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第一章 とても不思議な世界
4話 出立①
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魔導士の格好に着替えた日々喜。
不慣れな装備の為たどたどしい足取りになった。
コウミの言う通り、腰に携えた魔導書アトラスの存在が不便で仕方ない。しかし、そう発言したコウミ本人は、日々喜とそう変わらない装備であるにもかかわらず、ズカズカと先を歩いて行く。
「さっさと来いよ。日々喜」
外へと続く廊下の先で、コウミが日々喜を急かす。
「待って下さい。アトラスが足にぶつかるんです」
「歩き方を工夫しろ」
「そんな事言ったって……」
「直ぐに慣れるさ」
「コウミは慣れているんですか」
「剣より軽い。それだけの事だ」
「ああ、コウミさんは剣士だったのですね? トウワ国のお生まれと聞いていたのでそうじゃないかと思っていたんです」
二人の後から続いて来たメイドのミートが会話に割って入った。しかし、コウミはミートの言葉に応えず、うとましい者を見る様に白い眼を細めた。
「……えっと」
ミートは気まずそうに眼を泳がした。
「剣士だったのコウミ?」
「昔の事だ」
「昔は剣士だったそうですよ」
「え、ええ、私にもそう聞こえました……。ありがとうございます……」
元気を無くしたような声でミートがそう言うと、コウミはフンと鼻を鳴らすような声を出し、玄関から外へと出て行ってしまった。
「気難しい方ですね。私、あんな対応されたの初めてだったので」
「多分、人と話すのが久しぶりだから、照れているんだと思います」
「人と話すのが、ですか? 日々喜さんとは良くお話ししている様子でしたけど?」
「僕も、コウミとちゃんと話しをしたのは、昨日が初めてでした」
「そうなんですか?」
日々喜の話しを聞き、ミートは不思議そうな表情を浮かべた。
二人が庭先へと顔を出すと、既に外に出ていたクレレ夫妻がコウミと話をしていた。
「まあー、良いじゃない。見るからに魔導士。若い頃のコウイチさん達の事を思い出すわ」
玄関口から顔を出した日々喜を見咎め、マーガレットがその恰好を評価した。
「最近では、トウワ国にも魔導学院が出来たらしい。機会があったら、本格的な勉強もできるだろうね」
マーガレットに続き、エリオットがそう言った。
二人に取って、既に日々喜が本物の見習い魔導士に見えているのだろう。
「必要ないね。こいつは元々地元屈指の学校に通っている」
コウミがそんな二人の考えを否定する様に口を挟んだ。
「ほー、そうなのかね」
「ああ。何と言ったか、確かスーパー……」
「ふむ、スーパー?」
「スーパー、サイヤ……、何とか高校、だったか」
「おお、何とも、すごそうな響きのある名前だ」
曖昧な言葉だったが、そのすごさが何となくエリオットには伝わったらしい。コウミもそんなエリオットの反応に満足げに頷いた。
「だから、さっさと家に帰して復学させなくちゃな」
「コウミにとっては、自慢の弟子なのね」
「ふん! 別に自慢なんかしてない!」
そう言うと、コウミは早々にその場を立ち去り、幌馬車の荷台へと上がり込んで行ってしまった。
「コウミは相変わらずねぇ」
「うん。さて……」
気を改める様にエリオットは日々喜の方へと振り向く。
「日々喜君これを」
「これは?」
差し出された一冊の本を手に取り、日々喜はエリオットに尋ねた。
「魔導の教本さ。私が学生時代に使っていた物だから、かなり古い物になってしまうが、これを君に進呈しよう」
「良いんですか!? ……でも」
日々喜は幌馬車の方を見る。
「気にしてはダメよ。コウミは魔導が嫌いというだけで、貴方に勉強をしてほしくないという訳では無いのだから」
「そういうものでしょうか?」
「一つの事に夢中になって、つい、他の子がやる事にも口を出したがる。トウワの子は皆そう。いつも言葉が足りない。とっても不器用か、とっても恥ずかしがり屋さんのどっちかだから。でも、仲間思いの良い子達ばかりだったわ。コウミもそういう子だった。他の子に比べて少し、とういうより、かなり気取り屋な所があったけど」
マーガレットはそう言いながら日々喜の頬を優しく撫でた。今まで出会って来たトウワの子の姿が日々喜に重なって見えたのかもしれない。
「四月になったら戻っておいで。トウワ国への出国の時には、もっと盛大に送り出してあげよう」
エリオットは、ゼンマイの様な髭を伸ばしたり縮めたりを繰り返しながらそう言った。
「エリオットさん。マーガレットさん。それとミートさん。ありがとうございました。また、必ず戻ってきます」
そう言うと、日々喜は馬車の荷台へと乗り込む。御者はそれを確認すると、エリオットに軽く会釈して、馬車を動かし始めた。
日々喜は荷台から顔を出し、クレレ達の方へ手を振った。クレレ達もその姿が見えなくなるまで、手を振り返し続けた。
「優しい、良い人達でした」
「目を背ける事が出来ないのさ。困ってる人間が目の前に居たらな」
「ここに戻ったら、もう一度ちゃんとお礼を言いたいです」
「お前の好きにすればいい」
日々喜が手を振り続ける中で、終始動く事なく荷台に腰を落ち着かせていたコウミは、日々喜の言葉にただそう呟くと、眠る様に白く光る目を閉じた。
不慣れな装備の為たどたどしい足取りになった。
コウミの言う通り、腰に携えた魔導書アトラスの存在が不便で仕方ない。しかし、そう発言したコウミ本人は、日々喜とそう変わらない装備であるにもかかわらず、ズカズカと先を歩いて行く。
「さっさと来いよ。日々喜」
外へと続く廊下の先で、コウミが日々喜を急かす。
「待って下さい。アトラスが足にぶつかるんです」
「歩き方を工夫しろ」
「そんな事言ったって……」
「直ぐに慣れるさ」
「コウミは慣れているんですか」
「剣より軽い。それだけの事だ」
「ああ、コウミさんは剣士だったのですね? トウワ国のお生まれと聞いていたのでそうじゃないかと思っていたんです」
二人の後から続いて来たメイドのミートが会話に割って入った。しかし、コウミはミートの言葉に応えず、うとましい者を見る様に白い眼を細めた。
「……えっと」
ミートは気まずそうに眼を泳がした。
「剣士だったのコウミ?」
「昔の事だ」
「昔は剣士だったそうですよ」
「え、ええ、私にもそう聞こえました……。ありがとうございます……」
元気を無くしたような声でミートがそう言うと、コウミはフンと鼻を鳴らすような声を出し、玄関から外へと出て行ってしまった。
「気難しい方ですね。私、あんな対応されたの初めてだったので」
「多分、人と話すのが久しぶりだから、照れているんだと思います」
「人と話すのが、ですか? 日々喜さんとは良くお話ししている様子でしたけど?」
「僕も、コウミとちゃんと話しをしたのは、昨日が初めてでした」
「そうなんですか?」
日々喜の話しを聞き、ミートは不思議そうな表情を浮かべた。
二人が庭先へと顔を出すと、既に外に出ていたクレレ夫妻がコウミと話をしていた。
「まあー、良いじゃない。見るからに魔導士。若い頃のコウイチさん達の事を思い出すわ」
玄関口から顔を出した日々喜を見咎め、マーガレットがその恰好を評価した。
「最近では、トウワ国にも魔導学院が出来たらしい。機会があったら、本格的な勉強もできるだろうね」
マーガレットに続き、エリオットがそう言った。
二人に取って、既に日々喜が本物の見習い魔導士に見えているのだろう。
「必要ないね。こいつは元々地元屈指の学校に通っている」
コウミがそんな二人の考えを否定する様に口を挟んだ。
「ほー、そうなのかね」
「ああ。何と言ったか、確かスーパー……」
「ふむ、スーパー?」
「スーパー、サイヤ……、何とか高校、だったか」
「おお、何とも、すごそうな響きのある名前だ」
曖昧な言葉だったが、そのすごさが何となくエリオットには伝わったらしい。コウミもそんなエリオットの反応に満足げに頷いた。
「だから、さっさと家に帰して復学させなくちゃな」
「コウミにとっては、自慢の弟子なのね」
「ふん! 別に自慢なんかしてない!」
そう言うと、コウミは早々にその場を立ち去り、幌馬車の荷台へと上がり込んで行ってしまった。
「コウミは相変わらずねぇ」
「うん。さて……」
気を改める様にエリオットは日々喜の方へと振り向く。
「日々喜君これを」
「これは?」
差し出された一冊の本を手に取り、日々喜はエリオットに尋ねた。
「魔導の教本さ。私が学生時代に使っていた物だから、かなり古い物になってしまうが、これを君に進呈しよう」
「良いんですか!? ……でも」
日々喜は幌馬車の方を見る。
「気にしてはダメよ。コウミは魔導が嫌いというだけで、貴方に勉強をしてほしくないという訳では無いのだから」
「そういうものでしょうか?」
「一つの事に夢中になって、つい、他の子がやる事にも口を出したがる。トウワの子は皆そう。いつも言葉が足りない。とっても不器用か、とっても恥ずかしがり屋さんのどっちかだから。でも、仲間思いの良い子達ばかりだったわ。コウミもそういう子だった。他の子に比べて少し、とういうより、かなり気取り屋な所があったけど」
マーガレットはそう言いながら日々喜の頬を優しく撫でた。今まで出会って来たトウワの子の姿が日々喜に重なって見えたのかもしれない。
「四月になったら戻っておいで。トウワ国への出国の時には、もっと盛大に送り出してあげよう」
エリオットは、ゼンマイの様な髭を伸ばしたり縮めたりを繰り返しながらそう言った。
「エリオットさん。マーガレットさん。それとミートさん。ありがとうございました。また、必ず戻ってきます」
そう言うと、日々喜は馬車の荷台へと乗り込む。御者はそれを確認すると、エリオットに軽く会釈して、馬車を動かし始めた。
日々喜は荷台から顔を出し、クレレ達の方へ手を振った。クレレ達もその姿が見えなくなるまで、手を振り返し続けた。
「優しい、良い人達でした」
「目を背ける事が出来ないのさ。困ってる人間が目の前に居たらな」
「ここに戻ったら、もう一度ちゃんとお礼を言いたいです」
「お前の好きにすればいい」
日々喜が手を振り続ける中で、終始動く事なく荷台に腰を落ち着かせていたコウミは、日々喜の言葉にただそう呟くと、眠る様に白く光る目を閉じた。
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