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しかし、だ。
ケイが病に倒れた時、状況は一変した。
貧しく困窮した親子は治療費を捻出できなかったのだ。
ポーラは息子を救うために娼館に身を売った。
しかし、正妻セオドラの手先が金を奪い、結局、治療費を払うことができなかった。
スラムの人々は、自分たちを助けてくれた元貴族のケイ母子を助けたいと強く願った。
「ケイ兄ちゃんを助けたい」
「ポーラおばさんを救わなきゃ」
だが、セオドラの手先がスラムに目を光らせ、誰も手を出すことができなかった。
その執念は見事とすら言えた。
「逆らったら、俺たちまで殺されてしまう……」
「ごめんよ、ケイ兄ちゃん……」
それでも、スラムの人々は諦めなかった。
彼らはお金を出し合い、戦地の伯爵ユヴェルナートに手紙を送った。
「ケイ兄ちゃんが危ない。ポーラおばさんが……」
その手紙が、戦地にいる父ユヴェルナートとテオドールの元に届いたの奇跡と言えただろう。
手紙を読んだテオドールと父は、国王にお家騒動の勃発を訴えて許可をもぎ取り、戦地から必死に帰還した。
一刻も早く帰らなければ、ケイたちが危ない――。
だが、彼らが屋敷に戻った時には既に手遅れだった。
屋敷に着くなり、テオドールと父は家中を駆け回ってケイとポーラを探した。
「ケイ! ポーラ様! どこにいるんだ!」
いない!
母の手先の使用人を脅し、締め上げて、ケイたちが今はスラム街にいることや、今このとき死にかけていることを知った。
当然、父ユヴェルナートは大激怒した。
「なんということだ……! ケイとポーラを追放して殺し、海に捨てよと命じただと!?」
セオドラは、狂ったように笑っていた。
「遅かったじゃありませんか、旦那様。余計なゴミを掃除しただけですの。褒めてくださってもよろしくてよ?」
ユヴェルナートの顔から血の気が引いた。
しばらく葛藤する様子を見せていたが、覚悟を決めたように、セオドラを強く睨みつけた。
「お前を、もう妻とは認められん……離縁する」
その瞬間、セオドラの顔が歪み、狂気の笑みを浮かべた。
「旦那様。あなたはどれだけわたくしを苦しめれば気が済みますの? は、は、ははは……なら、貴方も地獄へ堕ちなさい!」
隠し持っていた短刀が閃き、ユヴェルナートの腹を貫いた。
だが、彼も剣を抜き、セオドラを刺し返した。
二人は血まみれで倒れた。
ほんの、ごく短い時間に二人の命は完全に消えてしまった。
「母上、……父上!」
テオドールは、震える足で両親の元に駆け寄った。
「……なぜ、こんなことに……!」
頭を抱え、叫んだ。
「テオドール様! ケイ様とポーラ様の行方がわかりました! お早く!」
絶望に浸っている暇はなかった。
側近の騎士がケイたちの情報をかき集めて報告に来た。
戦地から戻ったばかりの疲労と、目の前で父母の悲劇を目の当たりにして心は千切れる寸前だった。
だが自らを叱咤して馬でスラム街のケイたちの家へ駆けつけると、怪しい動きをする男たちを見つけた。
彼らは、大きな袋を抱えて海に向かっていた。
袋の中身は恐らく、――ケイとポーラだ!
(間に合ったか!?)
「何をしている!」
「えっ? テオドール様!?」
「おい、早く海に捨ててしまえ!」
テオドールが叫ぶと、男たちは驚いた顔をして、慌てて袋を海に投げ入れた。
ザバァン――
「ケイーーーッ!!」
テオドールは必死に手を伸ばした。
だが、間に合わなかった。
袋は沈んでいく。
中から、男の手が見えた。
ケイの手だ、と気づいたらもう堪らなかった。
「嫌だ、嫌だ! ケイ! ポーラ様ぁぁぁ!」
テオドールは海に飛び込もうとしたが、騎士たちに止められた。
「坊ちゃま、危険です! 波が荒れています!」
「放せ! 放せぇぇぇぇ!」
必死にもがき、叫んだが、ケイとポーラは二度と浮かんでくることはなかった。
「なんでだ。どうしてこんなことになった? 母上、どうしてなのですか!?」
屋敷で父と相打ちになり、血の海に沈んだ母セオドラ。
「あなたがポーラ様を憎むのはわかる。夫を他の女に取られているのだから」
拭いようのない涙が、テオドールの黒い目から次から次へと溢れ、頬を伝って落ちていく。
「だが、ケイは……父を同じくする私の、弟なのですよ! どうして。どうして……!」
テオドールはその場に膝と両手をついて項垂れた。
(これでは、何のためにケイを虐めていたのかわからない。私がケイを邪険に扱えば母上の目が逸れるからと必死だったのに)
(こんな。こんなことになるとわかってたら、もっと……もっと私は兄としてケイと関わりたかった!)
「ケイも、ポーラ様も、父上も、母上も……皆、いなくなってしまった……!」
そして、強く願った。
(もし、もう一度やり直せるのなら……)
(もう二度と、こんな悲劇は繰り返さない!)
その瞬間、金色の光が弾けた。
光は目の前の海の中からと、――テオドールの身体から発せられていた。
「なんだ? 眩しい……!」
慌てて目を閉じる。そのまま意識が薄れて自分を失った。
次に目を開けたとき、テオドールは今の十歳の子供の頃に戻っていた。
これが、テオドールが回帰した経緯である。
「ケイ。君がポーラ様を大切にしてるのと同じぐらい、私も母を……救いたいのだ」
ケイの様子と、自称守護者のピアディなるウパルパを見て確信した。
(ケイ。お前も回帰しているのだな。恐らくあのウーパールーパーの力か)
(我ら二人が回帰しているなら……今度こそ、悲劇を変えられるかもしれない)
今ほどケイが『上手く立ち回っている』光景は初めて見た。
回帰前、いつもケイは、セオドラや使用人たちの嫌がらせに耐えるばかりで、自分から動けない子だったのに。
しかし、ケイに真実を話すことが、果たして正解なのか――
テオドールは、激しい葛藤に苛まれていた。
ケイが病に倒れた時、状況は一変した。
貧しく困窮した親子は治療費を捻出できなかったのだ。
ポーラは息子を救うために娼館に身を売った。
しかし、正妻セオドラの手先が金を奪い、結局、治療費を払うことができなかった。
スラムの人々は、自分たちを助けてくれた元貴族のケイ母子を助けたいと強く願った。
「ケイ兄ちゃんを助けたい」
「ポーラおばさんを救わなきゃ」
だが、セオドラの手先がスラムに目を光らせ、誰も手を出すことができなかった。
その執念は見事とすら言えた。
「逆らったら、俺たちまで殺されてしまう……」
「ごめんよ、ケイ兄ちゃん……」
それでも、スラムの人々は諦めなかった。
彼らはお金を出し合い、戦地の伯爵ユヴェルナートに手紙を送った。
「ケイ兄ちゃんが危ない。ポーラおばさんが……」
その手紙が、戦地にいる父ユヴェルナートとテオドールの元に届いたの奇跡と言えただろう。
手紙を読んだテオドールと父は、国王にお家騒動の勃発を訴えて許可をもぎ取り、戦地から必死に帰還した。
一刻も早く帰らなければ、ケイたちが危ない――。
だが、彼らが屋敷に戻った時には既に手遅れだった。
屋敷に着くなり、テオドールと父は家中を駆け回ってケイとポーラを探した。
「ケイ! ポーラ様! どこにいるんだ!」
いない!
母の手先の使用人を脅し、締め上げて、ケイたちが今はスラム街にいることや、今このとき死にかけていることを知った。
当然、父ユヴェルナートは大激怒した。
「なんということだ……! ケイとポーラを追放して殺し、海に捨てよと命じただと!?」
セオドラは、狂ったように笑っていた。
「遅かったじゃありませんか、旦那様。余計なゴミを掃除しただけですの。褒めてくださってもよろしくてよ?」
ユヴェルナートの顔から血の気が引いた。
しばらく葛藤する様子を見せていたが、覚悟を決めたように、セオドラを強く睨みつけた。
「お前を、もう妻とは認められん……離縁する」
その瞬間、セオドラの顔が歪み、狂気の笑みを浮かべた。
「旦那様。あなたはどれだけわたくしを苦しめれば気が済みますの? は、は、ははは……なら、貴方も地獄へ堕ちなさい!」
隠し持っていた短刀が閃き、ユヴェルナートの腹を貫いた。
だが、彼も剣を抜き、セオドラを刺し返した。
二人は血まみれで倒れた。
ほんの、ごく短い時間に二人の命は完全に消えてしまった。
「母上、……父上!」
テオドールは、震える足で両親の元に駆け寄った。
「……なぜ、こんなことに……!」
頭を抱え、叫んだ。
「テオドール様! ケイ様とポーラ様の行方がわかりました! お早く!」
絶望に浸っている暇はなかった。
側近の騎士がケイたちの情報をかき集めて報告に来た。
戦地から戻ったばかりの疲労と、目の前で父母の悲劇を目の当たりにして心は千切れる寸前だった。
だが自らを叱咤して馬でスラム街のケイたちの家へ駆けつけると、怪しい動きをする男たちを見つけた。
彼らは、大きな袋を抱えて海に向かっていた。
袋の中身は恐らく、――ケイとポーラだ!
(間に合ったか!?)
「何をしている!」
「えっ? テオドール様!?」
「おい、早く海に捨ててしまえ!」
テオドールが叫ぶと、男たちは驚いた顔をして、慌てて袋を海に投げ入れた。
ザバァン――
「ケイーーーッ!!」
テオドールは必死に手を伸ばした。
だが、間に合わなかった。
袋は沈んでいく。
中から、男の手が見えた。
ケイの手だ、と気づいたらもう堪らなかった。
「嫌だ、嫌だ! ケイ! ポーラ様ぁぁぁ!」
テオドールは海に飛び込もうとしたが、騎士たちに止められた。
「坊ちゃま、危険です! 波が荒れています!」
「放せ! 放せぇぇぇぇ!」
必死にもがき、叫んだが、ケイとポーラは二度と浮かんでくることはなかった。
「なんでだ。どうしてこんなことになった? 母上、どうしてなのですか!?」
屋敷で父と相打ちになり、血の海に沈んだ母セオドラ。
「あなたがポーラ様を憎むのはわかる。夫を他の女に取られているのだから」
拭いようのない涙が、テオドールの黒い目から次から次へと溢れ、頬を伝って落ちていく。
「だが、ケイは……父を同じくする私の、弟なのですよ! どうして。どうして……!」
テオドールはその場に膝と両手をついて項垂れた。
(これでは、何のためにケイを虐めていたのかわからない。私がケイを邪険に扱えば母上の目が逸れるからと必死だったのに)
(こんな。こんなことになるとわかってたら、もっと……もっと私は兄としてケイと関わりたかった!)
「ケイも、ポーラ様も、父上も、母上も……皆、いなくなってしまった……!」
そして、強く願った。
(もし、もう一度やり直せるのなら……)
(もう二度と、こんな悲劇は繰り返さない!)
その瞬間、金色の光が弾けた。
光は目の前の海の中からと、――テオドールの身体から発せられていた。
「なんだ? 眩しい……!」
慌てて目を閉じる。そのまま意識が薄れて自分を失った。
次に目を開けたとき、テオドールは今の十歳の子供の頃に戻っていた。
これが、テオドールが回帰した経緯である。
「ケイ。君がポーラ様を大切にしてるのと同じぐらい、私も母を……救いたいのだ」
ケイの様子と、自称守護者のピアディなるウパルパを見て確信した。
(ケイ。お前も回帰しているのだな。恐らくあのウーパールーパーの力か)
(我ら二人が回帰しているなら……今度こそ、悲劇を変えられるかもしれない)
今ほどケイが『上手く立ち回っている』光景は初めて見た。
回帰前、いつもケイは、セオドラや使用人たちの嫌がらせに耐えるばかりで、自分から動けない子だったのに。
しかし、ケイに真実を話すことが、果たして正解なのか――
テオドールは、激しい葛藤に苛まれていた。
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