ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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四章 死の狼と神獣

71. スライムの飛翔

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「……う……っ」

 凍えるような苦しい暗闇の中から、ダーモットは意識を取り戻した。

 自分でも絶対助からない自覚があった。
 どうして……? と思った時に、目の前にその解答があった。

「ヒラ……っ!!!」

 シャロンもイラナも、ダーモットの声で、ダーモットが何を代償に助かったのか気づき、声をなくした。

「ヒラ…! ヒラ…! しっかりしてくれ!!」
「ダ……モ……よか……」

 ダーモットは真っ黒になって、固く縮んでしまったヒラを抱き抱える。

「ダ……メ……うつ……穢……」
「うつらないよ。君の対応は完璧だ。流石出来るスライムだよ。だから、一緒に帰ってエステラに治してもらおう」

「ヒラ……タラ……会え……?」
「会えるよ! 一緒に帰ろう」

 がさりがさりと、ほんの少しずつヒラの身体が崩れていく。
 だがダーモットはそれに気づかないフリをした。

(タラに……会える……)

 微かな希望に目を開いたヒラの視界に入ったのは、封印を解かれて以前より強力に凶悪に穢毒を振り撒く死の狼と、苦戦するハラとササミ(オス)だ。

 帰れない……そうわかった。でもそれは。

 ヒラもハラもササミ(オス)もここにいて。
 エステラが寂しくなってしまう。ひとりぼっちにしてしまう。

(いやだよぅ……)

 皆んなでお家に帰ることが大事って、エステラが言ってた。皆んなで一緒にお家に帰るんだ。あったかいおうちに。

 ヒラがまだスライムベビーだった、小さな小さな時。
 森で逸れて、泣いてるヒラを迎えに来たエステラが言っていた。

『また迷子になったら困るからね。絶対一緒に帰って来れるおまじない、ヒラだけに教えるから、忘れちゃダメだよ』

 あの言葉、は、

「あ……」
 ヒラは最後の力を振り絞った。

 うまく言えなくても、心の中ではきちんと唱える。

「でぃ……め……さま」

 皆んなで一緒に帰りたい。

 ――目の前の、敵を、

 ――――倒して――――

 ヒラの身体がひび割れる。
 真っ黒なそれが、ぼろぼろ落ちて。

 ヒラは目を閉じた。



◇◇◇



 ヒラはいつのまにか、神殿に居た。
 エステラが造った美しい白亜の神殿だ。

 だがどこの神殿かわからない。女神像もない。

 そこはどこでもない空間だった。


『名を呼ばれては、女神も無視できぬ。故に、私がここに来た』

 そして目の前には、黄金の竜がいる。

『しかしまさか魔獣で、しかも最弱のスライムが女神の名を戴いていたとは』

「ヒラ弱くないよぉ」
『そうか』

「愛されて育ったのでぇ!」
『そうかそうか』

 黄金の竜は笑っていた。

『では其方の願いを叶えよう』
 黄金の竜は額の精石を、ヒラのそれに重ねた。

 黄金と虹の光が、ヒラの中に溢れた――――



◇◇◇



 ダーモットの腕の中で、ヒラだったものが崩れて落ちる。

 その手の中に、黄金と虹色に光る繭が残った。

 そして。

 中から黄金と虹色の光を纏った、元の美しく可愛らしい、薄青く輝くスライムが現れた。

「ヒラ!!」

 ヒラはダーモットの腕の中を飛び出して、翼を広げる。

 黄金と虹色に彩られた八枚羽根だ。

 ヒラとその翼から放たれた光は、一瞬で穢毒を浄化し、仲間達の傷を癒した。

 死の狼がみるみる弱体していく。

 ハラがササミ(オス)の頭の上に降りて、ササミ(オス)に強化魔法をかけた。

カッ――――

 ササミ(オス)が、ドラゴンブレスを吐き出すと、死の狼は骨も残らず消し飛んだ。


◇◇◇


「見ぃ~つけた~」

 エデンは王宮魔術師団長ドミニク・オーブリーを捕まえて、一発蹴りを入れた。

「ぐえっ」

 倒れ込んだドミニクの背中を、エデンはその長い足で踏みつける。

「悪いオモチャで悪い遊びをしちゃイケナイって、パパから教わらなかったのかい? まあそのパパの命令なんだろうけど、んははは」
「エデン、時間が惜しい。もっとスマートに尋問しろ」

 ニレルは抜身の切先をドミニクの首元に突きつけた。
「ベンソンを出せ」

「も……もういない」
「ではそのオモチャの中にいる人達を、今すぐ解放しろ」
「無理だ! 死の狼が、ん? んん?」

 ドミニクはズボンの股間から魔導具を取り出した。

「ない……綺麗さっぱり死の狼の気配が?!」


「ニレル様、エデン様!!」
 マゴーが転移魔法でやってきた。

「皆さん無事ショウネシー邸に帰還されました!!」

 ニレルとエデンは、ほっとして視線を交わす。

「わかった。僕たちは王宮の後始末をしてから帰るよ」
「了解しましたー」

 マゴーが消えると、ドミニクはニレルの足にしがみついた。

「い……今のは転移魔法か!? お前たちは転移の技術を持ってるのか! 教えてくれ!!!! なんでもするからっ!!!!」
「嫌だ」
 ニレルはドミニクを振り解く。

「待った待った! ベンソンの計画を全部話すから!!」

 エデンはドミニクの首根っこを掴んだ。

「まあとりあえず、こいつをセドくんところに連れていこう」
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