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第二章 奪い合う世界
46話 アルキメデスの方法より③
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オレガノ達がキュプレサスを打倒した。
倒れるオレガノを介抱するキリアンと、ラヴァーニャを抱き抱えるリグラ。そして、ピーターに手を貸しながらその場へと近づいて行くクレスの姿が、遠くフォーリアムの館の屋根の上からも確認する事ができ、コウミはその事を日々喜に伝えた。
コウミは空を見上げる。
赤い閃光の飛び上がった行く手に、巨獣のシルエットが僅かに残っていた。
「レイロン。あの迷惑龍まで姿を出したか……」
コウミは悩まし気な呟きを漏らした。
今目の前にした事柄は、確かに日々喜が魔導を行使した様に見えた。
これまでそんな事ができなかったはずの人間が、この世界に来た途端出来るようになったのは、間違いなく本人以外の何者かが干渉しているからに違いない。
そして昨晩、その存在を顕わにしたアートマンは、日々喜とそれに関わる魔導士達に執着する様子を見せていた。あまつさえはリヴィアタン、そして、レイロンの出現だ。
上空を見据えるコウミの目が、険しさを増す様に鋭く尖った。
何か、この世界で大きな事が起きようとしている。それが賢者達の手に依るものか、あるいは、兆しを伝えようとしているのか。
「……俺達を巻き込むなら、何せよ、お前は敵だ」
コウミは小さくそう吐き捨てた。
アトラスはどうしよう。日々喜にこのまま持たせておくのは、危険ではないだろうか。
コウミはそう考えつつ、周囲を見渡し始める。
アトラスを日々喜から取り上げるにしても、今は他にやるべき事があった。
屋敷の周りには特に気になる者は居ない。その事を確認していると、視界の端に、イバラの街の情景が捉えられる。
「あれは、フェンネル・フォーリムの……」
街の手前、そこへと続く街道を塞ぐように、巨大な球体が浮いている。
それは、魔法陣の様に幾何学的な紋様の描かれた真球で、淡いエーテルの輝きを放っていた。よくよく目を凝らせば、その球体に群がる様にして黒炭のゴーレムと白炭のゴーレム達が迫って来ているのがコウミには分かった。
ゴーレム達は球体状の魔法陣に近づくと、全身から水を染み出させ始める。近づけば近づく程に、染み出す水の勢いが増して行くようで、魔法陣に触れる事も出来ぬままに、内部からの漏水に耐え切れず、身体を爆裂させ、その場で粉々になった。
鋼の強度を誇ったあの白炭のゴーレムさえ、炎を出す間もなく、粉砕されて行く。
そして、迫るゴーレム達とは球体を挟んだ反対側。イバラの街の前で立ち尽くす三人の魔導士が居る事に気が付く。
フェンネル達だった。
中央に立つフェンネルは、アトラスを左手に、右手を球体の方へとかざしている。その両脇には、自分の主を守らんとするマウロとサルヴィナの姿があった。
「何なんだ、ありゃ」
えげつない戦い。いや、戦いにすらなっていない。あれでは、虐殺もいいところ。
自らの命の重みさえ理解しないゴーレム達は、ただ愚直に自分の死に向かって歩いている様にコウミには見えた。
「恐らく、スーパースフィア(超球体)です」
コウミの背後で日々喜が言った。
「何?」
「魔法陣は、アトラスフィールドの断面として現れる。だから多分、フェンネルは四次元空間上の球体、スーパースフィアをアトラスフィールドとしてイメージしてる。魔法陣が立体状になる理由です」
コウミは改めてイバラの街の状況を見渡す。日々喜には、ゴーレムの惨状は見えていないだろうが、上空に浮かぶ球体が目に入ったのだろう。
「ああ、四次元空間か。ドラ〇もんのやつだろ」
日々喜の説明を完璧に理解した様に、コウミは応えた。
「えっと……、そうです。……そうかも」
コウミの質問に日々喜は自信なさげに答える。
「それがフェンネル・フォーリアムの魔導か。大した技だが、何故それがお前に分るんだ?」
「アナロジー(類推)です。円の断面は線になり、球の断面は円になる。ここからスーパースフィアの断面は球になると考えられます。つまり、魔法陣も球体になる」
「成程な。文字通り、次元の違う魔導士という訳か……。日々喜、お前にもできるのか? その、スーパースフィアとやらをイメージする事が」
「まさか。人間には普通できませんよ。それが、一般論です。ただ……」
できる事を主張する者はいる。
アナロジーや計算によって裏打ちされた理屈をまるで見て来たかのように語る者達。普通の感覚とは明らかに違う、卓越した世界観を持って生まれた者が、世の中にはいる。日々喜は、そうした者達の事を同じ学級の中で、数名見出した事があった。
悲しいのは、その生まれ持った能力の違いだ。そうした者達の主張を自分は大半理解する事ができなかった。
持って生まれた特異な才能は、確かめようのない能力として、人々の感覚で共有された現実の世界によって、陽の目を見る事無く永久に封印されてしまう。
同じ学級の中で孤立しがちな彼らの様を見て、日々喜はそう思った。
「ただ、何だ?」
「……ただ、ここにはそれが出来る人がいて、それどころか、自分の思い描いたイメージを見せる事が出来る」
日々喜はコウミの方を向いてそう言うと、コウミの背後に広がるイバラの街、そこに浮かぶ球体状の魔法陣を眺めた。
特異な才能を持って生まれたフェンネル。この異世界ではその力を分かり易い形で表現する事が出来る。だがその事を目の当たりにしたのは、彼女の嫌う戦いの中での話しだった。
因縁めいたその事柄を目の当たりにして、日々喜はやりきれない気持ちを顔に表した。
「ああ、それが魔導だ。魔導士達は全員それができる」
コウミの言葉に日々喜はハッとする。
魔導が使えるのはフェンネルだけではない。オレガノも、キリアンもリグラも、魔導士は全員自分のイメージした円陣を現実に描く事ができる。そして、それら魔法陣は全て、同じ法則に従っている。
「インヴァースキューブ。逆三乗の法則に従う」
ヴァーサ領で出会った青年。アルファ・ヘリックスに教えてもらった知識だ。
「フェンネルの展開する魔法陣。あれも、同じ法則に従ってるのか?」
フェンネルは四次元空間上の図形をイメージし、その断面を現実に体現させた。これはフェンネルの特異な才能によるものだが、逆に言えば、イメージさえできればそれが現実に可能であると言う事になる。
蓋然的に知られている魔導の法則。異なる世界から来た自分に取ってまだまだ謎に包まれた面がある。それでも、フェンネルの見せた特殊な事例は、間違いなくその隠された面に光を当てるものに違いないと日々喜には思えた。
「考えなくちゃ……」
「あ?」
怪訝な表情を浮かべるコウミを無視して、日々喜は考え続けた。
「球体の様な立体図形、体積の増加に伴う半径の増加率は、逆二乗だった。平面図形の場合は面積、半径の増加率は、……逆一乗、つまり、反比例してる。それなら、逆三乗となる場合は……」
「お、おい?」
日々喜は類推を駆使した。これまで目に見て来たもの、学んだ事、経験した事柄を全て並べて、未知の世界について考え続ける。
その思考は、無意識の内に日々喜の口からダダ洩れて行き、そばに居たコウミは奇妙な事が起き始めたと感じた。
「……それは、四次元上に広がる図形。魔導士達は、無意識の内に、眼に見えない空間にアトラスフィールドを広げてる」
だからこそ、イメージする事の出来るフェンネルには、球体状の魔法陣が展開できた。そして、目には映るが普通ではないエーテルの様な存在は、四次元に広がるアトラスフィールドに溜め込まれている。
「おい、日々喜。聞こえてるのか?」
「コウミ、とても大切な事を考えているんです。静かにして」
コウミは呆れかえる。
しかし、ここからがとてつもなく重要な事になって来ると、日々喜は直感していた。
四次元の空間。つまり、眼に見える三次元の世界に直行する方角は、どこを向いているのだろうかと。
それは、直ぐに思い至った。
エーテルと言う四次元方向に行き来するエレメントが、流れて来る場所。つまり、アルテマのある方向だ。
日々喜はざわつく身体を抑える様に胸に手を当てた。
「存在している……。確かめられるんだ、これ……」
「何が?」
コウミの質問を再び無視して、日々喜は考え続ける。
アルテマとは、内臓の様に目で見え、手で触れる事の出来る具体的な物では無く。心や魂の様に、形を描く事が出来ない曖昧なものとも大きく異なる。
これは、現実に眼で見る事も、触れる事も出来ない。そうでありながら、現実に対しエーテルと言うエレメントを与える物。
つまり、例えるのなら。
「……ドラ〇もん? 胸にポッケが……。え?」
日々喜は直感に従いながら、思いつく言葉を口にした。しかし、何らかの邪念にでも邪魔されたのか、その言葉は想像していたものと大きく異なっていると分かり、日々喜自身も驚いた表情を浮かべていた。
「何!? 大丈夫かお前?」
コウミは、胸を押さえ訳の分からない事を言い始めた日々喜の事を本気で心配した。
「だ、大丈夫」
鼻血を垂らしながらそう答える日々喜の事が、コウミには全然大丈夫そうに見えなかった。
「ガキの頃から変わらないな」
「何です?」
コウミは日々喜の鼻血を指差し指摘した。
「頭可笑しくしやがって、大人しく寝てればいいものを。だいたい、あれは胸じゃなくて腹だろ。……いや、胸か?」
コウミはそう言いながら、曖昧な記憶を呼び起こそうとし始めた。
「コウミ」
日々喜が鼻を拭いながら尋ねた。
「君に、聞かなくちゃいけない事がある」
「俺に?」
「灯馬伯父様の事」
突然なんだという思いで、コウミは日々喜の方を振り向いた。
「伯父様は目的があってこの世界を旅した。家族を探す旅に。君は、その結末を知っているんだろ?」
そんな事を一体誰から聞いたのだ。コウミは胸中に沸いた疑問を飲み込み、自分を見つめる日々喜の事を見つめ続けた。
「一体何があったんだ。どうして、伯父様はこの世界の事を話してくれなかったんだ。如月の里山と繋がるこの世界。そして、君の事も」
寝ぼけた様子とは一変して、真剣な面持ちで質問する日々喜。コウミは目を細め、そんな日々喜の心境の変化を探ろうとする。
「灯馬がお前に話さなかったのは理由があるはずだ。それは、お前に聞かせたくない理由。……それでも、知りたいのか?」
その言葉は、聞く者に緊張を強いた様だ。日々喜自身の表情が強張り、間延びした唇が引き締められるのを見て、コウミはそう思った。やがて、日々喜は静かに頷いた。
「ふん。……そうか」
親に代わる男の秘密を暴こうとする。面白いじゃないか日々喜。
コウミは内心、弾む様な気持ちでそう考える。しかし、その気持ちは表に出る事は無く、影に浮き立つ白く丸い目は、丸いままであった。
「なら、近い内に話してやる。愉快な話にはならないから、お前も少し覚悟しておけよ」
「今は、話してくれない?」
「ああ、今はやる事がある」
コウミはそう言うと、日々喜に背を向けた。
やる事とは何かと、日々喜は尋ねようとする。しかし、コウミが振り向こうと動いた拍子に、何時の間にか同じ屋根の上に誰かが立っているのに気が付き、言葉を呑んだ。
その人物は、コウミと同じく全身黒い装束を纏い、手には日本刀の様な剣を握っている。そして、その顔には、見覚えのある黒塗りの犬の仮面を付けていた。
「ハニイさん……」
コウミの背中に守られるようにしながら、日々喜はその人物の名前を唱えた。
倒れるオレガノを介抱するキリアンと、ラヴァーニャを抱き抱えるリグラ。そして、ピーターに手を貸しながらその場へと近づいて行くクレスの姿が、遠くフォーリアムの館の屋根の上からも確認する事ができ、コウミはその事を日々喜に伝えた。
コウミは空を見上げる。
赤い閃光の飛び上がった行く手に、巨獣のシルエットが僅かに残っていた。
「レイロン。あの迷惑龍まで姿を出したか……」
コウミは悩まし気な呟きを漏らした。
今目の前にした事柄は、確かに日々喜が魔導を行使した様に見えた。
これまでそんな事ができなかったはずの人間が、この世界に来た途端出来るようになったのは、間違いなく本人以外の何者かが干渉しているからに違いない。
そして昨晩、その存在を顕わにしたアートマンは、日々喜とそれに関わる魔導士達に執着する様子を見せていた。あまつさえはリヴィアタン、そして、レイロンの出現だ。
上空を見据えるコウミの目が、険しさを増す様に鋭く尖った。
何か、この世界で大きな事が起きようとしている。それが賢者達の手に依るものか、あるいは、兆しを伝えようとしているのか。
「……俺達を巻き込むなら、何せよ、お前は敵だ」
コウミは小さくそう吐き捨てた。
アトラスはどうしよう。日々喜にこのまま持たせておくのは、危険ではないだろうか。
コウミはそう考えつつ、周囲を見渡し始める。
アトラスを日々喜から取り上げるにしても、今は他にやるべき事があった。
屋敷の周りには特に気になる者は居ない。その事を確認していると、視界の端に、イバラの街の情景が捉えられる。
「あれは、フェンネル・フォーリムの……」
街の手前、そこへと続く街道を塞ぐように、巨大な球体が浮いている。
それは、魔法陣の様に幾何学的な紋様の描かれた真球で、淡いエーテルの輝きを放っていた。よくよく目を凝らせば、その球体に群がる様にして黒炭のゴーレムと白炭のゴーレム達が迫って来ているのがコウミには分かった。
ゴーレム達は球体状の魔法陣に近づくと、全身から水を染み出させ始める。近づけば近づく程に、染み出す水の勢いが増して行くようで、魔法陣に触れる事も出来ぬままに、内部からの漏水に耐え切れず、身体を爆裂させ、その場で粉々になった。
鋼の強度を誇ったあの白炭のゴーレムさえ、炎を出す間もなく、粉砕されて行く。
そして、迫るゴーレム達とは球体を挟んだ反対側。イバラの街の前で立ち尽くす三人の魔導士が居る事に気が付く。
フェンネル達だった。
中央に立つフェンネルは、アトラスを左手に、右手を球体の方へとかざしている。その両脇には、自分の主を守らんとするマウロとサルヴィナの姿があった。
「何なんだ、ありゃ」
えげつない戦い。いや、戦いにすらなっていない。あれでは、虐殺もいいところ。
自らの命の重みさえ理解しないゴーレム達は、ただ愚直に自分の死に向かって歩いている様にコウミには見えた。
「恐らく、スーパースフィア(超球体)です」
コウミの背後で日々喜が言った。
「何?」
「魔法陣は、アトラスフィールドの断面として現れる。だから多分、フェンネルは四次元空間上の球体、スーパースフィアをアトラスフィールドとしてイメージしてる。魔法陣が立体状になる理由です」
コウミは改めてイバラの街の状況を見渡す。日々喜には、ゴーレムの惨状は見えていないだろうが、上空に浮かぶ球体が目に入ったのだろう。
「ああ、四次元空間か。ドラ〇もんのやつだろ」
日々喜の説明を完璧に理解した様に、コウミは応えた。
「えっと……、そうです。……そうかも」
コウミの質問に日々喜は自信なさげに答える。
「それがフェンネル・フォーリアムの魔導か。大した技だが、何故それがお前に分るんだ?」
「アナロジー(類推)です。円の断面は線になり、球の断面は円になる。ここからスーパースフィアの断面は球になると考えられます。つまり、魔法陣も球体になる」
「成程な。文字通り、次元の違う魔導士という訳か……。日々喜、お前にもできるのか? その、スーパースフィアとやらをイメージする事が」
「まさか。人間には普通できませんよ。それが、一般論です。ただ……」
できる事を主張する者はいる。
アナロジーや計算によって裏打ちされた理屈をまるで見て来たかのように語る者達。普通の感覚とは明らかに違う、卓越した世界観を持って生まれた者が、世の中にはいる。日々喜は、そうした者達の事を同じ学級の中で、数名見出した事があった。
悲しいのは、その生まれ持った能力の違いだ。そうした者達の主張を自分は大半理解する事ができなかった。
持って生まれた特異な才能は、確かめようのない能力として、人々の感覚で共有された現実の世界によって、陽の目を見る事無く永久に封印されてしまう。
同じ学級の中で孤立しがちな彼らの様を見て、日々喜はそう思った。
「ただ、何だ?」
「……ただ、ここにはそれが出来る人がいて、それどころか、自分の思い描いたイメージを見せる事が出来る」
日々喜はコウミの方を向いてそう言うと、コウミの背後に広がるイバラの街、そこに浮かぶ球体状の魔法陣を眺めた。
特異な才能を持って生まれたフェンネル。この異世界ではその力を分かり易い形で表現する事が出来る。だがその事を目の当たりにしたのは、彼女の嫌う戦いの中での話しだった。
因縁めいたその事柄を目の当たりにして、日々喜はやりきれない気持ちを顔に表した。
「ああ、それが魔導だ。魔導士達は全員それができる」
コウミの言葉に日々喜はハッとする。
魔導が使えるのはフェンネルだけではない。オレガノも、キリアンもリグラも、魔導士は全員自分のイメージした円陣を現実に描く事ができる。そして、それら魔法陣は全て、同じ法則に従っている。
「インヴァースキューブ。逆三乗の法則に従う」
ヴァーサ領で出会った青年。アルファ・ヘリックスに教えてもらった知識だ。
「フェンネルの展開する魔法陣。あれも、同じ法則に従ってるのか?」
フェンネルは四次元空間上の図形をイメージし、その断面を現実に体現させた。これはフェンネルの特異な才能によるものだが、逆に言えば、イメージさえできればそれが現実に可能であると言う事になる。
蓋然的に知られている魔導の法則。異なる世界から来た自分に取ってまだまだ謎に包まれた面がある。それでも、フェンネルの見せた特殊な事例は、間違いなくその隠された面に光を当てるものに違いないと日々喜には思えた。
「考えなくちゃ……」
「あ?」
怪訝な表情を浮かべるコウミを無視して、日々喜は考え続けた。
「球体の様な立体図形、体積の増加に伴う半径の増加率は、逆二乗だった。平面図形の場合は面積、半径の増加率は、……逆一乗、つまり、反比例してる。それなら、逆三乗となる場合は……」
「お、おい?」
日々喜は類推を駆使した。これまで目に見て来たもの、学んだ事、経験した事柄を全て並べて、未知の世界について考え続ける。
その思考は、無意識の内に日々喜の口からダダ洩れて行き、そばに居たコウミは奇妙な事が起き始めたと感じた。
「……それは、四次元上に広がる図形。魔導士達は、無意識の内に、眼に見えない空間にアトラスフィールドを広げてる」
だからこそ、イメージする事の出来るフェンネルには、球体状の魔法陣が展開できた。そして、目には映るが普通ではないエーテルの様な存在は、四次元に広がるアトラスフィールドに溜め込まれている。
「おい、日々喜。聞こえてるのか?」
「コウミ、とても大切な事を考えているんです。静かにして」
コウミは呆れかえる。
しかし、ここからがとてつもなく重要な事になって来ると、日々喜は直感していた。
四次元の空間。つまり、眼に見える三次元の世界に直行する方角は、どこを向いているのだろうかと。
それは、直ぐに思い至った。
エーテルと言う四次元方向に行き来するエレメントが、流れて来る場所。つまり、アルテマのある方向だ。
日々喜はざわつく身体を抑える様に胸に手を当てた。
「存在している……。確かめられるんだ、これ……」
「何が?」
コウミの質問を再び無視して、日々喜は考え続ける。
アルテマとは、内臓の様に目で見え、手で触れる事の出来る具体的な物では無く。心や魂の様に、形を描く事が出来ない曖昧なものとも大きく異なる。
これは、現実に眼で見る事も、触れる事も出来ない。そうでありながら、現実に対しエーテルと言うエレメントを与える物。
つまり、例えるのなら。
「……ドラ〇もん? 胸にポッケが……。え?」
日々喜は直感に従いながら、思いつく言葉を口にした。しかし、何らかの邪念にでも邪魔されたのか、その言葉は想像していたものと大きく異なっていると分かり、日々喜自身も驚いた表情を浮かべていた。
「何!? 大丈夫かお前?」
コウミは、胸を押さえ訳の分からない事を言い始めた日々喜の事を本気で心配した。
「だ、大丈夫」
鼻血を垂らしながらそう答える日々喜の事が、コウミには全然大丈夫そうに見えなかった。
「ガキの頃から変わらないな」
「何です?」
コウミは日々喜の鼻血を指差し指摘した。
「頭可笑しくしやがって、大人しく寝てればいいものを。だいたい、あれは胸じゃなくて腹だろ。……いや、胸か?」
コウミはそう言いながら、曖昧な記憶を呼び起こそうとし始めた。
「コウミ」
日々喜が鼻を拭いながら尋ねた。
「君に、聞かなくちゃいけない事がある」
「俺に?」
「灯馬伯父様の事」
突然なんだという思いで、コウミは日々喜の方を振り向いた。
「伯父様は目的があってこの世界を旅した。家族を探す旅に。君は、その結末を知っているんだろ?」
そんな事を一体誰から聞いたのだ。コウミは胸中に沸いた疑問を飲み込み、自分を見つめる日々喜の事を見つめ続けた。
「一体何があったんだ。どうして、伯父様はこの世界の事を話してくれなかったんだ。如月の里山と繋がるこの世界。そして、君の事も」
寝ぼけた様子とは一変して、真剣な面持ちで質問する日々喜。コウミは目を細め、そんな日々喜の心境の変化を探ろうとする。
「灯馬がお前に話さなかったのは理由があるはずだ。それは、お前に聞かせたくない理由。……それでも、知りたいのか?」
その言葉は、聞く者に緊張を強いた様だ。日々喜自身の表情が強張り、間延びした唇が引き締められるのを見て、コウミはそう思った。やがて、日々喜は静かに頷いた。
「ふん。……そうか」
親に代わる男の秘密を暴こうとする。面白いじゃないか日々喜。
コウミは内心、弾む様な気持ちでそう考える。しかし、その気持ちは表に出る事は無く、影に浮き立つ白く丸い目は、丸いままであった。
「なら、近い内に話してやる。愉快な話にはならないから、お前も少し覚悟しておけよ」
「今は、話してくれない?」
「ああ、今はやる事がある」
コウミはそう言うと、日々喜に背を向けた。
やる事とは何かと、日々喜は尋ねようとする。しかし、コウミが振り向こうと動いた拍子に、何時の間にか同じ屋根の上に誰かが立っているのに気が付き、言葉を呑んだ。
その人物は、コウミと同じく全身黒い装束を纏い、手には日本刀の様な剣を握っている。そして、その顔には、見覚えのある黒塗りの犬の仮面を付けていた。
「ハニイさん……」
コウミの背中に守られるようにしながら、日々喜はその人物の名前を唱えた。
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