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テオドールは、最近の弟ケイの変化を観察していた。
以前はただ受け身で耐えるだけの存在だったケイ。
今は能動的に動き、テオドールの母の策略をかわし、逆に罠に嵌めるようになっている。
――そう。
テオドールは、ケイやピアディの予想通り、回帰者だ。
しかし、そのことをケイには伝えられなかった。
(現実が変わる確信がまだ持てない。下手に伝えて、前より酷い事態になったらどうする?)
何が原因で回帰したのか、テオドールにもわからなかった。
(いや。多分、あのピンクのウパルパが関与しているのだろう。……あれ、本当に魔物じゃないのだよな?)
テオドールが慎重になるのは理由があった。
回帰前の人生は悲劇の一言に尽きた。
嫉妬と劣等感に狂った母セオドラは、テオドールと父伯爵が戦争に従軍して留守の間に、ケイとその母ポーラを追放してしまったのだ。
そして二人は死んだ。
ポーラは妾とはいえ子爵家出身の女性だ。
ケイに至っては正式な伯爵令息にも関わらず、スラム街で貧しさと病で死んでしまった。
その後、伯爵家に待っていたのは、――破滅の悲劇だった。
☆ ☆ ☆
テオドールは目を閉じた。
アルトレイ伯爵家が滅んだ日のことは、今でも鮮明に思い出せる。
あの光景は、永遠に忘れることができないだろう。
回帰前の人生で、ケイとポーラはスラム街まで落ちぶれても、人々に慕われていた。
貧しい中でも、ケイ母子はいつも笑顔を絶やさず、分け隔てなく人々と接していた。
ポーラは、わずかばかりの食料を分け与え、ケイはスラムの子供たちと一緒に遊んでやっていた。
「ケイ兄ちゃん、ありがとう!」
「ポーラおばさん、大好き!」
スラムの人々は、ケイ母子に助けられ、彼らを家族のように思っていた。
テオドールは、それらの事実を後になって知った。
ケイがあんなにも優しい子だったことを、なぜもっと早く認めて受け入れられなかったのだろう。
だが、正妻セオドラは、ケイ母子をどこまでも憎んでいた。
ポーラが夫ユヴェルナート伯爵の最愛の女性であることが、嫉妬に狂わせていたのだ。
(母の狂気の原点はそこだ。なぜそこまで……)
よく母はテオドールに言い聞かせていた。
呪いのような言葉だ。
『ケイとポーラは必ず追放するわ、あの女とその息子がいる限り、私は幸せになれない』
セオドラは手先の使用人を操り、ケイ母子を徹底的に追い詰めた。
まず、少しずつ伯爵家に自分の配下を招き入れて、使用人たちを掌握して味方につけた。
これはセオドラが王女であったことから容易だった。権力の強いほうに人はなびく生き物だからだ。
次に、ケイたちを本邸から追い出し、別邸での生活を強いた。
そこからはセオドラの独壇場だ。
ポーラとケイ親子への予算を削り、あるいは配下に命じて横領させて、物理的にも精神的にも二人を追い詰めていった。
日々、二人に嫌がらせを行わせて虐げることも忘れない。
誤算があったとしたら、妾ポーラが忍耐深い女性で、どれだけ虐げても心を折ることがなかったことだろう。
そして、ついにはテオドールとケイが成人を迎えた頃に絶好のチャンスが来た。
他国との戦争が始まり、当主の父と嫡男テオドールは戦地に従軍することになったのだ。
このチャンスを逃すまいと、セオドラは夫伯爵に訴えた。
『戦地に赴き兵を率いるのは、後継ぎのテオドールの義務です。妾の息子ではありません』
結果、セオドラの思う通り、ケイは母ポーラと一緒に伯爵家に残ることになった。
セオドラは即座にケイたちを別邸からも追い出した。
夫も息子もいない伯爵家の全権は正妻セオドラにある。その権力で二人の貴族籍を抜き、スラム街で暮らすしかなくなるまでに落ちぶれさせるまでに、半年とかからなかった――
だが、ケイとポーラは伯爵家を追放され平民落ちして貧しくなっても、笑顔を絶やさなかった。
スラムの人々に支えられ、助け合いながら生きていたことを、今のテオドールは知っている。
以前はただ受け身で耐えるだけの存在だったケイ。
今は能動的に動き、テオドールの母の策略をかわし、逆に罠に嵌めるようになっている。
――そう。
テオドールは、ケイやピアディの予想通り、回帰者だ。
しかし、そのことをケイには伝えられなかった。
(現実が変わる確信がまだ持てない。下手に伝えて、前より酷い事態になったらどうする?)
何が原因で回帰したのか、テオドールにもわからなかった。
(いや。多分、あのピンクのウパルパが関与しているのだろう。……あれ、本当に魔物じゃないのだよな?)
テオドールが慎重になるのは理由があった。
回帰前の人生は悲劇の一言に尽きた。
嫉妬と劣等感に狂った母セオドラは、テオドールと父伯爵が戦争に従軍して留守の間に、ケイとその母ポーラを追放してしまったのだ。
そして二人は死んだ。
ポーラは妾とはいえ子爵家出身の女性だ。
ケイに至っては正式な伯爵令息にも関わらず、スラム街で貧しさと病で死んでしまった。
その後、伯爵家に待っていたのは、――破滅の悲劇だった。
☆ ☆ ☆
テオドールは目を閉じた。
アルトレイ伯爵家が滅んだ日のことは、今でも鮮明に思い出せる。
あの光景は、永遠に忘れることができないだろう。
回帰前の人生で、ケイとポーラはスラム街まで落ちぶれても、人々に慕われていた。
貧しい中でも、ケイ母子はいつも笑顔を絶やさず、分け隔てなく人々と接していた。
ポーラは、わずかばかりの食料を分け与え、ケイはスラムの子供たちと一緒に遊んでやっていた。
「ケイ兄ちゃん、ありがとう!」
「ポーラおばさん、大好き!」
スラムの人々は、ケイ母子に助けられ、彼らを家族のように思っていた。
テオドールは、それらの事実を後になって知った。
ケイがあんなにも優しい子だったことを、なぜもっと早く認めて受け入れられなかったのだろう。
だが、正妻セオドラは、ケイ母子をどこまでも憎んでいた。
ポーラが夫ユヴェルナート伯爵の最愛の女性であることが、嫉妬に狂わせていたのだ。
(母の狂気の原点はそこだ。なぜそこまで……)
よく母はテオドールに言い聞かせていた。
呪いのような言葉だ。
『ケイとポーラは必ず追放するわ、あの女とその息子がいる限り、私は幸せになれない』
セオドラは手先の使用人を操り、ケイ母子を徹底的に追い詰めた。
まず、少しずつ伯爵家に自分の配下を招き入れて、使用人たちを掌握して味方につけた。
これはセオドラが王女であったことから容易だった。権力の強いほうに人はなびく生き物だからだ。
次に、ケイたちを本邸から追い出し、別邸での生活を強いた。
そこからはセオドラの独壇場だ。
ポーラとケイ親子への予算を削り、あるいは配下に命じて横領させて、物理的にも精神的にも二人を追い詰めていった。
日々、二人に嫌がらせを行わせて虐げることも忘れない。
誤算があったとしたら、妾ポーラが忍耐深い女性で、どれだけ虐げても心を折ることがなかったことだろう。
そして、ついにはテオドールとケイが成人を迎えた頃に絶好のチャンスが来た。
他国との戦争が始まり、当主の父と嫡男テオドールは戦地に従軍することになったのだ。
このチャンスを逃すまいと、セオドラは夫伯爵に訴えた。
『戦地に赴き兵を率いるのは、後継ぎのテオドールの義務です。妾の息子ではありません』
結果、セオドラの思う通り、ケイは母ポーラと一緒に伯爵家に残ることになった。
セオドラは即座にケイたちを別邸からも追い出した。
夫も息子もいない伯爵家の全権は正妻セオドラにある。その権力で二人の貴族籍を抜き、スラム街で暮らすしかなくなるまでに落ちぶれさせるまでに、半年とかからなかった――
だが、ケイとポーラは伯爵家を追放され平民落ちして貧しくなっても、笑顔を絶やさなかった。
スラムの人々に支えられ、助け合いながら生きていたことを、今のテオドールは知っている。
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