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朝の陽が昇り、アレンの国――ヴァルシュタイン皇国の首都に近づいていた。
馬車の窓から見える城壁の高さに、思わず息を呑む。
「すごい……こんなに大きいなんて……」
驚く私に、アレンが穏やかに微笑む。
「ようこそ。君を歓迎するために、人々が集まっている」
「えっ、どうして……?」
「俺が“最優先で通すべき特別な客”だと伝えたからだ」
その言い方に、一瞬心臓が跳ねる。
特別だなんて、あまりにも真っ直ぐすぎて。
けれど城門の前に近づくにつれ、私はさらに驚くことになる。
城壁の前には――
おそらく数千はいると思われる人々が並び、私たちの馬車を待っていた。
「えっ……ちょっと待って、アレン、これ……?」
「うん。全部、君の歓迎だ」
「無理無理無理無理!! なんで……!」
「俺が『将来の妃候補だ』とだけ伝えた」
「もっとダメよ!!」
アレンは平然としているが、私はいたたまれなさすぎて目を回しそうだった。
ただ、群衆は驚くほど穏やかで、私を一目見ようと手を振っている。
「レイラ様ー! ようこそ皇国へ!」
「アレン殿下に見初められた方だって!」
「なんて綺麗な……!」
口々に囁かれる称賛に、頬が熱くなる。
アレンが小さく耳元で囁いた。
「君は本当に美しいからな。皆、そう思って当然だ」
「そ、そんな簡単に……もっと自覚しなさいよ……!」
「自覚している。俺の女として自慢だ」
「なっ……!」
馬車の中で膝が崩れそうになる。
そんな私の反応すべてを楽しんでいるように、アレンは指を絡めて手を握った。
その手の温かさに、胸がきゅっと締めつけられる。
皇宮に入ると、豪奢な雰囲気に圧倒される。
白い大理石の廊下はどこまでも続き、壁には美しい絵画がかけられている。
「ここが……私がしばらく暮らす場所?」
「そうだ。安心していい。君の部屋は俺の部屋の隣だ」
「……隣?」
「不満か?」
「ち、近い……!」
思わず言うと、アレンは軽く笑った。
「君を遠くに置くつもりはないからな」
この男、本当に隙がない。
いつだって真っ直ぐで、逃げ道を与えてくれない。
そんなふうに私を見つめて……どうして。
胸が熱い。
けれど、部屋に案内される前――
突然、勢いよく扉が開いた。
「アレン! 勝手にレイラ様を連れてきたってどういうことなの?」
現れたのは、美しい赤髪の女性。
彼女はアレンを睨みつけて叫んだ。
「あなたね……?! 婚約破棄されたっていうレイラ様!」
「は、はい……?」
「私はアレンの幼馴染のリアナよ!
ずっとあなたのこと気になってたの! 噂でしか聞いたことなかったけど……うわ、本当に綺麗!」
突然の距離の近さに戸惑う私。
すると後ろでアレンが――豹変した。
アレン視点
(近い。近すぎる)
リアナがレイラを覗き込んだ瞬間、胸に強烈な苛立ちが走った。
レイラが困ったように眉を下げたのも理由の一つだが――
それ以上に。
“俺以外の者が、彼女に触れようとしている”。
その事実だけで、冷酷王子の名を持つ本能が騒ぐ。
「……リアナ。離れろ」
「えっ?」
「レイラのパーソナルスペースに入るな。今すぐ退け」
「ちょ、ちょっとアレン!? そんな言い方ないでしょ!?」
「ある。今のは完全に不敬だ」
「不敬って……!?」
リアナが泣きそうな顔をするが、私は一切譲らない。
レイラは、俺が守る。
それがどんな形であれ。
「アレン……そんなに言わなくても……」
レイラが小さく私の袖を引く。
その仕草があまりにも可愛くて、怒りは一瞬で溶けた。
「……レイラ。君が嫌がるなら言ってくれ。今後は一切近寄らせない」
「い、今後って……そんな……」
耳まで赤くして困るレイラ。
その横顔すら美しい。
リアナは大きなため息を吐いた。
「わかったわよ……もう!
レイラ様を否定してるんじゃなくて!
ただ、アレンのあの態度があまりにも溺愛すぎてびっくりしただけ!」
レイラはさらに顔を赤くし、私の袖を握ったまま固まる。
「溺愛……?」
「いや、君を溺愛していないと言えば嘘になるが?」
「認めるの!?」
「当然だ。隠す理由はない」
レイラは完全に固まった。
可愛い。
この反応が可愛すぎて、抱きしめたくなる。
だが我慢する。
焦らない。
レイラが心から欲してくれるまでは。
レイラ視点
アレンの溺愛発言に、しばらくまともに視線が合わせられなかった。
心臓が、ずっと落ち着かない。
こんなの初めて。
でも、それだけじゃなかった。
皇宮の庭園に案内される途中……
「アレン様……本当に婚約されるの?」
「レイラ様ってあの裕福で優秀なアストレッド家の……?」
「王太子に捨てられたって噂だけど……むしろアレン様にはお似合いだ」
侍女や騎士たちのささやき声が、追うように耳に入る。
悪意はない。
むしろ好意的で。
(どうしてこんな……)
私が王太子から婚約破棄された瞬間――
世界の評価は変わったと思っていた。
でも。
「レイラ。気にするな」
アレンが隣で小さく囁く。
「君は、どこに出しても誇れる女性だ。……俺の目に狂いはない」
胸が熱くなる。
そんな言葉をくれる男性が、世界にいるなんて知らなかった。
アレンは続ける。
「そして――
俺の国では、お前を傷つける者は一人もいない」
「……そんなふうに守られてばかりじゃ、私……」
「守りたいんだ。俺が」
「……っ」
言葉にならない。
そんな私の手を、アレンはそっと掴む。
握られた瞬間、指先がびりっと痺れた。
ユリウス視点
「アレン……貴様……!」
馬で荒れた道を走りながら、私は深く歯ぎしりした。
レイラを手放したことを後悔している。
認めたくないが、どうしても心が苦しい。
俺は……レイラを失ったのか?
あの、完璧で優秀なレイラを。
ずっと支えてくれたレイラを。
「取り戻さなければ……!」
焦りと執着が胸を支配していく。
レイラは俺の婚約者だった。
一度は俺の隣にいた。
それをアレンに奪われるなんて、あってはならない。
なら――取り返す。
どんな手を使ってでも。
「レイラ……帰ってきてくれ……!」
馬の蹄が、必死のように走り続ける。
その背後で、侍従が小さく呟いた。
「……殿下は、今さら何を……」
誰にも届かない独り言だった。
レイラ視点
皇宮に到着して数時間。
用意された私の部屋は驚くほど広く、豪奢で、どこか落ち着く色調でまとめられていた。
「どうだ、気に入ったか?」
アレンが問いかける。
「……素敵ね。落ち着く色で……ありがとう」
自然と笑みがこぼれた。
アレンはその笑顔を見て、一瞬だけ表情を緩ませた。
「笑った顔が好きだ。もっと見せてくれ」
「そ、そんな……!
……アレン、ちょっと距離!」
近づいてくる彼をなんとか手で止める。
なのに、アレンはわざとらしく切なそうな表情をする。
「距離を置かれると……少し、寂しいんだが」
「っ、そんな顔しないで……!」
ずるい。
この男、感情の揺さぶりが上手すぎる。
私が弱いのを全部わかって言ってる。
するとアレンは、静かに言った。
「レイラ。ひとつ聞きたい」
「な、なに?」
「……俺の隣にいるのは、嫌か?」
心臓が止まりかけた。
本気で問われているとわかる声だった。
私は小さく息を飲む。
「嫌じゃ……ないわ。でも……」
「でも?」
「まだよくわからないの。
あなたの国に来て、あなたに保護されて……
それが“恋”なのかどうか……自分でもまだ……」
正直な言葉。
アレンはしばらく黙り、そして微笑んだ。
「……なら、ゆっくりでいい。
ただ――」
私は見上げる。
アレンは私の頬に触れ、ほんの少し顔を近づけた。
「いつか“アレンが好き”と言わせてみせる」
「っ……!」
息が詰まる。
彼の瞳は、氷のように冷たく鋭いのに、
私を見る時だけは炎のように熱い。
こんなの、落ちないほうが無理だ。
胸が苦しくて、顔が熱くて、視線が逃げる。
アレンはそんな私の反応に満足げに微笑んだ。
「レイラ。俺は君を手に入れるまで諦めない」
まっすぐで、強くて、危険な宣言。
そのちょうどその時――
部屋の扉が激しく叩かれた。
「アレン殿下!
王都より緊急の知らせです!」
アレンが眉をひそめる。
「どうした?」
「隣国の王太子ユリウス殿下が……
“レイラ様を返せ”と要求して城門まで来ております!」
「…………は?」
アレンの表情が、一瞬で氷点下まで落ちた。
あの温和で甘い雰囲気ではなく、
“冷酷王子”の顔。
「……俺の女を返せ?
笑わせるにも程があるな」
低い声が、部屋の空気を震わせた。
馬車の窓から見える城壁の高さに、思わず息を呑む。
「すごい……こんなに大きいなんて……」
驚く私に、アレンが穏やかに微笑む。
「ようこそ。君を歓迎するために、人々が集まっている」
「えっ、どうして……?」
「俺が“最優先で通すべき特別な客”だと伝えたからだ」
その言い方に、一瞬心臓が跳ねる。
特別だなんて、あまりにも真っ直ぐすぎて。
けれど城門の前に近づくにつれ、私はさらに驚くことになる。
城壁の前には――
おそらく数千はいると思われる人々が並び、私たちの馬車を待っていた。
「えっ……ちょっと待って、アレン、これ……?」
「うん。全部、君の歓迎だ」
「無理無理無理無理!! なんで……!」
「俺が『将来の妃候補だ』とだけ伝えた」
「もっとダメよ!!」
アレンは平然としているが、私はいたたまれなさすぎて目を回しそうだった。
ただ、群衆は驚くほど穏やかで、私を一目見ようと手を振っている。
「レイラ様ー! ようこそ皇国へ!」
「アレン殿下に見初められた方だって!」
「なんて綺麗な……!」
口々に囁かれる称賛に、頬が熱くなる。
アレンが小さく耳元で囁いた。
「君は本当に美しいからな。皆、そう思って当然だ」
「そ、そんな簡単に……もっと自覚しなさいよ……!」
「自覚している。俺の女として自慢だ」
「なっ……!」
馬車の中で膝が崩れそうになる。
そんな私の反応すべてを楽しんでいるように、アレンは指を絡めて手を握った。
その手の温かさに、胸がきゅっと締めつけられる。
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「は、はい……?」
「私はアレンの幼馴染のリアナよ!
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突然の距離の近さに戸惑う私。
すると後ろでアレンが――豹変した。
アレン視点
(近い。近すぎる)
リアナがレイラを覗き込んだ瞬間、胸に強烈な苛立ちが走った。
レイラが困ったように眉を下げたのも理由の一つだが――
それ以上に。
“俺以外の者が、彼女に触れようとしている”。
その事実だけで、冷酷王子の名を持つ本能が騒ぐ。
「……リアナ。離れろ」
「えっ?」
「レイラのパーソナルスペースに入るな。今すぐ退け」
「ちょ、ちょっとアレン!? そんな言い方ないでしょ!?」
「ある。今のは完全に不敬だ」
「不敬って……!?」
リアナが泣きそうな顔をするが、私は一切譲らない。
レイラは、俺が守る。
それがどんな形であれ。
「アレン……そんなに言わなくても……」
レイラが小さく私の袖を引く。
その仕草があまりにも可愛くて、怒りは一瞬で溶けた。
「……レイラ。君が嫌がるなら言ってくれ。今後は一切近寄らせない」
「い、今後って……そんな……」
耳まで赤くして困るレイラ。
その横顔すら美しい。
リアナは大きなため息を吐いた。
「わかったわよ……もう!
レイラ様を否定してるんじゃなくて!
ただ、アレンのあの態度があまりにも溺愛すぎてびっくりしただけ!」
レイラはさらに顔を赤くし、私の袖を握ったまま固まる。
「溺愛……?」
「いや、君を溺愛していないと言えば嘘になるが?」
「認めるの!?」
「当然だ。隠す理由はない」
レイラは完全に固まった。
可愛い。
この反応が可愛すぎて、抱きしめたくなる。
だが我慢する。
焦らない。
レイラが心から欲してくれるまでは。
レイラ視点
アレンの溺愛発言に、しばらくまともに視線が合わせられなかった。
心臓が、ずっと落ち着かない。
こんなの初めて。
でも、それだけじゃなかった。
皇宮の庭園に案内される途中……
「アレン様……本当に婚約されるの?」
「レイラ様ってあの裕福で優秀なアストレッド家の……?」
「王太子に捨てられたって噂だけど……むしろアレン様にはお似合いだ」
侍女や騎士たちのささやき声が、追うように耳に入る。
悪意はない。
むしろ好意的で。
(どうしてこんな……)
私が王太子から婚約破棄された瞬間――
世界の評価は変わったと思っていた。
でも。
「レイラ。気にするな」
アレンが隣で小さく囁く。
「君は、どこに出しても誇れる女性だ。……俺の目に狂いはない」
胸が熱くなる。
そんな言葉をくれる男性が、世界にいるなんて知らなかった。
アレンは続ける。
「そして――
俺の国では、お前を傷つける者は一人もいない」
「……そんなふうに守られてばかりじゃ、私……」
「守りたいんだ。俺が」
「……っ」
言葉にならない。
そんな私の手を、アレンはそっと掴む。
握られた瞬間、指先がびりっと痺れた。
ユリウス視点
「アレン……貴様……!」
馬で荒れた道を走りながら、私は深く歯ぎしりした。
レイラを手放したことを後悔している。
認めたくないが、どうしても心が苦しい。
俺は……レイラを失ったのか?
あの、完璧で優秀なレイラを。
ずっと支えてくれたレイラを。
「取り戻さなければ……!」
焦りと執着が胸を支配していく。
レイラは俺の婚約者だった。
一度は俺の隣にいた。
それをアレンに奪われるなんて、あってはならない。
なら――取り返す。
どんな手を使ってでも。
「レイラ……帰ってきてくれ……!」
馬の蹄が、必死のように走り続ける。
その背後で、侍従が小さく呟いた。
「……殿下は、今さら何を……」
誰にも届かない独り言だった。
レイラ視点
皇宮に到着して数時間。
用意された私の部屋は驚くほど広く、豪奢で、どこか落ち着く色調でまとめられていた。
「どうだ、気に入ったか?」
アレンが問いかける。
「……素敵ね。落ち着く色で……ありがとう」
自然と笑みがこぼれた。
アレンはその笑顔を見て、一瞬だけ表情を緩ませた。
「笑った顔が好きだ。もっと見せてくれ」
「そ、そんな……!
……アレン、ちょっと距離!」
近づいてくる彼をなんとか手で止める。
なのに、アレンはわざとらしく切なそうな表情をする。
「距離を置かれると……少し、寂しいんだが」
「っ、そんな顔しないで……!」
ずるい。
この男、感情の揺さぶりが上手すぎる。
私が弱いのを全部わかって言ってる。
するとアレンは、静かに言った。
「レイラ。ひとつ聞きたい」
「な、なに?」
「……俺の隣にいるのは、嫌か?」
心臓が止まりかけた。
本気で問われているとわかる声だった。
私は小さく息を飲む。
「嫌じゃ……ないわ。でも……」
「でも?」
「まだよくわからないの。
あなたの国に来て、あなたに保護されて……
それが“恋”なのかどうか……自分でもまだ……」
正直な言葉。
アレンはしばらく黙り、そして微笑んだ。
「……なら、ゆっくりでいい。
ただ――」
私は見上げる。
アレンは私の頬に触れ、ほんの少し顔を近づけた。
「いつか“アレンが好き”と言わせてみせる」
「っ……!」
息が詰まる。
彼の瞳は、氷のように冷たく鋭いのに、
私を見る時だけは炎のように熱い。
こんなの、落ちないほうが無理だ。
胸が苦しくて、顔が熱くて、視線が逃げる。
アレンはそんな私の反応に満足げに微笑んだ。
「レイラ。俺は君を手に入れるまで諦めない」
まっすぐで、強くて、危険な宣言。
そのちょうどその時――
部屋の扉が激しく叩かれた。
「アレン殿下!
王都より緊急の知らせです!」
アレンが眉をひそめる。
「どうした?」
「隣国の王太子ユリウス殿下が……
“レイラ様を返せ”と要求して城門まで来ております!」
「…………は?」
アレンの表情が、一瞬で氷点下まで落ちた。
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