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第二章 奪い合う世界
47話 犬とカラスの奪い合い①
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イバラの戦いが終結に向かう中で、コウミとハニイ、そして、日々喜が屋根の上で対峙した。
「散々、誘いをかけて来たつもりだったが、今になって漸く面を出すとは……。どうやら、お前達にとっての脅威は、俺達やあのよからぬ者ではなく、フェンネル・フォーリアムの方だったという事か」
一定の間合いを維持しながら立ち尽くしているハニイに対して、コウミはそう言うと、相手を小馬鹿にする様なクックックという含んだ笑い声を立てる。
「ダイワ国の残党。剣士崩れが。魔導士如きに恐れを抱くとは、落ちたものだな」
コウミの煽るような言葉に、ハニイは動じる様子を見せなかった。
「誤解するなよ」
ハニイはコウミの言葉に応える。
「あれには役割がある。既に、私が手に掛ける理由が無いだけだ」
「ほう……」
コウミは関心を示す様な呟きを漏らした。
「コウミ、彼女と話を……」
日々喜がコウミに話し掛ける。
「必要ない」
相手は既に抜刀している。コウミはハニイから目を離さず日々喜に応えた。
戦いは既に始まっている。これから切り合う者以外が、口を挟む事をコウミは嫌ったのだ。
「お願いします。僕に話をさせて下さい」
日々喜は頼み込む様に、コウミの黒いズボンをつかんだ。コウミは小さく溜息を着く。
「……好きにしろ」
日々喜の強くつかんだ手は自然に離れた。
「ハニイさん。森を燃やしたのは貴方達ですね?」
ハニイは応えない。疑いを否定する事も無いその姿を見て、日々喜は奥歯を噛み締めた。
「どうして、そんな酷い真似を……、ここに住む人達が、どれだけ胸を痛める事になったか。貴方だって知っていたはずです。イバラの森にルーラーが住んでいる事を、この土地の皆が、どれだけ森を大事にしていたかを」
ハニイは応えない。微動だにしないその立ち姿。顔に付けた犬の仮面も相まって、まるで人形に話し掛けている気分になる。
「貴方は、オオカミですか? やっている事は、自分の住みかを求めて、土地を渡り歩いて、無邪気な動物を傷つけて。そんなの獣と同じですよ! 同じ人間だったら、そんな事しなくて済んだはずじゃないですか。何か、言ってくださいよ!」
黙り続けるハニイに対して、日々喜はあからさまな感情を言葉に乗せた。
「……変わった男だ。この状況で、空気を読まないのか?」
漸く、ハニイが話し始めた。
「まあ、いいさ」
それまで、低く腰を落としていたハニイ。臨戦の体制を解く様に背筋を伸ばした。
「長岐、日々喜。森でお前が守った子供は、私の妹だ。血は繋がらない。生まれた国も人種も違う。同じなのは、親がいなかったという事、同じ一門に救われたという事だけ。だが、絆がある。国を失い、私達は故郷を捨てた。流浪に身をやつした以上、私達にはその絆を守る以外何も望むものは無い。……何も無いんだ」
無表情な犬の仮面と同様に、ハニイは自ら発する言葉に感情を乗せず話していた。
日々喜は、ハニイの考えを理解しようと必死にその話を聞き続けた。
「お前には恩ができた、私が報いなければならない義理だ。だが、一門の絆はそれ以上に重い。例え、恩を仇で返すことになろうとも、この私が不義理を重ねようとも、この身一つ、獣に堕ちる程度なら……」
ハニイはそう言うと剣を両手で握りしめ、日々喜達に目掛け、その切っ先を突きつけた。
「許せ。お前が情けを掛けたのは、ただの獣だったのだ。そして、私はお前を逃がさない」
酷い事を言う。話ができるというのに、自分は獣だからとこちらの言い分を聞き入れようとしないなんて。
ハニイの一方的な言い分に、日々喜は憤りをおぼえる。しかし、その考え自体は理解できないものでは無かった。
世界からはぶれた彼女達が、自分の生き残りを賭けて戦う姿は自然なものにさえ思える。そして、自分がこの手で殺したオオカミ達と同じ運命をたどろうとする。無情に命を奪ったその時の経験が甦るようで、日々喜は視線を落とした。
「それでも……。僕は、貴女と行く訳にはいかない」
奪い合いの果ての殺し合い。それに比べて、話し合いで解決する事はどれ程難しい事か。思い知らされた現実に、日々喜は悩む様な声を出した。
「コウミ、彼女を追い払ってくれ。……この土地から」
「分かった」
日々喜の苦しい答えをコウミは一言で返した。そして、自らが被るフードを取り必要無いとばかりに放り投げた。カラスの顔が顕わになり、そのままハニイの前へと一歩進みでた。
「ムラサメ!」
コウミの呼び声に従う様に、屋根の上へと白蛇が顔を出した。
「手を貸せ。こいつとは同じ土俵で戦いたい。完膚なきまでに負かしてやらなくちゃ、理解できない馬鹿だ」
コウミはそう言うと、ムラサメの大きな頭に右手を添えた。
途端にムラサメの身体が変質する。自分が囚われていた時に見せたあの変化だと、日々喜には分かった。
ムラサメの身体は、剣を握る一本の黒い腕へと変わった。それは、切断された腕の付け根から黒い瘴気の様なものを漏らし、どう言う原理か、コウミの右肩の辺りに繋がりを持った。
コウミには、その三本目の腕を自在に操る事ができるらしく、握りしめられた純白の刀身を振るい、空間を切って見せた。
「いいか? 叩き潰すぞ。でなきゃ気が済まないからな」
対峙するハニイは、コウミとムラサメの異様な変質を見ても微動だにしない。
しかし、内心に起きた動揺を鎮めようと必死になった。
三本目の腕。いや、幻惑だ。腕が何本あろうと関係ない。それよりもあの白い剣。白蛇が変質した。間違いなくアーティファクトの類。注意しなくてはならいのが剣だけなら、剣士を相手にするのと変わりはない。
ハニイは瞬時にそう考えを改めると、身を引き締める様に深く息を吸い込んだ。
場を支配するのは、あくまでも決闘の空気。お互いの正体を明かす事を合図に、切り合いに転じ、瞬時に勝負が着く。
「テシオ、ハニイ」
邪念を捨てる様に、ハニイは自分の名を名乗った。
「……コウミ」
そんなハニイに付き合う様に、コウミも自分の名を名乗り始める。
「キサラギ、コウミだ」
その名を聞き、息を呑む様に座り込んでいた日々喜が、驚いた表情をコウミの背中に送った。
「キサラギ……」
大伯父、灯馬と同じ苗字だ。
「キサラギ、一門だと!?」
動揺する様な声が上がり、日々喜はハニイの方へ視線を移す。
しかし、それよりも早く。
既にコウミは間合いを詰め、純白の刀身を持って、ハニイの喉を突いた。
「カッ!?」
栓を抜いた様な音が、その喉から聞こえた。
後には、コウミの動線を描く様に残されていた黒い煙が、ユラリと消えて行く。
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一定の間合いを維持しながら立ち尽くしているハニイに対して、コウミはそう言うと、相手を小馬鹿にする様なクックックという含んだ笑い声を立てる。
「ダイワ国の残党。剣士崩れが。魔導士如きに恐れを抱くとは、落ちたものだな」
コウミの煽るような言葉に、ハニイは動じる様子を見せなかった。
「誤解するなよ」
ハニイはコウミの言葉に応える。
「あれには役割がある。既に、私が手に掛ける理由が無いだけだ」
「ほう……」
コウミは関心を示す様な呟きを漏らした。
「コウミ、彼女と話を……」
日々喜がコウミに話し掛ける。
「必要ない」
相手は既に抜刀している。コウミはハニイから目を離さず日々喜に応えた。
戦いは既に始まっている。これから切り合う者以外が、口を挟む事をコウミは嫌ったのだ。
「お願いします。僕に話をさせて下さい」
日々喜は頼み込む様に、コウミの黒いズボンをつかんだ。コウミは小さく溜息を着く。
「……好きにしろ」
日々喜の強くつかんだ手は自然に離れた。
「ハニイさん。森を燃やしたのは貴方達ですね?」
ハニイは応えない。疑いを否定する事も無いその姿を見て、日々喜は奥歯を噛み締めた。
「どうして、そんな酷い真似を……、ここに住む人達が、どれだけ胸を痛める事になったか。貴方だって知っていたはずです。イバラの森にルーラーが住んでいる事を、この土地の皆が、どれだけ森を大事にしていたかを」
ハニイは応えない。微動だにしないその立ち姿。顔に付けた犬の仮面も相まって、まるで人形に話し掛けている気分になる。
「貴方は、オオカミですか? やっている事は、自分の住みかを求めて、土地を渡り歩いて、無邪気な動物を傷つけて。そんなの獣と同じですよ! 同じ人間だったら、そんな事しなくて済んだはずじゃないですか。何か、言ってくださいよ!」
黙り続けるハニイに対して、日々喜はあからさまな感情を言葉に乗せた。
「……変わった男だ。この状況で、空気を読まないのか?」
漸く、ハニイが話し始めた。
「まあ、いいさ」
それまで、低く腰を落としていたハニイ。臨戦の体制を解く様に背筋を伸ばした。
「長岐、日々喜。森でお前が守った子供は、私の妹だ。血は繋がらない。生まれた国も人種も違う。同じなのは、親がいなかったという事、同じ一門に救われたという事だけ。だが、絆がある。国を失い、私達は故郷を捨てた。流浪に身をやつした以上、私達にはその絆を守る以外何も望むものは無い。……何も無いんだ」
無表情な犬の仮面と同様に、ハニイは自ら発する言葉に感情を乗せず話していた。
日々喜は、ハニイの考えを理解しようと必死にその話を聞き続けた。
「お前には恩ができた、私が報いなければならない義理だ。だが、一門の絆はそれ以上に重い。例え、恩を仇で返すことになろうとも、この私が不義理を重ねようとも、この身一つ、獣に堕ちる程度なら……」
ハニイはそう言うと剣を両手で握りしめ、日々喜達に目掛け、その切っ先を突きつけた。
「許せ。お前が情けを掛けたのは、ただの獣だったのだ。そして、私はお前を逃がさない」
酷い事を言う。話ができるというのに、自分は獣だからとこちらの言い分を聞き入れようとしないなんて。
ハニイの一方的な言い分に、日々喜は憤りをおぼえる。しかし、その考え自体は理解できないものでは無かった。
世界からはぶれた彼女達が、自分の生き残りを賭けて戦う姿は自然なものにさえ思える。そして、自分がこの手で殺したオオカミ達と同じ運命をたどろうとする。無情に命を奪ったその時の経験が甦るようで、日々喜は視線を落とした。
「それでも……。僕は、貴女と行く訳にはいかない」
奪い合いの果ての殺し合い。それに比べて、話し合いで解決する事はどれ程難しい事か。思い知らされた現実に、日々喜は悩む様な声を出した。
「コウミ、彼女を追い払ってくれ。……この土地から」
「分かった」
日々喜の苦しい答えをコウミは一言で返した。そして、自らが被るフードを取り必要無いとばかりに放り投げた。カラスの顔が顕わになり、そのままハニイの前へと一歩進みでた。
「ムラサメ!」
コウミの呼び声に従う様に、屋根の上へと白蛇が顔を出した。
「手を貸せ。こいつとは同じ土俵で戦いたい。完膚なきまでに負かしてやらなくちゃ、理解できない馬鹿だ」
コウミはそう言うと、ムラサメの大きな頭に右手を添えた。
途端にムラサメの身体が変質する。自分が囚われていた時に見せたあの変化だと、日々喜には分かった。
ムラサメの身体は、剣を握る一本の黒い腕へと変わった。それは、切断された腕の付け根から黒い瘴気の様なものを漏らし、どう言う原理か、コウミの右肩の辺りに繋がりを持った。
コウミには、その三本目の腕を自在に操る事ができるらしく、握りしめられた純白の刀身を振るい、空間を切って見せた。
「いいか? 叩き潰すぞ。でなきゃ気が済まないからな」
対峙するハニイは、コウミとムラサメの異様な変質を見ても微動だにしない。
しかし、内心に起きた動揺を鎮めようと必死になった。
三本目の腕。いや、幻惑だ。腕が何本あろうと関係ない。それよりもあの白い剣。白蛇が変質した。間違いなくアーティファクトの類。注意しなくてはならいのが剣だけなら、剣士を相手にするのと変わりはない。
ハニイは瞬時にそう考えを改めると、身を引き締める様に深く息を吸い込んだ。
場を支配するのは、あくまでも決闘の空気。お互いの正体を明かす事を合図に、切り合いに転じ、瞬時に勝負が着く。
「テシオ、ハニイ」
邪念を捨てる様に、ハニイは自分の名を名乗った。
「……コウミ」
そんなハニイに付き合う様に、コウミも自分の名を名乗り始める。
「キサラギ、コウミだ」
その名を聞き、息を呑む様に座り込んでいた日々喜が、驚いた表情をコウミの背中に送った。
「キサラギ……」
大伯父、灯馬と同じ苗字だ。
「キサラギ、一門だと!?」
動揺する様な声が上がり、日々喜はハニイの方へ視線を移す。
しかし、それよりも早く。
既にコウミは間合いを詰め、純白の刀身を持って、ハニイの喉を突いた。
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