【完結】婚約破棄なんて、絶対にさせないんだからね!

かのん

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第一話

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 これは乙女ゲーム、「黄昏のキミ」の世界の物語である。

 私は悪役令嬢であり、一年後にヒロインに王子様を取られて婚約破棄される役柄である。

 だがしかし、声を大にして言わせてもらおう。

 私は婚約破棄なんて、絶対にさせないんだからね!と。

 第二王子のビショップ王子はそれはそれは見目麗しい、私の唯一である。

 アッシュブラウンの髪の毛に、通った鼻筋、きりりとした瞳は真っ直ぐに未来を見据えており、とても温和で優しい王子様である。背丈は私よりも頭二つ分高く、女性に優しく紳士。

 はっきり言っておこう。

 私はビショップ王子がとてもとても心の底から大好きである。愛している。もう彼以外を愛せる気がしない。

 私は産まれた時から前世の記憶があり、この世界が乙女ゲームの世界である事も知っていたし、自分が悪役令嬢であるエメラルダ・グリーンである事も知っている。

 ゲームの中では平民ながらも優秀なヒロインを徹底的にいじめていく役柄である。ヒロインはそのいじめに屈することなく耐え抜き、そしてヒーローとハッピーエンドを迎える。私は婚約破棄されて辺境の地で修道院に入れられる。

 えぇ。

 絶対にそんなことさせませんけれどね。

 私は自分を磨きあげ、文武両道を目指してきた。

 何故武も極めたのかと聞かれれば、もしヒロインが私と同じ転生者であり実力行使に出られた場合、自分の身を守れるのは自分しかいないと思ったのである。

 なので、武も極めた。

 ビショップ王子との婚約を、私は完璧令嬢をしっかりと演じて5歳の時に勝ち取った。

 声を大にして言おう。ビショップ王子は5歳の時もそれはそれはとてもとても可愛かった。出来れば頬ずりしたいくらいであったが、それは止めておいた。婚約を解消されたらたまったものではない。

 勝ち取ったその時は腹の底から笑いたい気持ちでいっぱいではあったが、しっかりと令嬢の仮面を張り付けて美しく微笑んでいたつもりだ。

 現在、乙女ゲームの始まる年であり、入学式当日である。

 私は花の十六歳。この国では一般的に十五歳から二十歳くらいまでが婚礼適齢期とされている。

 この日までの間に根回しは完璧だ。すでに王妃様にも気に入られ、国王陛下におかれましては私を実の娘のようにかわいがる始末である。

 宰相閣下にはすで一目置かれており、騎士団長とは互角に渡り合えるようになった。

 つまり、私には死角がない。

 ヒロインがどこから現れようとも、絶対に婚約破棄などさせるつもりなはい。むしろこの状態ではできないであろうと自負している。

 ははは!

 そしてちゃんと他にも仕込みをしてある。

 ヒロインが他のヒーローへと流れるよう画策するために、他のヒーロー達の情報も掌握済みである。

 どこからでもかかってこいヒロイン。

 私は絶対に婚約破棄なんてさせないからな!




 そんな事を常日頃から思っているエメラルダの瞳は肉食獣のそれである。

 ビショップ王子はそんなエメラルダの瞳と視線が合うたびに背筋が寒くなっていた。いずれはぱくりと飲み込まれてしまうのではないかと不安でならない様子である。また、それと同時に、エメラルダは自分を第二王子という肩書しか見ていないのではと勘違いをしていた。

 第二王子のビショップは第一王子のスペアとしての自覚をもちつつ、兄を支えていくために勉学に励んできたつもりである。エメラルダの地位が伯爵令嬢というのも、あまり高い身分だと自分の後ろ盾になるとされているため、諍いを生まない為でもあった。

 そう。

 けれどもビショップは内心ずっと思っている事があった。

 ならばもう少し大人しい令嬢でも良かったのではないだろうかと。

 決してエメラルダが嫌いな訳ではない。エメラルダは常に向上思考であり、何事に対しても手を抜かずに行動し、そして成果を得てきた。

 そんな彼女を尊敬もしている。

 けれども常々彼女の瞳に映る自分は、獲物なのではないかと思えてならない。

 だからつい、本気ではないのだが自室にいる時は、誰も聞いていないと愚痴が漏れる。

「婚約破棄したい……」

 嫌いではない。だが、時々怖い。

 女性とは守るべき存在であると教えられて育ってきた。だが思う。エメラルダは確実に自分よりも強い。

「はぁ……」

 学業という建前の、貴族社会の交流の場である学園の日々が始まるがエメラルダと毎日顔を合わせるのかと思うと少し憂鬱な気分なビショップであった。


 エメラルダ・グリーン。彼女は死角はないと豪語していたが灯台下暗し。

 外堀だけしか埋まっておらず、最も大切な婚約者の心を得られていない残念な令嬢であった。




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