんは金貨の輝きを目に反射させ、ただでさえキラキラしている目をさらにキラキラさせている。きっとあのチープな食玩をいくつ買えるか考えているのだろう。金貨一枚で、何個でも買えるねぇ。

「サティ!おじさん、お金いっぱいくれるって!」

高貴っぽい男性は「おじさん」という言葉にショックを受けているが、気にしている場合ではない。

「そうだね。でもこんなにもらうのはよくないよ」
「どうして?」
「どうしてって…その…」

子どもの頃からこんな大金をもつのは良くないとか、限りあるお金でやりくりする大切さを覚えてほしいとか、言い訳がぐるぐる回る。言い訳はいくらでもあるけど、正直このお金があれば安心して農閑期を越せる。でも、でもでも…庶民のところに大金が転がり込んでくるとか、いわゆる破滅フラグでは…!?

「もらっときゃいいだろ、サティ。おっさんを運ぶのも大変だったし、命を助けたんだから」というテオくんの言葉で、私はぐらぐらしながらクリスタちゃんと一緒にずっしり重い袋を受け取った。ああ、受け取ってしまった。なんだか罪悪感がある。でも助かる。

貴族らしき男性は私と子どもたちをかわるがわる見た。

「立ち入ったことをお伺いするが、あなたとこの子どもたちは、親子ではないのか?子どもたちがあなたを名前で…サティと呼んでいるようだが」
「親子ではないし血のつながりもありません。ですが大切な存在ではありますよ。家族のような」

「ね」というと、クリスタちゃんもテオくんもこくりと頷いてくれる。可愛すぎて泣きたくなる。「そうなのか」という男性の声と同時に、「レオ」と呼ばれた男の子のお腹がぐううっと鳴った。男の子はかあっと顔を赤くする。私より先にクリスタちゃんが彼の前にかがんだ。

「お腹空いたね。クリスタもぺこぺこ。おばあちゃんが作ってくれたベーコンパイがあるから一緒に食べよう。りんごもあるよ」

男の子は顔を赤くして、こくんと頷く。これはこれは、もしかして初恋が芽生える場面を目撃してしまったんじゃないかしら。うちのクリスタちゃんのピンクパープルの瞳で笑いかけられたら、そりゃ恋が芽生えますって。

私はふふっと笑って、子どもたちを部屋の外に出した。「ご飯の前にしっかり手を洗ってね、三十秒だよ」と呼び掛けてから、男性を振り返る。

「あなたにはりんご粥をお持ちしますね。少し待っててください」

男性は跪いた姿勢から弾かれたように立ち上がり、「私も一緒に…!あの子と離れるわけには…!!」と言いかけてぐらりとよろめいた。私は慌てて彼の脇の下に入って、支える。細く見えるけど意外に重い。

「んしょ…まだ無理じゃないですか。お子さんはしっかり見ていますから、ベッドで安静にしてください」
「でも、あの子が…」
「お父さん、大丈夫ですから。ときにはお子さんと離れて慣れさせることも大切ですよ」

そう、保育士ですから任せなさい。「ね」と、私は彼にウインクした。
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