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第一章 とても不思議な世界
3話 新天地②
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食後に至り、日々喜達はメイドのミートの案内で、コウイチなる人物の部屋へ案内された。
「うあ……、汚い」
「コウイチさんが亡くなられてから、この部屋はずっと開かずの間だったからです。部屋の中はずっと当時のままになっているんです。少し待っていて下さい。お掃除を済ましてしまいますから」
「フン!」
その場を後にしたミートを尻目に、コウミは部屋の中へとズカズカと入って行った。日々喜もそれに倣い部屋の中へと入って行く。
足の踏み場も無い程に、床にはなにがしかのメモが書き留められた書類が散乱している。部屋に置かれたベッド、机の上、そして壁の際には本が山積みにされており、天井近くにまで達していた。辛うじて本の山から顔を覗かせるその壁さえ、部屋の主には、床に散乱する書類と同様に、何かを書き留める為の余白にでも見えていたのか、所々意味ありげな落書きされていた。
その一つの落書きに日々喜は注目する。
何か特別な意味が含まれた構文に見えたのだった。
―― point + line = area
「英語……」
気が付けば、その落書きだけでは無く、本のタイトルにも散乱するメモ書きにも、見覚えのある単語が散りばめられている。
「埃っぽいな。日々喜、窓を開けてお前も手伝え。表紙にアトラスと書いてあるやつ、出来れば、俺とお前で二冊いるな」
「アトラスって、本の事なんですか?」
コウミに言われ、日々喜が窓を開けながら尋ねる。
「魔導書だ。魔導士達が常に携帯していて、魔導を使う時に使用する。これは……、おい、これなんて書いてあるか読めるか?」
「アストロメトリー?」
「アストロ? 何だハズレか」
コウミはそう言うと手にした本をその辺に放り出し、別の本の山を漁り始めた。
「英語で書いてあるんですか?」
「ああ。ここでは、魔法言語と呼ばれてる」
「魔法言語?」
「魔法陣を展開すると、何故かアルファベットが円陣の中に刻まれてる。どういうものなのか俺は知らんが、魔導士共はそれを賢者の教示とか抜かして、いたく有難がってるんだ」
「魔法陣に刻まれてるから、魔法言語か」
「感心するなよ日々喜。実際、そう言うのが国中にあふれてて、意味不明な使い方をされてたりするんだ。同じ物だと考えていると、痛い目に合うかもしれないぞ」
日々喜はコウミと一緒になって本の中からアトラスと書かれたタイトルの物を探し始める。部屋の中には本や書類の他に変わった機材が置かれており、探し物をする日々喜の目を引いた。
その中の一つ、ハンドルに二枚の円盤が重なる様に取り付けられた機械があった。円盤は手前の物は黒色に塗りつぶされ、時計の文字盤の様に規則的な間隔でスリットが入っている。奥の円盤には渦巻を模したような絵が、これも手前の円盤と同様に規則的な間隔で、幾つも描かれていた。
日々喜がハンドルを回すと、重なり合う二枚の円盤が同時に回転し、スリットから見える渦巻の模様が動き、回転している様に見える。原始的な動画。構造的な面白みを感じたが、描かれている物は非常につまらないと感じた。
そして、再び探し物に戻った。
そのような事を何度か繰り返していた時、漸く日々喜は目当ての本を見つけ出す。
「コウミ。ありましたよ」
「良し、こっちも見つけたぞ。このベルトを身に着けろ日々喜。アトラスを携帯する為の物だ」
丈夫な革製のベルトは、西部劇等で見るようなガンベルトに似ていた。しかし、脇に備えられるホルダーは日々喜がイメージするような、銃をしまい込むポケットに比べて遥かに大きく、身に着けるのを手間取らせた。
「貸して見な。ここをこうして、確かこうだな」
ベルトの装着をコウミに任せ、日々喜は何をするでもなく手にしたアトラスに目をやる。
丈夫そうな革張りの本。
角の部分は金属で補強がされ、金具によってページが止められている。必要以上にその本が重たく感じるのはその頑丈な構造のみに依る訳では無い。何よりも気軽に読むには適さない、電話帳より少し小さいくらいの大きさだったからだ。
日々喜はアトラスのページを開いてみる。裏表紙に人の名前らしきものが記載されていた。
「ツキモリコウイチ。この魔導書の所有者の方ですね」
「そうだ」
「コウミの知り合い?」
「どうしてそう思う」
「同じコウコウ」
「ん? ああ……。エリオットの娘の旦那だ。俺と同じトウワの出身で、剣士の家に生まれた。それなのに、何故か魔導に関心を持った阿呆さ」
「魔導士だったんだ」
「いいや。あいつは魔導士になれなかった。その資格が無かったんだ。だと言うのに、魔導の研究を一人で続けてやがった。阿保が無駄な事に精を出しやがってさ」
「好きだったんですね」
「ふん。まあ、意外な形で役には立ったって感じだな。どうだ?」
日々喜にベルトを付け終えたコウミは、アトラスをホルダーに装着させて尋ねた。
「随分大きいんですね。意外と重いし」
左側の腰に装着された魔導書アトラスは、日々喜が大きく足を上げる度に、その大きさがたたって、太ももにぶつかった。
「俺もそう思う。滅茶苦茶めちゃくちゃ不便だろ。こんな物を携えて旅をしたり、戦場に立ったりしている奴らの気が知れない。だが――」
コウミは日々喜の頭にフードを被せ、マントを肩に掛けてやると距離を取り、その立ち姿を見渡し始めた。その行動に合わせる様にして、日々喜も自然に背筋を伸ばした。
「――まあ、良いだろ。誰がどう見ても魔導士だ。一ヶ月の間、お前はトウワ出身の見習い魔導士として過ごして行けば良い。誰も疑いはしないさ」
「分かった。ありがとうコウミ」
「礼は、エリオットに言ってやれ。丁度迎えが来たらしい」
コウイチの部屋の窓からは、庭先に止められた一台の幌を張った荷馬車が見えた。その幌馬車から降り立つ一人の商人風の青年が、庭で出迎えるエリオットと立ち話をしているのが分かる。
「よし、イバラ領に向かうぞ日々喜」
「うあ……、汚い」
「コウイチさんが亡くなられてから、この部屋はずっと開かずの間だったからです。部屋の中はずっと当時のままになっているんです。少し待っていて下さい。お掃除を済ましてしまいますから」
「フン!」
その場を後にしたミートを尻目に、コウミは部屋の中へとズカズカと入って行った。日々喜もそれに倣い部屋の中へと入って行く。
足の踏み場も無い程に、床にはなにがしかのメモが書き留められた書類が散乱している。部屋に置かれたベッド、机の上、そして壁の際には本が山積みにされており、天井近くにまで達していた。辛うじて本の山から顔を覗かせるその壁さえ、部屋の主には、床に散乱する書類と同様に、何かを書き留める為の余白にでも見えていたのか、所々意味ありげな落書きされていた。
その一つの落書きに日々喜は注目する。
何か特別な意味が含まれた構文に見えたのだった。
―― point + line = area
「英語……」
気が付けば、その落書きだけでは無く、本のタイトルにも散乱するメモ書きにも、見覚えのある単語が散りばめられている。
「埃っぽいな。日々喜、窓を開けてお前も手伝え。表紙にアトラスと書いてあるやつ、出来れば、俺とお前で二冊いるな」
「アトラスって、本の事なんですか?」
コウミに言われ、日々喜が窓を開けながら尋ねる。
「魔導書だ。魔導士達が常に携帯していて、魔導を使う時に使用する。これは……、おい、これなんて書いてあるか読めるか?」
「アストロメトリー?」
「アストロ? 何だハズレか」
コウミはそう言うと手にした本をその辺に放り出し、別の本の山を漁り始めた。
「英語で書いてあるんですか?」
「ああ。ここでは、魔法言語と呼ばれてる」
「魔法言語?」
「魔法陣を展開すると、何故かアルファベットが円陣の中に刻まれてる。どういうものなのか俺は知らんが、魔導士共はそれを賢者の教示とか抜かして、いたく有難がってるんだ」
「魔法陣に刻まれてるから、魔法言語か」
「感心するなよ日々喜。実際、そう言うのが国中にあふれてて、意味不明な使い方をされてたりするんだ。同じ物だと考えていると、痛い目に合うかもしれないぞ」
日々喜はコウミと一緒になって本の中からアトラスと書かれたタイトルの物を探し始める。部屋の中には本や書類の他に変わった機材が置かれており、探し物をする日々喜の目を引いた。
その中の一つ、ハンドルに二枚の円盤が重なる様に取り付けられた機械があった。円盤は手前の物は黒色に塗りつぶされ、時計の文字盤の様に規則的な間隔でスリットが入っている。奥の円盤には渦巻を模したような絵が、これも手前の円盤と同様に規則的な間隔で、幾つも描かれていた。
日々喜がハンドルを回すと、重なり合う二枚の円盤が同時に回転し、スリットから見える渦巻の模様が動き、回転している様に見える。原始的な動画。構造的な面白みを感じたが、描かれている物は非常につまらないと感じた。
そして、再び探し物に戻った。
そのような事を何度か繰り返していた時、漸く日々喜は目当ての本を見つけ出す。
「コウミ。ありましたよ」
「良し、こっちも見つけたぞ。このベルトを身に着けろ日々喜。アトラスを携帯する為の物だ」
丈夫な革製のベルトは、西部劇等で見るようなガンベルトに似ていた。しかし、脇に備えられるホルダーは日々喜がイメージするような、銃をしまい込むポケットに比べて遥かに大きく、身に着けるのを手間取らせた。
「貸して見な。ここをこうして、確かこうだな」
ベルトの装着をコウミに任せ、日々喜は何をするでもなく手にしたアトラスに目をやる。
丈夫そうな革張りの本。
角の部分は金属で補強がされ、金具によってページが止められている。必要以上にその本が重たく感じるのはその頑丈な構造のみに依る訳では無い。何よりも気軽に読むには適さない、電話帳より少し小さいくらいの大きさだったからだ。
日々喜はアトラスのページを開いてみる。裏表紙に人の名前らしきものが記載されていた。
「ツキモリコウイチ。この魔導書の所有者の方ですね」
「そうだ」
「コウミの知り合い?」
「どうしてそう思う」
「同じコウコウ」
「ん? ああ……。エリオットの娘の旦那だ。俺と同じトウワの出身で、剣士の家に生まれた。それなのに、何故か魔導に関心を持った阿呆さ」
「魔導士だったんだ」
「いいや。あいつは魔導士になれなかった。その資格が無かったんだ。だと言うのに、魔導の研究を一人で続けてやがった。阿保が無駄な事に精を出しやがってさ」
「好きだったんですね」
「ふん。まあ、意外な形で役には立ったって感じだな。どうだ?」
日々喜にベルトを付け終えたコウミは、アトラスをホルダーに装着させて尋ねた。
「随分大きいんですね。意外と重いし」
左側の腰に装着された魔導書アトラスは、日々喜が大きく足を上げる度に、その大きさがたたって、太ももにぶつかった。
「俺もそう思う。滅茶苦茶めちゃくちゃ不便だろ。こんな物を携えて旅をしたり、戦場に立ったりしている奴らの気が知れない。だが――」
コウミは日々喜の頭にフードを被せ、マントを肩に掛けてやると距離を取り、その立ち姿を見渡し始めた。その行動に合わせる様にして、日々喜も自然に背筋を伸ばした。
「――まあ、良いだろ。誰がどう見ても魔導士だ。一ヶ月の間、お前はトウワ出身の見習い魔導士として過ごして行けば良い。誰も疑いはしないさ」
「分かった。ありがとうコウミ」
「礼は、エリオットに言ってやれ。丁度迎えが来たらしい」
コウイチの部屋の窓からは、庭先に止められた一台の幌を張った荷馬車が見えた。その幌馬車から降り立つ一人の商人風の青年が、庭で出迎えるエリオットと立ち話をしているのが分かる。
「よし、イバラ領に向かうぞ日々喜」
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