ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十三章 女神の塔

249. マグダリーナ町長になる

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 落雷は、ほぼ一晩中降り注いだ。
 子供達は早々に寝室へと向かわされたが、光と轟音で、当然ながら寝不足だ。
 エデンだけが、ショウネシー邸のサロンで、寝ずにマゴーの撮影する映像を見ていた。

 マグダリーナはいち早く起きて、朝練の時の運動服に着替えてサロンに向かった。マゴーから、サロンのアッシでエデンとエステラが通信してると聞いたので。

『すっごいのよ! 街までできてるの!!』

 元気なエステラの声が聞こえて、マグダリーナはホッとした。

「おはよう、エデン」
「ン? マグダリーナか、おはよう。よく眠れたか?」
「まあまあよ。エステラ、おはよう。怪我はない?」

 雷は初体験でもないので、マグダリーナはそれなりに休めた。のだと思う。
 決して夜中に子供達の部屋を回って、すやすやねんねの子守歌を歌っていたダーモットのお陰ではないと……

『おはよう、リーナ! 見て見て! あのとっても綺麗な塔がダンジョンなの!』

 エステラの背後から見える、世界遺産レベルに美麗な白い建物を見て、マグダリーナは首を傾げた。

「大きな教会とか宮殿みたいに見えるわ。新しい神殿じゃなくて、ダンジョンなの? ええ? そんな綺麗な建物の中で、魔物が出たり、切った切られたみたいな命のやりとりの戦闘したりするの?」

『そうみたい。早速紹介冊子も貰ったの。一階と二階は薬香草や珍しい花や実が採取できて、一階は魔物もスライムしか居ないみたいよ。ピクニックも出来るって。あ、私とニレルは特別入場権を貰ったから、ダンジョン入り放題、専用の拠点も頂いちゃったわ。無料で利用出来るの。もちろん、温泉付きなの! 他の宿屋にも温泉がついてるの。ここ、温泉が湧いてるのよ!!』

「……えっと、そこはナニランドなの?!」

 ダンジョンって、こんなリゾートリゾートしてて良いんだっけ?
 エステラの向こうで、屋台で串焼きを買っているニレルが見える。それを作って売っているのは、プラと同じマンドラゴン達だ。ただしプラや他のマンドラゴンに比べたら、大きい。
 一般のマンドラゴンはマゴーと大きさはそう変わらない。プラはご飯が良いのか、すくすくと三歳児くらいの大きさに育っていた。画面の向こうに見えるマンドラゴンは、もう一回り大きそうだった。

『えっと、ダンジョンのことは、《女神の塔》って門番達が云ってたから、女神の塔ランド?』
「とりあえず朝ごはん食べたら、そっちへ行くわ。一、二階は安全なら、入ってみたいし」
『慌てなくていいよ。私もご飯食べたら、少し寝るわ」
 エステラは、あくびを噛み殺した。



◇◇◇



「一晩でダンジョンばかりでなく、街まで出来たのか……」
 撮影班の映像と、マゴーが纏めた資料を見て、ダーモットとハンフリーは驚いた。

「そういえば、町の名前とか考えていませんでしたね。この機会に今領民達が住んでるところと、ダンジョンと一緒にできた街、町として区別し名前をつけておくのはどうでしょう?」
 ハンフリーがダーモットを見た。

「ここは領都ハンフリーで良いんじゃないかい?」
 領地の中でも、領主のいる町は領都と呼ばれて、領の運営の中心地となる。
 前世の県庁所在地みたいなものねと、マグダリーナは思った。

 ハンフリーは、高速で首を横に振った。
「領都の名は、コッコの方が相応しいかと……」
「じゃあココで」

 ダーモットとハンフリーのやりとりを聞いて、マグダリーナは脱力した。

「せっかくエステラとニレルが作ってくれたんだから、もっと素敵な名前にして!」

 最終決定権は、領地の所有者であるダーモットにある。マグダリーナは、とりあえず抵抗の意思を見せた。「ここ、ココ」なんて領民が言いだしたら、たまったもんじゃない。

「では、エステラの名前からとって、ステラはどうですか?」
 アンソニーが良案を出してくれたので、領民達の住宅地やディオンヌ商会のアーケード街などの主要施設、主要農地を含めた範囲を領都とし、「ステラ」と名づけられた。カレンの小説の登場人物と同じ名前だが、別に気にすることもないだろう。

 では新しく自然発生したダンジョンの町は、ニレルの名前から……と思ったら、ステラと一緒なら「リナ」では? とあからさまにカレンの小説に関連づけられそうになったので、これも慌てて反対した。因みに、恥ずかしくてマグダリーナはまだあの本を読んでいない。
 ダンジョンの町は、最終的にエデンが「リィン」と名づけた。

 とりあえずダンジョン含むリィンの町の様子は、これから見に行くとして、誰にその町を運営してもらうかが問題だ。ゆくゆくはライアンやヴェリタスに任せることになったとしても、今はまだ早いかなというのが、ダーモットとハンフリーの意見だ。

「順番的に言えば、リーナが妥当かな。子爵位も持っているし」

(お父さまが、王様ばりの無理を言い出した――――!!)

「ライアン兄さんや、ルタでまだ早いと思うのに、どうして私だと大丈夫になるんですか!!!」
「リーナには女神教、エルロンド占領、レピ導入の実績があるからね。国内初の、世界的規模から見ても大きなダンジョンのある町だ。他の者だと納得しないだろう」
「どれも、私だけの力じゃないわ……!!!」
「それを含めてだ。人との繋がりも評価のうちに入るからね。さて、そういう訳でマゴー、ハンフリーが作成した書類を早急に王宮に届けてくれ」
「かしこまりましたー」

 ダーモットが部屋の隅へ移動すると、ハンフリーは作成した図面と書類を帳面から切り離す。命令通り、領都とリィンの町の申請書類が王宮のマゴーへと転送された。もちろんリィンの町の責任者にマグダリーナの名を付けて。
 領内のことは、領地の所有者たるダーモットと領主のハンフリーの了承があれば充分で、王宮から何か指図されることはない。書類の申請は単なる情報共有のためのものだ。

 フワーァァと魔法の光に包まれて、目の前から消えて行く書類を、マグダリーナは唖然と見送った。

(町の運営なんて、十二歳の少女にやらせること?! 何考えてるのよお父さま! やっぱりダメダメじゃないっ!!!)

 マグダリーナは、先ごろ見直したばかりのダーモットの評価を、もう一度下げた。

 ひとまずハンフリーはこれから役所に行って、念の為、落雷後の領都内の確認と、正式に二つの町が制定されたことのお知らせなど忙しい。
 リィンの町には、まず町長たるマグダリーナと、家門の長のダーモット、ショウネシー冒険者ギルド長のアーベル、エステラの様子が気になるエデン、それからアンソニー、ライアン、レベッカ、ヴェリタスといつものメンバーで行く。領都からの移動時間も把握したいので、エデンが魔導車を運転することになった。

「領都と行き来するのに、今までのマゴー車の周回範囲を変えるだけで良いのか、新たにエステラに作ってもらわないといけないのかも考えなくっちゃ……」
 やることが山ほどありそうだった。マグダリーナは思いついた所から、手帳にメモしていく。
 
 顔に似合わず、エデンの運転は安全運転だ。単に運転に慣れてないからかもしれないが。
 リィンの町まで、安全運転の魔導車で一時間程度。マグダリーナはこれもしっかり手帳にメモをする。

 町は白い石の柱を繋げたような柵で囲まれている。ただしその隙間は人が通れる程もない。外部からは、聳え立つ荘厳美麗な塔しかよく見えないようになっていた。
 柵の入り口には、ちゃんと門番がいて、見知った顔だった。

『ぷ!』
〈こんにちは! 視察ですか? 念の為、領民カードを提示して下さい〉

 マンドラゴンだ。ぷ、の声の他に、頭の中に念話が届く。マグダリーナの他のメンバーにも、同様に聞こえるようだ。

「お前らまさか、ダンジョンに吸い込まれていったやつらか? でかくなって……」
 驚くエデンに、マンドラゴンは元気に答えた。
『ぷぷ!』
〈はい! こちらに就職するにあたって、心身を鍛えて研修を受けておりました!〉
「ア? 就職? 研修?」
 エデンが目を丸くする。

「今更そんなことで驚いていても、仕方ないのですわ。早く中に入りましょう」
 レベッカが領民カードを渡す。

 マンドラゴンはエステラがマンドラゴラを改造しただけあって可愛いので、むくつけき冒険者達がやって来た時に、番人としてやっていけるか、ちょっと心配になったマグダリーナだった。
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