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四章 死の狼と神獣
72. オーブリーの滅亡
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ベンソンは、ダーモットとシャロンを殺害しようとしただけでなく、王宮にも穢毒を撒き散らしていた。
幸いにも王宮にいたマゴー達の対応が早く、重篤な状態は避けられたが、僅かに残る穢毒と、罹患したものの治癒をニレルとエデンで行う。
ドミニク・オーブリーは、セドリック王の御前でベンソンの計画を全て告発して、そのまま牢に入れられた。
「文官達がマゴーの貸し出しをねだったお陰で、最悪の事態を避けられたのは不幸中の幸いか……ベンソンめ、代替わりしてから大人しくなったと思っておったのに。」
セドリックがため息を吐く。
「其方たちにも世話をかけたな。何よりダーモットとシャロンを失わずに済んだ。深く感謝する」
セドリックはニレルとエデンに頭を下げる。
本来王族は他者に頭を下げない決まりだ。エデンとニレルは、その行動にハイエルフに対する敬いだけでなく、セドリック個人がダーモットとシャロンをどれだけ大事にしているかを感じ取った。
ニレルは頷いた。
「貴方は王としてよくやっている方だと思うよ。僕らハイエルフだって、国を…人々をまとめきれずに、結局帝国を滅ぼしてしまっているからね」
思いもかけなかった労いの言葉に、セドリックは軽く笑んで、目を瞑る。
「うむ、ではこれから家門断絶となるオーブリー家とその領地の今後について考えるとするか」
『ベンソン・オーブリーはショウネシーで捕縛する』
既に王宮にはハンフリーから、そう連絡が入っていた。
◇◇◇
ベンソンは王宮を逃げ出し、貴族街のオーブリー邸へ向かう。
邸宅では使用人達が慌てふためき、執事が館中の灯り、水道、トイレ、竈……とにかく全ての魔導具が動かなくなった状況を報告する。
ベンソンは嫌な予感がして魔導具部屋に走り、扉を開けた。
「これは……!!」
そこには魔導具だったものの無惨な姿があった。
貴重なウシュ時代の魔導具まで微に入り細に入り分解されたのちに更に細かく破壊されている。
「莫迦な……っ、どうやってこんな……」
更にベンソンは部屋の奥の隠し部屋を開ける。これは特殊な魔法が鍵になっているので、ベンソン以外開くことができない。
「ばかな……」
立ち尽くしたベンソンが見たのは、もぬけの殻になった空間だった。
百以上もあった金庫も、土地の所有証明書も、宝石類も何一つ無かった。
そして宝石類があったテーブルの上に、手紙があった。
――今回の補償として、オーブリー家の財産をいただきます
ショウネシー領領主ハンフリー・ショウネシー男爵――
ベンソンはギリリと歯軋りをした。怒りで血管が浮き出る。
「おのれショウネシー……!! 田舎の貧乏領地の分際で、しかも男爵だと!? 下位の癖に舐めた真似をしおってぇぇ!!!」
頭に血を上らせ、執事を呼び出す。
「ドミニクを呼び出し、宮廷魔法師団を招集させろ!!」
「既に王宮より、ドミニク坊ちゃまを捕まえたと通達が来ております」
ベンソンは手にした杖で、思い切り机を殴りつけた。
「どいつもこいつも、肝心な時に邪魔ばかりしおって! 魔獣馬を用意しろ! ひとまず領地で体制を立て直す」
ベンソンは執事の後ろ姿を見て、ふと冷静になった。
先程、「ドミニクを捕まえた」と、「王宮から通達があった」と言わなかったか。
なら既にこの邸宅に、近衛兵が乗り込んできて居てもおかしくないはずだ。
だがその気配はない。
領地にいくと踏んで、先回りしている可能性がある。
「よしでは、行き先はショウネシー領へ変更だ。まずあの田舎領地を火の海に変えてくれるわ」
ベンソンは外に向おうとした、が。
向きを変えたその先に、ベンソンと、ドミニクと同じ、青い髪の少年が、いた。
「ヴェリタス……今頃戻ってきおって! だがまあシャロンを誘き出すのには使えそうだ。大人しく言うことを聞くなら、我がオーブリーに迎えてやる」
「必要ない」
「なに!?」
ヴェリタスは怒りと悲しみと、そして諦めの混ざった瞳で、ベンソンを見た。
「俺は熊の討伐に来ただけだ」
「熊……?」
意外な言葉に、ベンソンは僅かに呆ける。
「妖精熊以外の熊は、見かけたら即討伐。オーブリーは……あんたは、四つ手熊だ」
「はっ、キサマのような小童が、四つ手熊の討伐などできるものか」
ヴェリタスは溜息のように、つぶやいた。
「できるさ」
ベンソンは手にした杖でヴェリタスに殴りかかろうとした。だが、足が動かない。
「まず足の動きを止める」
一瞬の間に、ベンソンの周囲の床と足が凍り付いていた。
「まさか、氷属性の魔法!? 何故お前が!」
ヴェリタスは素早く腰の剣を抜き、ベンソンに切り付ける。
「そして首を切り落とす」
「!!」
ヴェリタスの剣は、ベンソンの首に、徴のように横一文字の極浅い傷をつけた。
「それから一つ目の心臓を潰し」
ベンソンは剣の柄で強かに胸を突かれ、転倒する。
「そして最後の心臓を潰す!」
ヴェリタスから青い魔力の輝きが滲み出す。
「我創世の女神に願い奉る。ベンソン・オーブリーが、二度と魔法が使えぬように!」
ベンソンの身体から、吸い出されるように彼の魔力が溢れ、それが、ベンソンを襲い出した。
「ぐああああぁ! うがぁあ ぁ ぁ !!!」
ベンソンは、のたうち回り意識を失った。
チャーがベンソンを縛り上げていく。
捕縛されたベンソンを見て、ぽつりとヴェリタスは呟いた。
「母上がさ、俺が生まれたから、オーブリーに嫁いだことは後悔してないって言ってたんだ……だから俺も、あんたが大人しくしてれば、何もする気は無かったのに……」
◇◇◇
ショウネシーの領主館では、山と積まれた金貨や宝石、幾台もの金庫などがデデンと存在を主張していた。
オーブリー邸から黒マゴーが運んできたものたちだ。
この国には、ディオンヌ商会が作った、ショウネシー領の資金口座以外に、銀行のように長期間資産を預けれるところはない。
基本箪笥ならぬキャビネット預金だ。
各家の執事や家令が現物資産の管理をする。
「土地関係の書類は、宰相様に渡して来ました」
ビシッと黒マゴー隊の代表が、ハンフリーに報告する。
「こっちも終わったよ」
チャーと一緒にヴェリタスが戻ってきた。
「おかえり。疲れただろう? お茶を淹れてもらうかい?」
ハンフリーの側にいたマゴーが、サトウマンドラゴラ茶の準備をはじめる。
ダーモットとシャロンの救出に置いて行かれたエステラは、目が覚めると案の定「私も行く!」「ヒラが呼んでる!」と何度も転移しかかった。
マグダリーナとレベッカに両腕を押さえられ、膝の上にお盆を乗せられて、そこにアンソニーに紅茶をなみなみ注いだティーカップとソーサーを塔のように積み上げられて、エステラはやっと大人しくなった。
ヴェリタスはその状態のエステラに、ベンソンの魔法を使えなくする魔法を教えて欲しいと頼み込んだのだ。
ぶっつけ本番で行使した高等魔法は、ヴェリタスの魔力もゴッソリ持って行った。
ヴェリタスはだらしなく、椅子にもたれるように座る。
「つっかれたー」
ベンソンは王宮に引き渡してきた。その後の事は、王達がなんとかするだろう。
ヘンリーもパイパーを追いかけて国を出ようとしたところで、兵に捕えられたらしい。
もうヴェリタスの命を狙う者はいない。
シャロンもダーモットも無事だった。
ヴェリタスはそのまま、目を閉じると、安らかな寝息をたてた。
幸いにも王宮にいたマゴー達の対応が早く、重篤な状態は避けられたが、僅かに残る穢毒と、罹患したものの治癒をニレルとエデンで行う。
ドミニク・オーブリーは、セドリック王の御前でベンソンの計画を全て告発して、そのまま牢に入れられた。
「文官達がマゴーの貸し出しをねだったお陰で、最悪の事態を避けられたのは不幸中の幸いか……ベンソンめ、代替わりしてから大人しくなったと思っておったのに。」
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ニレルは頷いた。
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思いもかけなかった労いの言葉に、セドリックは軽く笑んで、目を瞑る。
「うむ、ではこれから家門断絶となるオーブリー家とその領地の今後について考えるとするか」
『ベンソン・オーブリーはショウネシーで捕縛する』
既に王宮にはハンフリーから、そう連絡が入っていた。
◇◇◇
ベンソンは王宮を逃げ出し、貴族街のオーブリー邸へ向かう。
邸宅では使用人達が慌てふためき、執事が館中の灯り、水道、トイレ、竈……とにかく全ての魔導具が動かなくなった状況を報告する。
ベンソンは嫌な予感がして魔導具部屋に走り、扉を開けた。
「これは……!!」
そこには魔導具だったものの無惨な姿があった。
貴重なウシュ時代の魔導具まで微に入り細に入り分解されたのちに更に細かく破壊されている。
「莫迦な……っ、どうやってこんな……」
更にベンソンは部屋の奥の隠し部屋を開ける。これは特殊な魔法が鍵になっているので、ベンソン以外開くことができない。
「ばかな……」
立ち尽くしたベンソンが見たのは、もぬけの殻になった空間だった。
百以上もあった金庫も、土地の所有証明書も、宝石類も何一つ無かった。
そして宝石類があったテーブルの上に、手紙があった。
――今回の補償として、オーブリー家の財産をいただきます
ショウネシー領領主ハンフリー・ショウネシー男爵――
ベンソンはギリリと歯軋りをした。怒りで血管が浮き出る。
「おのれショウネシー……!! 田舎の貧乏領地の分際で、しかも男爵だと!? 下位の癖に舐めた真似をしおってぇぇ!!!」
頭に血を上らせ、執事を呼び出す。
「ドミニクを呼び出し、宮廷魔法師団を招集させろ!!」
「既に王宮より、ドミニク坊ちゃまを捕まえたと通達が来ております」
ベンソンは手にした杖で、思い切り机を殴りつけた。
「どいつもこいつも、肝心な時に邪魔ばかりしおって! 魔獣馬を用意しろ! ひとまず領地で体制を立て直す」
ベンソンは執事の後ろ姿を見て、ふと冷静になった。
先程、「ドミニクを捕まえた」と、「王宮から通達があった」と言わなかったか。
なら既にこの邸宅に、近衛兵が乗り込んできて居てもおかしくないはずだ。
だがその気配はない。
領地にいくと踏んで、先回りしている可能性がある。
「よしでは、行き先はショウネシー領へ変更だ。まずあの田舎領地を火の海に変えてくれるわ」
ベンソンは外に向おうとした、が。
向きを変えたその先に、ベンソンと、ドミニクと同じ、青い髪の少年が、いた。
「ヴェリタス……今頃戻ってきおって! だがまあシャロンを誘き出すのには使えそうだ。大人しく言うことを聞くなら、我がオーブリーに迎えてやる」
「必要ない」
「なに!?」
ヴェリタスは怒りと悲しみと、そして諦めの混ざった瞳で、ベンソンを見た。
「俺は熊の討伐に来ただけだ」
「熊……?」
意外な言葉に、ベンソンは僅かに呆ける。
「妖精熊以外の熊は、見かけたら即討伐。オーブリーは……あんたは、四つ手熊だ」
「はっ、キサマのような小童が、四つ手熊の討伐などできるものか」
ヴェリタスは溜息のように、つぶやいた。
「できるさ」
ベンソンは手にした杖でヴェリタスに殴りかかろうとした。だが、足が動かない。
「まず足の動きを止める」
一瞬の間に、ベンソンの周囲の床と足が凍り付いていた。
「まさか、氷属性の魔法!? 何故お前が!」
ヴェリタスは素早く腰の剣を抜き、ベンソンに切り付ける。
「そして首を切り落とす」
「!!」
ヴェリタスの剣は、ベンソンの首に、徴のように横一文字の極浅い傷をつけた。
「それから一つ目の心臓を潰し」
ベンソンは剣の柄で強かに胸を突かれ、転倒する。
「そして最後の心臓を潰す!」
ヴェリタスから青い魔力の輝きが滲み出す。
「我創世の女神に願い奉る。ベンソン・オーブリーが、二度と魔法が使えぬように!」
ベンソンの身体から、吸い出されるように彼の魔力が溢れ、それが、ベンソンを襲い出した。
「ぐああああぁ! うがぁあ ぁ ぁ !!!」
ベンソンは、のたうち回り意識を失った。
チャーがベンソンを縛り上げていく。
捕縛されたベンソンを見て、ぽつりとヴェリタスは呟いた。
「母上がさ、俺が生まれたから、オーブリーに嫁いだことは後悔してないって言ってたんだ……だから俺も、あんたが大人しくしてれば、何もする気は無かったのに……」
◇◇◇
ショウネシーの領主館では、山と積まれた金貨や宝石、幾台もの金庫などがデデンと存在を主張していた。
オーブリー邸から黒マゴーが運んできたものたちだ。
この国には、ディオンヌ商会が作った、ショウネシー領の資金口座以外に、銀行のように長期間資産を預けれるところはない。
基本箪笥ならぬキャビネット預金だ。
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「土地関係の書類は、宰相様に渡して来ました」
ビシッと黒マゴー隊の代表が、ハンフリーに報告する。
「こっちも終わったよ」
チャーと一緒にヴェリタスが戻ってきた。
「おかえり。疲れただろう? お茶を淹れてもらうかい?」
ハンフリーの側にいたマゴーが、サトウマンドラゴラ茶の準備をはじめる。
ダーモットとシャロンの救出に置いて行かれたエステラは、目が覚めると案の定「私も行く!」「ヒラが呼んでる!」と何度も転移しかかった。
マグダリーナとレベッカに両腕を押さえられ、膝の上にお盆を乗せられて、そこにアンソニーに紅茶をなみなみ注いだティーカップとソーサーを塔のように積み上げられて、エステラはやっと大人しくなった。
ヴェリタスはその状態のエステラに、ベンソンの魔法を使えなくする魔法を教えて欲しいと頼み込んだのだ。
ぶっつけ本番で行使した高等魔法は、ヴェリタスの魔力もゴッソリ持って行った。
ヴェリタスはだらしなく、椅子にもたれるように座る。
「つっかれたー」
ベンソンは王宮に引き渡してきた。その後の事は、王達がなんとかするだろう。
ヘンリーもパイパーを追いかけて国を出ようとしたところで、兵に捕えられたらしい。
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