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義妹アデラの処遇3
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結局、最終的に騎士団からは厳重注意と王都への出入り禁止だけが言い渡されて、アデラは牢屋から解放されることになる。
誘拐をやらかした事件の犯人一味に大した温情だ。
これには一番の被害者のルシウスによる口添えがあったことが大きい。
ルシウスは騎士団から事情聴取されたとき、アデラはゴロツキに巻き込まれただけの被害者だという方向に話を持っていってくれていたのだ。
自分の侍従の義妹で、義兄に会いに王都まで出てきたところで、良くない男たちと付き合ってしまった。
そんな世間知らずの田舎娘だから、と。
それでも一ヶ月間も勾留されてしまったのは、やはりつるんでいたゴロツキたちが悪すぎた。
ほんとうに彼らの仲間ではないのかや、余罪の調査に騎士団側が時間をかけたかったからと聞く。
午後になって騎士団へ向かうと、一ヶ月ちょっと牢屋に放り込まれている間にアデラの毒気も随分抜けたようだ。
やつれてだいぶ大人しい。
無罪とはいかなかったが、放免される前にシャワーを浴びることもできて身だしなみを整え出てきたアデラに、ユキレラは告げた。
「アデラ。お前と会うのはこれが最後になる。二度とオレやリースト伯爵家の皆様の前に顔を出すな。それがお前への罰だ」
「兄ちゃん……」
はっきりと、ど田舎弁など欠片も出さずにアデラに言い渡したユキレラだ。
リースト伯爵家から支給されたネイビーのライン入りの白い軍服に、軍靴。
元々、背も高く身体つきもしっかりしたユキレラなので、どこから見てもど田舎者臭はしない。
「大人しくど田舎村へ帰れ。アデラ。それでもう二度と出てくるな」
髪もビシッと一糸乱れることなく整えて、心の生き別れの兄ちゃん1号の兄伯爵カイル様を参考にした無表情で、はっきりと命じた。
「………………」
ど田舎村にいたときとはまるで違った洗練された義兄の姿に、アデラは呆然とした後で、少しの間、考え込む仕草を見せた。
だが、しばらくして「わかった」と言って、ユキレラが準備していた帰りの路銀と、預かっていた彼女の旅行用の荷物を受け取るのだった。
そして、ユキレラが手配した、ど田舎村への中継地点へ向かう乗り合い馬車に大人しく搭乗した。
あとは数回乗り換えて、最果ての僻地へ戻ることになる。
アデラは最後に一言だけ捨て台詞を吐いた。
「ユキレラ。あたしはあんたのものが欲しかったわけじゃないのよ」
と。
馬車を見送って、車体が見えなくなったところでユキレラは背後にいてくれたご主人様を振り返った。
「……まあ、あいつの本命がオレだっていうのはわかってましたよ。でも合わないんですよね」
性格が。
「兄弟ったって互いに再婚の親同士の連れ子だし、できなくはなかったけど。でも、何か違うんですよねえ」
「そういうもんなの?」
「ええ。あいつ、結局オレにもあなたにも謝らなかったでしょ。オレの婚約者の寝取りをやらかしたときも、ごめんも済まないも言わないんですよ。そういうところ、すごく嫌いでした」
家族として一緒に暮らしていたとき、彼女の実母のアキレアも、もちろん義兄のユキレラもそういう頑固さを直そうとはしたのだが、結局ご覧の通りである。
結局、アデラはど田舎村に戻って、ユキレラから寝取ったユキレラの元婚約者の男と元の鞘に収まったらしい。
狭い村だから、婚約者の義妹と肉体関係を持ったことはあっという間に村中に広がっていた。
元婚約者は豪農の三男で継ぐ家も仕事もなかったから、実家からは責任持ってアデラを娶るようきつく言い渡されていたとのこと。
アデラが王都に出る前に売り飛ばしていた実家は、所詮は最果ての僻地、ど田舎村。
まだ新しい買い手が付いていなかったので、そこはユキレラが別の親戚に送金して買い戻してもらい、義妹夫婦の新居にさせた。
小さな平家の家だったから、買い戻しとはいえ二束三文。
ルシウスに雇われておちんぎんで膨れた今のユキレラのお財布にとっては何てことのない出費だった。
「まあ、結婚のご祝儀みたいなもんですよ」
それから何だかんだいって、しばらくの間は義妹夫婦に仕送りもしていたユキレラだ。
「二度と会わない、があの義妹にとって本当に罰になるの?」
「なりますよ。これまで、何でもかんでもオレにおんぶに抱っこにぶら下がりの妹でしたからね。オレの婚約者を寝取ったときだって、オレが許すと本気で思ってたんでしょうよ。それが家を出てしまったから慌てて追いかけてきて、あの誘拐騒ぎですからね」
8年、家族として暮らしてきた情はあるが、逆にいえばユキレラにそれ以上の気持ちはない。
手紙ぐらいなら受け取ってもいい。
だがそれも、リースト伯爵家の検閲を通す必要がある。
(兄ちゃんは王都で最愛を見っけたんだあ。お前もど田舎村で頑張るがええっぺ)
狭い村だから、『兄の婚約者を寝取った女』と、夫になったユキレラの元婚約者とセットで死ぬまで周りから言われるだろうが、絞首刑よりはマシのはずだ。
余談だが、翌年、アデラはユキレラの元婚約者との間に娘を儲けて、自分の母親と同じアキレアという名前を付けた。
顔立ちも、祖母アキレアや母アデラとそっくりの、赤みの強いストロベリーブロンドに青銅色のぱっちりお目々だそうで。
「……やると思ったべえ……」
ユキレラは、義妹アデラは好きでなくても、その母親の継母アキレア母ちゃんは大好きだった。
この符号を合わせれば、『二度と会わない』を反故にして、ど田舎村へユキレラが帰省すると企んだものらしい。
「帰るのか? ど田舎村へ」
最近すっかり背が伸びて、大人の落ち着きと色気が出てきたご主人様が面白そうに訊いてくる。
「まさか。そこまで甘い男じゃないですよ、この忠犬は」
ビリビリビリっと、義妹からの手紙を細かく破ってゴミ箱へ。
子供が産まれたなら仕送りはまだしばらく続けよう。
だがユキレラから手紙を書くなど連絡を入れることは、これからもない。
想いを寄せていた相手に会えず、反応もないことは、あの義妹の性格にはとても堪えるだろう。
かといって、また王都に出てこようものなら、ユキレラやご主人様ルシウスは良くても、弟を害されたルシウスの兄伯爵様が今度こそアデラを始末するだろう。
やがて義妹アデラには第二子も産まれたが、その頃にはもうユキレラも仕送りを止め、アデラからの手紙も受け取り拒否をした。
ど田舎村の情報だけなら、同じ村内の親戚や友人たちからの手紙でじゅうぶん知ることができる。
そうして、ユキレラと義妹アデラの縁はここで完全に切れたのである。
誘拐をやらかした事件の犯人一味に大した温情だ。
これには一番の被害者のルシウスによる口添えがあったことが大きい。
ルシウスは騎士団から事情聴取されたとき、アデラはゴロツキに巻き込まれただけの被害者だという方向に話を持っていってくれていたのだ。
自分の侍従の義妹で、義兄に会いに王都まで出てきたところで、良くない男たちと付き合ってしまった。
そんな世間知らずの田舎娘だから、と。
それでも一ヶ月間も勾留されてしまったのは、やはりつるんでいたゴロツキたちが悪すぎた。
ほんとうに彼らの仲間ではないのかや、余罪の調査に騎士団側が時間をかけたかったからと聞く。
午後になって騎士団へ向かうと、一ヶ月ちょっと牢屋に放り込まれている間にアデラの毒気も随分抜けたようだ。
やつれてだいぶ大人しい。
無罪とはいかなかったが、放免される前にシャワーを浴びることもできて身だしなみを整え出てきたアデラに、ユキレラは告げた。
「アデラ。お前と会うのはこれが最後になる。二度とオレやリースト伯爵家の皆様の前に顔を出すな。それがお前への罰だ」
「兄ちゃん……」
はっきりと、ど田舎弁など欠片も出さずにアデラに言い渡したユキレラだ。
リースト伯爵家から支給されたネイビーのライン入りの白い軍服に、軍靴。
元々、背も高く身体つきもしっかりしたユキレラなので、どこから見てもど田舎者臭はしない。
「大人しくど田舎村へ帰れ。アデラ。それでもう二度と出てくるな」
髪もビシッと一糸乱れることなく整えて、心の生き別れの兄ちゃん1号の兄伯爵カイル様を参考にした無表情で、はっきりと命じた。
「………………」
ど田舎村にいたときとはまるで違った洗練された義兄の姿に、アデラは呆然とした後で、少しの間、考え込む仕草を見せた。
だが、しばらくして「わかった」と言って、ユキレラが準備していた帰りの路銀と、預かっていた彼女の旅行用の荷物を受け取るのだった。
そして、ユキレラが手配した、ど田舎村への中継地点へ向かう乗り合い馬車に大人しく搭乗した。
あとは数回乗り換えて、最果ての僻地へ戻ることになる。
アデラは最後に一言だけ捨て台詞を吐いた。
「ユキレラ。あたしはあんたのものが欲しかったわけじゃないのよ」
と。
馬車を見送って、車体が見えなくなったところでユキレラは背後にいてくれたご主人様を振り返った。
「……まあ、あいつの本命がオレだっていうのはわかってましたよ。でも合わないんですよね」
性格が。
「兄弟ったって互いに再婚の親同士の連れ子だし、できなくはなかったけど。でも、何か違うんですよねえ」
「そういうもんなの?」
「ええ。あいつ、結局オレにもあなたにも謝らなかったでしょ。オレの婚約者の寝取りをやらかしたときも、ごめんも済まないも言わないんですよ。そういうところ、すごく嫌いでした」
家族として一緒に暮らしていたとき、彼女の実母のアキレアも、もちろん義兄のユキレラもそういう頑固さを直そうとはしたのだが、結局ご覧の通りである。
結局、アデラはど田舎村に戻って、ユキレラから寝取ったユキレラの元婚約者の男と元の鞘に収まったらしい。
狭い村だから、婚約者の義妹と肉体関係を持ったことはあっという間に村中に広がっていた。
元婚約者は豪農の三男で継ぐ家も仕事もなかったから、実家からは責任持ってアデラを娶るようきつく言い渡されていたとのこと。
アデラが王都に出る前に売り飛ばしていた実家は、所詮は最果ての僻地、ど田舎村。
まだ新しい買い手が付いていなかったので、そこはユキレラが別の親戚に送金して買い戻してもらい、義妹夫婦の新居にさせた。
小さな平家の家だったから、買い戻しとはいえ二束三文。
ルシウスに雇われておちんぎんで膨れた今のユキレラのお財布にとっては何てことのない出費だった。
「まあ、結婚のご祝儀みたいなもんですよ」
それから何だかんだいって、しばらくの間は義妹夫婦に仕送りもしていたユキレラだ。
「二度と会わない、があの義妹にとって本当に罰になるの?」
「なりますよ。これまで、何でもかんでもオレにおんぶに抱っこにぶら下がりの妹でしたからね。オレの婚約者を寝取ったときだって、オレが許すと本気で思ってたんでしょうよ。それが家を出てしまったから慌てて追いかけてきて、あの誘拐騒ぎですからね」
8年、家族として暮らしてきた情はあるが、逆にいえばユキレラにそれ以上の気持ちはない。
手紙ぐらいなら受け取ってもいい。
だがそれも、リースト伯爵家の検閲を通す必要がある。
(兄ちゃんは王都で最愛を見っけたんだあ。お前もど田舎村で頑張るがええっぺ)
狭い村だから、『兄の婚約者を寝取った女』と、夫になったユキレラの元婚約者とセットで死ぬまで周りから言われるだろうが、絞首刑よりはマシのはずだ。
余談だが、翌年、アデラはユキレラの元婚約者との間に娘を儲けて、自分の母親と同じアキレアという名前を付けた。
顔立ちも、祖母アキレアや母アデラとそっくりの、赤みの強いストロベリーブロンドに青銅色のぱっちりお目々だそうで。
「……やると思ったべえ……」
ユキレラは、義妹アデラは好きでなくても、その母親の継母アキレア母ちゃんは大好きだった。
この符号を合わせれば、『二度と会わない』を反故にして、ど田舎村へユキレラが帰省すると企んだものらしい。
「帰るのか? ど田舎村へ」
最近すっかり背が伸びて、大人の落ち着きと色気が出てきたご主人様が面白そうに訊いてくる。
「まさか。そこまで甘い男じゃないですよ、この忠犬は」
ビリビリビリっと、義妹からの手紙を細かく破ってゴミ箱へ。
子供が産まれたなら仕送りはまだしばらく続けよう。
だがユキレラから手紙を書くなど連絡を入れることは、これからもない。
想いを寄せていた相手に会えず、反応もないことは、あの義妹の性格にはとても堪えるだろう。
かといって、また王都に出てこようものなら、ユキレラやご主人様ルシウスは良くても、弟を害されたルシウスの兄伯爵様が今度こそアデラを始末するだろう。
やがて義妹アデラには第二子も産まれたが、その頃にはもうユキレラも仕送りを止め、アデラからの手紙も受け取り拒否をした。
ど田舎村の情報だけなら、同じ村内の親戚や友人たちからの手紙でじゅうぶん知ることができる。
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