ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十章 マグダリーナとエリック

199. いざ行かんモテの現場へ

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 二限目と三限目の間の中休みに、教室を出たライアンを、マグダリーナはこっそり尾行する。もちろん、レベッカに連絡することも忘れない。

 というか、気づいてしまった。尾行者が他にもいる。何人も。

 尾行女生徒Aが偶然を装って、ライアンとぶつか……らなかった。

 ライアンはごく自然に他の生徒の間を通り過ぎて、出会いの定番を回避してしまった。

 尾行女生徒B集団が、意を決してライアンに近づく頃、レベッカと一緒にヴェリタスまで合流した。

 マグダリーナは声を潜めた。
「ルタまで何やってんの?」
 ヴェリタスも、気づかれないよう声を潜める。
「いや普通に気になるだろ」
「二人とも見てくださいな!」

 曲がり角で身を潜めながら、レベッカがライアンを注視する。
 マグダリーナとヴェリタスもライアンを見た。

 ライアンは女生徒達から、何やら箱を受け取っていた。
「あの……っ、領地戦では本当に、素敵なものを見せてくださって、ありがとうございます。これ、皆さんの好みがわからなくて、私達のおすすめになりますが、桃スラの皆さんと召し上がって下さい!」
「わざわざありがとう。妹達やヴェリタスにもきちんと伝えておくよ」

 ――ただのファンだった。

 推しに貢ぎ物を渡した少女達に、笑顔で手を振りライアンは中庭に出た。

 そこから、マグダリーナ達は目が点になった。

 中庭に出た途端、来るわ来るわ女生徒が。
 ライアンは舞踏会のパートナーの申し込みを、どの女生徒も平等にお断りしている。

「あの三、五、六番目の女子、婚約破棄されたお姉様方ですわ……なんて、図々しい……!!」
 拳を震わせるレベッカを、マグダリーナはまず落ち着かせる為に、そっとその手を握った。

 それにしても、ライアンは本当にモテモテだった。

 実際に家族がモテモテなのを見てみると、複雑な気分になるものだなと、マグダリーナはぼんやり思う。いや、多分相手がライアンだからだろう。
 出会った時は、面倒くさい敵対関係のような間柄だったのだから……

 今はすっかり、レベッカ共々頼りになる、愛すべき家族だった。

 どういう仕組みか謎だが、噂の元になったあの領地戦一日目の夜、タマはエリック王子の身体の中から、見ていたらしい。本当、どういう仕組みか謎しかないけど。

 ライアンが一人でマグダリーナとレベッカを、守ってくれていたことを……

 その時、七番目の女生徒を押し退けて、八番目の女生徒がやってきた。

「貴方がライアン・ショウネシーね! 舞踏会で、アタクシのパートナーをさせてあげますわぁ」
「お断りします」

 突き飛ばされた女生徒を助け起こしながら、ライアンは即答した。

 マグダリーナも女生徒を見て、驚いた。

(悪役令嬢だ……!! 前世の小説や漫画に登場する、悪役令嬢そのまんまだ……!!)

 八番目の女生徒は、おそらくエリック王子と同学年くらいだろう。それなのに既にご立派に育ったお胸と細い腰をお持ちになって、薄紫色の髪を縦ロールにし、目尻の上がった、大きなお目々の美少女だ。

「いいえ、貴方に断る権利はなくってよ!」

 居丈高な女生徒の背中に張り付いていた魔獣が、すちゃっと女生徒とライアンの間に飛び出してきた。
 妖精熊より小さな、もこもこの毛に短い足とくるりんとした角のある、羊のような魔獣だ。

「……眠り妖精」
 ライアンの目付きが、鈍色に光る刃のように鋭くなる。

「あら、オーズリー領にしか生息してない魔獣ですのに、ご存知でして?」
「お前……オーズリー公爵家の関係者か?」

 縦ロール女生徒が踏ん反りかえる。
「あたくしはヴィヴィアン・オーズリー。オーズリー公爵の姪よ。元子爵家の養子如きが、お前呼ばわりして良い存在じゃあなくってよぉ」

「あんたが、あの男達にテントに忍びこむよう、唆したのか?」
「それは叔母さ……な、なんのことかしら? ぜーんぜん、言ってることがわからないわね!」

「でも、噂は流した」
「あらぁ、お友達と楽しくおしゃべりしただけですわぁっ!!」

 ヴィヴィアンがまだ喋ってる間に、素早くライアンは眠り妖精をぽーんと足の甲で蹴り上げた。
 綺麗な弧を描いて、眠り妖精はヴィヴィアンの胸に落ちて来た、が。

「あんっ」

 ヴィヴィアンは受け止められず、眠り妖精はべしょっと地面に落下した。

(…………嘘でしょう)
 あんなに良い感じに飛んできたのに、受け止められなかったの……!!

 その場を見ていた全員が、マグダリーナと同じことを思っていた。

 その間もライアンは冷静に、腰につけてある小型のエステラ製収納鞄から、朝練に使ったりするエステラ製薄型マットレスを広げて、ヴィヴィアンに足払いをかける。
 マットレスの上にヴィヴィアンは倒れこんだ。

「ちょっと、こんなところで何するつもりなんですのぉ!!!」
 はじめの威勢は何処へやら、ヴィヴィアンは恐怖で上擦った声を上げると、その胸にもう一度、眠り妖精が放り投げられた。

らめーぇぇぇ

 なんの声かと思ったら、眠り妖精の鳴き声だったらしい。

「あーれーぇぇぇ」

 こっちはヴィヴィアンの声だ。

 ライアンは躊躇いなく、ヴィヴィアンと眠り妖精を、マットレスで簀巻きにすると、制服の内ポケットから小さな封筒を取り出した。
 それは以前、エステラがケーレブに渡していた、一回使い切りの魔法が入った魔導具と同じ物だ。

 ライアンが無表情のまま、それを破る。

 封筒は破れた先から、サラサラと砂のような魔法の光を放ちながら分解され、代わりに中の魔法が発動される。

 そして。

 簀巻き令嬢の姿が消えた。
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