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第二話

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 エメラルダ・グリーン。

 彼女は恐らくこの学園で、王族以上の顔の広さを持つ。

 彼女は第二王子ビショップの婚約者であるが、その肩書きよりも本人の特異なる才能、掌握術、そして内面と外面の美しさは貴族社会においても有名であった。

 学園は貴族の令嬢・令息らが一年を通して貴族社会を学ぶ場であり、この一年での過ごし方によって今後の将来が大きく左右されるとも言われる。

 だからこそ、上を目指したい者達はエメラルダに自然と視線が集まる。

 彼女と懇意であったほうが有利であるということは、現在の貴族社会において誰もが知っている事であった。

 別段彼女の家が力を持っているわけではない。

 彼女自身にこそ価値があると、知る人は知っているのである。

 だが、彼女は付け入るそんな隙など見せない。

「皆様、ここは学園。私は私情はあまり持ち込みたくありませんので、あしからず。」

 真っ赤な髪の毛を美しくなびかせ、エメラルドグリーンのドレスを着た彼女の姿を見た物は皆感嘆の息を漏らす。

 絶世の美女。傾国の乙女。

 社交界にデビューしてから彼女はそう呼ばれるようになった。

 ビショップはそんな彼女が学園の門をくぐるのを遠目から見つめていた。

「また一段と美しくなって。」

 婚約者が美しくなることは嬉しい事のはずなのに、ビショップにはあまり嬉しくない。

 眼光がさらに鋭くなった気がするし、自分以外の者が彼女を憂いた瞳で見つめるのは、あまり好まなかった。

 すると、一瞬で悪寒が走る。

 パッと窓から離れて身を隠す。ゆっくりと見えないように窓の下を覗くと、こちらに視線を向けるエメラルダが見えた。

「何で一瞬で居場所がばれるんだ。」

 どくどくと心臓が煩くなった。

 こんな日々がこれから毎日続くのかと思うと、ビショップは大きくため息が漏れてしまった。



 エメラルダは視線を窓へと向けると、小さく息を吐いた。

 一瞬ではあったが、ビショップの姿見えたのである。

 それだけでエメラルダの心は高鳴る。

 あぁビショップ様。また一段とかっこよくなられていたわ。今日は朝からビショップ様が見られるなんて、なんて幸運な一日なのでしょうか。

 そんなことをエメラルダは考えながら息をつくと、自分付の侍女であるリリーに小声で言った。

「今日のビショップ様の一日について、調べて着て頂戴。」

「はい。」

 エメラルダ付の侍女は総じて、ビショップについての情報収集能力が他よりも長けている。何故かと問われれば、皆がエメラルダの喜ぶ顔が見たいからである。エメラルダの微笑みは、侍女達にとっての何よりの褒美になっていた。

 エメラルダは窓からもう一度見えないかとしばらくの間その場にとどまっていたが、ビショップの姿を見ることが出来なかった。

 だが、これから乙女ゲームのスタートである。学園の中で、いつでもどこでもビショップが見放題である。

 そう思うと、エメラルダの心は躍った。

 大丈夫。絶対にヒロインには他の、ビショップ以外のヒーロー達と恋愛エンドになっていただこう。

 この物語では、エメラルダ以外の悪役令嬢は出てこない。つまり、他のヒーロー達とのエンドでも何故かエメラルダが立ちはだかるのである。だが、自分は立ちはだかりもいじめたりもするつもりはない。

 つまり自分は負けない。

 婚約破棄などされない。

 エメラルダの瞳は闘志が燃えている。

 そんな闘志こそが、婚約者であるビショップの心を遠ざけているとは知らずに。



 
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