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祖父王の話を聞いて、テオドールは納得した。
「そういう、ことでしたか」
回帰前も、回帰後の今も、テオドールには母の嫉妬の理由がよくわからなかった。
(だって王侯貴族は政略結婚が当たり前だ。父とポーラ様みたいな関係こそ例外)
だが、初恋が破れたとなれば理解できる。
「そんな……単純なことだったとは」
セオドラは、最愛の人に愛されることなく、妾の存在を知り、嫉妬と絶望に囚われた。
その結果が、ケイとポーラ親子への過酷な虐げに繋がっていた。
祖父王の瞳が悲しみに沈んだ。
「すべては、私が真実を告げなかったせいだ。せめて、セオドラに事実を伝えて覚悟させてから嫁がせるべきだった」
(母上は、ただ知らなかっただけ……だから父上に嫁いで突然知らされたポーラ様の存在に怒った)
(最初から、愛されない運命だったなんて……)
我が祖父は何と残酷なことをしたのだろうか。
(母上は、ただ知らなくて傷ついた女だった……)
(お祖父様だって、悪気があったわけじゃない。娘を思って、事実を伝えなかっただけだ)
(わざと母上を傷つけようとしたわけじゃない。確かに勇者の血筋のアルトレイ家に娘を嫁がせたい思惑はあったけど……。母上を思っての行動が、すれ違いを生み、悲劇を招いたんだ……)
テオドールは頭を抱えた。
「誰も責められない。相手のことを思って、ちょっとのすれ違いがこんな大ごとになってしまった……」
呆然とするテオドールに、祖父王が重い声で言った。
「今となっては、セオドラの味方はお前だけだ。テオドール」
テオドールは顔を上げた。
「こうして母を思い、余に会いにまで来た。もしセオドラを救える者がいるとしたら、お前こそが唯一の存在だろう」
「お祖父様」
「それに、お前こそが余の孫であり、王家と勇者の血を繋ぐアルトレイ家の後継者。……守ってみせよ。それがお前の使命ぞ」
「私が、母上を救い……アルトレイ家を守る……」
既に決意していたことではある。
テオドールの黒い瞳に更に強い光が宿った。
「お祖父様のお言葉で、私はどんな困難にも立ち向かう覚悟が決まりました。ですがまだ懸念事項があります」
「セオドラの近くにいる呪術師とやらか」
祖父王は目を細め、深い息を吐いた。
「いくら元王女でも、邪悪な呪術を使ったと露呈したらただでは済まんぞ」
「私はまだ十歳で、呪術に対抗する術を持ちません。マナの扱いを学べる学園入学はまだ六年も先です。せめて魔法使いの派遣をお願いしたく……」
「聞け、テオドールよ。お前が手紙に書いた呪術師には思い当たるものがある。お前の母を狂気に堕とした張本人の正体だ」
テオドールは緊張で喉が渇いた。
(張本人……?)
「人をそそのかし、感情を刺激して思い通りに操る……邪悪な呪術を使う一族に、腐敗する血とも呼ばれるロットヴェインがおる」
「ロットヴェイン……」
テオドールはその名前を反芻した。
(確か、古い伝承に出てくる呪術師の名前だ……)
「ロットヴェインは、かつて王国を滅ぼそうとした邪悪な呪術師だ」
祖父王は拳を握りしめ、忌々しげに語った。
「奴は、不死の力を手に入れるために禁忌の呪術を追い求めていた」
「不死、ですか?」
「そうだ。だが、そのためには『勇者の血』が必要だった」
テオドールの目が見開かれた。
「勇者の血……それって、アルトレイ伯爵家の……」
「そうだ。アルトレイ伯爵家は、勇者の末裔だ。奴は、勇者の血を手に入れることで不死の呪術を完成させようとしている」
その可能性に思い至り、祖父王は忙しい中でも時間を見つけてテオドールを王宮に呼んだわけだ。
「では、奴の目的はケイ……?」
祖父王は深く頷いた。
テオドールは、弟ケイが勇者の証である金色の光を発したところを見たことも、手紙に書いていたのだ。
「我が孫よ。お前もまた、勇者の血を引いている。忘れてはならぬぞ」
ここで祖父は、王としてある秘密を教えてくれた。
「本来ならお前が伯爵を継いだとき前当主から伝えられることだが……アルトレイ伯爵家の血筋はな、一滴でも血を受け継いでいれば誰でも勇者の素質を持つのだ」
「そんな。さすがにそれは大袈裟すぎませんか?」
「まだ秘密がある。アルトレイ家の血筋のうち、黒髪と黒目を持つ者であれば、と条件が付く」
今のアルトレイ伯爵家で、その条件に該当するのは父ユヴェルナートと弟ケイ、そして――テオドールだ。
「では、ケイだけではなく、私も……」
祖父王は真剣な目でテオドールを見つめた。
「そうだ。だから、セオドラの側にいるのが誠にロットヴェインであれば、お前のことも狙ってくるはずだ」
テオドールの背筋が凍った。
(私も……狙われている……?)
「ロットヴェインは、勇者の血を手に入れるために、セオドラを利用している」
祖父王の瞳に怒りの炎が燃えていた。
「セオドラを狂気に堕とし、アルトレイ伯爵家を内側から崩壊させようとしているのだ。そう考えれば辻褄が合いはせぬか?」
テオドールは震えを感じた。
「ならば……私は、ロットヴェインを倒さなければならない」
テオドールの瞳に決意の光が宿った。
「その通りだ。だが、気をつけろ。ロットヴェインは腐敗した血とも呼ばれ、狡猾で邪悪だ」
祖父王は厳しい声で警告した。
「奴らは、不死の呪術を手に入れるためなら、どんな手段も使う」
「……わかりました」
テオドールは深く頭を下げた。
「私が、すべてを守ってみせます」
「そういう、ことでしたか」
回帰前も、回帰後の今も、テオドールには母の嫉妬の理由がよくわからなかった。
(だって王侯貴族は政略結婚が当たり前だ。父とポーラ様みたいな関係こそ例外)
だが、初恋が破れたとなれば理解できる。
「そんな……単純なことだったとは」
セオドラは、最愛の人に愛されることなく、妾の存在を知り、嫉妬と絶望に囚われた。
その結果が、ケイとポーラ親子への過酷な虐げに繋がっていた。
祖父王の瞳が悲しみに沈んだ。
「すべては、私が真実を告げなかったせいだ。せめて、セオドラに事実を伝えて覚悟させてから嫁がせるべきだった」
(母上は、ただ知らなかっただけ……だから父上に嫁いで突然知らされたポーラ様の存在に怒った)
(最初から、愛されない運命だったなんて……)
我が祖父は何と残酷なことをしたのだろうか。
(母上は、ただ知らなくて傷ついた女だった……)
(お祖父様だって、悪気があったわけじゃない。娘を思って、事実を伝えなかっただけだ)
(わざと母上を傷つけようとしたわけじゃない。確かに勇者の血筋のアルトレイ家に娘を嫁がせたい思惑はあったけど……。母上を思っての行動が、すれ違いを生み、悲劇を招いたんだ……)
テオドールは頭を抱えた。
「誰も責められない。相手のことを思って、ちょっとのすれ違いがこんな大ごとになってしまった……」
呆然とするテオドールに、祖父王が重い声で言った。
「今となっては、セオドラの味方はお前だけだ。テオドール」
テオドールは顔を上げた。
「こうして母を思い、余に会いにまで来た。もしセオドラを救える者がいるとしたら、お前こそが唯一の存在だろう」
「お祖父様」
「それに、お前こそが余の孫であり、王家と勇者の血を繋ぐアルトレイ家の後継者。……守ってみせよ。それがお前の使命ぞ」
「私が、母上を救い……アルトレイ家を守る……」
既に決意していたことではある。
テオドールの黒い瞳に更に強い光が宿った。
「お祖父様のお言葉で、私はどんな困難にも立ち向かう覚悟が決まりました。ですがまだ懸念事項があります」
「セオドラの近くにいる呪術師とやらか」
祖父王は目を細め、深い息を吐いた。
「いくら元王女でも、邪悪な呪術を使ったと露呈したらただでは済まんぞ」
「私はまだ十歳で、呪術に対抗する術を持ちません。マナの扱いを学べる学園入学はまだ六年も先です。せめて魔法使いの派遣をお願いしたく……」
「聞け、テオドールよ。お前が手紙に書いた呪術師には思い当たるものがある。お前の母を狂気に堕とした張本人の正体だ」
テオドールは緊張で喉が渇いた。
(張本人……?)
「人をそそのかし、感情を刺激して思い通りに操る……邪悪な呪術を使う一族に、腐敗する血とも呼ばれるロットヴェインがおる」
「ロットヴェイン……」
テオドールはその名前を反芻した。
(確か、古い伝承に出てくる呪術師の名前だ……)
「ロットヴェインは、かつて王国を滅ぼそうとした邪悪な呪術師だ」
祖父王は拳を握りしめ、忌々しげに語った。
「奴は、不死の力を手に入れるために禁忌の呪術を追い求めていた」
「不死、ですか?」
「そうだ。だが、そのためには『勇者の血』が必要だった」
テオドールの目が見開かれた。
「勇者の血……それって、アルトレイ伯爵家の……」
「そうだ。アルトレイ伯爵家は、勇者の末裔だ。奴は、勇者の血を手に入れることで不死の呪術を完成させようとしている」
その可能性に思い至り、祖父王は忙しい中でも時間を見つけてテオドールを王宮に呼んだわけだ。
「では、奴の目的はケイ……?」
祖父王は深く頷いた。
テオドールは、弟ケイが勇者の証である金色の光を発したところを見たことも、手紙に書いていたのだ。
「我が孫よ。お前もまた、勇者の血を引いている。忘れてはならぬぞ」
ここで祖父は、王としてある秘密を教えてくれた。
「本来ならお前が伯爵を継いだとき前当主から伝えられることだが……アルトレイ伯爵家の血筋はな、一滴でも血を受け継いでいれば誰でも勇者の素質を持つのだ」
「そんな。さすがにそれは大袈裟すぎませんか?」
「まだ秘密がある。アルトレイ家の血筋のうち、黒髪と黒目を持つ者であれば、と条件が付く」
今のアルトレイ伯爵家で、その条件に該当するのは父ユヴェルナートと弟ケイ、そして――テオドールだ。
「では、ケイだけではなく、私も……」
祖父王は真剣な目でテオドールを見つめた。
「そうだ。だから、セオドラの側にいるのが誠にロットヴェインであれば、お前のことも狙ってくるはずだ」
テオドールの背筋が凍った。
(私も……狙われている……?)
「ロットヴェインは、勇者の血を手に入れるために、セオドラを利用している」
祖父王の瞳に怒りの炎が燃えていた。
「セオドラを狂気に堕とし、アルトレイ伯爵家を内側から崩壊させようとしているのだ。そう考えれば辻褄が合いはせぬか?」
テオドールは震えを感じた。
「ならば……私は、ロットヴェインを倒さなければならない」
テオドールの瞳に決意の光が宿った。
「その通りだ。だが、気をつけろ。ロットヴェインは腐敗した血とも呼ばれ、狡猾で邪悪だ」
祖父王は厳しい声で警告した。
「奴らは、不死の呪術を手に入れるためなら、どんな手段も使う」
「……わかりました」
テオドールは深く頭を下げた。
「私が、すべてを守ってみせます」
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