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第二章 奪い合う世界
48話 犬とカラスの奪い合い②
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突き立てられたムラサメを瞬時に引き抜き、コウミはハニイから距離を取る。
ハニイはよろめき、首を抑えながらその場に膝を着いた。
「ひ、卑怯な。……?」
声が出た。
ハニイは自分の首を撫で、傷の在りかを確認する。
剣で突かれたはずの喉は、傷ついておらず、一滴の血も出ていなかった。しかし、どう言う訳かそこには傷跡の残滓ともいうべき痛みが残っていた。
「これは一体……、ハッ!」
自らの首を改めていた最中、コウミが上段に構えた剣を振り下ろす。ハニイは咄嗟に自分の剣を持ってその斬撃を防いだ。
鋼でできた刀身と、何でできてるかも分からない白くて硬い刀身がぶつかり合うと、金属同士が激しくぶつかり合う様な音を立てる。
咄嗟の中でコウミの斬撃を防いだハニイは、思わず体制を崩し掛けた。
コウミはその中で自らの握るムラサメを振り上げ、一撃、二撃、と身を守り続けるハニイへ容赦なく叩きつけた。
「くっ、こいつ……」
なおも振り下ろされる斬撃を防ぎつつ、ハニイは不本意な気持ちを漏らした。
コウミの振るう技は剣術になっていない。
伸びきった背筋。そこから振り下ろされる斬撃は、腕の力のみで叩きつける様なものだった。三本ある腕でさえ、剣を振るう一本を除き、二本は何をするでもなく遊ばせている。
滅茶苦茶だった。
その滅茶苦茶な勢いに、ハニイは押され続けた。
剣と剣のぶつかり合う音の中で、そんな自分の事を嘲笑うかのようなコウミの笑い声が耳に届く。
「舐めるな!」
防御一辺倒だったハニイ。振り下ろされる斬撃に合わせ、身体を持ち上げる様にしてコウミの握るムラサメを跳ね除けた。
素人同然の素振りに近い事をしていたコウミ。当然の如くその切っ先が明後日の方を向いた。
「お返しだ!」
ハニイはその隙を見逃さず、持ち直した体制と共に、自らの剣をコウミの喉へと突き立てた。
避ける間もなかった、のだろうか。ハニイの刀身は勢いを殺さぬままコウミの首を貫いた。
「素人め……」
致命の一撃を与える事により勝負はついた。ハニイはそう考えたのか、敵に対する評価を口にした。
しかし、コウミの被る仮面の奥からは、依然として笑い声の様なものが絶えなかった。
「手に掛けた相手が、素人も糞もあるか? 剣士という奴は――」
貫かれた状態のまま、コウミは顔をもたげ話し始めた。
その奇怪な様を目の当たりにして、ハニイは驚く。反射的に距離を取ろうとして、コウミの喉から剣を引き抜いた。すると、待ち構えた様にコウミの遊んでいた両手が動き、引き抜かれた刀身を挟み込む様に白刃取りにする。
飛び退こうとするハニイの身体が空中で硬直した。その次の瞬間、ムラサメがハニイの腹を薙いだ。
「ぐわ!?」
挟んでいた剣を解くと、ハニイはそのまま二、三歩後退し、腹を抱えながら再び膝を着く。
痛い。だが、また傷ができていない。ハニイは服に空いた切れ込みから、自らの腹を弄る。
これは一体何なんだ。
「……剣士という奴は、どこまでも自分本位だ。傷つけた相手すら、自分の物差しでしか見ようとしない」
ハニイはコウミの事を見上げた。貫いたはずの喉からは僅かに瘴気の様なものを立ち昇らせている。しかし、いたって問題が無さそうにコウミは話しをしていた。
「俺はな、この世界の何が嫌いかって、お前らみたいな独りよがりの剣士が一番嫌いなんだ」
「キサラギ一門。お前だって、剣士だろうに。……いいや、お前は剣士ではないのか?」
「不思議か? 切られても傷つかない相手が。なら、一つだけ教えてやる」
コウミは笑いながらそう言うと、ムラサメを水平にかざした。
「こいつは見たままのアーティファクト。刀身から滴る摩液は、どんな傷さえも元に戻す。例え、自らが付けた傷口でさえ、血が噴き出す間もなく癒着させる」
「な!?」
ハニイは驚愕した。
「何故……。そんなものを、兵器に?」
「同じ土俵と言っただろ。……遊んでるんだよ、俺は」
こいつ、何を言ってやがる。
ハニイは痛む腹を抑えながら、何とか立ち上がった。
同じ土俵。同じ土俵と言ったか。切られても自分は死なない。そう言ってるのかこいつは。
激しく動揺するハニイ。しかし、そうした内心のざわめきは、全て仮面に隠されたまま表に出る事は無く、ただ、ぶ然として黙り続ける様に周りには映る。
「安心しろ。終わらない遊びじゃない。お前が尻尾巻いて逃げ帰るまでの話しだ。でなけりゃ、身体に残る痛みで、お前自身が狂い死ぬまで続けてやる」
構わず話し続けるコウミ。しかし、その言葉はハニイの耳には届いて来ない。
不死身の剣士、不殺の刀剣を振りかざす。この私の戦いが、奴にとっての遊び。違う、こいつは汚しているんだ。私の挑戦を、私達の戦いを、剣士の営みを破壊しいる。
ハニイはその様に考え続けた。一方で、剣を構えようともしないハニイの事をコウミは怪訝に思い始める。
「……ああ、そうか。この世界に、狂い死になんてもんは稀か。エレメンタルだか、ルーラーだかに、人間は救われちまうもんだからな。つまり、俺が言いたいのは、お前が――」
「デーモン……」
ハニイの言葉を聞きとがめ、コウミは話していた言葉を噤んだ。
「お前、人間じゃないのか?」
その言葉を聞いて、コウミは落胆した様に大きく溜息を着いた。
「口をきく犬がいるか?」
コウミの言葉だ。ハニイには意味が分からない。
「日の下を怯えずに歩き、堂々と胸を張って生きる。他人の家では我が物顔で過ごして来た。そんな負け犬が、いるかと聞いてるんだぁあ」
語尾が跳ね上がった。一体どんな心境の変化だ。ハニイは慎重にコウミの動静を見極めようと努めた。その時、突然。
「いねえよ!」
コウミは吠える様にそう言うと、ハニイに殴りかかって行った。
「うわ!?」
ハニイは咄嗟に、コウミの胴体を左から切り上げた。
途端に風船を割った様に、コウミの身体から瘴気が噴き出す。
それは、あっという間にコウミとハニイの周囲を覆ってしまい、日が出始めていたにもかかわらず、一帯を暗闇へ変えた。
「痛ってえぞ、こら!」
暗闇の中で、コウミの叫びが上がった。同時に、ハニイの顔が殴り抜かれ、顔に付いていた仮面が吹き飛んでいった。
暗闇の中、どこかで仮面の落ちるカランカランという音が響いた。
ハニイはよろめき、首を抑えながらその場に膝を着いた。
「ひ、卑怯な。……?」
声が出た。
ハニイは自分の首を撫で、傷の在りかを確認する。
剣で突かれたはずの喉は、傷ついておらず、一滴の血も出ていなかった。しかし、どう言う訳かそこには傷跡の残滓ともいうべき痛みが残っていた。
「これは一体……、ハッ!」
自らの首を改めていた最中、コウミが上段に構えた剣を振り下ろす。ハニイは咄嗟に自分の剣を持ってその斬撃を防いだ。
鋼でできた刀身と、何でできてるかも分からない白くて硬い刀身がぶつかり合うと、金属同士が激しくぶつかり合う様な音を立てる。
咄嗟の中でコウミの斬撃を防いだハニイは、思わず体制を崩し掛けた。
コウミはその中で自らの握るムラサメを振り上げ、一撃、二撃、と身を守り続けるハニイへ容赦なく叩きつけた。
「くっ、こいつ……」
なおも振り下ろされる斬撃を防ぎつつ、ハニイは不本意な気持ちを漏らした。
コウミの振るう技は剣術になっていない。
伸びきった背筋。そこから振り下ろされる斬撃は、腕の力のみで叩きつける様なものだった。三本ある腕でさえ、剣を振るう一本を除き、二本は何をするでもなく遊ばせている。
滅茶苦茶だった。
その滅茶苦茶な勢いに、ハニイは押され続けた。
剣と剣のぶつかり合う音の中で、そんな自分の事を嘲笑うかのようなコウミの笑い声が耳に届く。
「舐めるな!」
防御一辺倒だったハニイ。振り下ろされる斬撃に合わせ、身体を持ち上げる様にしてコウミの握るムラサメを跳ね除けた。
素人同然の素振りに近い事をしていたコウミ。当然の如くその切っ先が明後日の方を向いた。
「お返しだ!」
ハニイはその隙を見逃さず、持ち直した体制と共に、自らの剣をコウミの喉へと突き立てた。
避ける間もなかった、のだろうか。ハニイの刀身は勢いを殺さぬままコウミの首を貫いた。
「素人め……」
致命の一撃を与える事により勝負はついた。ハニイはそう考えたのか、敵に対する評価を口にした。
しかし、コウミの被る仮面の奥からは、依然として笑い声の様なものが絶えなかった。
「手に掛けた相手が、素人も糞もあるか? 剣士という奴は――」
貫かれた状態のまま、コウミは顔をもたげ話し始めた。
その奇怪な様を目の当たりにして、ハニイは驚く。反射的に距離を取ろうとして、コウミの喉から剣を引き抜いた。すると、待ち構えた様にコウミの遊んでいた両手が動き、引き抜かれた刀身を挟み込む様に白刃取りにする。
飛び退こうとするハニイの身体が空中で硬直した。その次の瞬間、ムラサメがハニイの腹を薙いだ。
「ぐわ!?」
挟んでいた剣を解くと、ハニイはそのまま二、三歩後退し、腹を抱えながら再び膝を着く。
痛い。だが、また傷ができていない。ハニイは服に空いた切れ込みから、自らの腹を弄る。
これは一体何なんだ。
「……剣士という奴は、どこまでも自分本位だ。傷つけた相手すら、自分の物差しでしか見ようとしない」
ハニイはコウミの事を見上げた。貫いたはずの喉からは僅かに瘴気の様なものを立ち昇らせている。しかし、いたって問題が無さそうにコウミは話しをしていた。
「俺はな、この世界の何が嫌いかって、お前らみたいな独りよがりの剣士が一番嫌いなんだ」
「キサラギ一門。お前だって、剣士だろうに。……いいや、お前は剣士ではないのか?」
「不思議か? 切られても傷つかない相手が。なら、一つだけ教えてやる」
コウミは笑いながらそう言うと、ムラサメを水平にかざした。
「こいつは見たままのアーティファクト。刀身から滴る摩液は、どんな傷さえも元に戻す。例え、自らが付けた傷口でさえ、血が噴き出す間もなく癒着させる」
「な!?」
ハニイは驚愕した。
「何故……。そんなものを、兵器に?」
「同じ土俵と言っただろ。……遊んでるんだよ、俺は」
こいつ、何を言ってやがる。
ハニイは痛む腹を抑えながら、何とか立ち上がった。
同じ土俵。同じ土俵と言ったか。切られても自分は死なない。そう言ってるのかこいつは。
激しく動揺するハニイ。しかし、そうした内心のざわめきは、全て仮面に隠されたまま表に出る事は無く、ただ、ぶ然として黙り続ける様に周りには映る。
「安心しろ。終わらない遊びじゃない。お前が尻尾巻いて逃げ帰るまでの話しだ。でなけりゃ、身体に残る痛みで、お前自身が狂い死ぬまで続けてやる」
構わず話し続けるコウミ。しかし、その言葉はハニイの耳には届いて来ない。
不死身の剣士、不殺の刀剣を振りかざす。この私の戦いが、奴にとっての遊び。違う、こいつは汚しているんだ。私の挑戦を、私達の戦いを、剣士の営みを破壊しいる。
ハニイはその様に考え続けた。一方で、剣を構えようともしないハニイの事をコウミは怪訝に思い始める。
「……ああ、そうか。この世界に、狂い死になんてもんは稀か。エレメンタルだか、ルーラーだかに、人間は救われちまうもんだからな。つまり、俺が言いたいのは、お前が――」
「デーモン……」
ハニイの言葉を聞きとがめ、コウミは話していた言葉を噤んだ。
「お前、人間じゃないのか?」
その言葉を聞いて、コウミは落胆した様に大きく溜息を着いた。
「口をきく犬がいるか?」
コウミの言葉だ。ハニイには意味が分からない。
「日の下を怯えずに歩き、堂々と胸を張って生きる。他人の家では我が物顔で過ごして来た。そんな負け犬が、いるかと聞いてるんだぁあ」
語尾が跳ね上がった。一体どんな心境の変化だ。ハニイは慎重にコウミの動静を見極めようと努めた。その時、突然。
「いねえよ!」
コウミは吠える様にそう言うと、ハニイに殴りかかって行った。
「うわ!?」
ハニイは咄嗟に、コウミの胴体を左から切り上げた。
途端に風船を割った様に、コウミの身体から瘴気が噴き出す。
それは、あっという間にコウミとハニイの周囲を覆ってしまい、日が出始めていたにもかかわらず、一帯を暗闇へ変えた。
「痛ってえぞ、こら!」
暗闇の中で、コウミの叫びが上がった。同時に、ハニイの顔が殴り抜かれ、顔に付いていた仮面が吹き飛んでいった。
暗闇の中、どこかで仮面の落ちるカランカランという音が響いた。
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