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「……俺の女を返せだと?」
アレンの声は、温度を失った氷のように冷たかった。
さっきまで私に向けられていた溺れるほど甘い視線が、跡形もない。
侍従が震える声で続ける。
「は、はい……!
ユリウス殿下は“レイラ様は自国の民であり、
取り戻す権利がある”と……!」
「権利?」
アレンの口元が、冷笑で歪む。
「婚約を破棄して捨てた女に、どんな権利がある?」
「ま、まさにその通りで……」
侍従が言いかけたところで、アレンはすでに歩きだしていた。
「レイラ。行くぞ」
「えっ……私も?」
「当たり前だ。
君が“選ばれる側”であるという事実を、本人の目の前で見せてやる」
「え、え……そんなの余計にこじれない?」
「こじれても構わない。……こじらせるのは、あいつの罪だ」
この男、ためらいがなさすぎる。
でも――
嫌じゃなかった。
皇宮前庭・城門付近
そこには、白銀の甲冑で整列したアレン側の近衛、
そして土埃を巻きながら乗り込んできたユリウスの騎兵隊が対峙していた。
緊張が空気を張り裂く。
その中心に――
ユリウスがいた。
風に金髪を揺らし、険しい顔でこちらを睨んでいる。
「レイラ……!」
彼は私を見るなり馬から飛び降り、駆け寄ろうとした。
「レイラ、無事か!? こんなところに連れ去られて……!」
だが。
「そこまでだ」
アレンが一歩前に立ちはだかる。
ユリウスの足が止まった。
「アレン殿下……避けていただけますか。
私はレイラに話が――」
「ない」
「……は?」
アレンの声は、明確な拒絶だった。
「レイラは俺が保護している。
お前に近づかせるつもりは一切ない」
「保護……? そんなもの、勝手な――!」
ユリウスが食い下がろうとした瞬間。
アレンの殺気が空気を刺した。
「ここは俺の国だ。
その国の王族である俺が“レイラは渡さない”と言っている」
「……ッ!」
アレンは続ける。
「お前は婚約破棄をした。
レイラを捨てたのは、他でもない“お前自身”だろう?」
ユリウスの表情が苦く歪む。
「それは……誤解だ……!
俺はレイラのためを思って――」
「は」
アレンの冷笑がユリウスの声を切る。
「自分の浮気を誤魔化すために、よく言ったものだな?」
「なっ……!」
周囲の騎士たちが一斉にざわめいた。
私の胸がぎゅっと苦しくなる。
でも――アレンの隣に立っているだけで、不思議と怖くはなかった。
レイラ視点
ユリウスは、苦しげに私を見つめる。
「レイラ……本当に……俺を捨てるつもりなのか?」
「……」
その声を聞いた瞬間、
過去の記憶が押し寄せた。
努力して、
尽くして、
それでも報われなくて。
私が泣いても、振り向いてくれなかった。
――でも。
今の私は、あの頃とは違う。
横には、私の手を強く包むアレンがいる。
アレンは、私の沈黙をどう受け取ったのか、
より強く前に出た。
「レイラは、もう“選ばれる側”ではない」
その言葉にユリウスは眉をひそめる。
「……どういう意味だ?」
アレンの声が静かに響く。
「俺がレイラを選んだ。
――“俺の妃に迎える”という意味だ」
騎士団が一斉に息を呑んだ。
私も、息が止まった。
ユリウスの顔色が瞬時に蒼白になる。
「アレン……貴様……!」
「気に入らないか?」
アレンは喉の奥で笑う。
「当たり前だ。
――お前は、レイラの価値を理解できなかった男だからな」
挑発ではなく、真実。
ユリウスが拳を震わせているのが見える。
彼は、絞り出すように声を放った。
「レイラ……!
そいつは冷酷だと噂がある。
お前を道具のように利用するつもりかもしれない!」
「ほう……?」
アレンの瞳が鋭く光る。
「道具のように扱っていたのは――どこの誰だ?」
ユリウスは言葉を失った。
アレンは私の手を引き、抱き寄せた。
「俺は違う。
レイラを守るためなら、国だって動かす」
「アレ……ン……」
「安心しろ。君は俺が守る。
誰にも触れさせない」
目の前で堂々と宣言され、
胸が熱くなり、震えた。
ユリウスは見たこともないほど苦しげに顔を歪める。
「レイラ……戻ってきてくれ。
お前がいないと……俺は……」
その言葉に、胸がちくりと痛む。
でも。
私の答えは決まっていた。
「……ユリウス様。
今さらそんなことを言われても……戻れません」
ユリウスの表情が絶望に染まる。
「なぜ……?」
「だって――
ちゃんと私を見てくれる人が、隣にいるから」
そう言ってアレンを見上げると、
彼は私の言葉の意味を理解したのか、
喉の奥で息を吸った。
そして――
私の手の甲にそっと唇を落とした。
「……レイラ。俺は君が欲しい」
「っ……!」
ユリウスが絶句する。
アレンは続けた。
「ユリウス。
お前が失ったものを、俺が手に入れる」
「アレン!!
貴様……本気で……!」
「本気だ」
アレンの声は氷の刃だった。
「レイラは俺の女だ」
城門の空気が静まり返る。
ユリウスの唇が震えた。
「……まだ諦めない。絶対にだ」
彼は憎悪と未練の入り混じった目で私を見つめ、
馬に乗り直した。
「レイラ……必ず取り戻す……!」
土煙をあげて去っていく後ろ姿は、
どこか惨めだった。
アレンの部屋前(その日の夜)
「……疲れただろう。
無理をさせて済まなかった」
アレンが優しく言う。
「ううん……あなたは、私を守ってくれたわ」
微笑むと、アレンは一瞬だけ目を細めた。
その表情がどうしようもなく胸に刺さる。
「レイラ」
アレンが低い声で私を呼ぶ。
距離が、自然と近い。
私は息を飲む。
アレンの指が頬をなぞった。
「今日、君が俺を選んだように……
俺も毎日、君を選ぶ」
「アレン……」
「不安にさせる言動はしない。
嫌な思いもさせない。
だから安心して……俺に落ちてくれ」
「……っ」
心臓が壊れそう。
アレンは私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「――君が少しでも俺を好きだと言うなら。
俺はすべてを差し出す」
耳が熱い。
顔が熱い。
体が震える。
こんな人に愛されるなんて、想像もしていなかった。
アレンはゆっくりと離れ、
そのまま私の手を取った。
「今日は休め。
……本当は離したくないけどな」
「アレン……」
彼は名残惜しそうに私の手を離し、
部屋の扉を閉めた。
扉越しに、低い声が聞こえる。
「――レイラ。
俺は絶対に、君を手放さない」
胸が甘く痺れた。
その頃、王都の外れ
「……レイラ……!」
闇の中、ユリウスは拳を震わせていた。
「なぜ……あんな男を選ぶ……?
俺より……俺たちの未来より……?」
呟きは虚空に消える。
その背後に、黒衣の男たちが近づいた。
「ユリウス殿下。
……彼女を取り戻すために、ひとつ提案がございます」
「……提案?」
男たちの瞳は、不穏に光っていた。
「アレン殿下を排除しませんか?
事故に見せかければ……」
ユリウスの瞳が大きく見開かれる。
そして――
ゆっくりと、微笑んだ。
「……いいだろう。
レイラを取り戻せるのなら」
その笑みは、どこか壊れていた。
アレンの声は、温度を失った氷のように冷たかった。
さっきまで私に向けられていた溺れるほど甘い視線が、跡形もない。
侍従が震える声で続ける。
「は、はい……!
ユリウス殿下は“レイラ様は自国の民であり、
取り戻す権利がある”と……!」
「権利?」
アレンの口元が、冷笑で歪む。
「婚約を破棄して捨てた女に、どんな権利がある?」
「ま、まさにその通りで……」
侍従が言いかけたところで、アレンはすでに歩きだしていた。
「レイラ。行くぞ」
「えっ……私も?」
「当たり前だ。
君が“選ばれる側”であるという事実を、本人の目の前で見せてやる」
「え、え……そんなの余計にこじれない?」
「こじれても構わない。……こじらせるのは、あいつの罪だ」
この男、ためらいがなさすぎる。
でも――
嫌じゃなかった。
皇宮前庭・城門付近
そこには、白銀の甲冑で整列したアレン側の近衛、
そして土埃を巻きながら乗り込んできたユリウスの騎兵隊が対峙していた。
緊張が空気を張り裂く。
その中心に――
ユリウスがいた。
風に金髪を揺らし、険しい顔でこちらを睨んでいる。
「レイラ……!」
彼は私を見るなり馬から飛び降り、駆け寄ろうとした。
「レイラ、無事か!? こんなところに連れ去られて……!」
だが。
「そこまでだ」
アレンが一歩前に立ちはだかる。
ユリウスの足が止まった。
「アレン殿下……避けていただけますか。
私はレイラに話が――」
「ない」
「……は?」
アレンの声は、明確な拒絶だった。
「レイラは俺が保護している。
お前に近づかせるつもりは一切ない」
「保護……? そんなもの、勝手な――!」
ユリウスが食い下がろうとした瞬間。
アレンの殺気が空気を刺した。
「ここは俺の国だ。
その国の王族である俺が“レイラは渡さない”と言っている」
「……ッ!」
アレンは続ける。
「お前は婚約破棄をした。
レイラを捨てたのは、他でもない“お前自身”だろう?」
ユリウスの表情が苦く歪む。
「それは……誤解だ……!
俺はレイラのためを思って――」
「は」
アレンの冷笑がユリウスの声を切る。
「自分の浮気を誤魔化すために、よく言ったものだな?」
「なっ……!」
周囲の騎士たちが一斉にざわめいた。
私の胸がぎゅっと苦しくなる。
でも――アレンの隣に立っているだけで、不思議と怖くはなかった。
レイラ視点
ユリウスは、苦しげに私を見つめる。
「レイラ……本当に……俺を捨てるつもりなのか?」
「……」
その声を聞いた瞬間、
過去の記憶が押し寄せた。
努力して、
尽くして、
それでも報われなくて。
私が泣いても、振り向いてくれなかった。
――でも。
今の私は、あの頃とは違う。
横には、私の手を強く包むアレンがいる。
アレンは、私の沈黙をどう受け取ったのか、
より強く前に出た。
「レイラは、もう“選ばれる側”ではない」
その言葉にユリウスは眉をひそめる。
「……どういう意味だ?」
アレンの声が静かに響く。
「俺がレイラを選んだ。
――“俺の妃に迎える”という意味だ」
騎士団が一斉に息を呑んだ。
私も、息が止まった。
ユリウスの顔色が瞬時に蒼白になる。
「アレン……貴様……!」
「気に入らないか?」
アレンは喉の奥で笑う。
「当たり前だ。
――お前は、レイラの価値を理解できなかった男だからな」
挑発ではなく、真実。
ユリウスが拳を震わせているのが見える。
彼は、絞り出すように声を放った。
「レイラ……!
そいつは冷酷だと噂がある。
お前を道具のように利用するつもりかもしれない!」
「ほう……?」
アレンの瞳が鋭く光る。
「道具のように扱っていたのは――どこの誰だ?」
ユリウスは言葉を失った。
アレンは私の手を引き、抱き寄せた。
「俺は違う。
レイラを守るためなら、国だって動かす」
「アレ……ン……」
「安心しろ。君は俺が守る。
誰にも触れさせない」
目の前で堂々と宣言され、
胸が熱くなり、震えた。
ユリウスは見たこともないほど苦しげに顔を歪める。
「レイラ……戻ってきてくれ。
お前がいないと……俺は……」
その言葉に、胸がちくりと痛む。
でも。
私の答えは決まっていた。
「……ユリウス様。
今さらそんなことを言われても……戻れません」
ユリウスの表情が絶望に染まる。
「なぜ……?」
「だって――
ちゃんと私を見てくれる人が、隣にいるから」
そう言ってアレンを見上げると、
彼は私の言葉の意味を理解したのか、
喉の奥で息を吸った。
そして――
私の手の甲にそっと唇を落とした。
「……レイラ。俺は君が欲しい」
「っ……!」
ユリウスが絶句する。
アレンは続けた。
「ユリウス。
お前が失ったものを、俺が手に入れる」
「アレン!!
貴様……本気で……!」
「本気だ」
アレンの声は氷の刃だった。
「レイラは俺の女だ」
城門の空気が静まり返る。
ユリウスの唇が震えた。
「……まだ諦めない。絶対にだ」
彼は憎悪と未練の入り混じった目で私を見つめ、
馬に乗り直した。
「レイラ……必ず取り戻す……!」
土煙をあげて去っていく後ろ姿は、
どこか惨めだった。
アレンの部屋前(その日の夜)
「……疲れただろう。
無理をさせて済まなかった」
アレンが優しく言う。
「ううん……あなたは、私を守ってくれたわ」
微笑むと、アレンは一瞬だけ目を細めた。
その表情がどうしようもなく胸に刺さる。
「レイラ」
アレンが低い声で私を呼ぶ。
距離が、自然と近い。
私は息を飲む。
アレンの指が頬をなぞった。
「今日、君が俺を選んだように……
俺も毎日、君を選ぶ」
「アレン……」
「不安にさせる言動はしない。
嫌な思いもさせない。
だから安心して……俺に落ちてくれ」
「……っ」
心臓が壊れそう。
アレンは私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「――君が少しでも俺を好きだと言うなら。
俺はすべてを差し出す」
耳が熱い。
顔が熱い。
体が震える。
こんな人に愛されるなんて、想像もしていなかった。
アレンはゆっくりと離れ、
そのまま私の手を取った。
「今日は休め。
……本当は離したくないけどな」
「アレン……」
彼は名残惜しそうに私の手を離し、
部屋の扉を閉めた。
扉越しに、低い声が聞こえる。
「――レイラ。
俺は絶対に、君を手放さない」
胸が甘く痺れた。
その頃、王都の外れ
「……レイラ……!」
闇の中、ユリウスは拳を震わせていた。
「なぜ……あんな男を選ぶ……?
俺より……俺たちの未来より……?」
呟きは虚空に消える。
その背後に、黒衣の男たちが近づいた。
「ユリウス殿下。
……彼女を取り戻すために、ひとつ提案がございます」
「……提案?」
男たちの瞳は、不穏に光っていた。
「アレン殿下を排除しませんか?
事故に見せかければ……」
ユリウスの瞳が大きく見開かれる。
そして――
ゆっくりと、微笑んだ。
「……いいだろう。
レイラを取り戻せるのなら」
その笑みは、どこか壊れていた。
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