ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十三章 女神の塔

258. 町長のお買い物

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「無理と言えば、人手は何処も不足してるのよね……」

 マグダリーナは、思案した。

 リィンの町は役所やダンジョン関係で働くマンドラゴンは大勢いる。そう、マンドラゴンは。

 だが集客を望むなら、魔獣以外の人の住民が必要だった。

「国内はそうね。数年前の流行り病のせいで国民の三割近く亡くなったもの……」
「そんなに……だったら、国外から人を募集するしかないかしら……?」

 マグダリーナの言葉に、ドーラは意外な答えを返した。

「そうね。一番手っ取り早いのは、奴隷の購入ね。ドルーン王国、デナード商業国、メイティア王国は奴隷の売買をしているわ」

 まさかそんな返答がやってくるとは思わず、一瞬唖然としたが、一番気になることを確認する。

「奴隷って、犯罪者だったりするの……?」
 領内の治安が悪くなるようなことは、極力避けたい。全力で避けたい。

「様々よ。犯罪者もいれば、親や配偶者の借金のかたに売られたり、拐われて来た子とかね」
「それ……うちの国で、違法行為になったりしないの?」
 当然、マグダリーナは不安になった。

「隷属の契約を結んだまま入国すると、違法ね」
「つまり、誰かハイエルフに一緒に行ってもらわないとなのね」

「んはは、俺が一緒に行こう」

 エデンはそう言って、指を鳴らすと、マグダリーナの髪の色がカレンと同じミルクティー色になった。

「あら、姉妹みたいね」
「可愛い!いつもの綺麗な色も素敵だけど、妹が出来たみたいで可愛い!!」
 ドーラとカレンが誉めてくれる。奴隷購入で複雑だった気分が、ちょっと上がった。

「こういうのは、当然大人数で行くと目立つ。俺とマグダリーナ、それからパイパーで行く。うっかり教国関係者を掴まないようにな」

 そう言って、エデンは、メイドとして控えていたパイパーの目と髪の色を変えて、そばかすを加える。
 最後にマグダリーナとパイパーに茶色のフード付きマントを着せると、お忍びの令嬢と付き添いの雰囲気が強まった。

「いかにも、って感じだけど大丈夫?」
 ライアンが用心深く確認する。

「その方がいい。俺は定期的に、ハイエルフが混ざっていないか、奴隷商も見に行くんだ。冷やかしだけじゃ商人と顔つなぎができないからな。実際購入希望者の紹介もしたりする」
「つまり今回も、そういう体で行くと」
「そう云うコトだ。さて、どこの国にするか」

「発言をよろしいでしょうか、エデン様」
 畏まった姿勢でパイパーが声を上げた。

「ドウゾ」
「お嬢様をお連れするなら、デナードは絶対避けた方がよろしいかと。あそこの闇ギルドは、蛇のようにしつこいのです。納品されなかったお嬢様が、国内に居ると分かると、何をしてくるかわかりません」
「なるほどな。だったらメイティアにするか。よし、サクサク行こう」

 エデンがそう言うと、マグダリーナとパイパーは、一瞬で知らない建物の間にいた。

「行くぞ。離れるなよ」
 エデンの言葉に頷いて、マグダリーナとパイパーは後をついて行った。


「よう、儲かってるか?」
「これはエルフの旦那。お久しぶりです」

 体格と愛想の良い奴隷商にエデンは話しかける。

「最近はエルロンドが、ああなっちまったから、エルフは中々流れてきませんでね」
「それならそれで、いいさ。今回結構人数を揃えたいんだがどんなもんだ? 手に職あるやつを優先したい」

 商人はチラリとマグダリーナを見て、考える。

「実は旦那に相談したい案件がありましてな。珍しくドワーフがおるんですわ」
「ほぉ、あいつらデメルから滅多に出ないだろ? 何したんだ?」
「腕の良い職人だったんですけど、うっかり師匠の腕を超えた挙句に師匠のワイフに惚れられちまって。この有様で」

 商人は、店のずっと奥へ……ドワーフの男達の入った檻の前に、マグダリーナ達を案内する。

「んっはは! この状態でそりゃないだろう」

 檻の中には、五十人近くの「腕のない」ドワーフ男性たちがいた。

 その隣の檻も、その前の檻も、暗くてよく見えない更に奥の檻も、老若男女含めた大勢の「腕のない」ドワーフ達が入れられているようだった。

「どうする?」
 マグダリーナはエデンに聞かれ、つとめて平静を装って、一番近くの男性に声をかけた。

「ここから出たら、何をしたいですか?」

 男はハッとして、床に頭を擦りつけた。
「俺の代わりに、別の檻にいる妻と子をお買いになって下さい!!」

 マグダリーナは、一瞬迷った。

 ドーラ伯母様の配偶者であるブレアは、ドワーフの血を引いていた。彼らを見捨てたくないと思う。しかし、腕の治療はエステラに頼るしかないのだ。こんな大人数、負担をかけてしまうに違いない。
 エステラは快く引き受けてくれるだろうが、それで無理をさせて、エステラに何かあるのは絶対嫌だった。

 マグダリーナはエデンを見る。エステラの負担にならないか、目で訴えた。エデンは頷く。

「どういう、コトかな?」

「いやぁ、旦那なら、こいつらに慈悲をかけてくれると思いましてね」
「頼り甲斐があると思われて何よりだ。全員まとめて金十」
「こいつは手厳しいや。いやねぇ、ありふれた政権争いの内乱ですよ。こいつら負けた第二王子を支持してたんで、見せしめにこの有様です。せめて、金十五でなんとか!」
「あの国で政権争いねぇ。オーケイ、情報料込みで金十二。ドワーフは、腕がなきゃ使い物にならんだろ。それにこの人数……『全員』いるんだろう?」

 商人は肩を落とした。
「おっしゃる通りですわ。『腕の処理』をした数人以外、全員です。金十二承りました」

 商人は収納鞄から書類と小振りのテーブルを出して確認を始める。

「ということは、デメルは今後、その数人だけのドワーフで商売をしてくってことか」
「これからドワーフが作るもんは、希少性が増して、うんと値上がりしますぜ。旦那が来なかったら、こいつらあと数日で処分されるとこだったんです。ほら、うちのオーナーも旦那と同じで慈悲深ぇでしょう? それにあの人、ドワーフの作るもんが好きでしたからねぇ。そんであちらさんと『この状態』で、期限までに奴隷として売れれば、命まではとられないで済むよう交渉しちまってさ。輸送費はかかるし、場所も取る。貴重な衣服も取り上げねぇし、飯まで与える……とんだ負債案件だったんでさ。なのにオーナーは旦那に頼ンのは嫌だって、まともに食事もせずに、いもしない買い手を探して、今も走り回っているんで」

「わーかった。金三十だ」

 商人の顔が、ぱぁと輝いた。
「流石旦那、頼りになりますなぁ!!」

 マグダリーナは震えを悟られないよう、マントの中でドレスを握り締めた。
 おそらくざっと、五百人近く……その命が三百万エル……一人当たり一万エルもしないのだ。泣きたくなるほど、安すぎる。

 商人はチラリとマグダリーナを見た。
「契約は旦那とお嬢さん、どちらで?」
 マグダリーナは、顔を上げた。
「私がします。支払いは銀行カードでできますか?」
「かしこまりました。ではこちらの書類にサインと魔力を」

 本名を書いていいのか、マグダリーナは一瞬躊躇った。

「リーナ、魔力を流すのも忘れるなよ。上乗せ分は、後で渡す」

 普段マグダリーナと呼ぶエデンが、リーナと言った……マグダリーナは呼ばれた通りの名前でサインして、代金を支払った。

「じゃあ、世話になったな。早くオーナーに連絡入れてやるんだな」
「ありがとうございます、旦那も息災で!」

 売ったドワーフの奴隷、約五百人余り。黒髪のエルフの旦那とその連れと共に、檻も開けてないのに、契約書類を片付ける間に消えていた。
 だが商人は驚かない。幼い頃、あの旦那に買い取って貰ったという、元奴隷のエルフのオーナーからは、何があっても驚くなと言われていたからだ。
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