『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話

真義あさひ

文字の大きさ
33 / 44

ご主人様、まだ秘密があったんですか?

しおりを挟む
 しばらくして、ユキレラはリースト伯爵家の末端ながら、この伯爵家の秘密やルシウスの出自を教えられる栄誉を得た。

 ただの一族なら知らない者も多いそうなのだが、ユキレラは本家筋の次男ルシウスの側使えや秘書で側にいることが多いので、特例として教えてくれることになったそうだ。

 忠犬ユキレラはもうそれだけで身に余る光栄。

 ご主人様たちと同じ、湖面の水色の瞳の麗しき顔をキリッと引き締めて。

 さあどんな秘密でもどんと来いだっぺ、と構えていたら予想よりはるかに重い事実が来た。



 何とご主人様ルシウスは人間じゃなかった。

 聖者様だから? でもなく、現在ではほとんど滅んでしまった人類の上位種、ハイヒューマンの数少ない生き残りだと教えられた。

 その説明の上で、リースト伯爵家の本邸、地下室へ連れて行かれたわけだ。
 ルシウスと兄伯爵のカイルに。

 地下室には、ずらーりと魔法樹脂という、魔力で作られた透明な樹脂の中に封入された“ご親戚”が数十体。
 そう、リースト一族に特有の、青みがかった銀髪と湖面の水色の瞳を持った老若男女が透明な柱の中に納められていた。
 他にも、竜だか魚だかよくわからない半魚人みたいな者や、両手が鳥の翼のようになった者、エルフに似た者などが若干。

「我らに似た者たちは、先祖筋にあたる。特殊な魔法の術式を保持していたり、……彼らが生きていた時代の医術では治癒できない病を患った者たちを保存していると伝わっている」
「あとは、偶発的に魔法樹脂を発動して封入されちゃった人たちだね。術が解けるまで保存してある感じ」

 ほええ……とユキレラは間抜けな感嘆の声をあげてしまった。

「他種族の者たちは、今は絶滅してしまった種族だな。彼らが自ら出てくるまでは、やはり我が一族で保存していくことになる」

 それで一体一体、リースト一族に伝わる由来を簡単に教えてもらうのだった。

「僕もね、この中の一体だったんだよ。もうずっと前に滅んじゃった魔王の一族の赤ん坊だったんだー」
「魔王って」

 勇者に聖剣でぬっころされちゃうアレですか。

「あれ、でも、それだとこの国の王族様は勇者の子孫だから……」

 そう、あのヨシュア坊ちゃんの大好きな王弟カズンや、そのご両親のアケロニア王族の祖先には勇者がいる。
 それが現王朝の始祖だ。

 魔王と勇者の子孫同士なのに仲良しなの? と素朴な疑問に首を傾げたユキレラに、ルシウスとカイル兄弟は苦笑していた。

「まあ、その辺はおいおい、ね」



 何かすごいもの見た。聞かされた。

 興奮冷めやらぬユキレラを、リースト伯爵家からの帰り道、既に夕方だったこともあってご主人様が飲みに連れて行ってくれた。

 たくさんお喋りしたかったので、声が周囲に紛れるような大衆酒場だ。
 壁際の端っこの席を押さえて、内緒話も準備オーケー。

 とりあえず、キンキンに冷えたラガービールで乾杯!

「ユキレラ、今日はビックリさせたね。うちの一族はああいう秘密が多いんだ。わかってると思うけど、他言無用にね。裏切ったら潰すからね」

 にっこり笑って、後半怖いことを言うご主人様だった。

 ユキレラはぷるぷると震えながら必死で否定した。
 裏切りません、忠犬なので!
 でもたまには何か良い感じのご褒美貰えたら嬉しいワン。



 だが、そんなことよりユキレラにとって衝撃的なことが、今日明かされていたのである。

 ハイヒューマンで、赤ん坊の頃に魔法樹脂から解凍されたリースト一族の先祖(魔族、魔王様の一族)がルシウスの正体だという。

 だから、リースト伯爵家の本家筋出身とはいっても。

「ルシウス様。カイル様とは義理のご兄弟なんじゃないですか。お兄様が結婚される前に告白とかはしなかったんですか?」
「兄さんへの想いはね、恋とかそういう感じではなかったんだよ」

 恋人同士や伴侶となって、身体を繋げたいとまでは思ったことがないという。

 ただ、ずっと一緒にいたい。

 それだけがルシウスの願いだった。

「え。でもルシウス様、絶対最初の夢精とかはカイル様がきっかけでしょ?」
「う。な、なんでわかるの」

 気づけば開けっぴろげに、そんなことまで気軽に話せる仲になっていた。
 恥ずかしそうに俯く姿が、何とも可愛らしい。

「そりゃあ、わかりますよ。ルシウス様が兄伯爵様を見てるお顔、可愛かったですもん~」

 夜会や社交サロンで、挨拶の後は遠くからルシウスを眺めるだけのセフレたちが、よく似た顔をしていたもので。
 本当はもっと近い距離で親しく交わりたいのに、いろいろ余計なことを考えてしまって結局できないまま終わる。

 そんな悲しくも切ない男たちの顔と同じ。

「今の距離ぐらいが、ちょうどいいんだよ」
「ふうん。そういうもんですかあ」

 わりと適当なユキレラでも、さすがに既に妻子のいる兄伯爵様を「奪っちまえばええべ☆」などと発破をかけることはできなかった。


(報われぬ想いに身を焦がすルシウス様を肴に飲む酒……うんめえなあ~)


 ビールを樽でもいける。

 ちなみにユキレラは酒に強い。
 伊達に宴会好きのど田舎村で育っていない。



 義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られ、泣きながらど田舎村から王都に出て来たけど、ユキレラは最愛を見つけて己の居場所を定めた。

 ただひとりしか見ていないルシウスを、恋人や伴侶として手に入れることはできないだろうけど、代わりに側近の座だけは何がなんでも固守してやると誓ったユキレラだ。

 自分だけの『たったひとり』は得られなかったけれど、代わりに自分が生涯かけて尽くしたい主人を見つけた。最高である。

 そうして幸せを掴んだユキレラだが、後にリースト伯爵家の主だった一族が集まった会合後の飲み会の席でそれをうっかり口にしたところ。

「うん。間違いなくリースト一族」
「間違いない。うちの血筋ですわ」
「顔だけじゃなかったですねえ」

「「「この重い情念こそ我が一族」」」

 これ、と己の大事なものを定めたら一直線で揺るがない。
 それこそが、リースト一族の特徴なのだそう。



しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks 表紙:meadow様(X:@into_ml79) 挿絵:Garp様(X:garp_cts) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

俺がイケメン皇子に溺愛されるまでの物語 ~ただし勘違い中~

空兎
BL
大国の第一皇子と結婚する予定だった姉ちゃんが失踪したせいで俺が身代わりに嫁ぐ羽目になった。ええええっ、俺自国でハーレム作るつもりだったのに何でこんな目に!?しかもなんかよくわからんが皇子にめっちゃ嫌われているんですけど!?このままだと自国の存続が危なそうなので仕方なしにチートスキル使いながらラザール帝国で自分の有用性アピールして人間関係を築いているんだけどその度に皇子が不機嫌になります。なにこれめんどい。

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

処理中です...