ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
250 / 285
十三章 女神の塔

250. はたらくマンドラゴン

しおりを挟む
『ぷぷ!』
〈わぁい! 町長様だ! 後で僕らにも領民カード作って下さい!!〉

「え? えーっと、専用の魔導具が必要だから、エステラに相談してからね」
『ぷぷ!』
〈はーい! こちら町の情報冊子です。情報は随時最新に更新されていきますので、ご安心ください。駐車場はそちら。町役所の方にも駐車場がありますので、このまま魔導車で通ることもできます〉

(とうとう魔獣の領民が出来てしまうのね……)

 マグダリーナは、内心の動揺を隠して、そのまま魔導車で町役所まで行くことにした。

 エステラの従魔になったプラは真っ白だが、リィンの町のマンドラゴン達は、上品な銀鼠色をしている。
 武器屋に装備屋、魔導具屋、宿屋、薬屋、酒場兼食堂、高級感のあるカフェレストラン、屋台……様々なところで、マンドラゴン達が働いている。彼らは立派な町の住民になっていた。

 他にも馴染みのある休憩所、領都と同じ噴水のある公園がある。どうやらそこの噴水にも女神像があり、小精霊が集まっているので、一旦車を停めて女神様に挨拶をすることにする。

 こちらの女神像のエルフェーラ様は……違う、よく見ると、エルフェーラとは別の、ハイエルフの美しい女性の像だった。女神の闇花を髪に飾り、勇ましく刀を手にしていた。

「…………っ、ディオンヌ……」
 エデンがふらふらと噴水の中に入り、その像の足元にしがみつく。
「ああ、女神よ。感謝します」

 マグダリーナは領民カードの時計機能で正確に五分計って、アーベルに頼んでエデンを引き剥がした。あんなオプションがくっついていたら、感謝の祈りの邪魔にしかならない。

『ぷ!』
〈女神様から一度だけ、見逃すよう仰せつかっています。次から公共物に何かしたら、しょっぴきますからね!〉
 さっそくエデンは、警邏のマンドラゴンに警告されていた。

「女神様、エステラとニレルを無事に返してくれてありがとうございます。それからダンジョンとこの町、住人達、精一杯守れるよう頑張りますので、お見守り下さい」
 マグダリーナの祈りの言葉に応えるように、噴水の水が光輝き、マグダリーナの額の精石を濡らした。その一瞬、マグダリーナ自身も淡く輝き、ふわりと青い小鳥が現れた。

『ぴゅん』
「エア! 女神様、ありがとうございます!」
 エアはマグダリーナの肩に飛び乗り、いつものように、うっとりと眠りはじめた。

「寝るのが好きなのは、相変わらずなのね」
 相棒が戻って来て、マグダリーナは町長という難問も、なんとか出来る気がして来た。直ぐにそう思ったことを後悔することになるが。

 町役所にも、すでに働くマンドラゴン達がいた。
 皆んなマグダリーナを大歓迎してくれる。一から人手を集めなくてはいけないかと思っていたので、安心した。

 ところが。

『ぷぷ!!!』
〈まずは給料日までに、我々のお給金が必要なのです、はい。出店しているもの達は人が居ないと稼ぐことが出来ませんです。ダンジョンも人や従魔が入らないと死んでしまいます。町長様には頑張って、人を集めお金を稼いで貰いたいのです、はい〉

「はい……? え? そういう、あれ……」

 マゴーの人件費0レピと違い、マンドラゴンは生きてる魔獣なので、生活するための資金が必要である、と。

『ぷー』
〈一年くらいなら、女神様が授けてくださった宝箱の金貨で凌げますです、はい。しかし一年なんぞあっという間です、はい〉

 さっそく町役所の机に、マグダリーナは突っ伏した。


 何とか気を取り戻したマグダリーナは、腕輪の魔導具でエステラに連絡を取って、ひとまず町役所に来てもらうことにした。そしてアーベルには町の冒険者ギルドに向かってもらい、そこの様子の確認と、領都のショウネシー冒険者ギルド本部との連携が上手くいくよう、業務を丸投げした。
 アーベルは文句も言わずに、ただ頷いて仕事に向かう。マグダリーナが前世のアラサー事務員のままだったら、惚れていたところだ。今世では、ない。アーベルには是非ともデボラとお付き合いをはじめて欲しいところだ。今すぐにも。

 そしてエステラは、ほくほくのお顔で、ニレルや従魔達とやってきた。シャロンのところにいた、ハラとゼラも合流している。

「いいわ~いいわ~あの二階のスライムボス部屋、スライム素材がたんまりいただけるのよ」
「もうダンジョン入ってたの?」
 エステラは一旦寝ると言っていたし、まだしばらく後だろうと思っていたのだ。

「あの宿屋、高い回復効果があったのよ。ちょっと寝たらすっかり元気になっちゃった。このダンジョンは中で活動する、人や魔獣なんかの魔力が主食らしいから、ご祝儀代わりにサクサクっと皆んなで魔法ぶっ放してきたわ。しばらく活動停止することもないから、安心して」
『うむ、全力のブレスを放っても、環境を破壊することがないのは素晴らしいのだ!』
 ササミ(メス)も、ご満悦だ。

「というわけで、今回の宝箱から出てきた、金貨と宝飾品は、町に寄付するわね」
 どどん、とエステラは金貨と宝飾品の入った大きな革袋を山盛り出した。
「ありがとう、すっごく助かる!!!」
 マグダリーナは、エステラをぎゅっとした。



◇◇◇



「わぁ、リーナが町長なの?! おめでとう!」
 ここに来るまでの経緯を話して、エステラに領民カードの発行を町役所でも出来ないか相談する。
「それなら、すぐ設置出来るわ。任せて」
 なんとも頼もしい言葉である。エステラは早速設置をはじめ、使い方を職員に説明している。

 それから、地図やパンフレットを広げて、人を集める為にどうするかを話しあう。

 まずニレルが、ダンジョンの説明をしてくれた。
「軽く見て回った感じだと、このダンジョンは他のダンジョンに比べたら難易度が高い。だが、他にない利点もある。一~三階は完全に初心者向けだし、各階にそれぞれ、回復機能のついた休憩所があるんだ。マゴー達、魔導人形は魔物に襲われずに動きまわれる。充分気をつければ、他のダンジョンより生還率は高いだろう。それから、宝箱の中に、スキルを授けたり能力を上げたりするものが出ることがある。そうだね……強くなる為の修行の場、みたいな面が強いかな」

 ニレル言葉に、マグダリーナは思案した。
「騎士団の訓練とかに使えないかしら……」

 冷静になって考えると、個人の冒険者が、わざわざ時間とお金をかけて、国の端のショウネシー領まで来るとは思えなかった。実際、今までショウネシー領から出ていた討伐依頼も、誰も受けなかったのだから。となると、狙う営業先は、各領地の保持する騎士団だろう。貴族が背後にいる分、予算はあるはずだ。

「まず営業は縁故とお金のあるオーズリー公爵からね……となると、やっぱり大勢を運べるマゴー車が欲しいわ……」
「だったら、東門からこの町に直行するマゴー車よね。何色にしようかしら。あ、街中を周回するマゴー車もあった方が良いわね」
 エステラはまず、領都と同じ、黄マゴー車を三台作ると、白マゴーも造った。そして各施設や民家にアッシなどの魔導具を設置する。なんと材料は全てエステラの収納に増えていたそうだ。

「きっと女神様の贈り物ね。これで、いつ人がやってきても大丈夫よ」
 エステラはいい笑顔で言った。

「じゃあ、次はダンジョンに行ってみよっか」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

処理中です...